新・法水堂

新・法水堂

演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

NETFLIXシリーズ

『極悪女王』エピソード1

The Queen of Villains

 


2024年日本ドラマ 62分

監督:白石和彌

企画・プロデュース・脚本:鈴木おさむ

プロデューサー:長谷川晴彦、千綿英久

ラインプロデューサー:井上潔

アソシエイトプロデューサー:成瀬保則

プロレススーパーバイザー:長与千種

脚本:井上純哉

音楽:木村秀彬、鈴木俊介、石塚徹、Teje、田井千里

音楽プロデューサー:田井モトヨシ

監督補:茂木克仁 美術監督:今村力

撮影監督:鍋島淳裕 撮影:馬場元

照明:かげつよし 録音:浦田和治

美術デザイナー:赤塚訓 装飾:京極友良

キャスティング:南谷夢

衣裳デザイン:髙橋さやか

衣裳統括:加藤優香利 ヘアメイク:有路涼子

スクリプター:松本月

編集:加藤ひとみ、脇本一美

音響効果:柴崎憲治

リレコーディングミキサー:田中修一

ポストプロダクションスーパーバイザー:山川健太郎、塩崎健太

VFXプロデューサー:川瀬基之

VFXスーパーバイザー:朝倉怜

助監督:渡辺圭太 制作担当:篠宮隆浩

オープニング:「Dump the Heel」ゆりやんレトリィバァ

主題歌:「Are you serious?」Awich

 

出演:

ゆりやんレトリィバァ(松本香(ダンプ松本))

唐田えりか(長与千種)

剛力彩芽(北村智子(ライオネス飛鳥))

村上淳(全日本女子プロレス興業社長・松永高司)

斎藤工(全日本女子プロレス興業専務・松永俊国)

黒田大輔(全日本女子プロレス興業副社長・松永国松)

えびちゃん[マリーマリー](本庄ゆかり(クレーン・ユウ))

隅田杏花(大森ゆかり)

水野絵梨奈(横田利美(ジャガー横田))

鎌滝恵利(ラブリー米山)

根矢涼香(デビル雅美)

安竜うらら(堀あゆみ(ジャンボ堀))

堀桃子(中野恵子(ブル中野))

鴨志田媛夢(ジャッキー佐藤)

芋生悠(マキ上田)

赤ペン瀧川(トヨテレビプロデューサー・臼井延夫)

仙道敦子(香の母・松本里子)

野中隆光(香の父・松本五郎)

田畑智子(五郎の愛人・栗原愛子)

西本まりん(香の妹・松本広美)

プリティ太田(プリティ・アトム)、野澤健(リトル・フランキー)、ミスター・ブッタマン(アブドーラ・コブッチャー)、ANNA(モンスター・リッパー)、清野茂樹(実況・志生野温夫)、池浪玄八(上木浩一)、神宮寺しし丸(リングアナウンサー)、さとる(幼少期の松本香)、柚穂(幼少期の松本広美)、永尾柚乃(愛子の娘・香)、枝光利雄(実況アナウンサー)、中村紬、佐藤浬、山本眞卯(ビューティ・ペア親衛隊)、各務百香(同)、田中佳奈子(同)、天田将行(酒屋店主)、坪井篤史(酒屋の常連客)、木下弘明(松本家の隣人)、SAKI、清水ひかり(ラ・ギャラクティカ)、川畑梨瑚(プロレスラー)、門倉凛(北村智子のダブル)、本木幸世[クレジットでは元木幸世](太陽パン屋店員)、桃野美桜(プロレスラー)、花屋ユウ(ミネルバ葉子)、堀田祥子、橘さり、丹羽麻佑子、栃洞雪乃(55年組・酒井加寿子)、吉田有希(奥野まなみ)、長村咲、佐藤緑、三浦綾花(クラッシュギャルズ親衛隊)、春名涼羽(新人レスラー)、志田美由紀、佐藤未涼、仁泉鋭美、中村未華(オーディション参加者)、三澄朝子(同)、齋藤憲良、しおつかけいいちろう(全日本女子プロレス興業広報)、へんみのぶあき(レフェリー)、海翔(飲屋街の犬)、マ力口二(神社の犬)


STORY

1980年代、極悪同盟を率いて全日本女子プロレスのヒールとして活躍したダンプ松本。幼き日の松本香(かおる)はトラック運転手の父親と内職で家計を支える母親、そして妹の4人暮らし。父親はたまに帰ってきては母親から金をむしり取り、外には愛人との間に出来た娘に同じ香という名前をつけていた。傷心の香は偶然、女子プロレスの練習場で何度倒れても立ち上がる新人選手の姿を見て感銘を受ける。1979年、その新人選手はジャッキー佐藤の名前で活躍し、マキ上田とのビューティ・ペアは絶大なる人気を博していた。そんな折、香は母親が見つけてきたパン屋に就職することになるが、プロレスラーになりたいという夢のため、新人オーディションに向かう。そこには後にライバルとなるクラッシュギャルズの長与千種と北村智子(ライオネス飛鳥)の姿もあった。


プロレスラー・ダンプ松本さんの半生を描くドラマシリーズ。全5話。


製作中から色々と話題となっていた本作だが、ようやく日の目を浴び、評判も上々の様子。

子供の頃、クラッシュギャルズvs極悪同盟の対決をリアルタイムで見ていた私ではあるが、ダンプ松本さんの少女時代から描かれるエピソード1は知らなかったことばかりだった。

