双子のパラドックスの謎、その解明1〜これ、科学?の裏話その1 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 アインシュタインの特殊相対性理論によれば、等速度で動いているロケットと静止している地球(を含む全宇宙)があるとき、どちらが動いていてどちらが止まっているのかは相対的な問題となります。

 言い換えると、ロケットと地球の運動は相対的な運動であって、どちらが止まっているかを断言することはできない、ということになります。

 

 ニュートンは、アプリオリに「絶対的に静止している空間」があるのを前提にしていました。

 アインシュタインは、運動はそもそも相対的なものである、といいます。

 

 特殊相対性理論では、この前提に立って時空の見直しをしています。ロケットの時間・空間と地球の時間・空間はそれぞれ異なり、一方から他方を見ると、ある規則にしたがって、時間や空間が違って見える、という理論です。

 

 そこで、このような「パラドックス」が生まれます。

 

 特殊相対性理論の話題として、よく紹介されているのが、上の1コマめです。

 光速に近い速度で飛ぶロケットに乗って旅立った双子の一人が、再び地球に戻ってきたとき、ロケットの時間は地球ほど経過していないので、地球に残った方は老人、ロケットに乗って旅立った方はまだ若者、という食い違いが起きる、というもの。

 

 ときどき、この話を「双子のパラドックス」だと勘違いされている方もおられるようですが、そうではありません。

 

 アインシュタインの相対性理論の根本原理は「相対的な運動をしている場合、一方から他方を見た場合の様子と、他方から一方を見た場合の様子は、まったく相対的なものになる」ということです。

 

 地球から見て、ロケットの人の時間がゆっくり進むのなら、ロケットから見て、地球の人の時間もまた、ゆっくり進むのです。

 これこそが、相対性。

 しかし、それだと、双子のどっちが老人になり、どっちが若者のままなのか、という結果が、見る人によって異なることになります。

 どちらが見ても、実験結果は変わらない、というのは、相対性原理の基本です。これは、ガリレオの相対性原理でも、アインシュタインの相対性原理でも、同様ですね。

 

 ガリレオの相対性原理は「等速度運動をする人と、地面に止まっている人は、力学的な実験によって、区別することができない」ことをうたっています。

 部屋の中にいる人が、たとえば石ころを落とすという実験をした場合、部屋が止まっていても、ある方向に一定の速度で動いていても、石ころは自分の足下に落下します。したがって、これらの力学実験では、自分のいる部屋が止まっているのか動いているのか、判断することができません。これが、ガリレオの相対性原理です。

 

 ところが、ガリレオの相対性原理が適用できるのは、力学の現象だけで、電磁気現象では相対性が崩れます。

 電磁気現象でも相対性が崩れないように、ガリレオの相対性原理を修正したものが、アインシュタインの相対性原理であり、特殊相対性理論なのです。

 

 さて、さきほどの「双子のパラドックス」に戻りましょう。

 じつをいえば、この双子の実験に相当する現象は、すでによく知られています。

 地球の上空で、宇宙から降り注ぐ宇宙線によりできたミューオン(μ粒子)は、本来は短い寿命なのでほんの少しの距離を進んだところで崩壊してしまうはずです。

 しかし、現実には、そこからかなり離れた地上でも、ミューオンを観測することができます。ミューオンの寿命がものすごく延びたためですね。

 これは、ミューオンがすごく速い速度で動いているため、相対性理論の効果によって、時間の進みがゆっくりになるためです。まさに、ミューオンは「ロケットに乗った双子の一人」ということになりますね。

 

 しかしながら、純粋に理論的に検討していくと、やはり「双子のパラドックス」は「ロケットから見たら、地球の時間がゆっくり進む」で正しいとわかります。

 双子のどちらが老人になっているかは、この論法では答がでてきません。

 

 そこで、よくいわれるのが、これです。

 

 

 ロケットがUターンするとき、ロケットは加速するので、慣性力というみかけの力が働きます。

 アインシュタインの一般相対性理論では、狭い範囲で考えたとき、慣性力と重力は本質的に区別できません。

 上のコマで宝前さんが「加速して重力がかかるから」といっているのは、このことを示しています。

 そして、一般相対性理論では、重力の強いところでは時間がゆっくり進む(あまり正確な表現ではありませんが、ここではこのくらいの言い方にしておきます)ので、強い重力が余分にかかったロケットの人の時間は地球よりゆっくり進むのだと解釈する、という考え方ですね。

 

 これ、一見、正しいように思えますが、これもまた違います。

 Uターンをできるだけゆっくり行えば、かかる重力も弱くできますからね。

 

 この双子のパラドックスについては、テイラーとホイーラーの共著『時空の物理学』(現代数学社・1981年発行/曽我見郁夫・林浩一訳)【原著Spacetime Physicsの発行年はわかりませんでした】に、明快な解答が書かれています。(*1)

 

 それを一言で言うなら、「ロケットと地球で、ロケットのUターン時に相対性が崩れている」ということになります。

 

 たとえば、ロケットが地球から遠ざかる一方で、Uターンせずにどんどん遠ざかっていく場合は、ロケットと地球の間の相対性は崩れないので、冒頭のマンガの2コマの話の通りになります。

 地球から見ればロケットの時間はゆっくり進み、ロケットから見れば地球の時間はゆっくり進む。これで問題ありません。

 双子は二度と出会わないので、どちらが年をとっているかの比較は無意味です。この場合、意味があるのは、片方から他方を見た場合、相手の時間がゆっくり進む、ということだけです。

 

 ところが、Uターンがあると、そのとき、ロケットと地球の運動の相対性が崩れ、結果から先にいうと、Uターンの一瞬の間に、地球ではかなりの時間が経過してしまうのです。

 

 ここから本格的な解説に移りたいところですが、長くなってしまうので、今回は前半ということで、ごかんべんを。

 

 次回に、つづきます。

 

 

 

(*1)エドウィン・F・テイラー/マサチューセッツ工科大学、ジョン・アーチボルト・ホイーラー/テキサス大学。ホイーラーはアメリカ物理学会の重鎮で、長年プリンストン大学で研究。この本は、ホイーラーがテイラーの助力を得て、1962〜3年にプリンストン大学で行った物理学初等課程の内容をまとめたもの。

 

 

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