誰に頼まれたわけでもなく、好きで勝手に長年続けている、各地の野球場のちょっと変わった席種の実地調査。
開幕前の3月に初踏破を果たした東京ドームの2席種のうちの後編、3月22日のジャイアンツVSタイガースのオープン戦で初トライしてきた席種の話をさせていただく。
そもそもこの試合を観戦に行こうと思いだったのは当日の試合開始3時間前くらいだったのだが、その時点で買えるチケットの中に未踏の席種があることに気付いてしまい、なかば衝動的にポチってやって来たのがここ。
眼前に広がるフィールドの向きでお分かりかと思うが、ここは外野スタンド。センター後方、バックスクリーンのすぐ隣ライト側に位置する、その名も『JCBバックスクリーンクラブ』である。
デビューはコロナ禍前の2018年とのことなので、今季6年目ということになる。
席の特徴を詳しく見てゆく前に、まずはわりと特殊なその位置と構成を遠景から説明しておこう。
座席としては青色で囲んだあたりが『JCBバックスクリーンクラブ』エリアで、全席指定で総席数は93席と意外と多い。
その名が示す通り、ひょいと右を見ればすぐそこはバックスクリーン。反対側の同エリアはカメラ席になっている。
背もたれなしの独立椅子は他の一般外野席と一緒だが、こちらは座面にクッションがついている。
位置は当然スコアボード直下なので……
東京ドームご自慢のオーロラビジョンはほどんど見ることができない。
座席の所在地は分かったが、ではバックスクリーンを挟む形で掲出されている『RYOBI』の広告あたりを示す、前掲の写真の黄色で囲んだ場所はいったい何なのか?
この『JCBバックスクリーンクラブ』をただの観戦席ではないスペシャルシートたらしめている大きな個性が、実はこの部分に隠されている。
黄色で囲った部分を拡大すると見えてくる、それぞれの『RYOBI』の真下にある横長の窓。
その内側には、『JCBバックスクリーンクラブ』のチケットを持つもののみが利用できる、専用ラウンジがあるのだ。
窓の向こうの秘密の小部屋へ入るには、スタンドから一旦コンコースに回る必要がある。
外野入場口25ゲートの階段を下りてすぐ右に、ひっそりと口を開けているスペシャルゾーンへの入口。
ちなみにここは『JCBバックスクリーンクラブ』のほか、『パーティースイート』『パーティールームNZK』という2種類のスーパースペシャルルームの入口も兼ねている。
東京ドームのシーズンシートオーナーのみしか利用できないという超難関だが、いつかここにも潜入してみたいものだ。
入口のスタッフに最初にチケットを見せると貰える紙製の腕輪。
以後こいつがこの関所の通行手形代わりとなる。
わりと殺風景な廊下の奥に鎮座する『JCBバックスクリーンクラブ』専用ラウンジは、前掲の写真の黄色で囲んだ2か所の『RYOBI』の広告真下の窓に対応する形で、ライト側とレフト側に2部屋ある。
こちらが入って手前に位置するライト側のラウンジ。
そしてこちらは奥側のレフト側ラウンジ。
どちらも少々のテーブルと椅子、そして立ち見スペースのカウンターという構成。
その少々のテーブルは完全早い者勝ちで、開門1時間半後にのこのこやってきたものに座れる余地などあるはずもなく、残念ながら試すことはできなかった。
当日に確認したこのエリアの空席状況に対して、明らかにスタンドの席に人が少なかったのは、ずっとここにいっぱなしという人が少なからずいたからなのであろう。
バックスクリーン真横という位置の関係上、打者の視界に入ったりしてプレイの妨げにならないようにと推測するが、ラウンジ内の明かりは窓より下の間接照明が中心で光量がグッと絞ってあって(写真はかなり明るく加工してある)、なかなか薄暗い。
窓もスモーク張りのような加工がされているため、気持ちサングラス越しのような眺めにはなるが、なんせ外は大いに明るいのでフィールド上のプレイを視認するうえではそんなに問題はない。
