英語版「大逆転裁判1&2 -成歩堂龍ノ介の冒險と覺悟-」解説

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■大逆転裁判2

○Episode 1 The Adventure of the Blossoming Attorney(第1話 弁護少女の覚醒と冒險)

1.法廷【その1】
2.法廷【その2】

○Episode 2 The Memoirs of Clouded Kokoro(第2話 吾輩と霧の夜の回想)

1.探偵【その1】~探偵【その2】
2.法廷【その1】
3.探偵【その3】
4.法廷【その2】
5.法廷【その3】

○Episode 3 The Return of the Great Departed Soul(第3話 未来科学と亡霊の帰還)

1.探偵【その1】(1)
 探偵【その1】(2)
2.法廷【その1】
3.法廷【その2】
4.探偵【その2】(1)
 探偵【その2】(2)
5.法廷【その3】
6.法廷【その4】

○Episode 4 Twisted Karma and His Last Bow(第4話 ねじれた男と最後の挨拶)

1.探偵【その1】(1)
 探偵【その1】(2)
2.法廷【その1】
3.法廷【その2】
4.探偵【その2】

○Final Chapter The Resolve of Ryunosuke Naruhodo(最終章 成歩堂龍ノ介の覺悟)

1.法廷【その1】
2.探偵【その1】
3.法廷【その2】
4.法廷【その3】
5.終幕



今回より英語版「大逆転裁判2」解説です。

■第1話 弁護少女の覚醒と冒險:Episode 1 The Adventure of the Blossoming Attorney



Blossoming Attorneyは「花咲く弁護士」で、龍太郎として弁護士デビューした寿沙都のことを指しているのだと思います。寿沙都さんは服などモチーフが桜ですしね。
また、葉織のまわりの花のデザイン(彼女の着物の柄も)は「勿忘草(わすれなぐさ)」だと思われますが、これは英語版のキャラ名に反映されています。詳しくはこの下の、名前由来を。

■第1話 キャラクター名&地名

この話から登場の新キャラのみ紹介。

・成歩堂龍太郎:Ryutaro Naruhodo
日本語版の発音そのまま。
セリフウィンドウの名前欄は「Ryutaro」

・村雨葉織:Rei Membami
「Remember me」(私を忘れないで)からと思われます。
葉織のモチーフ、「勿忘草(わすれなぐさ)」の花言葉も「私を忘れないで」です。
なお、「大逆転裁判2 -成歩堂龍ノ介の覺悟- 公式原画集」によると、彼女のデザインは『「私の事を忘れないで‥‥」と陰ながらお願いしているイメージ』などがあったとデザイナー塗和也氏が語っています(64~65ページ参照)。

・豆籾平太:Raiten Menimemo
RaitenはWriting(書く)、Menimemoはmany memo(たくさんのメモ)からと思われます。
日本版のマメモミの響きと英語のダジャレがうまく噛み合っています。
更にイニシャルがRei Membamiともども「R.M」。証拠品の「万年筆」のイニシャルも変更されています。

‥‥日本人に「めんばみ」とか「めにめも」なんて名字の人は居ないだろ! というツッコミは、横に置いておいてください。あくまでも英語版におけるダジャレネーミングなので。

■Trial, Part 1(法廷【その1】)

1の第1話解説を思い出していただきたいのですが、英語版における日本のエピソードは、
「『全員が日本語でしゃべっている』様子を英語で描いている」
ことになっています。
ということで、この「大逆転裁判2」第1話もまた、
「『全員が日本語でしゃべっている』様子を英語で描いている」
のです。どんなに違和感があっても、そういうものだと思ってください。w

Rei
Is that you, Susato?
Susato
I'm so sorry I didn't say something sooner, Rei.
It's just that—

ハオリ
寿沙都ちゃん‥‥なの?
スサト
黙っていて申しわけありません
ハオリさま。じつは‥‥


英語版では、SusatoとReiはお互い名前で呼び合っています。
「大逆転裁判1」第1話解説でも書いたのですが、「親友なんだから名前で呼び合うのが普通」というのが欧米では一般的な考え方なのではないか、と思います。
なお、御琴羽教授ことProfessor Mikotobaも、「Rei」と名前で呼びます。

Ryutaro
Ah! Um, yes that's right!
That's me. I'm, erm... I mean...
Yes! I am Ryutaro, he who has vowed to uphold the pride
of the great Naruhodo clan!
Judge
Ah...
Mikotoba
It seems Ryutaro may need to consider how better to
uphold his manly act first and no overdo it.

