4年余りの長きにわたり耐震補強工事でクローズされていたのが、
このほど1月2日からリニューアル・オープン。
期間の限られた特別公開もあるということでしたので、出掛けてみた黒田記念館でありました。
これが2015年の初美術館ということで。
これまで芸大美術館や国際子ども図書館へ行くときに脇を通りつつ、
気になっていた建物ですけれど、立ち寄るのは初めてだものですから、
入口のこんな意匠にも目を向けたり。
と、中へ入ってチケット売り場は?と思いましたら、これが無料の施設だったんですなあ。
確かに展示数は少ないものの、黒田清輝
の生涯を辿るビデオクリップの上映もしてますし、
「撮っちゃダメ!」と表示されていないもの以外、写真を撮ってもOKだし。
なかなか太っ腹ではありませんか。
で、早速に期間限定の特別展示の部屋へと入っていきますと、
黒の壁面の三方に選りすぐりの4点だけが掛けられておりまして、
ここはじっくり作品と向き合ってご覧くださいといった感。
実に落ち着いた空間になっておりましたですよ。
一点目は、黒田清輝代表作中の代表作「湖畔」。
昔は切手の図案としても使われて、まあ、見馴れた図像ということになりますですが、
いざ本物を目の前にすると、「こんなにも淡いんだあ…」と。
かつては「東南アジアの情景?」と思ったりもしたものの、
これもまた水彩で描いたかのようとなると、考え方は変わりますね。
何度も言ってることながら、いかにも日本的な題材を油絵で仕立てると
どうもギトギト感が勝ってしまって「馴染まないのぉ」と常々思っているのですけれど、
これくらいの淡さになると、およそ違和感は無し。
なにしろ近寄ってみれば油絵なんですが、パッと見では日本画にも見えてしまうほどですから。
もしかすると黒田清輝自身も、
日本的なものを油絵で描くことに試行錯誤があったのかもしれませんですね。
ちなみにフランス留学から戻ったばかりの最初の作品という、こちらの「舞妓」(1893年)なる一枚は
いかにも油絵然とした濃い色合いが、ちと(個人的には)つらい。
4年後に描かれた「湖畔」との差異は一目瞭然ではないかと。
これが「舞妓」の隣に掛けられた「読書」(これも代表作中の代表作でありますね)になりますと、
全くもっての油絵ながら、何の違和感も無いどころか「うむ、いい絵だ」と思うわけですね。
留学中の作品で1891年のサロン入選作でもあります。
モデルとなっているのは豚肉屋の娘さんだそうで、こう言ってはなんですが、
決して裕福でもないし、おそらくは高い教育が施されているわけでもなかろう家庭と想像されるだけに
おそらくは使い回し、使い回しの果てに彼女の元にたどり着いた本なのか、
もはや褐色を帯びたページが何枚も固まってしまっているようにも見えるその本に
一心に目を向ける姿は単に「読書」というタイトル以上の感興を呼び起こすような気も。
1891年のサロンに黒田はもう一点出しておりまして、
それがこの「マンドリンを持てる女」(これは特別展示でない)というタイトルの一枚ですが、
こちらはあえなく落選したそうで。
留学中に黒田が学んだラファエル・コランはアカデミスムをベースに
清新な絵画(「フロレアル」とか)を描いていますけれど、
師匠譲りの(?)柔らかな女性の肌などを見ても
こちらはこちらで素敵な作品にも思えるところながら、
「読書」と比べてしまうと見た目全ての一枚と言わざるを得ないのかもしれません。
ところで、特別展示最後の一枚…というより三部作なんですが、
やはり裸婦を描いた「智・感・情」というものです。
三人の女性のとるポーズはそれぞれに
タイトルが示す漢字一文字から想像を巡らして意を酌むのが筋でしょうけれど、
おそらく受け止め方は一様でなく、深遠さはいやますばかり。
見ていて「脚が長いな…」とはあまりに俗な感想になってしまいますが、
「日本人をモデルとしながらもそのプロポーションは西洋裸体表現を意識して理想化され…」との
展示解説を見れば「やっぱりな」と思いますし、翻って「湖畔」の女性も
モデルは黒田夫人で写真を見るとも少し平たい顔族的なのが結構鼻を高くして、
これも洋風の趣きを纏ってもいるような。
ただ背景が箱根の芦ノ湖畔で、純日本風な景観とのバランスは絶妙に保たれていますけれど。
…とまあ、特別展示の話ばかりで長くなってしまいました。
期間限定と言いましたですが、一定の期間を設けて年に3回程度は公開される由(次は3月)。
そのタイミングに是非是非リニューアルなった黒田記念館を覗いてみられることをお勧めしますですよ。
特別展示以外の常設展示室の方も6週間に一度のわりで展示替えが行われるそうです。