こうの史代『この世界の片隅に』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

『この世界の片隅に』



著者:こうの史代
出版社:双葉社
出版日:2008年1月(上)・7月(中)・2009年4月(下)


第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞。
『THE BEST MANGA 2010 このマンガを読め!』第1位。

「漫画アクション」に平成19年から平成21年にかけて連載された作品で、昭和19年から昭和21年、広島県呉市に暮らす市井の人々を描く。連載前に掲載されたヒロイン・浦野すずの幼少時代を描いた3つの短篇も併録。

映画化もされた『夕凪の街 桜の国』でも思ったが、戦時中の暮らしぶりの描き込みに舌を巻く。まるで見てきたかのように描けるのは綿密な取材によるものだろうが、欄外にも様々な情報が手書きされているあたりにも著者の思いが伝わってくる。
戦時中と言っても決して暗いものではなく、笑いも随所にある。よくあるようなお涙頂戴でもない。特に本作はヒロインのすずが少々とぼけていて可愛らしい。

1話が8ページと少ないが、「隣組」の歌詞に合わせた回(第4回)あり、人生相談風(第20回)あり、「愛國いろはかるた」(第23回)ありとバラエティに富んでいて、台詞のないコマの使い方が抜群に巧い。
スクリーントーンを使わない温かい絵柄も魅力的。
まったく、世界の中心で愛を叫んでる場合じゃないよ。世界の片隅で暮らす人たちにこそドラマがある。