『空白』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

『空白』

 

 
2021年日本映画 107分
脚本・監督:吉田恵輔
企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸 
プロデューサー:佐藤順子
音楽:世武裕子 エンディング曲:「Beautiful」作曲・ピアノ・歌:世武裕子
撮影:志田貴之 照明:疋田淳 録音:田中博信
ヘアメイク:有路涼子 装飾:吉村昌悟 編集:下田悠 衣装:篠塚奈美   
キャスティング:田端利江 制作担当:保中良介 助監督:松倉大夏
 
出演:古田新太(添田充)、松坂桃李(スーパーアオヤギ店長・青柳直人)、寺島しのぶ(スーパーアオヤギ店員・草加部麻子)、田畑智子(充の前妻・松本翔子)、藤原季節(漁師・野木龍馬)、趣里(花音の担任・今井若菜)、伊東蒼(添田花音)、片岡礼子(楓の母・中山緑)、野村麻純(乗用車の運転手・中山楓)、篠原篤(翔子の夫)、和田聰宏(美術部顧問)、中村シユン(校長)、加藤満(スーパーアオヤギ店員・二ノ宮)、奥野瑛太(焼鳥弁当ファンの客)、三島ゆたか(漁師・田辺)、桜まゆみ(スーパーアオヤギ店員・望月)、植田萌(ボランティアスタッフ・夏美)、関幸治(レポーター・脇田智史)、遠藤隆太(弁当屋の男)
 
STORY
はじまりは、女子中学生の万引き未遂事件だった。スーパーの化粧品売り場で万引き現場を店長の青柳に見られて逃走した彼女は、国道に出た瞬間、乗用車とトラックに轢かれて死亡してしまう。だが、女子中学生の父親・添田充は「娘が万引きをするわけがない」と信じ、事故に関わった人々をモンスターのように追い詰めていく。さらに、店長の青柳と女性ドライバーは、父親の執拗な追求にも増して、加熱するワイドショー報道によって、混乱の極みと自己否定に追い込まれる。真相はどこにあるのか……。少女の母親、学校の担任や父親の職場をも巻き込んで、人々の疑念は増幅し、事態は思いもよらない結末へと展開する。【公式サイトより】

吉田恵輔監督最新作。
 
チラシにはタイトルの横にintolerance(不寛容)の文字。
この言葉が映画を観ている間もずっと頭から離れなかった。
添田はまさに不寛容の塊のような男。ともに漁をする野木に対しても、娘の花音に対しても、工事現場の警備員に対しても手厳しい。前妻の翔子は再婚して妊娠中なのだが、かつて鬱を患っていたというのも添田が原因だったのではと勘ぐってしまう。
娘が万引きの疑いをかけられた挙げ句に乗用車にはねられ、更にトラックに引きずられて亡くなった後、彼が花音を追いかけたスーパーの店長・青柳や学校に対して執拗に迫るというのもむべなるかな。
 
ところが、娘の部屋にあったぬいぐるみから万引きしたと思しきマニキュアが見つかり、乗用車の運転手・中山楓が自殺するに及んで添田にも変化が表れる。それを決定づけたのが、楓の母からの謝罪だろう。
それまで決して人に謝ることがなかった添田は、その後、翔子の夫をけなしたことに対して翔子に謝罪をする。
その後、スーパーが閉店となり、工事現場の警備員となった青柳に再会した際も謝罪はしないながらもその顔はどこか晴れ晴れとしていて、寛容さを少しは身につけたかのように見える。
その時の青柳の態度からして、彼が花音によからぬことをしようとしたというのは本当なのだろう。そのことを知ったとき、果たして添田は寛容でいられるかどうか――。
 
うまいのは寺島しのぶさん扮する草加部麻子の存在。
スーパーの店員として青柳を支えつつ(そこには下心もあり)、ボランティアに生き甲斐を見出しているような人物。不寛容の添田とは正反対のような人物ながら、当の添田からは「偽善者」と指摘されてしまう。
最後に彼女は鈍臭いボランティアスタッフの夏美に対して不寛容な態度を取るのだが、そうなってしまったのも自殺しようとした青柳を救ったのに拒否されてしまったからだろうか……。
 
キャストはいずれも素晴らしく、特に古田新太さんにとっては間違いなく代表作となるであろう。対する松坂桃李さんも『新聞記者』に続いて難しい役どころを好演。
吉田恵輔監督とは『さんかく』以来(?)の田畑智子さんもよかったし、先日、『くたばるものかよ』で実物を見たばかりの片岡礼子さんも出番は少ないながら、ある意味キーパーソンを演じていてさすがの存在感だった。
伊東蒼さんも影のある少女を演じていて今後が楽しみ。
 
名鉄バスが出てきた時点であれ?と思ったのだけど、本作の舞台は愛知県蒲郡市だったのね。市のサイトによれば昨年の3月20日にクランクインしていて、コロナ禍が始まった時期に撮影していたのね。