ひなたごっこ『みちなる』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

ひなたごっこ企画

『みちなる』



2024年9月11日(水)〜15日(日)

元映画館


劇作・演出:松森モヘー

企画:ひなたごっこ(藤田澪/山本愛友)

演出助手:藤田澪 音響:福田彩花

照明:新堀遥、鷲津悠

舞台監督:安原杏(サポート:新保大河)

制作:木幡東子 宣伝美術:向井寧音


出演:

山本愛友[ひなたごっこ](時間と戦う女・小林)

齋藤碧(喧嘩をしにいく女・高橋)

藤田澪[ひなたごっこ](はるな) 

穂高(はるなの従姉・中村ななみ/ワークショップ受講者)

新井智琉(中村にマリファナを勧める男・佐藤/ワークショップ受講者)

上村陽太郎[よた](スマホを持たない男・鈴木)

佐々木武尊[よた](ケータイ依存の男・山田)

篠原瑠那(ワークショップ講師・田中)

日野双葉(田中の同級生・伊藤)


STORY

公演を打つことにした日藝演劇学科3年生の同期9名。しかし、作・演出をお願いしていた人物が失踪し、主宰の一人、藤田澪が脚本を書き継ぐことになるがなかなか書けず、あらぬ方向に迷走していく。


日藝演劇学科3年生の藤田澪さんと山本愛友さんが主宰を務める応用演劇ユニット、ひなたごっこの旗揚げ公演。

山本さんがモヘ組『せいなる』に出演した縁で、松森モヘーさんが作・演出を担当。


開演すると、9人の出演者がギターやピアニカ、タンバリンなどを演奏して「この木なんの木」を歌いながら登場。そして横一列になると、それぞれテンション高めに自己紹介と役名などを言いながら、本篇に入っていく。

全員が日藝演劇学科の学生で、藤田さんと上村陽太郎さんのみ舞台構想コースで他は演技コース。演劇をやることにしたはいいが、作・演出を頼んでいた人がいなくなってしまい、藤田さんが書き継いでいくが……というのが骨子で、本人のレイヤーと演じる役のレイヤーが錯綜しながら物語は展開。

ストーリーとしては、①これから喧嘩をしにいく高橋と時間と戦っている小林、②タトゥーのせいで銭湯に入れない者同士で会話を交わす佐藤と中村、中村の従妹はるか、③Twitterとラーメン、なくなってもいいのはどちらかを論じ合う鈴木と山田、④大学に来なくなり、連絡が取れなくなった田中が講師を務めるワークショップに参加し、彼女を連れ戻しに来た伊藤の4つがあり、山本さんは遅刻魔で、齋藤さんは喧嘩っ早い、新井さんはお金にだらしがなく、上村さんは機械を信用せず、佐々木さんはスマホ依存、日野さんは飽きっぽいおかげでマルチにハマらずに済んだなど、オープニングで触れられていた各々の性格などが役柄に侵食していく。


虚実ないまぜになっていくのはモヘーさんの得意とするところではあるけど、今回は稽古場での風景をスクリーンで流して各々にモノローグのシーンを与えるなど、9人全員への愛情が感じられる。9人も技量的には足りない部分はあるものの、アフタートークで箕輪家の長女(かるがも団地『三ノ輪の三姉妹』参照)こといいへんじの中島梓織さんも仰っていた通り、モヘーさんの怒濤のような台詞、演出に食らいついていこうとする姿勢がとてもいい。

作品自体も個々人への愛がいつしか本作のテーマである「にんげん」全体への愛にも繋がっていく。「すべてこの世は舞台、男も女も人はみな役者にすぎない」というシェイクスピアの名台詞をも想起させるような作品だった。


当然のことながらイカ天を知らない世代(モヘーさんですら記憶にないであろう)が奏でるたまの「さよなら人類」や知久寿焼さんの「セシウムと少女」も味わい深いものがあった。


上演時間1時間32分。