もう既にさんざん書かれていることではあるけど、ゆりやんレトリィバァさんの演技がとてもいい。エピソード1ではオーディションで憧れのジャッキー佐藤を前にした時の恍惚とした表情が「プロレスが大好きです」という台詞とあいまって抜群だし、その後の母親に土下座して「うち、プロレスラーになりたい!」と訴えかけるシーンや父親に反旗を翻すシーンもグッと来る。

今のところ、悪役の片鱗も見せていない、純粋にプロレスが好きな少女がどのようにダンプ松本となっていくのか、その変化も見どころだろう。


ただ、始まりが1974年なのはクエスチョンマーク。ダンプ松本さんは1960年生まれだから1974年だと中学生。それなのに劇中ではランドセルを背負っている。1979年のシーンは卒業を控えた高校3年生のようだが、5年で小学生から高校3年生に進級したことになってしまう。

恐らく母に連れられて父の愛人宅へ行き、そこで同じ香という名前の腹違いの妹がいることにショックを受けて雨の中を飛び出した香がジャッキー佐藤さんに出会って女子プロレスにのめりこむ、という展開を作りたかったがためにこうした矛盾が起きてしまったのだろう。恐らくこの展開はフィクションだろうから(愛人宅に行ったのは実話だとか)、いっそのこと中学生設定ではいけなかったのかな。


そうそう、エピソード1を見る前に知ってしまっていたのだけど、酒屋で角打ちをしている男性はシネマスコーレの坪井篤史支配人。白石和彌監督もたびたびスコーレに来館されているので出演自体は不思議ではないものの、ちょっとびっくり。姉妹にソーセージのご褒美を与えるのは現場でつけられた演出だとか。



アプレッシブ×実弾生活 VOL.1

『ヘリテージ』

Heritage 


2024年9月19日(木)〜22日(日)
駅前劇場

脚本・演出:インコさん

舞台監督:鳥養友美、杉山小夜

照明:宮崎晶代 音響:前田マサヒロ
当日運営:小泉美乃(合同会社soyokaze)
美術:泉真 演出助手:木香花菜

衣装協力:小山まりあ

宣伝美術:モコミック
イラストレーション:リタ・ジェイ
制作:アプレッシブ


出演:
中尾ちひろ[おなかポンポンショー](編集者・折部かおり)
インコさん(兄・折部史郎)

関絵里子(演出・沖ノ島かもめ/史郎とかおりの母・下田千恵子)
オオダイラ隆生[劇団6番シード](制作・薬師丸杉夫)
伊藤美穂(編集長・片岡ゆり子/番組ホスト・毒蝮徹子)
元もっち(劇団員・軍艦島しずむ/管理人・藤本/シャンソン歌手/番組スタッフ)
宝保里実[コンプソンズ](劇団員・小笠原知床/カラオケ店店員)
蒼井小鳥(劇団員・富岡キヌ)
星歌(劇団員・キリシタン長崎/居酒屋店員/番組AD)


STORY
「劇団ヘリテージ」は劇団員全員が世界遺産の名を関する新進気鋭の劇団である。しかし、その内部は各種ハラスメントが横行していた。出版社がバックに付いた大きな舞台を控える中、半分だけ書かれた脚本を残して脚本家が失踪してしまう。ひょんなことからゴーストライターとして雇われた作家、折部史郎は劇団でしか通じない特殊なルール、人間関係の中に放り込まれて大いに苦しみながらも「過去の遺物」である劇団の価値観と締切が迫る「アップデートされた作品」のバランスを取ろうとする――劇団という狭い創作現場で遺すもの、遺ってしまったものを笑いで包みながら、古さと新しさについて語る物語。【公式サイトより】

株式会社アプレが運営するアプレッシブとインコさん主宰の実弾生活による演劇作品。

舞台の脚本家が失踪してしまい、残された者たちで何とか完成までこぎつけようするという点でひなたごっこ『みちなる』と被ってしまった感はあるが、作風もテイストもかなり異なるので自ずと印象も違ってくる。
両作とも演劇についての物語ではあるが、本作の方にはその創作過程において(特に劇団という集団の場において)発生しがちなハラスメントの構造により焦点を当てている。
ひょんなことからハラスメント気質のある劇団にゴーストライターとして関わることになった折部史郎は、編集者の妹・かおりいわく「気持悪い話ばかり」書く少し風変わりな人物。そんな彼の目から見ても異常と見えるほど演劇界のそうした構造が歪ということよな……。まさに負の遺産(ヘリテージ)。
インコさんは決して演技がうまいわけではないし、右手が震えているところを見ると、そもそも演じること自体が好きではないのではという印象すら抱いてしまうが、他の人がどれだけうまく演じたとしても伝え切れない何かが残ってしまう気がする。きっとインコさん自身もそう感じているから、役者もし続けるのだろうな。

他のキャストでは得体の知れなさが半端ではない妹・かおり役の中尾ちひろさんは見飽きない魅力が感じられた。詳細が描かれるわけではないけど、母親に対する屈折した思いが表情一つで伝わってきた。
母親の下田千恵子は有名なエッセイストで家族のことを書き続けてきたということだけど、毒蝮徹子との他人(ひと)の話を聞かないもの同士の会話は素晴らしかった。徹子の本を読んだと言って星新一さんの『ボッコちゃん』を出すのも大ウケ。
それに反して、かおりが差し入れに持ってくるフィナンシェがサダハル・オーのものという小ネタは全然伝わっていなかったな。笑(サダハル・アオキも王貞治もさほど有名ではないのか…)

