第4話探偵【その2】、ガリデブ夫妻登場&共同推理ふたたび。

■Investigation, Part 2(探偵【その2】)

Gregson
WHAAAAAAT?!
For me?! From Her Ladyship?

グレグソン
なにィィィィィィィィィィッ!
お嬢さまが、このワシにだとッ?


Ladyship:公爵婦人を除く貴族婦人に話しかけるときに使われる称号
要するに「お嬢さま」のこと。
その「お嬢さま」に呼びかける時には「Your Ladyship」、上のように三人称で使う時には「Her Ladyship」になります。

Garrideb
Took a shot to the knee a few years back in the Battle of
Maiwand, don't you know.

ガリデブ
数年前、マイワンドの戦いで
ヒザに銃弾を受けましてね。


ここはちょっとした原作ホームズネタ。
原作ホームズでは、ジョン・H・ワトソンが、長編第1作「A Study in Scarlet (緋色の研究)」冒頭にて、「マイワンドの戦い」で負傷し、イギリスに帰国してホームズと出会うことになっています。
「マイワンドの戦い」についての詳細は、以下の「第二次アフガン戦争」の項目を。
アフガン戦争 - Wikipedia
史実でも「マイワンドの戦い」の綴りは「Battle of Maiwand」。英語版でもそのままです。

Garrideb
Dash it all, woman!
Be careful!
Maid
Oh! Dearie me!
I do beg your pardon, sir!

ガリデブ
こ。これ、ジョーン!
気をつけなさい!
メイド
ああ。これは! なんと!
モウシワケありません旦那さま!


例の夫婦漫才。
だいたいこのパターンですが、細部がちょっとずつ異なったりもします。
例えば、「Dash it all, woman!」が「Dash it all, Joan!」「Good grief, Joan!」になったり。
なお、「Dash it all」は「なんてことだ!」の意味合い。

Garrideb
I have two lodgers most of the time. One on the ground
floor, and one just below us.

ガリデブ
我が家の1階と2階に、ひとりずつ。
下宿人を置いているのですがね。


イギリス英語といえばこれ。
建物の階数の表現が、日本やアメリカ英語とは違います。
イギリスだと‥‥
  • 日本語の1階:ground floor(地上階)
  • 日本語の2階:first floor(1階)
  • 日本語の3階:second floor(2階)
  • 日本語の4階:third floor(3階)‥‥
‥‥と、なります。
だからGarrideb氏は、「地上階と1階に下宿人を置いている」と言っているんですね。
漱石の部屋があるのは、日本語的には2階、イギリス英語的にはfirst floor(1階)です。
ややこしいですが、そういうものなのです。

Maid
If I may, Mr Narrow-Hollow...

メイド
ですが‥‥ベンゴシさま。
おそれながら、申し上げます。


Narrow:細い、偏屈な
Hollow:うつろな、うわべだけの
Maidさんは日本人の名字「Naruhodo」を覚えきれずに「Narrow-Hollow」と言ったんでしょう。
なろーほろー‥‥音としては、だいたい合ってる。

Susato
Oh, look! It's a beckoning cat from home!
Ryunosuke
It's a bit big and bulky, isn't it? Surely Mr Natsume didn't
bring that maneki-neko all the way from Japan with him.
Susato
I hardly think you're in a position to comment,
Mr Naruhodo.
Are you forgetting the enormous daruma doll that you
brought in your laggage?

スサト
まあ。これは、我が国の
『招き猫』でございます!
ナルホド
荷物になるのに。わざわざ
日本から持ってきたのでしょうか。
スサト
そんな成歩堂さまだって、
ヒトのことは言えません。
荷物になるのに、大きなダルマさまを
持ってきたではありませんか。


漱石さんの部屋は日本に関するものが多いので、調べると「日本に関するものを英語で説明」な会話が幾つか見られます。
Susatoさんの最初の「from home」は、この文章だと自宅のことではなく、自国、故郷の意味ですね。
文意から「beckoning cat(ずばり『招く猫』のこと)」が日本語では「maneki-neko」というのだな、ということもわかります。
また、ダルマのことを「enormous daruma doll」と書いているので、ここでダルマのことがわからなくても「日本のでかい人形のことなんだな」と察せられるようになっています。後々で事務所に実物も置かれるので、ここで事細かにダルマについて説明する必要もないのでしょう。

Ryunosuke
It was a tricolour 'mi-ke', wasn't it? Do they even have
that sort of cat here in Great Britain?

ナルホド
“ミケネコ”でしたけど。
大英帝国にもいるのでしょうか。


日本では珍しくない三毛猫、海外ではレアですが居ない訳じゃないらしいです。
三毛猫 - Wikipediaによると、「西欧や北米にあっては、ジャパニーズボブテイルが「ミケ」(Mi-ke) の愛称で珍重されている」そうなので、Ryunosukeの「mi-ke」は、その前の「tricolour(三色の)」を付けなくても通じる方には通じるのでしょう。

Susato
It's a receipt from a secondhand bookshop.
'Yore Books'...

