「札幌の黒田って人間にこれ届けたら仕事は終わりだからさ」




信永は30センチ四方程度のアルミケースを俺に渡しながら言った。




ナンバーロックが掛かっている。鍵穴もある。





『何でも屋』の信永は面倒な仕事が入ると大抵は俺に振ってくる。




なぜなら、金さえ渡しておけば俺はいかなる状況に陥っても依頼された仕事を完遂するからだ。





信永の仕事上、中身を聞くのは基本的にタブーだが、取り扱いに注意を要するものには事前に詳しく説明がある。





今回はなかった。




つまり、俺の中では余裕の仕事だ。




ただ、北海道というのが気にかかる。




遠い。




信永はいつものように報酬の半額を俺に手渡した。




金を見るとニヤける俺が表情を変えないものだから、信永は「この仕事受けないのか?」と言った。




「遠い」




「遠い、じゃねぇよ。あ、言い忘れてたけど、飛行機は使わないでくれよな」




「は?」




「そういう依頼なんだわ。飛行機なら日帰りできるんだろうけどな」




「…遠い」




「いいから行ってこいよ。ススキノで羽伸ばしてこい」




「ススキノ?」




「そう。ススキノ、オンナ、イッパイ。オッパイ。オウケイ?」




「オンナ…イッパイ…ススキノ、オウケイ!」




俺は女の誘惑にはめっぽう弱い。




遠い事なんてすっかり頭から消え去った。




「あ、飛行機ダメって事は、電車で行けってことかよ」




「任せる」




「任せるじゃねぇよ。電車以外にねーだろ」




「船、車、自転車…なんでもいいからまず飛行機は使うな」




「クソが」




「札幌の黒田側にはもう連絡入れてあるからよ。今週の日曜の正午に受け渡しだ。札幌ついたらここに電話入れてくれ。今日は火曜だし…まぁ余裕だろ?」




そう言って信永は俺に黒田側の電話番号が書かれているメモを渡した。




「電車で行くかな…」




「あ、それとこれ」




信永は五万円を俺に渡した。




「何だよこれ」




「特別ボーナス。旅費の足しにしな」




「報酬と別だろうな?」




「ああ」




信永が俺に報酬以外の小遣いを出すのは珍しい事だった。




これは依頼主から相当の額を受け取っているのだろう。




俺は早速家に戻り、ボロボロのバッグに依頼主からのケースを入れた。





そして、俺は電話を手にした。



「あ、もしもし、大関?お前次いつ東北行くの?」





俺は長距離ドライバーをやっている友達に連絡を入れた。





元々は別の暴走族で、現役時代は激しくやりあった仲だったが、引退してからはその壁も無くなってよくつるむ仲になっていた。



「あー、今夜出るぞ。なんで?」



井口達也


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