ミュージカル『この世界の片隅に』東京公演 | 新・法水堂

新・法水堂

演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

ミュージカル『この世界の片隅に』



【東京公演】

2024年5月9日(木)〜30日(木)

日生劇場


原作:こうの史代『この世界の片隅に』(ゼノンコミックス/コアミックス)

音楽:アンジェラ・アキ

脚本・演出:上田一豪

編曲・音楽監督:河内肇

音楽監督・キーボードコンダクター:桑原まこ

振付:原田薫、スズキ拓朗 歌唱指導:Chibi

美術:二村周作 照明:小川修

音響:高橋秀雄 映像:上田大樹

衣裳:中原幸子 ヘアメイク:宮内宏明

キーボードコンダクター:長濱司

稽古ピアノ:國井雅美、中條純子

オーケストラ:東宝ミュージック、新音楽協会

舞台監督:菅田幸夫、佐藤豪

演出助手:石川和音 振付助手:小林らら

歌唱指導助手:黒崎ジュンコ

方言指導:新谷真弓

制作:室橋鮎

制作助手、高橋優里子、大川未希子

企画協力:遠藤学

プロデューサー:鈴木隆介、佐々木将之

宣伝フォトグラファー:坂田貴広

宣伝アートディレクション:菅沼結美

宣伝映像クリエイター:銭龍


出演:

昆夏美[Wキャスト]浦野(北條)すず) 

村井良大[Wキャスト](すずの夫・北條周作) 

音月桂(周作の姉・黒村径子)

平野綾[Wキャスト]白木リン) 

小林唯[Wキャスト](水原哲)

小向なる(すずの妹・浦野すみ)

澤田杏菜[トリプルキャスト](幼少期のすず)

増田梨沙[トリプルキャスト](径子の娘・黒村晴美/戦争孤児)

白木美貴子(すずの祖母・森田イト)

川口竜也(すずの父・浦野十郎)

加藤潤一(すずの兄・浦野要一)

家塚敦子(すずの母・浦野キセノ/隣組・堂本さん)

中山昇(周作の父・北條円太郎)

伽藍琳(周作の母・北條サン)

鈴木結加里(隣組・刈谷さん)

舩山智香子(隣組・知多さん/看護婦・松山)

飯野めぐみ(小林の伯母さん)

丹宗立峰(小林の伯父さん)

般若愛実(すずの伯母・森田マリナ/若い頃の径子)

小林遼介(玩具屋/径子の夫・黒村)

麦嶋真帆(座敷童/二葉館・テル)

小林諒音(少年時代の周作)

高瀬雄史(怖い憲兵さん)

古川隼大(ザル屋)

東倫太朗(野菜売り)


STORY

20年7月、広島県呉市の北條家。布団に横たわるすずの脳裏には、大切な人と過ごした時間が蘇り、やがてその一つひとつの記憶が動きはじめる──広島・江波で海苔の養殖を営む父・浦野十郎、母・キセノ、兄・要一、妹・すみに囲まれ、祖母・イトが暮らす草津と行き来しながら穏やかに育ったすずは、昭和19年2月、江波から30キロ離れた呉の高台に位置する辰川の北條家に嫁ぐ。物静かな夫の周作、優しい両親・円太郎とサン、亡き夫の実家と離縁した義姉の黒村径子とその娘の晴美も加わり、新たな環境での暮らしが始まった。様々な制約のある戦時下、すずは家族や隣組の人たちと助け合いながら毎日を過ごす。そんな中で周作との束の間のデート、二葉館の白木リンとの出会い、水兵になった幼馴染の水原哲との邂逅など、一つひとつの一見小さな、だがすずにとって大切な、また心に刺さる出来事が積み重なっていく。そんな日々のなかで迎えた昭和20年3月19日、呉は初めての空襲を受ける。生活への影響は更に大きくなるものの、それぞれの居場所で日々の営みを続けていく人々。だが、戦況は悪化の一途をたどり……【「カンフェティ」より】


実写ドラマ化、アニメ映画化もされたこうの史代さんの同名コミックをミュージカル化。渡米していたアンジェラ・アキさんが本作でミュージカル音楽作家として日本での活動を再開することも話題に。


日本のオリジナルミュージカルとしても注目の本作だが、まず驚いたのがその構成。原作では時系列に沿って戦時中の暮らしが描かれていくが、本作ではすずが大事なものを2つ失った後から始まり、時代をあちこち飛びつつ、次第にその2つのものが右腕と晴美ということが分かってくる(ま、右腕は見れば最初から分かるけど)。

このあたり、原作や映画版を知らない人にはちょっとついていきにくかったのではとも思うが、大人になったヒロイン(昆夏美さん/大原櫻子さん)を満遍なく出したいがための方策なのだろうな。

エピソード自体は割と原作に忠実で、もちろん隣組(あれを番組のオープニングに使ったドリフもすごいよなと今更ながら)も登場。どころか、玉音放送をバックにして使われるというのが凄みを感じた。

アンジェラ・アキさんの楽曲もさすがにキャッチーで耳に残るし、背景にすずの描いた絵が映し出される映像や防空壕としても使用される傾斜のある盆を用いた演出など全体的にはとてもよくできていたと思う。

ただ、一点、これはもう致命的と言ってもいいのだけど、歌詞に「何気に過ごした一年」と出てきた瞬間、私の涙は引っ込んだ。元々この言葉が嫌いというのもあるが、現代劇ならまだしも戦時中の広島を舞台にした作品でなぜこの言葉を聞かにゃならんのよ。こういうのが気にならない人が心底うらやましいほどだけど、気持よく感動させてほしかったー。


キャストではこんまい昆夏美さんがいいのはもちろん、音月桂さんは径子が抱えてきた哀しみを随所に感じさせて秀逸だった。


上演時間3時間2分(一幕1時間15分、休憩26分、二幕1時間21分)。