◆早朝イグチおわり◆

彼女の浮気現場に知らずに忍び込んでしまったイグチ少年。

インスタントラーメンをすすり、冷静に過ごしていると、目の前で彼女と寝ている男がパチリと目を開けた。

顔立ちの整ったいい男だった。

俺のようにやさぐれてもいない、好青年風な男。

男は目を開けたまま、寝返りを打つ。

そして俺と目が合った。

男は一瞬何が起こったのか、この状況が理解できていない様子。

俺は微動だにせず、まるで死んだ魚のような目で男を見据えた。

すると男は、そーっと反対側にまた寝返りを打って視線を外したのだった。

男は俺の存在に気がついたようだ。

しかし、男は俺に背を向けたままこちらを向こうとしない。

こうなったらとことんやっちまおうと判断した俺は大げさにタバコを吸い、大げさに冷蔵庫を開け飲み物を物色し、わざと音を鳴らしながら自由気ままに行動し始めた。

テレビも容赦なくボリュームアップ。

すると、男はイビキをかいた。

正確には、イビキをかいたふりだ。

下手なイビキだった。

寝たふりの男が哀れになってきた。

すると彼女が俺の存在に気がつき、跳ね起きた。

声は出さなかった。

何か必死で言い訳を伝えようとしている様子だった。

男はまだテレビのボリュームに負けない大きさのイビキをかいている。

女を守れない男、この後に及んで言い逃れしようとしている女。

俺はその女に捨てられた男。

うわ！！

一番みじめなの俺じゃん！！笑

か、かっこわる！！笑

俺は、とたんに自分が恥ずかしくなり、何もせずにそのまま部屋を出たのだった。

幸せになれよ、とだけ伝えた。

井口達也

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