トヨタ自動車の7年ぶり二度目の優勝で幕を閉じた、今夏の第95回都市対抗野球大会。
出場各企業が用意してくれるチーム券のおかげで、涼しい東京ドームでの社会人野球の熱戦を無料で楽しめる素晴らしいコンテンツだが、お金を出して買うチケットだと普段のプロ野球開催時にはなかなか座れないような席に座れたりするのも、密かな魅力だったりする(個人的見解)。
そんな機会を席種マニアの桃色野郎が逃すはずもなく、今大会でも東京ドームの未踏の新席種を試してきたので、簡単に紹介させていただく。
訪れたのは当スタジアムが休場日だった7月24日(月)。
大会も終盤戦の第11日目、準決勝2試合が行われた日の……
18時プレイボールの第2試合、右側の山の準決勝。
ヤマハ(浜松市・東海地区第2代表)VS王子(春日井市・東海地区第4代表)の、東海地区同士の一戦。
出場6チームのうち、ベスト8に5チーム、ベスト4に3チーム、決勝も同地区対決と今年の東海勢は強かった。
この試合を観戦したのはこちらの席種から。
2021年オフの100億超の巨費を投じた大改修工事によって新設された席種のひとつ、『MASU CABANA(マス カバナ)』である。
まずは球場内の位置を説明しておこう。
『エキサイトシート』の直上あたりの1階内野スタンドの最上段に、横並びに展開されている。
写真は一塁側だが、三塁側にも同位置同数ある。
コンコース側から見てみる、元々何があった場所なのかが一目瞭然。
スタンド最上段とコンコースの間、というかコンコースの一部に並ぶコンテナボックスのような白い小部屋が『MASU CABANA』。
ここは、コロナ禍前のジャイアンツ戦の際などには観客が黒山の人だかりをなしていたかつての『内野立見エリア』。前述の球場大改修で原則全廃されたその立見エリアの跡地を利用して作られた席種のひとつなのである。
余談だが、配布物をもらうのにさんざん世話になった、かつて公称定員2976名を誇った東京ドームの立見エリアは、今現在は16名分しか残っていない。
できてからこの日まで、ただ前を素通りするのみで「コンコース狭くなって邪魔だな……」としか思っていなかったこの箱に、ついに潜入。
横開きのドアを開けると、まず視界に飛び込んでくるのは……
間接照明によってお洒落に輝くカウンターテーブルとカウンターチェア2脚。
そのカウンターは、薄暗くてわかりにくいが大理石風(大理石ではない)の装飾がなされていて、球場らしからぬ高級感を醸し出している。
カウンターの手前部分には……
最近誕生の新席種ではわりと標準装備となりつつある電源が2口、用意されている。
カウンターの真横に目をやると……
なんとこの区画専用のごみ箱が用意されているではないか。
けっこういろんな球場のボックス席種を試してきたが、ごみ箱付きというのは初めてお目にかかった。
なんせプロ野球開催時は超高級席種。そんな席を利用する天上人の皆様に、わざわざコンコースにごみを捨てに行かせる、などという庶民と同じ行動をとらせるわけにはいかない、ということなのだろうか?
こちとら生まれついての根っから庶民ゆえ、なんか申し訳なくてごみはいちいち外まで捨てに行った。
壁面に目をやると……
荷物かけ、というより位置的にコート掛けと呼んだ方がしっくりくるフック。
そしてこれまた珍しい設備が、角に束ねてあるカーテン。これを閉じておくと、ドアの開閉のたびにコンコースを行き来する庶民たちに中をガン見されることがない、という高級席らしい配慮なのだろう。
入ってすぐのカウンター回りだけでもあれこれ目を引くものだらけだったが、もちろんここはたった2名定員の個室カウンター席種などではない。
カウンターの真ん前、フィールド側にはクッション付きのソファーが用意されている。
一三塁側合わせて4名席×8、6名席×6、8名席×2の合計16ボックス84名定員が用意されている『MASU CABANA』の中、今回利用したのは一塁の4名ボックス。ご覧いただいたとおりカウンター2名+ソファー2名の割り振りとなっていた。
ソファーの前には丸テーブルがふたつ。小振りではあるが、ひとりひとつと考えれば十分なサイズであり、固定されておらず大して重くもないので好きな場所に動かせるのも便利だ。
そしてボックス前面の壁面にもまた間接照明。ボックス内を煌々と照らしたりするとフィールドプレイヤーの視界の邪魔になるからだろうと推測。
テーブルの横にはモニタが設置されている。
流れているのはコンコースなどのモニタと同じで、目の前のフィールドで行われている試合の中継映像。
