新・法水堂

新・法水堂

年間300本以上の演劇作品を観る観劇人です。ネタバレご容赦。

『星と月は天の穴』


映画「星と月は天の穴」ポスター


2025年日本映画 122分

STAFF

脚本・監督:荒井晴彦
原作:吉行淳之介
エグゼクティブプロデューサー:小西啓介
プロデューサー:清水真由美、田辺隆史
ラインプロデューサー:金森保
助監督:竹田正明
撮影:川上皓市、新家子美穂
照明:川井稔 録音:深田晃
美術:原田恭明 装飾:寺尾淳
編集:洲﨑千恵子
衣裳デザイン:小笠原吉恵
ヘアメイク:永江三千子
インティマシーコーディネーター:西山ももこ
制作担当:刈屋真
キャスティングプロデューサー:杉野剛
音楽:下田逸郎
主題歌:松井文「いちどだけ」他
写真:野村佐紀子、松山仁
アソシエイトプロデューサー:諸田創

CAST

綾野剛(矢添克二)
咲耶(瀬川紀子)
田中麗奈(千枝子)
宮下順子(娼館「乗馬倶楽部」の女主人)
岬あかり(小説の中のB子/女子大生)
柄本佑(矢添の大学時代の同級生)
吉岡睦雄(医師)
MINAMO(娼館「乗馬俱楽部」の女)
原一男(映画監督C)
瀬尾佳菜子(バーのママ)
瑞生桜子

STORY

⼩説家の矢添克二は、妻に逃げられて以来10年、独⾝のまま40代を迎えていた。偶然に再会した大学時代の同級生から、彼の娘が21歳になると聞いて時の流れを実感する一方、離婚によって空いた心の⽳を埋めるように娼婦・千枝⼦と時折り軀を交え、妻に捨てられた傷を引きずりながらやり過ごす日々を送っていた。実は彼が恋愛に尻込みするのには、もう⼀つ理由があった。それは誰にも知られたくない⾃⾝の〝秘密〟に、コンプレックスを抱えていることだった。不惑を過ぎても葛藤する矢添は、⾃⾝が執筆する⼩説の主⼈公・Aに⾃分を投影し、20歳も年下の大学生・B子との恋模様を綴ることで、「精神的な愛の可能性」を探求していた。そんなある⽇、矢添は画廊で⼤学⽣の瀬川紀⼦と運命的に出会う。車で紀子を送り届ける途中、彼⼥の〝粗相〟をきっかけに奇妙な情事へと⾄ったことで、⽮添の⽇常と心情にも変化が現れ始めた。無意識なのか確信的なのか……距離を詰めてきては心に入り込んでくる紀子の振る舞いを、矢添は恐れるようになる。一方、久しぶりに会った千枝子から「若いサラリーマンと結婚する」と聞き、「最後に一緒に街へ出てみるか」と誘い、娼館の外で夜を過ごす。恋愛に対する憎悪と恐れとともに心の底では愛されたいという願望も抱く矢添は、再び一人の女と向き合うことができるのか……。【公式サイトより】

概評

吉行淳之介さんの同名小説を映画化。


今年はほとんど映画を観ていないけど、ぶっちぎりのワースト1位(ワーストをつけるのは好きじゃないけど、荒井さんが『映画芸術』でやっていることだから構わないでしょ)。中年男が主に若い女性とセックスするだけの退屈極まる2時間だった。

モノクロの画面も嫌な予感がしていたけど、果たせるかな、口紅や盲腸の傷跡など部分的に赤を用いるという演出も手垢がついていて少々恥ずかしい。


あと、物語内物語として矢添が書く小説が表示されるのはいいのだけど、吉行淳之介さんファンとしては、「きもち」は「気持」としてほしかったところ(これ、原稿用紙には「気持」と書いているのに、画面に表示されるのは私が気づいた限り1ヶ所を除いて「気持ち」なのだけど、脚本を確認したところ、すべて「気持」になっていた)。

エンディングロールで延々とパンチラブランコを見せられるに及んではめまいがしてくるほどだった。

脚本ついでに言うと、医師が診療室で喫煙をするのはいくら1969年でもありえんだろうと思っていたけど、脚本の段階ではそのようなやりとりはなし。現場で付け足されたものだろうけど、ここはちょっとだけ笑ってしまった(あと、最初の方の映画監督役の原一男さんね)。

