ピンク・リバティ『みわこまとめ』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

ピンク・リバティ

『みわこまとめ』



2024年8月29日(木)〜9月8日(日)
浅草九劇

作・演出:山西竜矢
音楽:渡辺雄司(大田原愚豚舎)
舞台監督:竹井祐樹 美術:土岐研一
音響:田中亮大(Paddy Field)
照明:上田茉衣子(LICHT-ER)
映像・収録:米倉伸 衣裳:キキ花香
舞台監督助手:髙﨑遥香
音響操作:角田里枝(Paddy Field)
映像操作:坂本奈央
演出助手:三国由佳、新田周子(SPM)
アンダースタディ:越後静月
ヘアメイク:安藤メイ 宣伝写真:高木陽春
宣伝美術:本多伸二 WEB:小笠浩之
稽古場・舞台撮影:中島花子
グッズデザイン:河村真由美
制作:村田紫音 制作助手:松嶋奈々夢
票券:中尾莉久 運営:臼田菜南、椿凰
制作協力:momocan
バリアフリーサポート:Palabra

出演:

大西礼芳(片桐実和子)

三河悠冴(能見/男5)

村田寛奈(高校時代の友人・カナ/大学で知り合った友人・カヨ/居酒屋で知り合った友人・カコ/女1)

うらじぬの(高校時代の友人・サヤ/大学で知り合った友人・サキ/居酒屋で知り合った友人・サチ/女2)

長友郁真(レンタルビデオ屋店員・沼田ひろあき/先輩介護士/男(カヨの恋人・シゲル)/ナンパ師1・サトル/ホスト/ホスト2/男2)

大石将弘[ままごと/ナイロン100℃](会社員・松任谷/ナンパ師2/ホスト3/男3)

池岡亮介(ホスト・リョウ/男4)

稲川悟史[青年団](父/モチマン星人1/男性老人/男の子(松任谷の息子)/ホスト1、4/モチマン側近1/男1)

斎藤友香莉(母/モチマン星人2/女性老人1/迷子の子供/松任谷の妻/客2/モチマン側近2/女3)

山本真莉(姉・松子/モチマン星人3/政治家/女性老人2/女の子(松任谷の娘)/客1/モチマン側近3/女4)


STORY
晩夏。寂れた街の駅前に佇むビジネスホテル。そこに、体に不似合いな大きなキャリーケースを抱えてやってくる、ひとりの女。彼女は東京を離れ、あてもなくここまでやってきた。そうせねばならない理由が女にはあった。ベッドにごろんと寝転がって息をつくと、彼女はこれまでの人生、その中でもとりわけ恋愛について、思いを馳せ始める。夢を追うフリーター。仕事のできるサラリーマン。売れかけのホスト。記憶の中の恋はどれもひどいものだったが、それでも彼女にとって、人生の中心に位置するのはいつも恋だった。女は名を、実和子といった。【公式サイトより】

ピンク・リバティ、新作公演。

舞台中央に楕円形の台。その上空にミラーボール。左右に役者陣が待機する椅子が5脚ずつ置かれている。

物語はビジネスホテルに泊まっている実和子が目を覚ますところから始まる。そしてそこに現れた能見という男が語り手を務めて実和子の半生をたどっていくのだが、能見を見たときの実和子の反応や牛丼を食べる?と聞かれたときの能見の反応から、どうやら能見はこの世のものではないこと、もっと言えば実和子が手を下したのであろうことは想像がつく。
半生を語る前にまず地球上では誰一人その存在を知らないモチマン星の話から始めるところがユニーク。地球と似ているが、モチマン星人は寿命で死ぬことはなく、絶対的女王・モチマン女王を褒めそやすために生きているという設定で、主食がどら焼き。
このモチマン星人のパートは、実和子の内面を具象化したものであり、その後に続く回想パートの合間にも挿入されていく。

回想パートは高校時代、社会人2年目、30歳手前の3つに分かれ、それぞれ写真家を目指すと言いながら何もせず、親友と浮気した沼田、妻子がいることを隠して声をかけてきた松任谷、一見誠実ながら、実和子がホスト狂いするのを放置し、自分に金を貢がせるだけ貢がせたホストのリョウとのろくでもない恋愛遍歴が描かれる。
能見は実和子がリョウに貢ぐお金を作るために風俗に加えてパパ活をやっていたときに知り合った人物で、父親が大企業の社長といういわば御曹司。年下の能見は実和子との関係に本気になるが、探偵を雇って実和子の素性を知ることになり、父親の借金返済のためにと渡した1000万円を返してほしいと要求して絞殺されてしまう。
この後、実和子がどうなるかまでは描かれないが、逮捕されればワイドショーの格好の餌食となることであろう。高校時代、初体験を済ませたという友人の話を聞いて「考えられない」と言っていた少女が、あれよあれよという間に男なしではいられなくなり、風俗やパパ活に走り、挙げ句の果てに殺人まで犯してしまう。
家族と縁を切られても(両親と姉が「巻き!巻き!」と言いながら変な動きで迫ってくるのが怖すぎる)、友人の自殺を知らされても止まれない実和子を蔑む気になれず、何なら最後、神輿の上に立った実和子に向かって一緒に掛け声をかけたくなるのは、彼女なりに必死に生きてきたことを我々が知っているからだろう。

大西礼芳さんは堂々たる主演っぷり。出ずっぱりながら、喜怒哀楽それぞれの感情を丁寧に演じていた。上述の通り、実和子を応援したくなるのはひとえに大西さんの好演あってこそ。
そのパートごとに友人役を演じる村田寛奈さん&うらじぬのさんもゴイゴイスー(観ていない人には分からない記述すなっ)。
演出面においては、実和子が恋人とデートに行く際のレストランの客や遊園地の客、祭の参加者などをそのシーンに出ていないキャストがモブとして演じ、流れを断ち切らないところがよかったし、キキ花香さんによる衣裳が淡色ベースなのも入れ替わり立ち替わり役が切り替わる上で効果的だった。

上演時間1時間49分。


アフタートークのゲストは松居大悟さん。一度飲んだことがあるそうだけど、山西さんが仲良くなれたつもりでいたのに松居さんはそうでもなかったらしいところにちょっと笑ってしまった。