スサト
古書店の“領収書”がございます。
《ボロブック古書堂》‥‥


yore:文語表現の「昔」の意味。
漱石が買った本のタイトルは以下のようになりました。
  • ルコック氏の肖像:The Picture of Monsieur Lecoq
  • 海とガボリオ:A Meal for Gaboriau
  • カンタベリ慕情:Canterbury Yearnings
‥‥あれ、「海とガボリオ」が「ガボリオのための食卓(A Meal for Gaboriau)」になってるぞ。他はそのままかな。

上の本のタイトルには、元ネタがあります。
公式開発ブログの最終回にて、
>ジャンルに対する愛情の形として、巧ディレクターはヴィクトリア朝と“探偵ミステリー全盛期”と呼ばれている1920年~1930年代の名作へのオマージュもあっちこっち『大逆転裁判』に入れこみました。
と、「大逆転裁判」に含まれるネタが公開されました。
この中に、
・ルコック探偵(Monsieur Lecoq)と彼を作った作家エミール・ガボリオ(Émile Gaboriau)
がありますね。これです。
  • 「ルコック氏の肖像」はルコック探偵。英語版での綴り「Monsieur Lecoq」も一致。
  • 「海とガボリオ」は、作家エミール・ガボリオの名前から。ガボリオの綴りは「Gaboriau」で、英語版の綴りと一致。
で、「カンタベリ慕情」はカンタベリー物語(The Canterbury Tales)が元ネタと思われますが、やはりこれも英語版と綴りが一致しています。
カンタベリー物語 - Wikipedia

Sholmes
I pride myself on my superior powers of recollection.
Your names are safely recorded in my brain-attic.
Miss Naruhodo...
...and Mr Susato!

ホームズ
記憶力には自信があってね。
名前ぐらい、ちゃんと覚えているさ。
ミス・ナルホドーに‥‥
ミスター・スサトだ!


見事なくらいに日本語版と一致していて笑ってしまいました。w

Sholmes
Yes' Those are my own words of ininutable wisdom, you
know. From an adventure entitled, 'A Study in Scarlet'.

ホームズ
あ! 今のは、『緋色の研究』という
本に書いてある。ボクの言葉なんだよ!


ホームズ原作ネタですね。英語版でもそのまま。
緋色の研究 - Wikipedia
ちなみに、原作ではどういう文章だったのか? は、拙作の色々ネタ/原作「シャーロック・ホームズ」シリーズからのネタ 第4話に載せてありますので、良かったらどうぞ。宣伝でした。

・窓税:window tax
そのままですね。本当にあった怖い税制度。

Sholmes
At 'Batty's Circus'...

ホームズ
『バレンボア・サーカス』‥‥


日本語版の「バレンボア」は「あばれんぼう」のアナグラム(文字入れ替え)じゃないのかなぁ? と私は考えているのですが‥‥
一方、英語でbattyは「(俗語で)頭の変な、風変わりな、イカれた、ばかばかしい、くだらない」とあります。特にアナグラムもなく、そのままの意味かな?

Sholmes
Thus concludes Herlock Sholmes's great deduction...of
this beastly puzzle!

ホームズ
以上。シャーロック・ホームズの
《名推理》でした。


第2話解説でも書いたのですが、英語版ではホームズの推理のシメのセリフに「この猛獣の謎(this beastly puzzle)についての《名推理》でした」と、何について推理したかが入ります。

なお、この共同推理の最中、ガリデブの部屋の暖炉が3DS/スマホ版よりも明るく燃えています。
火事があったことの隠喩‥‥ではなく、3DS/スマホ版ではカメラが寄ると、位置・角度によって暖炉に火が入っているかどうかわかりにくいんですよね。だから威勢よく燃やしてみたのではないでしょうか。
あ、それと、既にツイッターで他の方が指摘されていましたが、これ以前のシーンでも、ホームズの服のディティールが細かくなっているのもわかると思います。せっかくホームズのスクショを撮ったので、ここで紹介しておきます。コートの肩のマークや、点線の縫い目にご注目。

3DS/スマホ版(iOSより)↓





PS4版↓





Susato
'Oh James, I love you.
Yours, Mary'

スサト
『おおジェームズ、愛してるの
 メアリより』


Garrideb
For heaven's sake, woman! Look at the name!
It's written to 'James'!
My name, in case you'd forgetten, is John!
AAAAAAAAAGH!!!

