ということで、ライプツィヒ造形美術館を見て回ったお話が続きますけれど、

フリードリヒを見た次の展示室はひとつの胸像が見守る部屋でありまして、その胸像のアップがこちらです。

 


もはや言わずと知れたヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテですけれど、

まあ、「ゲーテ街道紀行」というタイトルでもありますので、このようにやおら登場もするわけで。

とはいえ、今回の紀行に限らず、ゲーテ像はドイツのあちらこちらの町なかも見かけ続けておりますし、

先にはライプツィヒの旧市街でもお目にかかっておりますから、今さら美術館で見かけてもと…。

 

ですが、美術館に収まっているからには有名な作り手でもあろうかと思えば、クリスティアン・ダニエル・ラウホの作、

ベルリンやザクセンで活躍した彫刻家で、東京のブリヂストン美術館(今は名前が変わったのでしたっけ)にも

「勝利の女神」像が収蔵されておるようで。

 

とまれ、そんなゲーテのいる展示室には必ずしも有名作家のものではないにせよ、

素敵な作品が掛けられておりましたですよ。まずはドイツで活躍したイタリア人作家ドメニコ・クアーリョからです。

 

 

いちばん上の展示室内のようすを見ても、ゲーテがその大きな目を向けている先にはこのクアーリョの2点があるのですね。

絵の主題自体は上がランス大聖堂、下がストラスブール大聖堂ではあるのですけれど、

イタリアに憧れ、逃避する先でもあったイタリアの画家の作品に熱い視線が送られている、

ここら辺も展示の演出でもあろうかと思うところです。

 

ドメニコ・クアーリョがドイツで活躍したのは、父ジュゼッペ・クアーリョがバイエルンの宮廷建築家だった関係で

ミュンヘンに学んだからということですけれど、ジュゼッペの生きた時代はほぼアントニオ・サリエリと重なりますが、

この18世紀後半から19世紀にかけてはウィーンの宮廷でもドイツ各地の宮廷でも文化的な要職には

イタリア人が就いていたのですなあ。ゲーテのみならず、陽光燦燦のイタリアへの憧れがあったのでもありましょう。

なかなかにモーツァルトの出番が来ないわけで…。

 

とまれ、そんなゲーテとイタリアをと思わせる展示室にあって、ゲーテ像のすぐそばに寄り添っておりますのは、

モーリッツ・フォン・シュヴィントの大きな作品と小品の2点、大きな方はこちらです。

 

 

 

シュヴィントと言えば、ヴァルトブルク城の壁画を手掛けた人でしたなあ。

中世騎士物語を題材にするのが得意の画家であったのでしょうか、ここの画面にも騎士の姿が。

「Falkensteiner Ritt」(ファルケンシュタインの騎行)というタイトルは伝承に基づく物語がテーマであるようす。

険しい岩山に騎士が騎行する姿は、そのままヴァルトブルクの壁画になっていてもおかしくなさそうですね。

と、お隣の小品の方はこちらです。

 

 

こちらはお姫さまのよう…と、つい中世騎士物語に釣られて想像してしまいましたですが、

実はカロリン・ヘッツェネッカーという19世紀に活躍したオペラ歌手とのこと。

なんの役かは分かりませんけれど、きっと舞台衣装姿を描いたものであったのでしょうね。

と、また展示室の別の壁面にはこのような。

 

 

木立を背景に佇む少年の像、あたかもイタリア郊外、貴族の別荘の庭を偲ばせるかのごとしかと。

風景画の方はヨハン・ヴィルヘルム・シルマー、塑像の方はアドルフ・フォン・ヒルデブラントの作品です。

 

余談ながら、つい先日ですけれど朝から照りつける日の光を浴びて佇む一本の大きな木を眺めやることがありました。

そこで今さらながらに思ったことは、きらきらと光りを照り返す葉の緑、その葉陰でうっすらと見える緑、

そして完全に日差しの反対側にあって深く沈む緑、これら緑のグラデーションが何ともきれいだなと

新鮮な気持ちになったことがあったのでありますよ。

 

シルマーが描いた風景もそうですが、バルビゾン派の画家たちなど、

木立ちや森に惹かれて何度も描いた画家たちの気持ちが今さらながらに気付かされることに。

これからは木々を描いた作品の見方が少しは変わるかもしれませんですなあ。

 

ということで、次の展示室へ。ライプツィヒ造形美術館のお話は続きます。