上演時間1時間50分。

梅田芸術劇場

『球体の球体』

Sphere of Sphere


【東京公演】
2024年9月14日(土)〜29日(日)
シアタートラム

脚本・演出・美術:池田亮
照明:吉枝康幸 音響:小笠原康雅
衣裳:土田寛也 ヘアメイク:国府田圭
美術補:宇戸佐耶香 演出助手:相田剛志
舞台監督:竹井祐樹
宣伝美術:秋澤一彰 宣伝撮影:山崎伸康
宣伝:吉田プロモーション
企画・制作・主催:梅田芸術劇場

出演:

新原泰佑(本島幸司/クニヤス)

小栗基裕[s**t kingz](央楼大統領・日野グレイニ/ヒロシ)

前原瑞樹(キュレーター・岡上圭一)

相島一之(央楼大統領(35年後の本島))


STORY

現代アーティストの本島幸司は、2024年に遺伝と自然淘汰をコンセプトとしたアート作品『Sphere of Sphere』を創作する。その作品が話題となり、独裁国家の「央楼」に招待されることで本島には思いもよらぬ人生が待ち受けていた。そして35年の時を経た2059年、本島の告白から物語が始まる。【公式サイトより】


ゆうめいの池田亮さん、『ハートランド』で岸田國士戯曲賞受賞後第1作。


舞台中央に四角い穴があり、そこにガチャガチャを縦一列に積み重ねたアート作品《Sphere of Sphere》が立ち、穴の周囲をポールパーテーションが囲む。後方左右に円柱があり、その間は開閉式の壁。

そこは央楼美術館という設定で、観客は通路を通って舞台に上がり、この作品を間近で鑑賞してから客席に着くことになる。

劇場に一歩足を踏み入れた瞬間から作品世界に誘ってくれるという点において、前作『養生』にも通ずる面がある。


物語は2024年、央楼という独裁国家で作品を展示することになった現代アーティスト・本島幸司がいかにしてその国の大統領となったかが語られていく。

前半はなかなかいい感じで進んでいったのだが、徐々に惹きつけられなくなってしまい、終盤はもう話についていくことすら止めてしまっていた。『ハートランド』の時もそうだったんだよなぁ。


新原泰佑さんは見事なダンスも披露。小栗さんも踊るのかと思いきやそれはなし。前原瑞樹さんは突拍子もないところが似合っていたし、相島さんもさすがの安定感。

上演時間1時間39分。


終演後、出演者4名揃ってのポストトーク。

池田さんが毎日のように演出や台詞を付け足しているそうで、相島さんも「なかなか役者を安心させてくれないよね」と仰っていた。

 

 

『missing』



2024年日本映画 119分

脚本・監督:𠮷田恵輔

企画:河村光庸

プロデューサー:大瀧亮、長井龍、古賀奏一郎

アソシエイトプロデューサー:行実良、小楠雄士

音楽:世武裕子

撮影:志田貴之 照明:疋田淳

録音:田中博信 装飾:吉村昌悟

編集:下田悠 音響効果:松浦大樹

衣裳:篠塚奈美 ヘアメイク:有路涼子

VFXスーパーバイザー:白石哲也

キャスティング:田端利江

スクリプター:増子さおり

助監督:松倉大夏 制作担当:本田幸宏

題字:赤松陽構造


出演:

石原さとみ(森下沙織里)

中村倫也(静岡テレビ放送記者・砂田裕樹)

青木崇高(沙織里の夫・森下豊)

森優作(沙織里の弟・土居圭吾)

美保純(沙織里の母・土居真知子)

柳憂怜(刑事・村岡康二)

小野花梨(新人記者・三谷杏)

小松和重(デスク・目黒和寿)

細川岳(カメラマン・不破)

山本直寛(砂田の後輩記者・駒井力)

カトウシンスケ(圭吾の同僚・木村宗介)

有田麗未(沙織里の娘・森下美羽)

阿岐之将一(キャスター)、高田衿奈(同)、難波圭一(報道局局長)、矢野竜司(報道局局員・水谷)、佐藤友佳子(デスク)、仁科咲姫(みかん農園新人・ミキ)、内藤トモヤ(捜索ボランティア・仲本洋平)、宮咲久美子(捜索ボランティア)、大須みづほ(さくらの母親・宇野久美)、橋本羽仁衣(小学2年生・宇野さくら)、齋藤英文(コンクリ会社・古藤田商店社長)、佐久間あゆみ(圭吾に気づく不良)、黒川大聖(不良)、井上蓮(同)、宮田龍樹(同)、杏奈メロディー(同)、三島ゆたか(漁師・田辺)、松原正隆(蒲郡の刑事)、中澤功(蒲郡の警察で抗議する男)、粕谷吉洋(蒲郡の警察官)、徳留歌織(ホテルのフロント係)、和田葵(ホテルの少女・ひなた)、福田温子(ひなたの母親)、恵田侑典(ひなたの父親)、吉澤憲(豊にライターを借りる男)、三村伸子(ビラを受け取る女)、廻飛呂男(坂口市長)、玉置優允(市長の息子・長浜元気)、氏家恵(みかん農園従業員)、岩本賢一(漁業組合組合長)、久松龍一(漁業組合幹部)、持田加奈子(路上で口論する女)、平塚真介(路上で口論する男)、長田涼子(水難事故に遭った子供の母親)、石崎竜史(水難事故に遭った子供の父親)、小倉聖矢(後任カメラマン)、伊藤凌太郎(ゲームセンターの不良)、今井柊斗(同)、木下紗菜(同)、入沢光陽(同)、岩見美映(クレームを入れる主婦)、和気龍太郎(スーパーの店員)、日高ボブ美(片山千絵)、伊藤杏(娘・片山サキ)、佐倉孝治(印刷工場社長)、水野直(久美の元交際相手・井形守)、鉾田智子(印刷工場社長の妻)、浅見史歩(砂田に質問される少女)、安楽将士(団地の不審な男)、由井さくら(男に連れられる少女)、矢野昌幸(バキューム車作業員)、岡本篤(弁護士)、植吉(スクールガード)、藤原絵里(スクールガード担当者)、入江龍樹(沙織里をおばさんと呼ぶ小学生)、中條サエ子(団地の住人・隆の母)、旺輝(隆)、志水心音(団地の少女)、G1(Blankメンバー)、8K(同)、SAY(同)、長屋和彰(報道局記者)、小川諒(同)、湊川えみ、長尾敦史、水口優輝、中野克馬、綱島えりか、桑原愛海、いしかわひとみ、閻子丹、永瀬文萌、大羽良克、月凪、松坂さく、菅生直也(斎藤祥太)、高山隆一、戸村結花、箕浦美稀、宮脇美咲、田村祐貴(レポーター)