ガリデブ
だいいち。名前を見ろ!
“ジェームズ”ではないかッ!
ワシの名前は“ジョン”だろうが!
あちちちちちちちちちちちちちちちッ!


上のやりとりは原作ホームズネタ。
短編集第1作「The Adventures of Sherlock Holmes(シャーロック・ホームズの冒険)」に収録された「The Man with the Twisted Lip(唇のねじれた男)」にて、原作のジョン・H・ワトソンの妻メアリ(Mary)が、何故かワトソンのことを「ジェームズ(James)」と呼ぶという謎のシーンがあり、これをもじったネタなのです。
唇のねじれた男 - Wikipediaの、「ワトスンの名前について」という項目を参照のこと。

Garrideb
Worst of it is, I lost my fabourite.
Book called 'The Lion's Pride'.
Sholmes
'The Lion's Pride'? Ah, yes, your notorious love of big cats
coming through again.

ガリデブ
読みかけだった『獅子王物語』ごと、
お気に入りの本を失ってしまったのです。
ホームズ
『獅子王物語』‥‥か。やはり。
獅子(ライオン)への強いアコガレを感じるね。


法廷パートでも問題になる「獅子王物語」は、英語版にて「The Lion's Pride」となっています。
この件については、以前当ブログでもちょっと触れたことがありますが、3DS/スマホ版では、表紙に「The Adventure of the Lion's Mane」と書いてあったのです。
短編集第5作「The Case-Book of Sherlock Holmes(シャーロック・ホームズの事件簿)」に、同じタイトル「The Adventure of the Lion's Mane(ライオンのたてがみ)」が収録されているのですが、これが本作では別物の「The Lion's Pride」に変更されたのです。
理由は例によって、ホームズの著作権的なものかもしれませんが‥‥
それとも、ガリデブの「ライオンへの憧れ」を表現するのに、「The Adventure of the Lion's Mane(ライオンのたてがみ)」ではちょっと違うぞ、となったのか。
(ホームズ原作の「The Adventure of the Lion's Mane(ライオンのたてがみ)」には、猛獣の方のライオンは登場しないのです)
もし、変更されなかったとしたら、上の会話でSholmesのツッコミが「ボクが登場している本じゃないか」になっていたのかなあ。

???
I know thee not, old man: Fall to thy prayers!
???
Who are you calling an old man...you rum-lookin'
niminy-piminy?!

???
‥‥おまえなど知らぬ、老人よ。
お祈りでもしているがよいだろう。
???
誰が老人だッ!
珍妙なカッコウしやがって!


niminy-piminy:上品ぶった
あのふたりがチラ見せ。どうやらガス会社のあの人もコックニーの使い手の模様‥‥
最初のセリフはウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare)の歴史劇「Henry IV Part 2(ヘンリー四世 第2部)」から取られたものです。
シャーロック・ホームズ原作は19世紀末から20世紀初頭にかけて書かれていますが、日本人が中学校や高校あたりで習う英語の知識で充分読めるほど、現代でもわかりやすい英語になっています。ですがシェイクスピアといったら16世紀から17世紀に作品を発表していますから、「古い英語」が使われていて、上でも「thee」や「thy」って英語? なんだこれ? ってなりますね。
「thee」は今でいう「you」で、「thy」は今でいう「your」の意味。辞書を引くと、昔っぽく「なんじ(汝)」とか「そなた」と和訳してあったりします。

Soseki
If if I were a cat, I would purr with pleasure at the
company of such fine compatriots.

ソーセキ
異国の地において、吾輩‥‥
同胞のありがたさ、あらためて知る也。


英語版は、「もし吾輩が猫だったら、このような素晴らしい仲間と一緒にいることを喜んで鳴きましょうぞ」
英語版は何かと猫ネタを入れてきますね。
日本人は「夏目漱石は『吾輩は猫である』の作者」だと、ほとんどの方が知っているので、漱石の部屋に猫が居ても「『吾輩は猫である』からのネタだな」とすぐわかりますが、海外プレイヤーのほとんどはそういう訳にはいきません。
だから、英語版においては、Soseki Natsumeは猫好きだというキャラを押し出しているのかな、と感じるところが多々ありますね。いわゆる「キャラ付け」というやつなのでしょう。
※「大逆転裁判」の夏目漱石は、実在の夏目漱石をモデルにした架空のキャラクターです。

Soseki
THE MISERABLE, ROTTEN SPY!
HERR LOCK SHOLMES!

ソーセキ
にっくき悪の《密偵》‥‥‥
アノシャーロック・ホームズッ!


大文字で怒るSosekiさん。Sosekiさんは叫ぶ時はだいたい大文字でセリフが表記されます。

Sholmes
And there is much truth in Mr Moustache's words.

