炎の影は見えるか〜「これ、科学?」第3話とファラデーの『ロウソクの科学』のお話 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 「炎の影はない」Twitterで、この話題を見たとき、ぼくは首をかしげました。

 

 見えないはずはないがなあ・・・

 

 ネットに上がっている写真では、たしかに炎の影が写っていません。

 

 <遊>でやっているミニサークルで、さっそく実験をしてみることにしました。

 

 このマンガでは、ぼくたちがやったのと同様な実験を、シカ部の面々が実験しています。ぼくが以前お世話をしていたシカ部なら、こんな感じで実験を繰り返したでしょうね。それこそ、謎の議論も含め、ああだこうだといいながら、果てしなく実験を続けていましたから。

 

 さて、最初の窓際での実験ですが、やはり炎の影は見えませんでした。(下の写真)

 

 

 

 実験室の窓際の棚板は大理石仕立てです。白いと言えば白いのですが、影を観察するスクリーンとしてはあまり性能がよくありません。戸外で同じ実験をした場合は、コンクリートやアスファルトの上に影ができますから、さらに条件は悪くなるでしょう。

 

 そこで、コピー用紙などの白い紙をスクリーンとしておいてみると・・・

 

 

 炎の黒い影と、非常に大きな炎形が白い縁取りで見えました。

 

 <遊>でやった実験はこちらです。

 

 

 部屋を暗くして行ったので、さきほどの実験より、影がはっきりと見えます。これは、白のLEDライト(LEDは1つ)で映した影です。光源が点光源でないと影がくっきりと見えませんから、一つのライトに複数のLEDがついているライトではうまくいかないでしょう。

 

 

 

 こちらは、一番最初に<遊>でやった実験で、光速測定装置の高輝度青色LEDをはずして、光源として使いました。やはり、炎の暗い影が見えます。

 

 巨大で歩の長い炎形は、炎の外炎も含め、その外側にある暖められた空気が、上昇気流によって炎形になった部分です。白い縁は、光の屈折で光が集中して明るくなった部分でしょうね。

 

 光の屈折率は空気の密度によって異なりますので、光の屈折で白い光の筋が見える部分がどのような屈折によって生じているのか、興味深いですね。その研究はシカ部の面々にお任せすることにして、もう一つの謎について、考えてみたいと思います。

 

 炎の薄暗い影は、実験写真を見ると、光っている炎全部の影というより、内炎に近い形をしています。この暗い影は、マンガのシカ部の一人が推測しているように、はたしてススの影なのでしょうか?

 

 この実験だけでは、それをはっきりいいきることは出来ませんね。

 

 でも、もう一つ、決め手になりそうな実験があるのです。

 

 それは、こちら。

 

 

 こちらは、2019年2月の物理サークルの報告から。藤田先生の実験で、ロウソクの炎に横方向の強い電場をかけると、炎が電場の向きに(正の極板から負の極板に向かって)傾く、というもの。

 

 最初、藤田先生は、炎の中の陽イオンがプラズマ化していて、それが電場から力をうけて電場方向になびくのだと考えていましたが・・・ロウソクの炎の中には不完全燃焼のためススが含まれているので、そのススが帯電して力を受けている可能性もありました。

 

 その話を聞いたKY高校のシカ部な人たちが、「ススのない炎で実験したら、それが確かめられるのではないか、と、水素の炎で実験したのです。危険な実験ですから、もちろん顧問の先生も立ち会ってやったのですが・・・

 

 

 おみごと!

 

 電場をかけても、水素の炎は傾きませんでした。

 

 ロウソクの炎が電場でなびくのは、特に内炎で生じる「ススが帯電して電場から力を受けたため」というのが正しい理解のようです。

 

 そして、今回の炎の影を見る実験は、それを裏付けることにもなりました。

 

 ロウソクの炎のうっすらと暗い影は、主に内炎で大量に発生しているススの影でしょう。

 

 ススは固体ですから、密度が低くても、それなりに濃い影ができます。

 

 水素の炎に強い光をあてて、その影を見る実験をすると、ススが発生していないので、ロウソクほどはっきりした炎の影はできないはずです。その実験は、別の機会にしておきましょう。

 

 ところで、ファラデーの名著『ロウソクの科学』には、次のような一節があります。

 

 「すべての物質は固体のままで熱せられれば非常に明るく輝き、ろうそくの明るさもその炎の中に固体の粒子があるためだからであります」

 「この黒い物質はいったい何者でしょうか? [中略]それはろうそくの中にあったのと同じ炭素なのです」

 「そしてこの二つ[酸素と水素]を混ぜ合わせたものによって、ろうそくから得られるものに比べて、はるかに大きな熱を生成できるのですが、その光はきわめて弱いものです」

 (『ロウソクの語る科学』(岡邦雄訳/平凡社)より。[ ]はひろじによる註)

 

 ロウソクの明るい炎は固体が燃えているため、という指摘は覚えておきたいですね。この固体が燃えたかすがススです。

 

 ロウソクの炎の中には、ススだけではなく、そのもとのロウが溶けて流体状になったもの(気体にはなっていない)も含まれます。ロウソクの炎の影は、ススだけでなく、この流体状のロウの影であると思われますが、いかがでしょう?

 

 

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