「お天道さま」が輝いていた日本
日本人はこれまで、「お天道さま」という、目には見えないけれど、たしかにある"いのちの根源"の力を信じて、大切にしてきました。
「食べ物を粗末にするとお天道さまに申しわけない。
目がつぶれるよ」日々の生活の中で、こう教えられて、感謝の心を養ってきました。
このときの「目」とは「心の目」のことです。
「心の目」を失うと、「ありがとう」という感謝の心をなくし、「人でなし」になると教え、戒めてきたのです。
この「お天道さま」とは、太陽のことではありません。
太陽や地球など、すべていのちあるものを育てた、もっと偉大な力のことを、日本人は「お天道さま」とよんできたのです。
食卓からの出発「食卓からの出発」という言葉があります。食卓は親しみと安らぎを養う家庭の中心であり、躾(躾とは身を美しくです)の場でもあります。
かつては、ほとんどの家庭が、食事は家族全員で食べていました。「いただきます」「ごちそうさまでした」とみんなで合掌し、食事をすることで、いただいた「いのち」や、「いのち」を育ててくれた自然、農家や漁師の人たち、食事をつくってくれた人に対して、感謝の気持ちをささげてきました。
そこにはいつも「お天道さま」が輝いていました。生き方を教えてきた日本人このような日本人が大切にしてきた生活習慣は、家庭では祖父母から両親へ、両親からその子へと、代々受け継がれてきました。
職場でも、物を大切にする、誠実に働く、というような日本人の生き方は、師匠から弟子へ、先輩から後輩へと伝えられてきました。
私たちの先祖は、よいものを継承し、それに工夫を重ねて、技を磨き、心の修養に努め、徳を高める生き方をしてきたのです。
そうして、自己中心的な生き方ではなく、世の中をよくするため、他人の役に立つために、という公共心を養ってきました。
とりわけ、武道や茶道、華道、書道などの芸道など、伝統文化の世界では、礼儀作法が重んじられ、人としての道が説かれ、日本人としてよりよく生きることが教えられてきました。
しかし、いま、現代日本人の家庭や職場からは「お天道さま」の輝きが失われつつあり、日本人としての生き方も忘れられようとしているのです。