STORY

とある街で起きた幼女の失踪事件。あらゆる手を尽くすも、見つからないまま3ヶ月が過ぎていた。娘・美羽の帰りを待ち続けるも少しずつ世間の関心が薄れていくことに焦る母・沙織里は、夫・豊との温度差から、夫婦喧嘩が絶えない。唯一取材を続けてくれる地元テレビ局の記者・砂田を頼る日々だった。そんな中、娘の失踪時に沙織里が推しのアイドルのライブに足を運んでいたことが知られると、ネット上で“育児放棄の母”と誹謗中傷の標的となってしまう。世の中に溢れる欺瞞や好奇の目に晒され続けたことで沙織里の言動は次第に過剰になり、いつしかメディアが求める“悲劇の母”を演じてしまうほど、心を失くしていく。一方、砂田には局上層部の意向で視聴率獲得の為に、沙織里や、沙織里の弟・圭吾に対する世間の関心を煽るような取材の指示が下ってしまう。それでも沙織里は「ただただ、娘に会いたい」という一心で、世の中にすがり続ける。【公式サイトより】


5月に公開され、気になりつつも見逃していた𠮷田恵輔監督作品をNetflixにて。


突然子供を奪われた親を主人公にしている点やじけんら事故後のマスコミの報道のあり方やネットでの反応を扱っているという点において、2021年公開の『空白』の姉妹篇とでも言うべき作品。

ちなみに愛知県蒲郡市が出てきて、三島ゆたかさんが田辺という漁師を演じるのも共通項。


『空白』の添田とのいちばんの違いは、美羽の生死は不明であるという点。沙織里はもちろん生きていることを信じて懸命にビラを配ったり、ありとあらゆる情報にすがったりもする。その思いの強さゆえか空回りし、時にそれが周囲の者を不快にさせてしまう。

添田が自分の中である程度折り合いがつけられるのに対し、沙織里の苦しみは美羽が発見されるまで終わることはない。自分がその立場に立たされたと思ったらゾッとしてしまうな。


また、テレビ局の記者をしている砂田を登場させることで、マスコミの描き方は『空白』よりも深掘りされたものとなっている。とりわけテレビのようなメディアにおいては常に新しい、視聴者の耳目を集める何かが求められる訳で、腰を据えて1つの事件・事故を追いかけるのも難しい。日本にもニュース専門チャンネルとかあればいいのだけど…。


公開当時から石原さとみさんの演技が高く評価されていてが、個人的には特に感情をむき出しにするような演技はやや過剰に感じられてしまった。

ただ、美羽と似たような経緯で行方不明となっていたさくらが無事に保護されたというニュースを見て、安堵の表情を浮かべるシーンの演技はとても素晴らしかった。

美羽の話をしながら、「何でもないようなことが幸せだったと思います」と言うシーンも(カメラマンにしっかり「THE虎舞竜?」とツッコまれてるし)。

中村倫也さん、青木崇高さん(特に男泣きするシーン)、森優作さんらの好演も光る。




ヒトハダ 第2回公演

『旅芸人の記録〜あるいは、ある家族の物語〜』



【東京公演】
2024年9月5日(木)〜22日(日)
ザ・スズナリ

脚本・演出:鄭義信
音楽:久米大作 舞台装置:池田ともゆき
照明:増田隆芳 音響:藤田赤目
衣裳:宮本宣子 演出助手:山村涼子
舞台監督:丸山英彦
大衆演劇監修:一見好太郎(一見劇団)
大衆演劇コーディネート:國實瑞惠
着付:藤川まさみ ヘアメイク監修:高村マドカ
音響操作:畑岡楓
大道具:箱馬倶楽部(鈴木太朗)、美術工房拓人
小道具:高津装飾美術株式会社
トランポ:マイド
衣裳協力:松竹衣裳(冨樫理英、村越由香)
かつら:一見劇団
宣伝デザイン:阿部寿 宣伝イラスト:尾上寛之
宣伝協力:川辺鉄矢、原田七海
制作:藤本綾菜、佐々木弘毅
協力:一見劇団 企画・制作:ヒトハダ
製作:レプロエンタテインメント、nora

出演:
大鶴佐助(蝶子の息子・夏生)
尾上寛之(清治の連れ子・冬生)
浅野雅博(蝶子の再婚相手・清治)
梅沢昌代(座長・二見蝶子)
櫻井章喜(伯父・草野亀蔵(天野鶴姫))
山村涼子(蝶子の娘・秋子)
丸山英彦(山本)
清水優(裏方・竹田)