最後に「1969年の思い出に」と表示されるのも何だかなぁ。思い出に浸るのは勝手だけど、それに吉行作品を利用しないでくれと言いたい。


時期的にこれが2025年映画納めかな…と思っていたけど、ワーストで終わりたくないので何とかもう1本観なくては。


 



松井文 映画「星と月は天の穴」を唄う [STMC-003]
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くによし組番外公演

『映画』


くによし組『映画』公演情報

公演概要

2025年12月16日(火)〜18日(木)

ムリウイ

STAFF

作・演出:國吉咲貴

音響・照明:大嵜逸生

ありがとうメンバー:渋谷裕輝、ながい

CAST

國吉咲貴(スズキ)

タナカエミ(タナカ)

小林義典[クロムモリブデン](太鼓おじさん/ニセ座敷わらし)

永井一信[クレジットなし](カフェ店員)

STORY

スズキさんとタナカさんは、3年ぶりにお茶をする。半年ほど前からスズキさんは、密室にいると太鼓おじさんが現れビートを刻むようになってしまったので、映画や舞台に、中々行けなくなった。でも最近は薬の効きがいいので、今度タナカさんと映画に行きたい。じゃないともう、会わない気がするから。タナカさんはスズキさんの、舞台に誘うと3回に1回は来てくれるところと、感想がさっぱりしるところと、誰のことも否定しない感じが、なんとなく好き。タナカさんは、この前出た舞台で色んなことが重なった結果、ニセ座敷わらしが見えるようになった。そんで疲れて、最近ちょっと演劇をやめようかと考えている。だからスズキさんとお喋りをして、できたら今度、一緒に映画に行きたい。じゃないともう、会わない気がするから。映画に誘いたいけど誘えない2人の、最後のお茶会、60分。【公式サイトより】


概評

現在公開中の映画『ミーツ・ザ・ワールド』の脚本も手掛けた(松居大悟監督と)國吉咲貴さん率いるくによし組の番外公演。


舞台にはテーブルと椅子2脚。

最初に小林義典さんが登場し、キャストは自分を含めて3人なので、他の人がドアから入ってきたらそれは遅れてきたお客さんなので云々とやみ・あがりシアター『白貝』での笠浦静花さんのパクりやん!的な前説。

それだけではなく、タナカさんとスズキさんが登場してからはこの先の展開を言ってしまうというナカゴースタイル。知らない人にとっては面白いかもしれないけど、正直、これを本家以外がやってしまうと白けるだけよね。


とまあ、出だしはアレだったけど、本篇自体はスズキさんとタナカさん、2人の微妙な距離感から繰り広げられる会話が面白く、またそこへスズキさんには太鼓おじさんが見え、タナカさんにはニセ座敷わらしが見えるといった意表を突いた展開も楽しめた。

タナカさんは働きながら年に2、3回舞台に出るという設定で、ご自身も出演された 『壁背負う人々』を思わせる作品や同作が上演されたこまばアゴラ劇場への言及あり。


上演時間51分。

『プリンセス・ブライド・ストーリー』

THE PRINCESS BRIDE


プリンセス・ブライド 映画ポスター

1987年アメリカ映画 98分

監督・製作:ロブ・ライナー

原作・脚本:ウィリアム・ゴールドマン

製作:アンドルー・シェインマン

製作総指揮:ノーマン・リア

音楽:マーク・ノップラー

撮影監督:エイドリアン・ビドル

美術:ノーマン・ガーウッド

編集:ロバート・レイトン

製作補:ジェフリー・ストット、スティーヴ・ニコライデス

キャスティング:ジェーン・ジェンキンズ、ジャネット・ハーシェンソン

衣裳:フィリス・ダルトン


出演:

ケイリー・エルウィス(農夫ウェスリー)

ロビン・ライト(バターカップ)

マンディ・パティンキン(イニーゴ・モントーヤ)

クリス・サランドン(ハンパーディンク王子)

クリストファー・ゲスト(ルーゲン伯爵)

