英語版「大逆転裁判1&2 -成歩堂龍ノ介の冒險と覺悟-」解説

■大逆転裁判1

○Episode 1 The Adventure of the Great Departure(第1話 大いなる旅立ちの冒險)

1.法廷【その1】(1)
 法廷【その1】(2)
2.法廷【その2】
3.法廷【その3】

○Episode 2 The Adventure of the Unbreakable Speckled Band(第2話 友とまだらの紐の冒瞼)

1.探偵【その1】(1)
 探偵【その1】(2)
2.探偵【その2】
3.探偵【その3】

○Episode 3 The Adventure of the The Runaway Room(第3話 疾走する密室の冒險)

1.探偵【その1】
2.法廷【その1】
3.法廷【その2】
4.法廷【その3】

○Episode 4 The Adventure of the Clouded Kokoro(第4話 吾輩と霧の夜の冒險)

1.探偵【その1】(1)
 探偵【その1】(2)
2.探偵【その2】
3.法廷【その1】
4.法廷【その2】

○Episode 5 The Adventure of the Unspeakable Story(第5話 語られない物語の冒險)

1.探偵【その1】(1)
 探偵【その1】(2)
2.探偵【その2】
3.探偵【その3】
4.探偵【その4】
5.法廷【その1】
6.法廷【その2】
7.法廷【その3】
8.法廷【その4】(1)
 法廷【その4】(2)

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英語版「大逆転裁判2」解説へ



ということで、今回から英語版「大逆転裁判1&2 -成歩堂龍ノ介の冒險と覺悟-」こと、「The Great Ace Attorney Chronicles」の解説をお届けします。
自分のブログを検索したら、英語版「逆転裁判6」解説以来、5年ぶり(!)らしい。
あの頃から英語力は一切上がってません。むしろ下降の一方ですので、ミスとかツッコミがあれば容赦なくお願いします。
また、前回の私のブログ記事で、これまでの英語版逆転裁判シリーズの歴史について予習していただけると幸いです。

解説という性質上、どうしてもゲーム内容のネタバレを含みます。ご了承ください。
PS4版でプレイ、必要がある場合はスクリーンショットも掲載しています。
また、事前に大逆転裁判1&2開発ブログの、ローカライズディレクター・ジャネット・スー氏の記事を読んでいただくと、よりわかりやすいと思います。

■タイトル

・大逆転裁判1&2 -成歩堂龍ノ介の冒險と覺悟-:
 The Great Ace Attorney Chronicles

・大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險-:
 The Great Ace Attorney Adventures

・大逆転裁判2 -成歩堂龍ノ介の覺悟-:
 The Great Ace Attorney 2 Resolve

Adventuresは冒険、Resolveは決意、解決の意味。
命名については、大逆転裁判1&2開発ブログ 第7回の英語版ロゴの話のところに解説があります。

■第1話 大いなる旅立ちの冒險

英語タイトルは「Episode 1 The Adventure of the Great Departure」。
日本語版の時点で、各話タイトルが表示される時に英字タイトルが表示されていましたが、その英字タイトルがそのまま英語版でも使われています。



このタイトルの画面、日本語版と同じように見えて、実はちょっとだけ違います。
どこが違うのかは、次回の解説で。

■第1話 キャラクター名

・成歩堂龍ノ介:Ryunosuke Naruhodo
・御琴羽寿沙都:Susato Mikotoba
・亜双義一真:Kazuma Asogi
・御琴羽悠仁:Yujin Mikotoba
・亜内武土:Taketsuchi Auchi
・細長悟:Satoru Hosonaga

上記キャラ(レギュラー陣と呼んでもいいのかな)は、日本語版の名前をローマ字表記。
「Naruhodoじゃなくて、Naruhodouじゃないの?」という疑問については、公式開発ブログに、ローマ字表記についての説明があるのでご一読ください。大雑把に言えば、『音がしない文字をカットする「修正ヘボン式」を使ったから』です。

・渦久丸泰三:Iyesa Nosa
Iyesaは「Yes, sir!」、Nosaは「No, sir!」

・渦久丸九郎丸:Aido Nosa
Aidoは「I do.」。父親と合わせて軍人っぽさを出していると思われる。

※追記
ツイッターで情報提供いただきました、ありがとうございます。
>Aido Nosaでアイドノーサー (I dunno, sir = I don't know, sir) だと思います。