ナルホド
あ。わたし‥‥いえッ!
ボク‥‥‥‥
そう、オレこそがッ!
ナルホドー、その人ですともッ!
サイバンチョ
‥‥むうう‥‥
ミコトバ
‥‥さすがに。“オレ”は
無理があると思いますよ。


日本語は「私」「あたし」「ぼく」「オレ」「ワシ」「拙者」「吾輩」などなど、一人称が豊富ですが、英語は「I」のみなので、Ryutaroは言いよどんだ挙げ句に「偉大なる成歩堂一族の誇りを守る龍太郎」だと名乗っています。
Mikotoba教授は「龍太郎くんは、まず男性らしさを保つことを第一に考え、やりすぎぬよう注意せねばなりませんね。」と忠告してくれています。

Rei
How dare you?! Susato is every bit as gallant and dashing
as any of your Tokyo attorneys!
I won't have you making fun of her!
Auchi
...'Her'?

ハオリ
‥‥寿沙都ちゃんは、
それは凛々しい“弁護士さま”ですッ!
馬鹿にしたら、許しませんから!
アウチ
‥‥“すさとちゃん”‥‥?


日本語版だと亜内が引っかかるのは「すさとちゃん」の部分なのですが、英語版だと「Susato」と呼び捨てなので、Auchiは「her(彼女)」の部分に引っかかっています。
ここで「Susato」よりも「her」に引っかかる、というあたりが、「この時代の日本の法廷は女人禁制」がより強調されている感じですね。

Mikotoba
Before you kill me, for mercy's sake!

ミコトバ
‥‥後生だからッ!


「勲章」を全て獲得した方なら、どこの会話かわかると思います。w
Mikotoba「私を殺す前に、後生だからッ!」
父上も必死です。
なお、Susatoさんは父上を「father」と呼びます。
父親への呼びかけで一般的なのは「dad」、「daddy」は子どもが使う、「papa」は古め、「father」は硬めの呼び方‥‥というのが現代において一般的なようです。

Ryutaro
Um, Membami-san...

ナルホド
あの、よろしいですか。
‥‥ハオリさま。


英語版では、「弁護士として被告人へ質問をする」ため、「Membami-san」と名字にさん付けで呼びかけています。
「大逆転裁判1」の第1話で、Asogiが「Naruhodo-san」と呼びかけたのと同じようなことです。

Soseki
Soon to be sold out! The satirical 'I Am a Cat'!
A sensational success! By Soseki Natsume!

ソーセキ
かの! 『吾輩は猫である』を!
大好評連載中の! 夏目漱石である!


Sosekiさんのセリフ、名前の「Soseki」もふくめてさりげなく頭文字「S」で韻を踏んでいるところに注目。
四字熟語シリーズじゃないのに韻を踏む見事なローカライズです。
この後も、漱石さんが謎ポーズをする時はだいたい韻を踏みます。
ちなみに、「吾輩は猫である」の英語版タイトルは上の通り「I Am a Cat」が正式。
I Am a Cat - Wikipedia

Hosonaga
...Do I have something on my face?
Ryutaro
(Well, your glasses for one. Although they don't seem to
be helping you see...)

ホソナガ
‥‥ワタシの顔に、
なにかついていますか?
ナルホド
(“ついている”といえば‥‥
 まあ、ついているけれど)


Ryutaro(ついているとすればひとつ、メガネがついているのだけれど‥‥そのメガネは、わたしの正体を見破る程度に視力を補正してはくれないみたい‥‥)
ここの英語版のツッコミ、上手いですね。

証拠品「漱石の新聞記事」は「Soseki Natsume Article」、日本語版のまま掲載されている上、英語での解説が一切ありません。
ですが、御存知の通り、この新聞で重要なのは「掲載されている写真に妙なゴミが写り込んでいる」ことなので、英語で説明を入れる必要はないわけです。



なお、この新聞記事、大画面になって見やすくなった上、3DS版/スマホ版より見える範囲が広くなりました。
左下に、「自転車競走大盛りあがり」みたいなタイトルの記事がありますが、よく見ると優勝者の名前が「清木政文さん(75)」です。
‥‥「逆転裁判6」に清木政治(まさはる)という、名字も名前もそっくりな奴がいましたが、もしかして?(あいつの祖父の名前は「清木徳治郎」だけど、祖父の代あたりはまだ昭和だろうし‥‥)
なお、3DS版/スマホ版では、すみっこまで記事がなかったので、今作のために作成したのか、もともと3DS版のころから用意されていたのかはわかりません。

Soseki
Relentlessly Racked by Remorse and Regret!