ウォーレス・ショーン(ヴィジニ)

アンドレ・ザ・ジャイアント(フェジク)

ピーター・フォーク[特別出演](祖父)

フレッド・サヴィッジ(孫)

ビリー・クリスタル[特別出演](奇跡屋マックス)

キャロル・ケイン[特別出演](マックスの妻ヴァレリー)

ピーター・クルック[特別出演](印象的な聖職者)

メル・スミス[特別出演](アルビノ)

アン・ダイソン(女王)、マージェリー・メイソン(ブーイングをする老婆)、マルコム・ストーリー(イェリン)、ウィロビー・グレイ(王)、ベッツィ・ブラントリー(母)、ポール・バッジャー(凶暴な助手)


STORY

風邪をひいた少年を見舞いに来たおじいさんが話して聞かせる「プリンセス・ブライド」の物語--昔々、フローリン王国にバターカップという美しい娘が住んでいた。彼女には永遠の愛を誓ったウェスリーというハンサムで忠実な恋人がいたが、彼が旅の途中で海賊に殺されたとの噂を聞いて、希望を失った彼女は、腹黒いフンパーディング王子の求愛を受け入れるが、ある日バターカップは、ひと儲けを企む奇妙な3人組によって誘拐されてしまう。そんな時、どこからともなく現われた黒覆面の騎士、彼は次々と3人組を倒してゆきバターカップを助ける。実は彼こそが死んだはずのウェスリーその人だったのである。しかし王子の腹心である6本指の伯爵によってウェスリーは捕えられ、残虐な拷問を受けて死んでしまう。そんな彼を魔法使いのもとへ運び生き返らせたのは、あの3人組の2人、イニーゴとフェジックであった。彼らは婚礼の始まっているお城に向かい、王子と伯爵を倒し、バターカップを彼らの魔の手から救い出すのだった。そして今、彼女とウェスリーを、真実の愛は優しく、温かく包み込むのであった。【「KINENOTE」より】


先日、突然の悲報がもたらされたロブ・ライナー監督を追悼して1987年公開作品を鑑賞。


本作は初見。『スタンド・バイ・ミー』の翌年に公開された作品で、一見すると作品のテイストはまったく違うようではあるが、共通しているのは「物語」という点。

『スタンド・バイ・ミー』が少年時代の友人の訃報を聞いた作家が12歳の頃を回想して小説を書くという枠組があるのに対し、本作では祖父が風邪を引いた孫のために読み聞かせる話として展開していく。

時折、孫が祖父の読む物語にツッコミを入れたりもするのだけど、徐々に物語世界に引き込めれていくあたりが面白い。

こうして初期作品を見ると、子役としてキャリアをスタートさせたロブ・ライナー監督が物語の力を信じていたことがよく分かる。それだけに非業の死を遂げたばかりでなく、史上最悪の大統領から意味不明な言葉を投げつけられたことが残念で仕方がない。


キャストではピーター・フォークさんや日本のプロレスでも活躍したアンドレ・ザ・ジャイアントさんが出ていてびっくり。後にロブ・ライナー監督の代表作『恋人たちの予感』に出演するビリー・クリスタルさんは特殊メイクをしていることもあって気づかなかった。




 

新宿梁山泊 第80回公演

『恭しき娼婦』

La pupain respectueuse

新宿梁山泊『恭しき娼婦』公演ポスター


公演概要

2025年12月11日(水)〜18日(水)

ザ・スズナリ

STAFF

作:ジャン=ポール・サルトル

翻訳:芥川比呂志 演出:金守珍

舞台美術:大塚聡 舞台監督:竹原孝文

照明:泉次雄+ライズ 照明操作:宮崎絵美子

音響:シュアン 振付:大川妙子

殺陣:佐藤正行 衣装協力:紅日毬子

宣伝美術イラストレーション:宇野亞喜良

宣伝デザイン:福田真一

舞台写真撮影:石澤瑤祠 票券:style office

制作監修:水嶋カンナ

主催:一般社団法人 新宿梁山泊

CAST

サヘル・ローズ(リッジー)

宮澤寿(黒人)

二條正士(フレッド・クラーク)

ジャン・裕一(上院議員クラーク)