・園日暮三文:Kyurio Korekuta
Kyurioは「curio(骨董品・古道具)」、Korekutaは「コレクター」

この通り、日本人の証人たちはキャラ名が変更になっています。
この後も、メインキャラ・レギュラー登場キャラの内、日本人キャラは日本版の名前そのままなのですが、各話のサブキャラについては変更されていることが多いです。
これまで英語版のローカライズではダジャレネーミングを再現してきたので、開発スタッフはサブキャラだけでもダジャレにしたかったのかも。ダジャレネーミングも逆転シリーズでは大切な要素(?)だし。
ぱっと見、日本人の名前をローマ字で綴ったかのようにも見えるけど、よく考えたら「『これくた』なんて名字の日本人は居ないだろ!w」と。w

・ジョン・H・ワトソン:John. H. Wilson
シャーロック・ホームズ原作では「John. H. Watson」なのに、どうしてWilsonになっているのか? については、(これまでも当ブログで説明したことがありますが)第2話でホームズが登場した時に改めて紹介したいと思います。
キャラ名が変更になったため、証拠品「診察票(英語版ではMedical Report Card)」の名前欄も「ジョン・ウィルソン」と変わっています。
ちゃんとカタカナで書いてあるのがミソ。



・ジェゼール・ブレット:Jezaille Brett
シャーロック・ホームズ原作で、ワトソンが「ジェゼール弾(Jezail bullet)に撃たれて負傷した」というネタがあるので、そこからの命名と思われます。「Jezail bullet」ではそのまますぎるので、人名っぽい綴りに変更して「Jezaille Brett」になったのではないかな~と。たぶん。

■Trial, Part 1(法廷【その1】)

さて、ここからようやく本編の解説開始。w
基本的には個人的に面白そうなネタを拾っているだけです。全貌を知りたかったら、今すぐオプションで言語を英語に切り替えてプレイするんだ!w
ここまでの説明が長くなってしまったので、この法廷【その1】解説は2回に分けます。

また、この第1話は「『全員が日本語でしゃべっている』様子を英語で描いている」という設定だということを念頭に置いておいてください。
日本人の名前を呼ぶ時には、MrとかMiss、Mrsは使われず、-sanが使われています。
表示は、赤字が英語版、青字が日本語版です。英語版は、日本語版の直訳ではなくローカライズなので、必ずしも同じ意味合いになっているとは限らないことに留意してください。

22nd November, 8:43 a.m.
Supreme Court of judicature, Defendant's Antechamber 5

11月22日 午前8時43分
大審院 被告人控室 ()号室


おなじみ、タイプライター音と同時に表示される地名・時間表示。
御存知のとおり、日本語版は上のようにいろんな箇所でルビが振られますが、当ブログでは特に必要な箇所以外はルビについては省きます。

Ryunosuke
(My name is Ryunosuke Naruhodo.)
(I'm a second-year student at the Imperial Yumei
University.)

ナルホド
(‥‥ぼくの名前は、成歩堂龍ノ介)
(大日本帝国、
 帝都勇盟大学の二年生だ)


帝都勇盟大学:Imperial Yumei University
英語版逆転裁判シリーズの勇盟大学は「Ivy University」。ivyには「有名[名門]校(式)の」という意味があります。
大逆転裁判ではそのまま「Yumei University」と翻訳されているので「Ivy University」とは繋がりがない感じになっちゃっています。

Ryunosuke
But really, Kazuma, I never meant to drag you into this.
I'm sorry...

ナルホド
本当に、すまない。亜双義。
キミに、迷惑をかけてしまって‥‥


Kazuma
I believe you.
I know you're innocent, Ryunosuke.

アソウギ
オレは、キサマを信じている。
‥‥成歩堂龍ノ介。


上の通り、英語版では龍ノ介と亜双義は名前で呼び合っています。「親友なんだから名前で呼び合うのが普通」というのが欧米的感覚になるのかな(後に2の1話でも、寿沙都と葉織の間で同じような光景が見られます)。
「相棒!」呼びは「partner!」

大審院 第弐号大法廷:Supreme Court of Judicature, Courtroom 2

Kazuma
Your Excellency, no confirmation is needed.

アソウギ
‥‥裁判長。
確認の必要はありません。


これまでの英語版逆転裁判シリーズだったら、裁判長への呼びかけは「Your honor」。
直訳で「あなたの名誉」ですが、「位の高い方を直接名前で呼ぶのは畏れ多い」という考え方でこうなっています。日本で、偉い人を肩書きや敬称で呼ぶようなものです。「師匠」とか「閣下」とか。

