双子のパラドックスで、ロケットに乗ったAと地球に残ったBは、いったいどちらが若いままなのか。
ロケットが等速度運動をして、地球にもどってこない場合は、AとBの運動はまったく相対的なので、地球のBから見るとロケットのAの時間はゆっくり進み、Aから見るとBの時間はゆっくり進む。
これが、特殊相対性理論の結論です。前回書いたとおりですね。
しかし、ロケットがUターンして戻ってくる場合、そのUターンのときに、AとBの運動の対称性が破れます。
テイラー/ホイーラーの『時空の物理学』では具体的な数値計算がなされていますが、その詳細はやめ、そのだいたいのところを紹介しておきます。
本題に入る前に、特殊相対性理論で使われる時空座標のことを説明しておきます。
時間tを縦軸に、空間xを横軸にして(通常の力学では、縦横を逆にして使います)、物体の運動をグラフとして表します。
時間の1秒と空間の1メートルを同じ縮尺で描くと、高速でうごく物体のグラフが描きにくいので、時間軸は30万倍して、時間と空間が同じ大きさのめもりになるようにします。
こうすると、光の進む様子を描いたグラフは傾きが45度の直線になります。図の「光の世界線」と描いたものがそれです。
式でいうと、x=ct(cは光速)で表される直線です。
ロケットは高速といっても、光より遅いので、この図では直線の傾きが光より大きくなります。直線の傾きは速度の逆数に比例するからです。
図で「ロケットの世界線」と描かれたものが、等速度ですすむロケットを示した線です。
式でいうと、x=vt(vはロケットの速さ)で表される直線です。
世界線は、その物体にとっての時間(固有時といいます)の軸でもあります。ロケットの時間t’は、この線に沿って時を刻む(あまり物理的な表現ではありませんが)ことになります。
光の世界線に対して、ロケットの世界線に対称な線は、ロケットの空間軸x’に当たります。
ロケットの空間軸は、ロケットにとって同じ時刻を示す線でもあるので、ここでは便宜上「同時線」と描くことにしておきます。
静止している地球の時空はt軸とx軸の直交する格子で作られていますが、動くロケットの時空は、t’軸とx’軸の平行四辺形の格子で作られていますし、一目盛りの大きさも異なります。
しかし、今回のお話では、ロケットの世界線と同時線が斜めになっていることだけわかればいいので、これ以上の説明は省略しておきます。
では、本題に戻りましょう。
双子の様子をグラフに描くと、次のようになります。
この図のO→R→S→Qは地球に残ったBの世界線、O→P→Qはロケットに乗って旅に出たAの世界線です。
O→R→S→Qは地球のBの時間軸で、、O→P→QはロケットのAの時間軸です。
A→Pの世界線で、AにとってPと同じ時刻の「同時線」は図に描いたとおりで、R点がP点と同じ時刻ということになります。
しかし、P点でロケットがUターンした後のP→Qの世界線では、AにとってPと同じ時刻の「同時線」はPSとなります。
Uターンしたときに、ロケットのAと同時刻にあたる点がRからSへジャンプすることになります。この間の時間は、Aにとっては一瞬ですが、Aから見たBの時間経過は、R→Sという長い時間になります。
これらの経過時間は特殊相対性理論の式により計算できますが、詳しい計算はやめて、テイラー/ホイーラーの『時空の物理学』の計算例を紹介するのにとどめておきます。
テイラー/ホイーラーの計算例では、ロケットの速度が高速の96%のときを扱っています。(この場合、ロケットBの世界線と同時線は最初の図よりも、光の世界線に近づきます。また、次の図のORとSQはもっと短くなり、RSはもっと長くなります)
A→PとP→QのAの経過時間を7年ずつとしたとき、それに対応するO→R、S→QのBの経過時間は約2年ずつ、R→SのBの経過時間は46年。
地球に帰還したとき、ロケットのAが14才歳をとっているのに対し、地球のBは50才歳をとっていることになります。
運動は相対的なのだから、ロケットから見たら地球が動き、途中でUターンして戻ってきたと考えてもよいのでは、と考える人もいるかと思います。
しかし、特殊相対性理論での「相対性」はあくまでも、「等速度運動をする2物体の運動が相対的である」ことを前提にしています。
なお、図の同時線は、あくまでもAにとって同時刻である点をつないだものです。Bにとっての同時刻は、図では水平な直線(x軸に平行な直線)になります。
BからAの様子を見た場合は、その同時線で考えますから、BにとってP点と同時刻の点は、RとSの中点に当たります。
BからAを見る限り、Aから見たR→Sのような同時性の時間のジャンプはありません。
なお、以上の説明は、特殊相対性理論の説明では一般的なやりかたではなく、通常は、地球とロケットの時間軸に、それぞれ固有時のめもりをそれぞれ刻んで、時間経過がどれくらいかを数えて比較します。
特殊相対性理論に従って調べると、固有時がそれぞれ等しい一めもり分の点を打っていくと、それらは図のような式で表される双曲線上に並びます。
ロケットが速くなるほど(図の上では、世界線の傾きが光の世界線に近づくほど)、固有時の1めもりが長くなっていく(地球から見て、ロケットの時間がそれだけゆっくり進む)ことになります。
もし、ロケットの速度が光速に等しくなると(なりませんが)、ロケットの固有時の1めもりは、無限大になります。つまり、ロケットの時間は地球から見ると止まってしまうのですね。
さきほど登場した図に、世界線上に固有時のめもりを打つと、上図のようになります。
ロケットの固有時間隔Δτは、地球の時間間隔Δtと空間感覚Δxによって、図の式のように表せます。普通の数学のグラフと違い、特殊相対性理論のグラフでは縦の辺の2乗と横の辺の乗を引いたものが、斜めの辺の「長さ」になります。(ここでは、その説明について、これ以上深入りしておくことはやめておきます)
当然、式からわかるように、ロケットの固有時間隔Δτは地球の固有時間隔Δtより大きくなります。
したがって、固有時のめもりを地球とロケットの世界線上(つまり、時間軸上)に打っていくと、上図のように、ロケットの方がめもりが長くなりますから、ロケットの方が時間がゆっくり進むことになりますね。
一つ前の図で見たように、1めもりの間隔とロケットの世界線の傾きとは数学的な関係がありますが、上図はおおざっぱなイメージが伝わるように描きましたので、1めもりの長さは正確ではありません。
その図でAとBが出会うまでの、それぞれの世界線上の固有時が何めもり分進んでいるのかを数えてみてください。あきらかに、Bの方が目盛りの数が多く、余分に年齢を重ねていることがわかります。
ただし、この通常のやり方は、双子の年齢をそれぞれ計算するものであって、そもそもの相対性のパラドックスにストレートに答えるものではありません。
やはり、最初に紹介したテイラー/ホイーラーの指摘が、問題の本質をついていると思います。
最後に、実際のロケットの場合は、最初の図のP点でいきなりUターンすることはありません。(慣性があるため、不可能です)
そこで、最初は徐々に加速し、次に等速度運動に入り、Uターン時に減速し・・・という現実的な運動をするロケットの場合についても、グラフを描いておきます。
世界線の傾きが連続的に変わっていくので、ロケットの固有時の1めもりも、徐々に変化していくのがわかりますね。速度がおそくなると地球と似た間隔のめもりになり、速度が速くなると地球よりのびた間隔のめもりになります。
この場合も、地球、ロケット双方のめもりの数を数えれば、やはりロケットの人の方があまり年をとらないことがわかりますね。
では、このへんで。
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