藤田佳昭(ジョン)

金守珍(ジェイムズ)

荒澤守(男1)

原佑宜(男2)

町本絵里(女1)

一條日和(女2)

シュアン(女3)

STORY

ある戦争があった時代――男はいわれない罪で追われていた、女は生きるために身を売っていた理不尽な世界、矛盾を抱えた世界、 姿を変え今もその哀しみは続く……時代や世界に翻弄されてきた女が、 自らの誇りに従うため、もう2度と魂を殺されないために、選んだ道は……【2018年版公演チラシより】


概評

2018年初演、その後、2022年にはポーランド公演&再演をした作品の再再演。


舞台はリッジーの部屋。奥の壁にカーテンのかかったガラス戸があり、ベランダに通じる。上手にベッド、その手前に鏡台。更にその手前、客席にはみ出すようにして部屋のドアがあり、劇場入口までの客席通路も使用。


初演以来の鑑賞となったが、まず当日パンフレットを見てあれっと思ったのが役名。初演は舞台を日本に移した翻案モノで、サヘル・ローズさんの役名もサヘル・ローズとなっていたが、今回は本来のリッジー。もちろん本篇も本来の戯曲通りの作品となっていた。調べてみたところ、再演時からリッジーになっていた模様(再演された2022年は奈緒さん主演版を観ていたこともあり、スルーしてしまった)。

初演ではある意味、自分自身を投影して(観る方も必然的に重ね合わせることになる)サヘル・ローズ役を演じていたサヘル・ローズさんだが、リッジー役となってもその入魂の演技は変わらず、1時間半ほどの作品でありながら、3時間、いやそれ以上の舞台に立ち続けたぐらいのエネルギーを消費しているように見えた。


時にジャン・裕一さん、最近はライザップのCMに出ていてびっくりよねー笑


上演時間1時間31分。

 


劇団普通

『季節』


劇団普通『季節』公演ポスター、家族団らんの様子

公演概要

2025年12月5日(金)〜14日(日)

シアタートラム

STAFF

作・演出:石黒麻衣

美術:山本貴愛 照明:伊藤泰行

音響:泉田雄太 演出助手:小関悠佳

舞台監督:伊東龍彦、高木啓吾

大道具:俳優座劇場 竹内智史

小道具:高津装飾美術 矢川紗和子

車両:マイド

宣伝美術:関根美有 舞台写真:福島健太

記録映像:神之門隆広、遠藤正典、髙橋智朗

制作助手:及川晴日 制作:小野塚央

主催:劇団普通

制作協力:大下玲美(世田谷パブリックシアター)、エフ・エム・ジー

CAST

野間口徹(叔父)

金谷真由美(叔母)

川島潤哉(男)

中島亜梨沙(妻)

安川まり(娘)

細井じゅん[コンプソンズ](息子・櫂人)

用松亮(兄)

岩瀬亮(従弟・聡志)

STORY

とある地方都市のある秋の日、叔父の家に集まった親戚たち。門扉から伺える田舎特有の広い敷地には、親戚たちの車がとまっている。一台の車の傍で携帯電話をかわるがわるに持ち、誰かと話している夫婦がいる。トイレに向かう廊下を歩いている男がいる。居間の中には、この家の主である叔父とその妻である叔母がいて椅子に座っている。その隣のソファの前に、まだ若い姉弟が座っている。庭を望む掃き出し窓は開いていて、網戸に少し土ぼこりが被っているのが見える。その家に向かう道に、車を走らせる男がいる。昼はまだ暖かく、夜は冷える、ある秋の日に集まった親戚たちの話。【当日パンフレットより】


概評

世田谷パブリックシアター フィーチャード・シアター選出作品。


舞台は叔父叔母の家のリビング。フローリングの床に壁全体にカーテン。下手奥に玄関がある設定。下手側にはソファーセットがあり、天井からライトが吊るされている。上手側に主に叔父叔母が使用するテーブル。


今回もいつもと同じく全篇茨城弁による家族の物語なのだが、いつもに増して多層的。なおかつ、田舎では根強く残るジェンダーロールに対する違和感を色濃くあぶり出している。見終わった後にチラシのイラストを改めて見ると、本作の内容を見事に1枚の絵で表していることに気づいたが、こうしたジェンダーロールによる弊害というのも、何の気なしに見ていては見過ごしてしまう、気にも留めないままやり過ごしてしまうものなのかもしれない。