リアルより中継の方がほんの一拍遅れているので、目の前で起きたプレイの詳細を即座に確認するのにすこぶる便利だ。
この席種名『MASU CABANA』の『MASU』が意味するのは、日本語の「升」。
日本のスポーツ観戦におけるボックス席種のはしりといえる、大相撲の升席をイメージしての『MASU』なのだそうだが、それは内側からではなく外側から見るとなんとなく言わんとしていることが伝わってくる。
入口側の厳重さから一転、正面側は本家の升席よろしくほぼむき出し丸見えなのだ。
そんな構造の上に、位置がスタンドとコンコースの出入り口という往来の激しいところであるがゆえに、常時通路を行き来する人々の視線にさらされ続けることになる。
なので高級席ではあるが有名人のお忍び観戦や道ならぬ関係のカップルなどにはまるでお勧めできない。
そしてもうひとつこの席のウィークポイントを挙げるとすれば、元々立見エリアだったところで座って観戦する格好になるため……
目の前のスタンド席の観客がどうしても視界に入るのだ。
立ち上がられたりしようものなら完全に視界をふさがれてしまうくらい、前の席との高低差はない。
半面、これは都市対抗野球限定の特典だが、写真のとおり応援ステージを正面に見る格好になるので、応援団のパフォーマンスを臨場感の中で楽しむには最適だ。
ちなみに『MASU CABANA』の『CABANA』の方はどんな意味なのかというと、リゾート地のビーチやプールなどについている、天蓋やカーテンで覆われたプライベートスペースのことだそうだ(スペイン語)。
こちとらリゾート的なものにはとんと縁のない暮らしを送っているので、言葉もその意味も初めて知った。
この『MASU CABANA』は、ジャイアンツ戦開催時はすべてシーズンシートとして販売されており、お値段は4名席で768万円(64試合)。ちなみに6名席は1152万円、8名席が1536万円と、もはや並んでる数字が外車のディーラーのようだ。
価格を試合数で割って、さらに定員で割って1試合ひとり頭の金額を計算してみると、ボックスの定員にかかわらずみな一律3万円ということになる。
みんなで3万、ではなくひとり3万という超高級席だけあって、ジャイアンツ戦の際は各ボックスにひとりずつ専属アテンダントがつき、飲食物はタブレットで注文すると持ってきてくれるなど、トイレ以外でボックスを出る必要がまったくない、まさに貴族のような手厚いサービスがついてくるのだ。
根っからの庶民がそんなフルサービスを受けながらの観戦をしようものなら、間違いなく落ち着かず試合が頭に入らないことだろう……。
ジャイアンツ戦では4名ボックス1試合12万円の『MASU CABANA』は、ジャイアンツ以外の主催試合、例えば今年のホークス『鷹の祭典』では57600円(14400円/人)とぐんとお得な感じになるが、それでもまだまだ高級であることに変わりはない。
それが今回の都市対抗野球ではおいくらだったのかというと、4名18000円、つまりひとり4500円。ジャイアンツ価格の1/6以下だ。
無料で観戦できる試合に出す金額としては高い!と言われれば確かにそうなのだが、わずか4500円で普段は天上人のみが入室を許されるやんごとなき小部屋の利用権を一時的に得られるなんて素晴らしくお得!と思ってしまうのが席種マニアの性なのだ。
スペースはゆったりとられていて、カウンターチェアもソファーも座り心地がよく、テーブルやモニタなども便利。なにより普段立ち入ることのできないエリアでの非日常観戦を体験できるので、格安で販売されているタイミングでグループ観戦を検討されている方には大いにお勧めできるレア席種。機会があれば次はもうちょい人数を集めて大きいボックスも試してみたい。
チャンスを逃さず精力的に席種開拓を進めてきた結果、今回の『MASU CABANA』への潜入をもって、気づけば2022シーズンにデビューを果たした東京ドームの新席種5種(『クラフトカウンター立見指定』・『スカイテラス(パノラマソファ)』・『THE 3rd PLATINUM BOX』・『クラフトカウンター指定席』)のコンプリートを達成。
旧来からあるものも含め、だいぶ開拓が進んできたが、まだまだ残っている東京ドームの未踏の席種。それはいずれもいろんな意味で強敵だらけなのだが、これからも隙を見つけて(可能な限り低価格で)潜入調査を続けてゆく。
「そんなにかわった席種が好きならうちの会社で持ってるシーズンシートのチケットくれてやるよ」という大企業にお勤めの懐の大きな篤志家の出現を密かに心待ちにしている当スタジアムへの皆様のご来場を、引き続き心よりお待ちしております。