前編では糖尿病による視力低下である糖尿病網膜症についての関連する物質について書きました。
その物質とは過酸化脂質のことでしたね。
後編では過酸化脂質(アルデヒド)による、更なる厄介な性質を紹介していきます。
過酸化脂質が厄介なのは、タンパク質と強力に結びついてしまうところです。[1][2]
糖尿病患者においても、過酸化脂質とタンパク質の結合によって様々な病態になることが示唆されています。[3][4]
この過酸化脂質とタンパク質が結合したものを、終末過酸化産物(Advanced lipoxidation end-products:ALEs)といいます。[5]
ALEsは細胞内のタンパク質、DNA、細胞のリン脂質と反応してできる不可逆的な付加物や架橋と定義されていることから、
ALEs化したタンパク質は生体分子としての機能や構造が壊れて、様々な細胞機能障害や組織障害を起こします。
つまり、ALEsが出来てしまうと生体内のゴミと化し、その細胞や組織は機能しなくなってしまうことを意味します。
その結果、ALEsは網膜の毛細血管の内皮の炎症や凝固に関わり、血管内皮増殖因子(VEGF)の分泌を上昇させます。[6][7]
つまり、糖尿病による視力低下はALEsによってもたらされると考えられます。
実際にALEsや過酸化脂質は、免疫細胞の単球を刺激し、炎症による血管の合併症を促進することが示唆されています。[8]
VEGFは血管を新生させる酵素です。これによって、閉塞してしまった血管をバイパスし、
毛細血管の透過性の上昇と血管新生を誘導します。
血管がALEsによって機能しなくなってしまったため、身体は何とかして血液を網膜に届けようとVEGFによって血管を新生していると考えられます。
実際に糖尿病モデルのマウスの過酸化脂質を抑制したところ、VEGFの発現を回復させたことが報告されています。[9]
これまで様々な記事でプーファ(多価不飽和脂肪酸)過剰による食生活が糖尿病や様々な病気と関連していることをお伝えしてきました。
糖化によってできるAGEsも糖尿病の合併症に関わっていることが示唆されてはいますが、
持続的な高血糖が起こる直接的な要因は、血中の遊離脂肪酸濃度です。
高血糖が続くことで、ALEsもAGEsも起こりやすくなります。
また、ALEsはAGEsよりも早く形成されます。[10]
糖尿病や糖尿病網膜症を改善させるには、
糖質が悪いのではなく、どうして身体が糖質を使えなくなったのかを考えなくてはなりません。
そのヒントはすでに、60年以上も前に解明されています。
現代的な食生活の特徴である過剰な脂肪摂取、特にプーファ主体の食生活を見直さない限り、
糖尿病ならびに合併症は改善しないと考えられます。
【関連記事】
【参考文献】
[1]Mass spectrometry-based proteomics of oxidative stress: identification of 4-hydroxy-2-nonenal (HNE) adducts of amino acids using lysozyme and bovine serum albumin as model proteins.
Electrophoresis. 2016;37(20):2615–2623.
[2]Structure-activity analysis of diffusible lipid electrophiles associated with phospholipid peroxidation: 4-hydroxynonenal and 4-oxononenal analogues.
Chemical Research in Toxicology. 2011;24(3):357–370.
[3] Reactive aldehydes – second messengers of free radicals in diabetes mellitus.
Free Radical Research. 2013;47(sup1) Supplement 1:39–48.
[4]Protein mediated oxidative stress in patients with diabetes and its associated neuropathy: correlation with protein carbonylation and disease activity markers.
Journal of Clinical and Diagnostic Research. 2017;11(2):BC21–BC25.
[5] Advanced lipoxidation end-products.
Chem Biol Interact (2011) 192:14–20.
[6]A decrease in VEGF and inflammatory markers is associated with diabetic proliferative retinopathy.
Eur Cytokine Netw. 2012;23(4):158–162.
[7] Evidence supporting a role for N-(3-formyl-3,4-dehydropiperidino)lysine accumulation in Müller glia dysfunction and death in diabetic retinopathy.
Mol Vis . 2010 Dec 2:16:2524-38.
[8] Proinflammatory Effects of Advanced Lipoxidation End Products in Monocytes.
Diabetes. Author manuscript; available in PMC 2009 Jun 11.
[9]Inhibition of lipid peroxidation restores impaired vascular endothelial growth factor expression and stimulates wound healing and angiogenesis in the genetically diabetic mouse.
Diabetes. 2001;50(3):667–674.
[10] The advanced glycation end product, Nepsilon-(carboxymethyl)lysine, is a product of both lipid peroxidation and glycoxidation reactions.
J Biol Chem.1996 Apr 26;271(17):9982-6.
食材や健康全般についてのご質問フォームは現在休止しています。
記事について
すべての記事の内容は、日々学びを重ね、新しい発見や見地があれば更新しています。 各記事に内容に関しましては、より最新に近い記事をご覧ください。 よろしくお願い申し上げます。