アプレッシブ×実弾生活『ヘリテージ』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

アプレッシブ×実弾生活 VOL.1

『ヘリテージ』

Heritage 


2024年9月19日(木)〜22日(日)
駅前劇場

脚本・演出:インコさん

舞台監督:鳥養友美、杉山小夜

照明:宮崎晶代 音響:前田マサヒロ
当日運営:小泉美乃(合同会社soyokaze)
美術:泉真 演出助手:木香花菜

衣装協力:小山まりあ

宣伝美術:モコミック
イラストレーション:リタ・ジェイ
制作:アプレッシブ


出演:
中尾ちひろ[おなかポンポンショー](編集者・折部かおり)
インコさん(兄・折部史郎)

関絵里子(演出・沖ノ島かもめ/史郎とかおりの母・下田千恵子)
オオダイラ隆生[劇団6番シード](制作・薬師丸杉夫)
伊藤美穂(編集長・片岡ゆり子/番組ホスト・毒蝮徹子)
元もっち(劇団員・軍艦島しずむ/管理人・藤本/シャンソン歌手/番組スタッフ)
宝保里実[コンプソンズ](劇団員・小笠原知床/カラオケ店店員)
蒼井小鳥(劇団員・富岡キヌ)
星歌(劇団員・キリシタン長崎/居酒屋店員/番組AD)


STORY
「劇団ヘリテージ」は劇団員全員が世界遺産の名を関する新進気鋭の劇団である。しかし、その内部は各種ハラスメントが横行していた。出版社がバックに付いた大きな舞台を控える中、半分だけ書かれた脚本を残して脚本家が失踪してしまう。ひょんなことからゴーストライターとして雇われた作家、折部史郎は劇団でしか通じない特殊なルール、人間関係の中に放り込まれて大いに苦しみながらも「過去の遺物」である劇団の価値観と締切が迫る「アップデートされた作品」のバランスを取ろうとする――劇団という狭い創作現場で遺すもの、遺ってしまったものを笑いで包みながら、古さと新しさについて語る物語。【公式サイトより】

株式会社アプレが運営するアプレッシブとインコさん主宰の実弾生活による演劇作品。

舞台の脚本家が失踪してしまい、残された者たちで何とか完成までこぎつけようするという点でひなたごっこ『みちなる』と被ってしまった感はあるが、作風もテイストもかなり異なるので自ずと印象も違ってくる。
両作とも演劇についての物語ではあるが、本作の方にはその創作過程において(特に劇団という集団の場において)発生しがちなハラスメントの構造により焦点を当てている。
ひょんなことからハラスメント気質のある劇団にゴーストライターとして関わることになった折部史郎は、編集者の妹・かおりいわく「気持悪い話ばかり」書く少し風変わりな人物。そんな彼の目から見ても異常と見えるほど演劇界のそうした構造が歪ということよな……。まさに負の遺産(ヘリテージ)。
インコさんは決して演技がうまいわけではないし、右手が震えているところを見ると、そもそも演じること自体が好きではないのではという印象すら抱いてしまうが、他の人がどれだけうまく演じたとしても伝え切れない何かが残ってしまう気がする。きっとインコさん自身もそう感じているから、役者もし続けるのだろうな。

他のキャストでは得体の知れなさが半端ではない妹・かおり役の中尾ちひろさんは見飽きない魅力が感じられた。詳細が描かれるわけではないけど、母親に対する屈折した思いが表情一つで伝わってきた。
母親の下田千恵子は有名なエッセイストで家族のことを書き続けてきたということだけど、毒蝮徹子との他人(ひと)の話を聞かないもの同士の会話は素晴らしかった。徹子の本を読んだと言って星新一さんの『ボッコちゃん』を出すのも大ウケ。
それに反して、かおりが差し入れに持ってくるフィナンシェがサダハル・オーのものという小ネタは全然伝わっていなかったな。笑(サダハル・アオキも王貞治もさほど有名ではないのか…)

上演時間1時間50分。