STORY
太平洋戦争まっただ中、大衆演劇の劇場、映画館は、大勢の観客で賑わっていた。劇場の外は戦火、けれど、中は笑いと涙が渦巻いていた。人々は演芸に興じることで、ひととき、暗い世相を忘れようとしたのだ。一九四四年(昭和一九年)、関西の地方都市にある小さな大衆演劇の劇場。女剣劇を看板にする二見劇団が、十八番の「ヤクザ忠臣蔵」を上演している。主役の藏造を演じるのは、座長の二見蝶子。その子分を、蝶子の息子の夏生と、中堅の山本、亀蔵が演じている。台本を書いたのは、蝶子の再婚相手、清治の連れ子である冬生。音響係を、蝶子の娘の秋子。蝶子の夫、清治は喘息持ちということで、舞台には立たず、炊事を担当している。それぞれが、一座の仕事を分担して、家族で支えていた。ある日、夏生が役者を辞めて、川西飛行機工場で働きたいと、宣言する。清治の反対にもかかわらず、夏生は一座を離れ、一人暮らしを始める。そして、秋子も婚礼をあげ、山本も徴兵され、一座から、次々、人がいなくなってしまう。そんな折、冬生の書いた台本が検閲に引っかかり、上演できなくなってしまう…【公式サイトより】

2022年に旗揚げされたヒトハダ、第2回公演。
テオ・アンゲロプロス監督作品の舞台化ではない。笑

舞台は芝居小屋。前から4分の3のエリアが板敷きで、境目に幕(最初は定式幕、劇中劇では雪景色の川沿いの町並み)。左右に出入口。幕の後ろには下手側に布団が積まれ、中央に出入口。上手側には壁に備え付けの長椅子、水屋箪笥。上方にも棚があり、神棚が置かれている。

旗揚げ公演『僕は歌う、青空とコーラと君のために』は戦後間もないキャバレー舞台にしたコーラスグループの話だったが、今回は戦争中の大衆演劇の話。
当然のことながら、戦争が暗い影を落とし、劇団も巻き込まれていくのだが、少々新鮮味が感じられなかった。「僕たちの苦しみが100年経ったらのうなって〜」もこれまでの鄭さんの作品で幾度となく繰り返されているしなぁ…。

尾上寛之さんが本番中に左足を負傷したため、8日〜12日の公演を休演、座長・大鶴佐助さんと配役を変更して13日に再開した今回の公演。尾上さんは松葉杖をつきながらの演技。
思わぬアクシデントといったところだけど、佐助さんも尾上さんも元からその役だったのではと思うほど。台詞もほとんどトチることなく、一から覚え直す訳ではなかったとは言え、この短期間でよくぞここまで仕上げたなと感心する他ない。

とは言え、3日間のみの披露に終わったオリジナルバージョンも観てみたいので再演してほしい。


他の劇団員お三方も安心して見ていられ、演出助手の山村涼子さんと舞台監督の丸山英彦さんもご活躍。


上演時間1時間48分。

制作「山口ちはる」プロデュース

ちはる塾『東京と歩む2024』



2024年9月13日(金)〜16日(月・祝)

スターダスト


脚本:制作「山口ちはる」プロデュース 

演出:山口千晴

音響:太田智子

プロデューサー:山口ちはる


出演(Aチーム):

有紀(からー(大人))
久堀凜(から一(子供))

外山達也(おやじ・もんちゃん)

山口紗也可(母・陽子(旧姓・寺門))

白橋真央(からーの友達・カナブン/弁当屋店員)

梶原理央(からーの友達・みき/弁当屋店員)
塚本花澳(からーの友達・ほりえもん/弁当屋店員)

大井千毯(OLの仲間・きやか)

岡本瑞希(OL の仲間・なお)

三島渓(OLの仲間 ・ゆうこ)

清水元太(からーの恋人・窪内さん) 


STORY

最終電車、深夜の自転車置き場、彼氏からの電話、家への帰り道、自分が生まれた病院、茶色のお弁当、学校の帰り道、友達たちと進路相談、田舎の景色、そして家族

これが彼女の大切な大切なもの…あなたの大切なものは何ですか?【公式サイトより】


制作「山口ちはる」プロデュースの山口ちはるさんが自ら演出を行うちはる塾公演。2021年初演、2023年に再演して今回が再再演。


本作はとある地方に生まれた空と書いて「からー」と読ませる女性が生まれてから結婚するまでが描かれる。正確に言うと、両親の出会いも回想的に挿入される。

からーの母・陽子は幼い時に亡くなり、父・もんちゃんが男手一つで育ててきた。からーは友人たちが高校を卒業して東京や大阪に行こうとする中、もんちゃんのために地元に残ることを決断するが、当のもんちゃんから東京行きを強く勧められて上京する。その後、窪内という恋人ができ、結婚を考える時が来るが、またしてももんちゃんのことが気にかかり決断が出来ない。


舞台中央には発光した2本の線で区切られた道があり、俳優陣はそこをランウェイのようにして前に進みながら演技をし、戻る際は左右の道を使う。

この道はいわば時間の流れを表していて、引き返すことは出来ない。それでも時に立ち止まりながら、時にゆっくり家族や恋人や友人と歩きながら、自分の進むべき道を歩んでいくあたり、面白い演出だった。

ストーリー的にはもう少し捻りがあった方が好みだけど、主演の有紀さんともんちゃん役の外山達也さん親子の関係性がなかなかいい感じだった。


ところで初演時は原作、再演時は脚本としてクレジットされていた倉本朋幸さんのお名前が今回はないのはなぜなんだろう。ついでに言うと、山本試験紙も元々は山口さん、倉本さん、杉本達さんのユニットだったのに第2回公演『ピクトグラム』の時は山口さんの名前がない。何があったんやー。


