かるがも団地『三ノ輪の三姉妹』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

MITAKA "Next" Selection 25th

かるがも団地 第9回本公演

『三ノ輪の三姉妹』



2024年8月31日(土)〜9月8日(日)

三鷹市芸術文化センター 星のホール


脚本・演出:藤田恭輔

舞台監督:小玉珠成 舞台美術:いとうすずらん  照明:木村奏太(木村屋)

音響:おにぎり海人(かまどキッチン/オドリバ)  演出助手:一嶋琉衣(吉祥寺GORILLA/yhs)

脚本補佐・衣装・宣伝美術:古戸森陽乃(かるがも団地)

小道具:秋林彩(Nichecraft)

宣伝写真:藤田恭輔(かるがも団地)

記録写真:中嶋千歩

記録映像撮影・編集:松本佳樹(世田谷センスマンズ)

制作:宮野風紗音(かるがも団地)

当日運営:月館森(露と枕/盤外双六)

車輌:黒太剛亮(黒猿)、竹内蓮(劇団スポーツ/ロチュス)


出演:

冨岡英香[もちもち/マチルダアパルトマン](箕輪苑子(27))

中島梓織[いいへんじ](箕輪葉月(29) ほか)

瀧口さくら(箕輪茜(23) ほか)

はぎわら水雨子[食む派](母・箕輪幹江(59) ほか)

柿原寛子(美容師・徳永タエ子(27)/葉月と苑子の小学校の担任 ほか)

袖山駿(タエ子の兄・徳永秀明(32) ほか)

奥山樹生(不動産屋・小菅佐吉(24) ほか)

岡本セキユ(茜の恋人・茶柱篤人(30) ほか)

村上弦[猿博打](看護師・竹ノ塚夏(28)/新入社員ちゃん/日比谷線の乗客/茜の野球部のチームメイト/いい服屋の店員/デザート運び店員/飲食店の客 ほか)

宮野風紗音[かるがも団地](上司全般(会社の社長/居酒屋の店長/造園業の親方/上野の森美術館館長/東京国立博物館館長)/日比谷線の乗客/審判/洗濯機 ほか)

藤田恭輔[かるがも団地](父・高峰 ほか)

古戸森陽乃[かるがも団地](秀明の妻・みどり/幹江の従妹・伊藤/茜の専門学校の友人 ほか)*声の出演


STORY

荒川区三ノ輪。下町を走る路面電車と、都心を巡る地下鉄の交差点。古びたアーケード商店街から一本路地を入った所にある家で、私たちは育ちました。姉の葉月、私・苑子、妹の茜。私たちは誠に嚙かみ合わせの悪い姉妹です。今更修復するのも面倒な溝を、互いの間に保ったまま大人になりました。そんな三人をひとりで育てあげ、どんな時も分け隔てない愛で包んでくれた奔放な母は今、くたばろうとしています。生い先そう長くない彼女を前に、わたしは、わたしたちは、
これからどこに向かえばよいのか、今更のように考え出すのでした。家族。なぜか共に生きてしまった、いちばん近い他人。寝苦しいひと夏のギクシャク。張り切ってどうぞ。【公式サイトより】


MITAKA "Next" Selection 25th参加作品。


舞台上、上手寄り奥には一軒家の居間。絨毯が敷かれ、ソファや棚が置かれており、手前に縁側。家の右横に一本の木。下手手前にはベッド。奥に電信柱。


正月のかるがも団地のイベントで今回の公演が発表されたとき、タイトルからいわゆるホームドラマ的なものを想像したけど、その後、メインビジュアルなどが解禁されるに及んでちょっと様子が違うなと感じ始めた(あらすじはあえて読んでいなかった)。

語り手は次女の苑子が務め、全四章構成のうち、第一章「日比谷の苑子」、第二章「北千住の茜」、第三章「町屋の葉月」と姉妹それぞれに焦点が当てられ、終章が「三ノ輪の三姉妹」となる。

現在、三ノ輪(ちなみに三ノ輪という地名自体は台東区になるが、本作ではジョイフル三ノ輪商店街がある荒川区南千住あたりが舞台)に住んでいるのは苑子と母親のみで、母親も入院中。両親は苑子が小学1年生の時に離婚しており、父親は不在。苑子は癌を患った母親のため、バラバラになってしまっている姉と妹を繋ぎ止めるべく奔走する。


本作の魅力はいくつもあるが、まずは人物造形。

三者三様と言ってしまうと安易な気がしてしまうほど、三姉妹と母親それぞれのキャラクターと関係性が綿密に描き込まれている。

葉月は中島梓織さんが演じるので何となく優等生的な長女になるのかなというイメージがあったけど、実際には仕事をしても長続きせず、両親の離婚以来、母親に対してすねた態度を取っている、ある意味いちばん幼稚な人物。

茜は父親の顔もろくに覚えていないということもあってか、割とドライ。葉月とはまさに水と油といったところで、母親の見舞いに来ても用件だけ済ませると顔も見せずに帰ってしまう。

苑子は最初に板挟みになりがちと言っていたけど、この対照的な姉と妹とうまくバランスを取っていかなければならないのだから、そりゃあストレスも溜まるだろう、時折、感情を爆発させる。


そしてそんな三姉妹の母・幹江の存在が本作の要ともなっているのだが、三姉妹ともどこかしら母親に似た部分があるように感じられる。

とりわけよかったのが、病室に集まった娘たちに対し、なぜ夫と離婚をしたのかを話すシーン。これまで、苑子に何度となく理由を尋ねられても、「好きじゃなくなったから」と曖昧な答えではぐらしていたが、原因は夫の他人に対する冷淡な言動にあった。富山の家族と縁を切って東京に出てきて、他人の世話になってどうにかこうにか生きてきた幹江にとっては、そんな夫の言動というのは耐えかねるものだったのだろう。はぎわら水雨子さんの演技もとてもよかった。

結局、箕輪家は理想的な家族とは言えないかもしれないけど、それぞれが己の道を行き、干渉しすぎない。誰も返信しないLINEグループで繋がっているぐらいがちょうどいいのかもしれない。


死期が迫る母親、反目し合う姉妹たちとシリアス要素はありながら、コミカルな部分が多いのもかるがも団地の特色。

いつもながらに複数の役をこなす宮野風紗音さんは今回は、上司全般を担当。社長から造園業の親方に早変わりするようなシーンも。

村上弦さんも新入社員ちゃんやいつの間にか三姉妹の母親と仲良くなっている看護師・夏などクセの強い役をこなし、宮野さんともども着実に笑いを取っていた。新入社員ちゃんが某セブンイレブンで働いているシーンもよかったな。

やたらと髪を切りたがる歌う美容師・徳永タエ子役の柿原寛子さんの天真爛漫さも印象に残った。


上演時間2時間2分。