ソーセキ
超 絶 後 悔 ッ!


もちろん、四字熟語はこんな感じで韻を踏みます。‥‥「超絶後悔」は四字熟語じゃないけど。

Judge
The owner's initials have been engraved into the ebonite
barrel!
'R. M.'...
Rei Membami...

サイバンチョ
エボナイトの胴軸に、持ち主の
頭文字(イニシャル)”が刻まれている‥‥!
『H.M.』‥‥
‥‥ハオリ、ムラサメ‥‥




この通り、イニシャルが英語版だと変更されています。



記章はそのままです。

Hosonaga
I submerged myself in the salty water leaving only
Mr Turtle floating inconspicuously on the surface.
Mr Turtle loves the water.

ホソナガ
ホソナガ、塩ッからい海に潜って。
こう、カメを海面にのぞかせて。
せいぜい“遊泳を楽しむカメ”を
演じていたのですッ!


Hosonagaさんがカメのことを「Mr Turtle」(カメさん)って呼んでいるのがいい。w

Ryutaro
(Maybe a year in London was too much for him.
He sounds like he's forgotten how to speak Japanese.)

ナルホド
(漱石さま。外国人みたいに
 なってしまった‥‥)


Ryutaro(倫敦での一年間は、漱石さまにとってよほど辛かったのでしょう。日本語の話し方を忘れてしまったように見えます。)
漱石さんがイギリス留学で神経衰弱になった、というのは有名な話ですし、「大逆転裁判」でもそれっぽい描写がちょいちょいあります。そのせいで日本語がおかしくなったという記録はありませんが。

Mikotoba
The photographer managed to capture the moment his
hand karate-chopped me on the neck.

ミコトバ
彼の《手刀》が私のノドを
ミゴトにとらえた瞬間ですね。


「漱石の新聞記事」の表面を調べた時の会話から。
対談で漱石さんの手刀が御琴羽教授に決まっている瞬間が写真に撮られたという話ですが、英語版だと「空手チョップ」ですね。
海外の方はプロレスで知っているのか、ポケモンで知っているのか‥‥

Judge
Membami-san! You stand accused here!
Outbursts like this will not be tolerated!

サイバンチョ
‥‥こら、被告人ッ!
勝手に出てきてはならぬ!


こういう感じで、Judge(裁判長)もAuchiも、被告人を「Membami-san」とさん付けで呼ぶものだから、日本人的には違和感がすごい。
「-san」を「被告(人)」だと思えばおかしくはないのですが。

Auchi
Perhaps his voice has yet to break?
These yokels are slow of mind and slow to mature.

アウチ
おおかた。ノンキなイナカの学生は
“声がわり”もノンキなのでしょう。


voiceがbreakかchangeで「声変わり」の意味になるそうです。

Soseki
...a reporter from Shoyu News has been hounding me,
following my every move!

ソーセキ
この新聞‥‥《大黒新報(だいこくしんぽう)》の記者が、
吾輩に『密着取材』しているのです。


「大黒新報」は「Shoyu News」になりました。
‥‥「醤油新聞」って、そんな新聞名、一般紙であるかい!w
「大黒新報」の「大黒」は、七福神の「大黒天」から取られているのだと思います。俵の上に乗っかっている姿がおなじみの食物・財福を司る神で、俵から万年筆にもある「大黒新報」の記章がデザインされているのでしょう。
そして豆籾とは「穀物」繋がりになります。
英語版は、穀物→大豆→醤油、ということなのかな‥‥?
なお、醤油は英語で「soy sauce」です。

※追記
コメント欄でコメントいただきました、なるほど!
>「Shoyu News」とは、おかしい新聞名の他に、「Show you news」からのダジャレだろうと思います。

Soseki
By MENIMEMO! YES!
...My Lord, Your Excellency, Esquire!

ソーセキ
“マメモミ”でござる。
‥‥裁判長閣下殿下どのッ!


My Lord:英国法廷での、裁判長への呼びかけ
Your Excellency:日本の法廷での、裁判長への呼びかけ
Esquire:Ryunosukeに向かって使っていた弁護士の称号、貴族とか判事とかその他偉い人にも使われていた。「大逆転裁判1」第4話解説を参照。
要するにSosekiさんはいろんなものをごちゃまぜにして「My Lord, Your Excellency, Esquire!」と叫んでいるのでした。
漱 石 混 乱 ッ !

というところで、次回、豆籾平太ことRaiten Menimemo登場。

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