一番印象に残ったのが、ラストのくだり。一同で外食することになって叔母は用意があるからと一旦、奥に向かうのに対し、叔父は「俺はそのまま出られる」と外に出て、また家に戻ってくる。そして奥の部屋から上着を持って戻ってくるのだが、妻が言わなければ上着がいるかどうかさえ判断できない、季節の移り変わりにさえ無自覚な男の情けなさが台詞なしで如実に表されていた。


今回、野間口徹さんや川島潤哉さんら劇団普通初出演の方もいれば用松亮さんや安川まりさんなど常連の方もいる座組だったが、全体的にバランスが取れていた。ちょっと関係性が摑みづらかったけど。


上演時間1時間47分。

『希望と不安のはざまで』

Syria, Between Hope and Fear

 

シリア 希望と不安 家族の再会

 

2024年フランス映画 56分

監督:ジャワル・ナディ、ヤエル・グジョン、アポリーヌ・コンヴァン

脚本:セバスティアン・ダゲレサール、マイケル・スタンケ、ナジブ・タジウティ

撮影:ジャワル・ナディ、ヤエル・グジョン、マゼム・ハチェム、ジェイク・ペース・ロウリー、セバスティアン・ダゲレサール

編集:レオ・ドゥブロフ、ラミ・ネダル、ワシム・オスマン、ナディル・カッシム、マテュー・レール、レイナルド・ルルーシュ

音楽:セザム

 

出演:バスマ(歯科医院経営)、ビアジット(トルコからの支援隊員)、アフマド(行方不明者捜索者)、ラザン(専業主婦(30))、タラ(キリスト教徒)、サラ(タラの妹)、ココ(タラの友人)、ジョニー(同)、ヒシャム(イスラム過激派のフランス人)、アブデルハイ(アレッポの経営者)、ジル・ドロンソロ(政治学教授、中東専門家)、レイラ・ヴィニャル(高等師範学校地理学者、シリア専門家)、ワシム・ナスル(過激派に詳しい記者・フランス24)、アニェス・ルヴァロワ(地中海・中東研究調査機関副所長)、アブ・モハンマド・アル・ジャウラニ[アフマド・フサイン・アッ=シャラア](HTS最高指導者、現大統領)、バッシャール・アル=アサド(元大統領)

 

STORY

2024年12月、アサド大統領の打倒を契機に半世紀にわたる独裁政権が崩壊し、シリアは新体制への激動の移行期を迎える。国外に逃れた者の中には帰還を望む者もいれば、新政権の動向に恐怖を抱き、国外脱出を決意する者もいる。本作はこの歴史的な転換期の最初の瞬間を捉え、将来への期待と未知への恐怖に揺れるシリア国民の声を映し出す。大統領宮殿から悪名高いサイドナヤ刑務所まで、旧体制の痕跡と新たな指導者の登場とともに、岐路に立つシリアの現状を独自の視点で描き出したドキュメンタリー。【公式サイトより】


《第20回難民映画祭2025》配信作品。

 

旧臘、アサド政権が崩壊した直後のシリアを捉えたドキュメンタリー作品。

まず登場するのが、14年ぶりに帰国したというバスマ(画像のハグをしている女性)。涙ながらに帰国できた喜びを語る一方で、スンニ派の新政権をテロリスト呼ばわりして出国しようとする人たちもいる。

本作はシャーム解放機構(HTS)の最高指導者アブ・モハンマド・アル・ジャウラニ(現在は本名のアフマド・フサイン・アッ=シャラアとして臨時政府の大統領)がいかにしてアサド政権打倒を果たしたかを解説しつつ、タイトル通り、希望と不安がないまぜになったシリアの実情を描き出す。

もぬけの殻となったアサド元大統領の邸宅にもカメラが入るが、自国民が塗炭の苦しみをなめている一方で自分たちだけ贅沢な暮らしをしていたとは自国民のことなど心底どうでもよかったんだろうということがよく分かるが、亡命先のロシアでも高級マンションに暮らし、オンラインゲームに興じているそうな。なんじゃそら。 