上演時間48分。

「Kon Natsumi Concert 2024 -moi-」



2024年9月14日(土)〜16日(月・祝)
よみうり大手町ホール

出演:昆夏美
ゲスト:
小野田龍之介(14日)
ソニン(15日昼)
愛希れいか(15日夜)
シークレット[城田優](16日)

音楽監督・ピアノ:西寿菜

ギター:Miu Kuboi

ベース:金子義浩

ドラム:やまだはるな

リード:馬場レイジ

バイオリン:橘未佐子

チェロ:白佐武史


昆夏美さん、4年ぶりのソロコンサート。

私はもちろん15日昼の回を鑑賞。


ステージには赤を基調にした花が敷き詰められ、33本のキャンドル(元々33歳というゾロ目なのでコンサートをすることにしたものの、タイトルやチラシにはどこにも33という数字はなく、かろうじてここにコンセプトが残っていたとのこと)。天井からはシャンデリアが6灯。花壇の後ろにバンドメンバー。


最初の曲はNHK連続テレビ小説『ブギウギ』で演じた李香蘭さんの「蘇州夜曲」から「夜来香(イェライシャン)」へのメドレー。

歌い終わり、最初の挨拶で「こんば……こんにちはー」と早速場を和ませる昆さん。笑

昨日も開演前の客席が静かだったそうで、気楽に楽しんでとアピール。見た感じ、一人で来ている人が多かったのかな。

続く3曲はこれまで出演したことはないけど、大好きなミュージカルナンバー。MCを挟んで更に2曲のうち、「星から降る金」は昨日と今日の昼のみとのこと。

いずれもその曲についてのエピソードや解説なども添えられていたのでミュージカルについての知識に乏しい私にはありがたや(タイトルは全部知っていたし、観たことがあるものもあったけど)。


そしてスペシャル、スペシャル、スペシャルゲストのソニンさん登場。

元々ソニンさんの大ファンという昆さん、高校生の頃、帝国劇場に『ミス・サイゴン』を友人と観に行って出待ちをしたという話はソニンさんのファンミーティングでのメッセージ動画でご本人が話していたけど、今日はより詳しく。友人は「◯◯さん」だったのに対し、自分は「なつみちゃん」だったとか、ソニンさんがなかなか出てこず、1時間ぐらい待っていたとか(ハードな役のため、終演後、それぐらいの時間をかけなければ楽屋から出られなかったとのこと)。

のっけからソニンさんへの愛が迸り、一人のミュージカルおたくに戻っていた昆さんだったけど、2人がマルグリット役をダブルキャストで務めた『マリー・アントワネット』の「憎しみの瞳」が始まるや表情が一変。マルグリットとマリーを途中でスイッチしてのデュエットだったのだけど、一瞬にしてその作品世界を現出させるお二人の凄さに心が震えた。

続いては仲直りの曲ということで『ウィキッド』の「For Good」。途中、昆さんが歌うソニンさんの横顔をうっとりと眺めていたような気がしたのは私だけではあるまい。笑

昆さんが着替えている間、ソニンさんがソロを披露。来年出演するミュージカル『ウェイトレス』からヒロイン・ジェナが歌う「She Used to Be Mine」を英語で。


衣裳チェンジして再登場の昆さん(上が緑で下がピンクの一人『ウィキッド』状態)、今度はここ最近出演した作品のナンバーを4曲。

『マチルダ』の「Naughty」では最後にちゃんとマチルダポーズ。『トッツィー』の「What's Gonna Happen」から『この世界の片隅に』の「端っこ」へと続く落差たるや。

最後は次回出演作『レ・ミゼラブル』の「I Dreamed a Dream」。これまでエポニーヌコ役だったのが、今度はファンテーヌ役ということでこれまた楽しみ。


アンコールではバンド紹介をした後、再び『この世界の片隅に』から「この世界のあちこちに」。このミュージカルの楽曲に出合えたことは自分にとって財産と言っていたけど、この作品に対する思い入れの強さが窺える(どの曲がいちばん好きか、他のミュージカル作品なら言えるのに本作に関しては出来ないとも)。

昆夏美さんのコンサートは初めてだったけど、とにもかくにも可愛らしく、人柄のよさが伝わってきた。満を持して『レ・ミゼラブル』デビューを果たさねば。笑


1時間58分。


セットリストは以下の通り。

1. 蘇州夜曲〜夜来香(李香蘭)

2. 魔法使いと私(ウィキッド)

3. どこかにある緑に囲まれた場所/Somewhere That's Green(リトル・ショップ・オブ・ホラーズ)

4. 私が生きてこなかった人生/The Life I Never Led(天使にラブ・ソングを〜シスター・アクト〜)

5. 星から降る金(モーツァルト!)