さて、この「Your honor」は、イギリス英語なら「Your honour」‥‥と思ったら、全然違う呼び方の「Your Excellency」に。
ちなみに英国の法廷だと更に違う呼び方「My Lord」に。
このあたりはよくわからないなー、と思ってツイッターで尋ねてみたところ、回答をいただけました。ありがとうございます。
>米国と英国の現代の裁判記録を見る機会があり、米国「Your Honour」英国「My Lord」でした。今調べましたが、各国の裁判所の慣行であるようです。インドの裁判所で、裁判官が「私は『Your Honour』『My Lord』でもない」と注意している記事を見つけました。主従を表す言葉でもあるようです。
MY LORD’ VS ‘YOUR HONOUR - OrissaPOST
また、「Your Excellency」については、検索してみるとこんな資料があります。
国際儀礼の基本講座 ~その13~(PDF)
なんと外務省の資料です。
「外国の高位,高官への敬称,呼称の使い方について,留意すべき点」が書いてあります。
>大統領,首相,閣僚,大使は,一般的に「His (女性の場合,Her) Excellency+フルネーム」と表記されます。しかし,中には,貴族の称号などを併せ持っている人がいます。「His (Her) Excellency」という敬称をもつ人の呼称は,「Your Excellency」となり,略式の呼称は,男性に対しては Sir(サー),女性に対しては Ma’am(マァム)が使われます。
これはあくまでも現代の資料なのですが、100年前も同じだったとして‥‥
つまり日本の裁判長は「大統領,首相,閣僚,大使」クラスとして扱われているということになります。
(彼の立場が明らかになるのは「大逆転裁判2」だけども、1の時点では、極秘裁判の裁判長を務めるくらいだから扱いとしてはそれ相応に上という感じで描いているのかな?)

「My Lord」については、英国法廷が初登場する第3話で再度解説しようと思います。
刑事法院 - Wikipedia
ここにもうちょっと詳しい説明がありましたので。

Ryunosuke
Yes!

ナルホド
はいッ!


例の吹き出しですね。
逆転裁判シリーズお約束の吹き出しのセリフについては、大逆転裁判でも変更はありません。

異議あり!:Objection!
待った!:Hold It!
くらえ!:Take That!
ここだ!:Got it!

‥‥と、なります。
龍ノ介が上のセリフを言うようになるのは、御存知の通り、もうちょっと先になりますが。

Kazuma
Tsk! Professor Mikotoba shouldn't have stuck his nose in.

アソウギ
御琴羽教授め‥‥
よけいなことをしてくれたものだ。


stick one's nose in:他人のことに口を出す、干渉する
「教授」が「professor」なのは英語として当たり前なんですが、大逆転裁判に限っては「professor」が後々で特別な意味がありますからね‥‥
日本語版では「プロフェッサー」とカタカナ表記することで、「教授」との区別をしていたのですが、英語版ではそういう訳にもいかず、御琴羽教授や、2に出てくるドビンボー博士にもProfessorが付きます。ミスリードになるような、ならないような‥‥?
結局、あの「プロフェッサー」は、「The Professor」とtheを付ける+Pを大文字にすることで区別することになるのですが、それはまだまだ先の話。

あ、Mikotoba教授は亜双義と龍ノ介のことを「Asougi」「Naruhodo」と呼び捨てです。自分が教授をつとめる大学の学生だからかな。

Kazuma
Isn't that so, Naruhodo-san?

アソウギ
そうだな? ‥‥被告人!


ここで唐突に「Naruhodo-san」が登場して笑ってしまった。日本語版では笑うところじゃないのに。しかも亜双義のセリフだから余計に。
基本的に日本語版は、法廷での呼びかけで名前を呼ばずに「弁護人」「被告人」「証人」と、立場や肩書、役職などで呼び合うことが多いのですが、英語版は名前で呼びかけることが多々あります。
この「Naruhodo-san」も、「被告人・成歩堂」とか「成歩堂被告」とかの意味で使われていると解釈すれば良いのですが、いかんせん、ついさっきまで「Ryunosuke」って呼んでいたKazumaが突然「Naruhodo-san」だから‥‥w
しかも後々、法廷【その3】で一番盛り上がってきたところでももう一度Kazumaが「Naruhodo-san」というシーンがあったりもします。

なお、この後も、KazumaとRyunosukeが弁護席で話をする時は互いに名前で呼び合います。

Auchi
Perhaps you're unaware that I am a master of the ancient
Noh-style sword art!

アウチ
‥‥我がカタナ。“日陰流殺法”の
免許皆伝と知ってのコトか‥‥?


「日陰流殺法」がなんか謎の流派になったぞ。w
「Noh」は日本の伝統芸能「能」を指していると思いますが、「能」で剣術の流派とはなんぞ。不勉強にしてわかりません。

余談ですが、「逆転裁判5」では最終盤に能面が登場していました。
英語版「逆転裁判5」で「Noh mask」とローカライズされていたので、「あの時のNohか」と思った海外プレイヤーさんもいらっしゃるかもしれません。

ということで、まだ法廷が始まったばかりのところですが、記事が長くなってしまったのでここで一度切ります。
続きは明日。

次 法廷【その1】(2)