劇団鹿殺し

Shoulderpads 凱旋公演 UK Version

『Galaxy Train(English Japanese Mix)

 

劇団鹿殺し UK版 Galaxy Train ポスター



公演概要

2025年11月30日(日)~12月7日(日)
駅前劇場

STAFF

原作:宮沢賢治
北村想 作『想稿銀河鉄道の夜』からの一部引用あり
脚本:丸尾丸一郎 演出:菜月チョビ
音楽:タテタカコ、伊真吾
振付:伊藤今人、浅野康之
舞台監督:澤井克幸、二宮清隆(黒組)
照明:望月大介(ASG) 音響:百合山真人
衣裳協力:車杏里
ヘアメイク協力:山本絵里子
映像収録:ワタナベカズキ
宣伝美術:藤尾勘太郎
WEB:ブラン・ニュー・トーン(かりぃーぷぁくぷぁく 阿波屋鮎美)
制作:高橋戦車 当日運営:SUI

CAST

菜月チョビ(ジョバンニ)
丸尾丸一郎(カンパネルラ/活版所従業員/ジョバンニの母の声)
島田惇平(ザネリ/ジョバンニの母/牛/銀河鉄道/白鳥/学者/青年/蠍/カンパネルラの飼い犬・ザウエル 他)
橘輝(同級生・マルソ/三味線弾き/牛乳屋/銀河鉄道/シスター/助手/ハリー・ポッター似の男の子 他)
谷山知宏(同級生・カトウ/活版所の所長/踊り手/牛/銀河鉄道/白鳥/助手/車掌/楽団員/カンパネルラの父 他)

浅野康之(先生/活版所従業員/踊り手/ザネリの友人/銀河鉄道/白鳥/助手/女の子/蠍 他)

STORY

父が漁に出て、朝も夜もバイトに明け暮れる少年ジョバンニは、授業にも身が入らず、ザネリら同級生にからかわれる。友人のカンパネルラはそんなジョバンニを思いやるが、ジョバンニはカンパネルラがザネリたちと星祭りに出かけると聞いてショックを受ける。配達されていない牛乳を受け取りに行くついでに星祭りを見に行こうとするジョバンニだったが、ザネリたちにからかいを受け、孤独を抱えながら丘に向かい、銀河鉄道に乗り込む。そこにはザネリたちと一緒にいたはずのカンパネルラの姿もあった。

概評

劇団鹿殺し凱旋公演、Japanese Version『銀河鉄道の夜』に続いてUK Version。


エディンバラで上演されたバージョンだが、English Japanese Mixとなっている通り、台詞は英語と日本語をちゃんぽんにした感じ(語尾に「〜だよ」などがついたり、「だから」といった接続詞が挟まれたりする)。あらすじも配布されるのでまっっったく英語ができなくても問題なく楽しめる。

むしろカンパネルラがジョバンニに素粒子の話(particles are free)をするくだりはなぜかJapanese Versionより心に響いた。

ちなみにJapanese Versionでは銀河鉄道の車体が新幹線の配色(演者のスカーフで表現)となっていたのが本作ではスコットレールとユーロスターになっていた。それぞれしょっちゅう遅れる、高すぎると形容されていて、このあたりも現地ではウケたのだろうな。


キャストはJapanese Versionの後藤さん&佐久本さんのパートを主に担っていた谷山知宏さんは表情や声も個性的で目立っていた。

歌ももちろん英語歌詞になっていたが、菜月チョビさんの歌声の美しさはまったく変わるところがない。CDか配信かで販売してくれないかなぁ。


上演時間52分。







劇団鹿殺し Shoulderpads SP Japanese Version

銀河鉄道の夜(Japanese Only)

 