ホームズ
その、ミスター・ヒゲの言葉。
意外に《真実》かもしれない。


moustache:口髭(上唇の直上に生えるヒゲを指す)、主にイギリスで使われる単語。
なので、「Mr Moustache」は、「ミスター・ヒゲ」の意味です。

Soseki
Please! Tell me! Summarise it succinctly in sixteen salient
words!
Ryunosuke
No defendant has ever survived a trial in which the
Reaper stands for the prosecution...ever.

ソーセキ
に‥‥2行でッ! 30文字以内で、
カンケツに説明してごらんなさいッ!
ナルホド
彼の法廷で、これまで助かった
被告人は、1人もいないそうです。


何文字以内で説明しろというネタは「逆転裁判 蘇る逆転」5話でもありましたね。
「蘇る逆転」5話でも、今作英語版でも、文字数ではなく「ワード数(単語の数)」で、となっています。
漱石は「お願いだから教えてくだされッ! 16ワードで簡潔に!」と言っています。
Ryunosukeは16ワードぴったりで答えていますね。

Sholmes
Whather or not one should trust another is, in the final
analysis, down to oneself.
It is a matter of whether or not one can trust oneself.

ホームズ
誰かを信じるコトができるか、どうか。
‥‥それは、ケッキョクのところ。
ボクが、ボク自身を信じられるかどうか。
‥‥それだけのことなのだ。


ホームズの明日使える名言で、探偵【その2】解説は終わり。
次回は法廷パートです。

~と言いつつ、おまけ~

漱石が買った本のタイトルのところで触れた、公式開発ブログの最終回に掲載の元ネタですが、ついでなので、どこでネタが見られるのか書いておきますね。
※自力で探したい方はスルーしてください。
  • 『オッターモール氏の手』(“The Hands of Mr Ottermole”)
    ‥‥2の4話、「ローザイク蝋人形館」で警備をしていた老警察官を、ホームズは「殺人警察官オッターモール」だと勘違いする。
  • ルコック探偵(Monsieur Lecoq)と彼を作った作家エミール・ガボリオ(Émile Gaboriau)
    ‥‥今回紹介の、漱石が買った本。
  • ジョン・イヴリン・ソーンダイク(Dr John Evelyn Thorndyke)
    ‥‥ビリジアンが通っている美術学校の名前が「ソーンダイク美術学校」。2の2話より。
  • ソーラー・ポンズ(Solar Pons)シリーズ
    ‥‥2の3話、法廷【その3】の最終弁論で陪審員1号をゆさぶると、新聞を読んでいた1号が「ソーラーポンズ通りの連続殺人事件、2日で解決‥‥」という話をする。
  • 黒後家蜘蛛の会(ブラックウィドワーズ/the Black Widowers)と彼らの“比べるもののない”給仕ヘンリー・ジャクソン(Henry Jackson)
    ‥‥2の4話、法廷【その1】の尋問「目撃したこと」で、ある証言をゆさぶると、「パブ・ブラックウィドワーズはヘンリー街のカドを曲がってスグ」というセリフがある。
  • 当時のホームズのライバルでもある『隅の老人』(“The Old Man in the Corner”)を書いたバロネス・オルツィ(Baroness Emma Orczy)
    ‥‥2の4話、法廷【その2】終盤で、「バロネス亭」という店の名前が登場。

次 法廷【その1】



英語版「大逆転裁判1&2 -成歩堂龍ノ介の冒險と覺悟-」解説

■大逆転裁判1

○Episode 1 The Adventure of the Great Departure(第1話 大いなる旅立ちの冒險)

1.法廷【その1】(1)
 法廷【その1】(2)
2.法廷【その2】
3.法廷【その3】

○Episode 2 The Adventure of the Unbreakable Speckled Band(第2話 友とまだらの紐の冒瞼)

1.探偵【その1】(1)
 探偵【その1】(2)
2.探偵【その2】
3.探偵【その3】

○Episode 3 The Adventure of the The Runaway Room(第3話 疾走する密室の冒險)

1.探偵【その1】
2.法廷【その1】
3.法廷【その2】
4.法廷【その3】

○Episode 4 The Adventure of the Clouded Kokoro(第4話 吾輩と霧の夜の冒險)

1.探偵【その1】(1)
 探偵【その1】(2)
2.探偵【その2】
3.法廷【その1】
4.法廷【その2】

○Episode 5 The Adventure of the Unspeakable Story(第5話 語られない物語の冒險)

1.探偵【その1】(1)
 探偵【その1】(2)
2.探偵【その2】
3.探偵【その3】
4.探偵【その4】
5.法廷【その1】
6.法廷【その2】
7.法廷【その3】
8.法廷【その4】(1)
 法廷【その4】(2)

Escapades(番外編 ランドストマガジン)解説へ

英語版「大逆転裁判2」解説へ