フタル酸と子宮筋腫の関連 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、フタル酸と子宮筋腫の関連について記したものです。

 

Fertil Steril 2017; 107: 1061(韓国)

要約:手術組織の標本で子宮筋腫の確定診断が得られた53名子宮筋腫組織と、子宮筋腫がなかった33名の正常子宮筋組織にフタル酸(DEHP)を添加し培養しました。子宮筋腫も正常子宮筋もフタル酸添加により、細胞増殖能、細胞生存率、タイプ1コラーゲン発現が有意に増加しました。また、尿中フタル酸(MECPP)濃度は、子宮筋腫がない方と比べ子宮筋腫のある方で有意に高く(1.06倍)なっていました。

 

解説:高分子フタル酸「DHEP」は、プラスチックをやわらかくする物質(可塑剤)で、主に塩化ビニルの可塑剤として使用されます。やわらかいプラスチックに含まれており、子供用玩具(歯固め、おしゃぶり)、医療器具(点滴バッグ•チューブ)、フィルム(食品包装、衣類包装)、壁紙、ビニル床材、テーブルクロス、電線コード、ワッペン、水着用バッグなどに幅広く用いられています。一方、低分子フタル酸「DBP」「DEP」は、化粧品に含まれており、色や香りを維持するために使用されます。フタル酸は容易に外の環境に溶け込みます。食品のパックから食品に溶け出したフタル酸は口から、化粧品から染み出したフタル酸は皮膚から吸収されます。このため、フタル酸は78〜95%の方の尿から検出されます。

 

フタル酸は内分泌撹乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)のひとつとして知られています。フタル酸と男性不妊、女性不妊、胚発生との関連が示唆されていますが、子宮筋腫との関連は明らかにされていませんでした。本論文はフタル酸と子宮筋腫の関連を示したものです。環境ホルモンへの曝露により、子宮筋幹細胞のゲノムの変化やエピジェネティックな変化が生じることで、子宮筋腫が作り出される可能性が報告されています。

 

フタル酸については、下記の記事を参照してください。

2017.1.13「フタル酸暴露と女性の妊孕性低下

2016.12.29「フタル酸が胚発生に与える影響

2016.1.19「フタル酸による卵巣予備能低下

2015.11.21「フタル酸濃度と妊娠治療の関係

2014.9.28「フタル酸で女児の思春期が遅くなる?

2014.7.17「男性のフタル酸濃度の影響