劇団鹿殺し Shoulderpads 凱旋公演



公演概要

2025年11月30日(日)~12月7日(日)
駅前劇場

STAFF

原作:宮沢賢治
北村想 作『想稿銀河鉄道の夜』からの一部引用あり
脚本:丸尾丸一郎 演出:菜月チョビ
音楽:タテタカコ、伊真吾
振付:伊藤今人、浅野康之
舞台監督:澤井克幸、二宮清隆(黒組)
照明:望月大介(ASG) 音響:百合山真人
衣裳協力:車杏里
ヘアメイク協力:山本絵里子
映像収録:ワタナベカズキ
宣伝美術:藤尾勘太郎
WEB:ブラン・ニュー・トーン(かりぃーぷぁくぷぁく 阿波屋鮎美)
制作:高橋戦車 当日運営:SUI

CAST

菜月チョビ(ジョバンニ)
丸尾丸一郎(カンパネルラ/活版所の店主/ジョバンニの母の声 他)
島田惇平(ザネリ/ジョバンニの母/牛 他)
橘輝(同級生・マルソ 他)
後藤恭路(同級生・カトウ 他)
浅野康之(先生 他)
佐久本歩夢(銀河鉄道 他)

STORY

父が漁に出て、朝も夜もバイトに明け暮れる少年ジョバンニは、授業にも身が入らず、ザネリら同級生にからかわれる。友人のカンパネルラはそんなジョバンニを思いやるが、ジョバンニはカンパネルラがザネリたちと星祭りの夜に出かけると聞いてショックを受ける。配達されていない牛乳を受け取りに行くついでに星祭りを見に行こうとするジョバンニだったが、ザネリたちにからかいを受け、孤独を抱えながら丘に向かい、銀河鉄道に乗り込む。そこにはザネリたちと一緒にいたはずのカンパネルラの姿もあった。

概評

2020年に初演、2023年に再演され、今年の夏に上演されたエディンバラ・フリンジ・フェスティバルでも好評を博した作品の凱旋公演。まずは日本語バージョンにて。


開演時間になると拍子木が打ち鳴らされ(歌舞伎をイメージ?)、菜月チョビさんの前説。駅前劇場は東京に進出してきてからも、貧乏で劇場が借りられなかった鹿殺しが初めて下北沢で公演を行った劇場とのこと。そんな劇団が初の海外公演を経て凱旋公演を行う、わたしゃもうこの時点で目が潤み始めていた。笑

今回はエディンバラスタイルとのことで、好きな時に声を出したり、拍手したりしてもいい、キッズウェルカムを謳っているので、まずは大人が楽しんでほしいという話があり、ショルダーパッズの面々が登場した際の拍手・掛け声の練習。

かくして始まったオープニング、これまた菜月チョビさんの歌声と相まって何度見ても泣いてしまう。ふとなぜ私は裸の男たちを見て泣いているのだろうと思わないではないけど、泣けるものは泣けるのだから仕方がない。

きっとこれ、エディンバラでも盛り上がっただろうなぁと思うのだけど、とにかく明るい安村さんと言い、ショルダーパッズと言い、日本人は裸になるのが好きなのかと妙な誤解を与えていないだろうか。笑

これまでの上演時間で一番人数が少なく、一番上演時間が短いバージョンだったが、海外の人も見て楽しめるようにという配慮からか、動きで笑えるところはむしろ増えていて大いに楽しめた。


上演時間54分。







『ラジオ・ダダーブ』

Radio Dadaab


Radio Dadaab 映画ポスター:難民キャンプの女性と電波塔

2023年イギリス映画 26分

監督:エンバイロメンタル・ジャスティス・ファンデーション

フィクサー:ダウド・ユスフ

ドローン操作:マグダヴィス・ムワンギ

音楽:ルーシー・トリーチャー

ボーカル・パフォーマンス:イクラン・ジャマ・モハムド

音響デザイン:イネス・アドリアナ

カラリスト:ジョニー・タリー・アット・チート

キーアートデザイナー:ダン・アンスコム

翻訳:モハメド・ヒドフ


出演:ファルドウサ・セラット(ラジオ・ガルガールのジャーナリスト)、モハメド・アブドゥライ・ジマーレ(ラジオ・ガルガール責任者)、シアド・アリ・コルドウ(ダダーブ難民キャンプ居住者)、ファヒア・アドゥブライ・モハメド(気候変動による難民)、ダヒール・アリ・ブーア(同)、アブドゥラ・ハッサン(国境なき医師団ヘルスプロモーター)、アブディ・モハメド・アデン(農業従事者、愛称ピリピリ)、ダヴィッド・マルバ(UNHCRダダーブ首席保護官)