ちなみに外側から見るとご覧の通りまさにサングラス状態。
至近距離でかなり目を凝らさないと中の様子はうかがえないようになっている。
レフト側とライト側、ふたつの専用ラウンジの中間、つまりちょうどバックスクリーンの真裏あたりある小部屋にも、『JCBバックスクリーンクラブ』の魅力が隠されている。それは……
ブッフェである。
(足を運んだのは何年も前なので今はどうか分からないが)『バルコニーシート』のブッフェに比べると品数は少ないものの、ポップコーンや枝豆などの手軽に食べられるものから、サラダや揚げ物、焼きそば、カレーなど、ひと通りはそろっていた。
この日ならんでいたものがオープン戦仕様なのか、シーズン中と同様のラインナップなのかは不明。
どれも「驚くほど美味い!シェフを呼べ!」というほどのものではないが、こまめに補充もされていて温度もあり、自分のような貧乏舌には十分な内容。なにより売店に並ばずに食い物にありつける、というのがありがたい。
ブッフェにはドリンクも含まれていて、炭酸飲料やお茶なども飲み放題なのだが、驚くべきことにそのラインナップには……
ビールや焼酎、ウイスキー、ワインと、アルコール類も含まれているのだ。
しかもビールはキリンとアサヒの選択制という謎の手厚さ。こんな素敵な酒飲みパラダイスがバックスクリーンの真裏に隠されていたなんて、今まで知らなかった。
球場ビールをこよなく愛する桃色野郎が時間いっぱい浴びるほど飲んだのは言うまでもない。
ここまで紹介してきたように、バックスクリーン真横の外野席とスタンド内部のふたつのラウンジ、そしてブッフェという複合的な特徴を持つ『JCBバックスクリーンクラブ』。これだけ複数個所をうろうろできる席種も珍しい。
ジャイアンツ主催公式戦ではシーズンシートとなっていて、2023年のお値段は64試合121万6千円、計算すると1試合あたり19000円。ごくまれにある、ジャイアンツの地方開催の中止分振替などでシーズンシート対象外となって一般販売される際も、同額の19000円だそうだ。
食べ飲み放題とは言え、外野の1席と考えるとかなり高額に思えるが、個人利用ではなく景気のよい企業の接待交際や福利厚生利用を想定しているであろう席に、一貧乏人がどうこう言うものでもなかろう。
そんな普段はまるでご縁もない高級席の『JCBバックスクリーンクラブ』だが、オープン戦の
この日の価格は7000円。
もちろん決してそれを「安い!」と言えるほど裕福ではないが、ブッフェとアルコール飲み放題がついてのお値段ならば、十分許容範囲内。むしろ東京ドーム内のビールが900円に値上げされた直後の今、ビール飲み放題の価値が相対的に上がったことによって、お得にすら感じるから不思議だ(アルコールに侵された思考)。
現に10杯ほど(酔っ払って途中でカウント消失)のビールを飲んで大いに酩酊した頭では「ビール代考えたら今日の観戦は実質タダだな……」としか思えなかったので、個人的には満足度は高かった。
同じ勘定を公式戦の19000円に当てはめるとビール21杯強が必要になるので途端に難易度が上がるが、そもそもビールだけでチケット代の元を取ろうなどいう狂人はさほどいないだろう。
ごくごく一般論としてまとめると、軽食とアルコールやソフトドリンクが自由に楽しめ、特別感のあるラウンジも利用でき、外野席で応援を楽しみながら観戦できるこの『JCBバックスクリーンクラブ』は、7000円ならば十分にお勧めできる良席だと思うので、ぜひオープン戦の期間を狙ってまた再訪してみたい。
今季も日曜営業、月曜休場を継続するので、なかなか球場での観戦数は増やせないと思うが、その分席種開拓の方に力を入れたいと密かに目論む当スタジアムへの皆様のご来場を、引き続き心よりお待ちしております。