6. 過去への旅/Journey to the Past(アナスタシア)

7. 憎しみの瞳(マリー・アントワネット)※ソニンと

8. あなたを忘れない/For Good(ウィキッド)※ソニンと

9. She Used to Be Mine(ウェイトレス)※ソニンソロ

10. Naughty(マチルダ)

11. My House(マチルダ)

12. What's Gonna Happen(トッツィー)

13. 端っこ(この世界の片隅に)

14. 夢やぶれて/I Dreamed a Dream(レ・ミゼラブル)

〜encore〜

15. この世界のあちこちに(この世界の片隅に)

艶∞ポリス番外公演

ふたり芝居『それでは登場して頂きましょう』



2024年9月13日(金)〜16日(月・祝)

ニュー・サンナイ


企画:村川絵梨

作・演出:岸本鮎佳

照明:宮﨑絵美子

音響:古川直幸 音響操作:鈴木暁

映像協力:ギークピクチュアズ

演出助手:石川未楽 制作:石本秀一

宣伝美術:三ツ橋勇二

企画・制作:艶∞ポリス/株式会社アミューズ


出演:

《オーディション控室の二人》

村川絵梨(村川絵梨)

岸本鮎佳(岸本鮎佳)

《葬儀レディ 東西対決》

村川絵梨(和泉セレモニー・田宮マリ/故人の妻)

岸本鮎佳(八神典礼・君島サナエ/医師)

《Vシネ女優》

村川絵梨(姐さん)

岸本鮎佳(幼稚園の先生・美鈴)

渋江譲二(桂木監督)*映像出演

村上大樹(河野)*映像出演

異儀田夏葉(三谷)*映像出演


STORY

とあるオーディション会場に集められた二人の女優。全く違う人生を歩んできた村川絵梨と岸本鮎佳。正解がない世界で、まるで、二人で旅に出るように、同じ土俵の上で、様々な役に挑戦し、模索する。女同士の絶妙な距離感を描く濃密で滑稽な二人芝居。【公式サイトより】


村川絵梨さん発案で実現した二人芝居。


舞台は素舞台。

村川さんと岸本さんがパイプ椅子を持って登場し、椅子を振り上げて争うオープニングの後、本篇。

2人は「日の丸証券」のCMオーディションに来た俳優同士という役どころで、何かにつけて激しく対立する。

3つのパートに分かれているが、《葬儀レディ〜》はオーディションの場で勝敗を決めるために行った即興芝居で、《Vシネ女優》は過去に2人が共演した作品という構成で、終始一貫して村川と岸本の話となっている。


虚実ないまぜになった面白さがあり、オーディション控室の場面では名前を聞いてきた岸本に対し、「えっ、何で知らないの?」と村川が驚いたり、岸本が村川のことを「大きな事務所に所属して売れていない俳優ってスカしてますよね〜」と毒づいたりといった心の中の声が笑いを誘う。

村川が甥っ子とのテレビ電話で話していると乱入して説教を始めるなど、岸本はなかなかの奇矯な人物。「無責任警察」なる演劇ユニットの主宰でもある彼女は劇団と演劇ユニットの違いにもこだわる。対する村川も娘が日の丸証券のCMに出演することが亡くなった母の夢だったとでっちあげ、さっき母親と電話してましたよね?などとツッコまれる。

合間に流れる映像も面白く、ここ最近観た舞台ではいちばん笑わせてもらった。


これまでに立った舞台で一番小さかったのが新国立劇場小劇場という村川さんをこんな至近距離で見られるのはまたとない機会。《葬儀レディ》ではMISIAさんの「逢いたくていま」を岸本さんと張り合うように歌うシーンもあり。


上演時間1時間10分。

劇壇ガルバ第6回公演

『ミネムラさん』



2024年9月13日(金)〜23日(月・祝)

新宿シアタートップス


作:細川洋平、笠木泉、山崎元晴

演出:西本由香(文学座)

音楽:鈴木光介 美術:杉浦充

音響:丸田裕也(文学座)

照明:賀澤礼子(文学座)  
衣裳:竹内陽子 衣裳進行:野村千名美

演出助手:大月リコ

舞台監督:村岡晋 演出部:桂川裕行
宣伝写真・舞台撮影:加藤孝

宣伝美術:陣内昭子 宣伝ヘアメイク:山口晃
ライター:ふしみしょうこ 票券:大橋さつき

制作:大橋さつき、時田曜子、山崎元晴、月館森、陣内昭子
企画製作:劇壇ガルバ


出演:

「フメイの家」(作:細川洋平)

大石継太(ミネムラさんの知人・オイシ)

山崎一(杉並警察署刑事・マヤザキ)

森谷ふみ(同・ヤモリ)

笠木泉(阿佐ヶ谷駅前交番警察官・サカギ)

上村聡(酔っ払い・ウエソン)

「世界一周サークル・ゲーム」(作:笠木泉)

峯村リエ(ミネムラ/赤ん坊連れの母親)

笠木泉(ヤスコ・小安由美子)

上村聡(タウンワークの男/スーパーの店長)

山崎一(バスの乗客/スーパーの店員)

大石継太(バスの乗客/スーパーの店員)

森谷ふみ(バスの乗客/スーパーの店員)

「ねむい」(作:山崎元晴)

峯村リエ(ミネムラ)

森谷ふみ(妹)

大石継太(夫)

山崎一(父)

笠木泉(母)

上村聡(救急隊員)


STORY

その女から届いた手紙には、これから姿を消すと書いてある。当局は彼女の捜索に取り掛かるのだが、封筒には名前がなく、手紙の受取人も記憶にない。少ない情報の中、塗り重ねられる彼女の肖像(イメージ)。
彼女は親友と船の旅に出たあ
の人か。それとも他人の赤ちゃんを押し付けられ悪夢を見たあの人か。もしくは、実在しない人物なのか? 記憶やフィクション、そして夢と幻想が折り重なって、"誰かであり誰でもない"、ある女の生涯に想いを馳せる。我々は彼女のことを、『ミネムラさん』と呼ぶことにした。

