ヒトハダ『僕は歌う、青空とコーラと君のために』 | 新・法水堂

新・法水堂

演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

ヒトハダ 旗揚げ公演

『僕は歌う、青空とコーラと君のために』

 

 
2022年4月21日(木)~5月1日(日)
浅草九劇
 
脚本・演出:鄭義信
音楽:久米大作 美術:池田ともゆき
照明:増田隆芳 音響:藤田赤目
擬闘:栗原直樹 振付:伊藤多恵
衣裳:冨樫理恵(松竹衣裳) ヘアメイク:高村マドカ
演出助手:山村涼子 舞台監督:藤本典江、丸山英彦
プロデューサー:佐々木弘毅 制作:藤本綾菜
 
出演:
大鶴佐助(ハッピー(谷口幸雄))
尾上寛之(ジーナの甥ゴールド(キム・ヨンイル))
浅野雅博(ロッキー)
櫻井章喜(ファッティ)
梅沢昌代(ママ・ジーナ)
 
ピアニスト:佐藤拓馬(シュガー)
 
STORY
戦後間もない東京近郊にある、米軍御用達のキャバレー「エンド・オブ・ザ・ワールド」。そこを拠点に、いつか日劇アーニーパイルの舞台に立つことを夢に見る、ロッキー、ファッティ、ハッピーの三人組男性コーラスグループ、「スリー・ハーツ」。ある日、「エンド・オブ・ザ・ワールド」のママが連れてきた若い男が新たに加入して「スリー・ハーツ」から「フォー・ハーツ」として活動を開始する。順調にグループ活動を続ける中、朝鮮戦争がはじまり、ハワイの日系二世であるハッピーが朝鮮に出兵することになり四人組の絆を大きくゆるがすことになる―【公式サイトより】

『赤道の下のマクベス』で共演した浅野雅博さんと尾上寛之さん、作・演出の鄭義信さんが中心となって結成された劇団ヒトハダ、延期となっていた旗揚げ公演。
 
舞台はキャバレー「エンド・オブ・ザ・ワールド」の店内。中央に赤いカーテンで仕切られたステージ。フロアには丸テーブルと椅子。壁には電飾があり、英語で「END OF THE WORLD」と書かれた看板。下手にドア。上手にピアノ、その上にラジオ。ピアノの向こうに奥へと続く通路。
 
開演すると、赤いカーテンが開き、女装したロッキー、ファッティ、ハッピーによるパフォーマンス。全員が色違いの水玉模様のワンピースにリボンという格好。
前半はこうした歌もあり、笑いもあり、比較的緩やか。
しかし、朝鮮戦争に出兵したハッピーが帰ってきてからは一変する。戦争で左腕を失い、心がズタボロになり、ハッピー(幸せ)ではなくなったハッピー…。

かつての仲間にもう歌は歌えないと告げるハッピーだが、ここでの大鶴佐助さんの演技が実に素晴らしかった。その目つきから、本当にこの人は地獄を見てきたのではないかと思わせ、顔には人懐こい笑顔はもうない。

最近はウクライナのことばかりが取り上げられるけど、他にも長年紛争が続いている地域はそこかしこにあり、日々こうした悲劇が起きている。今回の作品を観て「タイムリーなストーリー」などと書いている人がいたけど、常に戦争の愚かさを描いてきた鄭さんにとってはタイムリーどころか、いつになったら人間は学ぶのかという気持なのだろうな…。
それでも最後には希望が感じられ、劇団名通り、ヒトハダの温もりが感じられる終わり方になっているのも鄭さんらしいところ。『オズの魔法使』の「虹の彼方に(Over the Rainbow)」が効果的に使われていた。
 
大鶴佐助さん以外のキャストもみなさんよかった。
浅野さんが先月50歳になったけど、結成時の年齢で言うと、20代、30代、40代、50代、60代の役者が1人ずついるという劇団も珍しいな。今後も年に1回ぐらいは公演を続けて欲しい。
 
上演時間2時間6分。