監督のささやき戦術

 2013年の3月11日に神田の飲み屋街の片隅に人知れず誕生した当スタジアムは、今年の同日で開場丸11年を迎えることができた。

 人の時間で言うならば、オギャーと生まれた子がもうこの春小学6年生になった、というくらいのそこそこ長い時間、夜逃げ廃業の憂き目を見ることなく存続できているわけで、そう考えると時の流れの重みを改めて実感させられる。

 そんな長い時間を支えてくださった多くの野球ファンの皆様へ、当スタジアムからのささやかな感謝を示すべく開催した周年記念イベント『SUPER桃魂FESTA2024』にも連夜多数のご来場をいただき、感謝感激雨嵐だ。

 ご来場が叶わずとも遠くから様々な形で祝意を寄せていただいた皆様、この11年間にご来場いただいたすべての野球ファンの皆様に、この場をお借りして心よりの御礼を申し上げる。

 

 

 ところで、当スタジアムの周年祝いといえば、今年もまたアレの話があるのだ。

 まったく当スタジアム発信ではない、他者のしわざによって「周年名物セレモニー」的に勝手に定着させられてしまったアレ、と言えばある程度付き合いが長い方であればピンと来るかもしれない。むしろ最近では毎年楽しみにしちゃっているお客様すらいるくらいだ。

 そう、愛情も行き過ぎると狂気に変わる、という恐怖の実例を毎年過剰に示して続ける、開場初年度からずっと通い続けてくださっているライオンズファンの常連様集団による、脳みそのどこを使ったらそんな発想にいたるのかまるで理解できない、世にも珍奇で異常な周年祝いの品の話だ。

 

 

 その異常性をご存知ない方のために、過去にお贈りいただいた歴代の周年祝いの品を簡単に振り返っておこう。

 リリーズ監督等身大パネル(2015年)。

 

 リリーズ監督フィギュア(2016年)。

 

 焼きごて(2017年)。

 

 フロアマット(2018年)。

 

 お好み焼きヘラ(2019年)。

 

 リリーズ監督達磨(2020年)。

 

 ベースカバー(2021年)。

 

 リリーズ監督ぬいぐるみ(2022年)。

 

 リリーズ監督3Dお面(2023年)。

 

 こうして振り返ってみると、どうも彼らは桃色野郎をフリー素材かなにかと勘違いしている節がありありとうかがえるが、当スタジアム開場2周年の2015年から新型コロナ禍中でも絶えることなく、毎年毎年周年のたびに必ず既製品ではない、100年生きても絶対に自分で買うことはない、祝意をどこから汲み取ってよいのか分かりにくすぎる祝いの品をお贈り続けてくださっているのだ。前述した「愛情と狂気」の意味をご理解頂けただろうか。

 

 

 で、当スタジアムが11周年を迎えた今年3月。この1年の間に「もういい加減こんな愚かしいことはやめようよ!」と言い出したメンバーはいなかったらしく、当たり前のように今年も彼らは大挙してやってきた。いつもとは違う名義で予約を入れてくる、という謎のジャブをかましながら……。

 祝われ続けて頂戴し続けて気づけば大台の10年連続10品目(!)となった、彼らからの当スタジアムへの2024年11周年祝いの品はこちら。

 ミズノのランバードマークがでかでかとあしらわれたこちら。

 既製品ではあるが、ランバードマークの上に入っている「LILIES Kanda Stadium」の刺繍はオーダーという1点モノだ。

 

 ぱっと見はなんだか判然としないこのブツは、正規の使い方としてはこういうものである。

 試合の際にバットを立てておくための野球道具、一般的に「バットスタンド」と呼ばれているものだ。

 そもそも野球をプレイする場でもなく、スタンドが必要なほどたくさんバットを所有していない当スタジアムに、なぜこれを祝いの品として選んだのか?と訝しんだが、よくよく聞いてみたら……

 「傘立て」として使え、というご提案だったのだ。

 

 開場以来、当スタジアムが雨の日に傘立てとして店頭に出しているのは、酒屋から借りているビールケース。

 長年それを見ていた彼らは、「野球居酒屋なんだから野球っぽい傘立て用意すればいいのに」と思っていたそうで、それを10年越しに11周年祝いとして解決してくださったのである。

 

 先ほど羅列した通り、「非実用品」が大多数を占める歴代の祝いの品たち。その流れを突然無視するかのように急に提示された、野球居酒屋との親和性が非常に高く、それでいて至極便利そうな「超実用品」に、正直大いに動揺……

 前年に究極の「非実用品」である「3Dお面」を引っ提げてきたのと同一集団とは思えない落差だ。

 

 「バットスタンド」を「傘立て」に、という「急にどうした?」と訝しむレベルの素晴らしいご提案、祝いの品には動揺しつつも大いに感激。

 ……すると同時に、「野球道具を居酒屋の備品として転用」という発想を自ら持ち得なかった自分の不明も大いに反省させられた。

 今後、神保町の『MIZUNO TOKYO』や新宿の『Alpen TOKYO』などで、バットやグラブに一切目もくれず、特殊な野球道具を手に思案に暮れているヤツがいるかもしれないが、それは変な野球居酒屋のオヤジが店の備品選びをしてると思って、黙ってスルーしていただければ。

 

 そんなわけで12年目を迎えた今春より、店頭に立派なミズノ製の「バットスタンド」、ではなく「傘立て」を新たに獲得した当スタジアム

 雨の日にご来場される際は、「これが噂のアレか……」と思いながら、お手持ちの傘を立てていただければ。

 

 

 しかしまあ、ただの行きつけの居酒屋に対して抱くには明らかに大きすぎ、そしてねじ曲がった愛情と執着を、かれこれ10年も連続で過剰なまでに示し続けてくださっているそのライオンズファン軍団の皆様には、毎年毎年(若干の恐怖を感じつつも)心より感謝している。ある年急にお花とかを頂戴したならば、逆に正気を疑ってしまうかもしれない。

 毎年準備にそれなりに時間をかけて用意いただいているわけで、準備中に当スタジアムがつぶれでもしたならば用意した珍品が行き場を失ってしまうではないか……、という勝手に課された謎のプレッシャーをも力に変えて、毎春の過剰で異常な愛情のコール&レスポンスの謎のセレモニーを続けられるよう、これからも頑張って生き延びてゆきたい。

 

 12年目に突入した2024シーズンも、いろんな意味で皆様を巻き込んで面白がっていただけるような場であり続けたい当スタジアムへの皆様のご来場を、引き続き心よりお待ちしております。