STORY

ファルドウサは生まれも育ちもケニアのダダーブ難民キャンプ。国籍もパスポートも持たないが、難民自身が運営するラジオ局のジャーナリストとして、人々の声を世界に届けている。内戦から逃れてきた旧来の住民に加え、気候変動による飢餓や干ばつから新たな難民が流入するいま、彼女は取材をしながら、その現実と変わりゆく暮らしを記録する。本作は、声を持たない人々の「声」となる彼女の姿を通して、気候変動の最前線を生きる人々の苦しみと国際社会への問いかけを描きだす。【公式サイトより】


《第20回難民映画祭》配信作品。

YouTubeでも日本語字幕なしで公開中。


タイトルのダダーブは、20万人以上の難民が暮らすキャンプがあるケニアの町。主人公のファルドウサは25歳の女性で、両親はソマリアの内戦から逃れてきたが、ダダーブで生まれた彼女にはソマリアの国籍もケニアの国籍もない。

そんな彼女はラジオ・ガルガールのジャーナリストとして、飢餓や干ばつの原因となる気候変動について伝えている。ソマリアでは2022年に干ばつが原因で43000人が死亡したとのことだが、難民となってダダーブに来たところで食糧が不足していることには変わりがない。

ソマリアやケニアの人々がなぜ富める国のツケを払わされなければならないのか。せめて先進国はそうした窮状を救うべく動くべきではないのか。ラジオを通して伝えられる難民の生の声を聴きながら忸怩たる思いにとらわれるけど、世界で2番目に多く二酸化炭素を排出している国の大統領が温暖化はフェイクだとわめいているぐらいなのでいかんともしがたいよな……。



ひなたごっこ

『いち』


ひなたごっこ『いち』公演ポスター

公演概要

2025年11月28日(金)〜30日(日)

FOYER ekoda

STAFF

作・演出:藤田澪

ドラマトゥルク:富田晴紀

音響:関本真菜

照明:齋藤咲季(Astar)、蒔苗亜耶(もっと手ごね宇宙)

美術:田副日向 舞台監督:西田夏樹(Astar)

宣伝美術:向井寧音

CAST

山本愛友(アユ)

藤田澪(ミオ)

STORY

日本大学藝術学部で出会ったアユとミオはひなたごっこというユニットを組む親友同士。とある日、出トチリをしたミオは突然、妊娠したと告げる。しかし、その相手には心当たりがないと言うのだが……。


概評

8月に予定されていた公演の延期公演。


舞台中央にセンターマイク(あみぐるみ風)。天井からは寿司やグラス、ヘッドフォンなどの小道具がぶら下げられている。


開演と同時に『M-1グランプリ』の出囃子(Fatboy Slimの"Because We Can")が流れ、階段からアユが降りてきてマイクの前に立つ。ところが相方のミオがいない。どこにいるかと思ったら、道路を挟んで向かいにあるセブンイレブンから出てくる。焦るアユのことなど気にかけるでもなく再び店内に入っていくミオ。電話をしても切られてしまい、慌てふためくアユに対し、のんびりやってきて「本番だったかー」とマイペースのミオ。

と、このオープニングだけでも心を摑まれる。

その後の1時間はアユとミオがここ江古田で過ごしてきた4年間がぎゅぎゅぎゅっと凝縮され、2人が自然体で笑って話している姿を見ているだけでこの4年間がいかに充実したものだったかが伝わってきた。

そんな2人の姿を見ながら、自分の学生時代を思い出し、必然的に先月急逝した先輩のことも思い出され、これから2人も何十年と友情を築いていくのだろうなぁと思うと、涙なくしては見ることができなかった。

ちなみに最前列には山本さんのお母様がいらっしゃって(受付で名乗っておられた)、アユの結婚式のシーンでミオが友人代表のスピーチをするシーンで拍手をされていた。これもまたいつか現実のものとなるのかな。


なお、ひなたごっこは本作をもってしばらくお休みするとのこと。2人がそれぞれの場で活躍を続け、再び公演を打ってくれることを心待ちにしたい。


上演時間1時間。