「久しぶりです。急に連絡がきて驚いていることかと思いますが、ご容赦ください。昨日は庭に、コスモスが咲きました。」【公式サイトより】


劇壇ガルバによる実験プロジェクト第2弾。

3名の劇作家がひとりの女性についての物語を書き、それを1つの作品として上演する。


舞台上には板で作られた可動式の壁がいくつか。組み合わせによって家や窓が出現する。その他、木のボックスが3つ。


まず何と言ってもタイトルがいい。

峯村リエさんが「ミネムラさん」を演じ、しかも3人の劇作家が競作/共作となれば、どんな作品なのか見当がつかなくても面白そうな予感は漂ってくる。

果たしてその予感は的中。それどころか期待を遥かに大きく上回り、悲しい話でも何でもないのに見終わった後に自然と涙が出てくるような作品だった。


細川さんの作品は別役実さんばりの不条理ギャグのオンパレード、笠木さんの作品はそっと隣に寄り添ってくれるような優しさがあり、山崎さんの作品はサスペンスフルなタッチと三者それぞれテイストが違う作品ながら、それぞれのパーツが寄木細工のごとく組み合わされ、1つの作品となるまさに匠の技。

配役表を見て驚いたのが、細川さん担当の「フメイの家」にミネムラさんが出てこないという点。パンフレットでの対談などによれば、当初は3作品とも出てくる予定だったのが、山崎さんの鶴の一声で急遽変更されたのだとか。これが見事に奏功していて、作品としての枠組が確固たるものになったように思う。

個人的にいちばん好きだったのは笠木さん担当の「世界一周サークルゲーム」で、タイトルはジョニ・ミッチェルさんの「サークル・ゲーム」から取られている。ミネムラさんとヤスコさんの関係性がとてもいいし、バスの中で浮遊感を感じるシーンが印象的。


どのキャストも当たり前のように上手かった。

峯村リエさんは出てこない「フメイの家」ですら存在感を発揮。同じく「フメイの家」では山崎さんは水を得た魚のように生き生きとされていたし、レギュラー俳優・大石継太さんも「ミ…なんとかさん」となかなか知人の名前を思い出せない男を演じてとぼけた味わい。上村聡さんの変幻自在っぷりも見事だった。

体調不良のため降板された安澤千草さんの代役として出演もすることになった笠木泉さんも「フメイの家」と「世界一周〜」とではまったく違うキャラクターを演じていた。


上演時間1時間49分。

ユトサトリvol.6

『だいたいみんな躍ってる2024』



2024年9月11日(水)〜16日(月・祝)
小劇場楽園

脚本・演出:大竹ココ

舞台監督:宅間脩起 照明:黒太剛亮
音響:成田章太郎、佐々木一樹(いぜるい〜あ)
演出助手:栗俣好花
チラシデザイン:コウノサチコ
撮影:大倉英揮
ヘアメイク(チラシ):キャンディ・猫子
WEB制作:大原富如
会場制作:赤松翔子、伴あさみ(未来教育劇団ここたね)
当日制作:小山都市、ノナカモヱリ、ゆいゆい

出演:
大原富如[ユトサトリ。](相原ほたる)
佐藤美輝(川野樹里)
和愛(新入社員・小浜佳)
石澤希代子[あるいはエナメルの目をもつ乙女](藤井ゆかり)
宮﨑優里(主任・朝霞澄子)
菊地奈緒(税理士・北園)

STORY

上司の結婚式を間近に控え、オフィスで余興の練習をしている女性社員3人。軽いノリで好きな人をバラされた主人公(ほたる)は余興を辞退すると言い出してしまう。なんとか機嫌を取り戻してもらおうとあの手この手を尽くすメンバーの説得空しく、年齢不詳のチームリーダー、会社に来ては煎餅ばかり食べている税理士、さらには結婚する上司も巻き込み議論は激化してしまう。【公式サイトより】

1995年生まれ、ゆとり世代の大竹ココさんと大原富如さん&1996年生まれ、さとり世代のキャンディ・猫子さんの3人による劇団・ユトサトリ。、初の再演作品(2021年初演)。

舞台はオフィスの多目的ルームのようなところ。壁が2面あるうち、左側に出入口へと繋がる通路。その横に壁時計があり、開演時に7時を指している。
細長いテーブル3つ(うち2つは連結)、背もたれのある椅子が6脚、スツールが2脚、長椅子が1脚。部屋の隅にはハンガーにかけられたジャケットなど。天井には蛍光灯が四角く並ぶ。季節は年末。

女性6人による一幕物で、リアルタイムに進行。一見平和そうな雰囲気のオフィスが各々の隠したがっていることが明るみになるにつれ、加速度的に物語が展開していく。
あらすじでは「好きな人をバラされ」とあるが、正確にはほたるがゆかりの結婚相手・山本と以前付き合っていたことを同期の樹里がバラしてしまうことにより、関係にヒビが入ってしまうという展開。
ゆかりも上司というよりは先輩で、ほたるが世話になったゆかりの結婚式にも出ないと言い出したのはもっも別の理由があったりもする。
一体どうすりゃいいのよ状態になる中、「踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら踊らにゃ損損」と言わんばかりに誰も彼をも巻き込んでの一世風靡セピアダンス(ソイヤ! ソイヤ!)はかなり強引ではあったけど、一種の爽快感があってよかった。

キャスト6人のバランスもよく、それぞれの役割を十二分に務めていた。中では唯一、初演から続投の大原富如(ふゆき)さんは感情の起伏を表情豊かに表現。ほたると一触即発状態となる佐藤美輝さん、新人らしからぬふてぶてしさの和愛(のあ)さんもいい塩梅。大人チームの石澤さん、宮﨑さん、菊地さんも要所要所で存在感を発揮していた。

上演時間1時間42分。