52.『生きるとは、自分の物語をつくること』/わたしが紡いだ物語
私の手元に『生きるとは、自分の物語をつくること』という本があります。臨床心理学の大家である河合隼雄と小説家の小川洋子の対談本です。この本は小川洋子の『博士の愛した数式』の映画化をきっかけに編まれました。河合先生が急逝されたためこの本は先生の最後の対談本となりました。何度も読んだ本です。わたしは河合先生の本がとても好きです。矛盾をどう生きるかというところにそのひとの個性が光るのではないか、と河合先生は言っておられます。矛盾を生きるためにそのひとの物語が必要なのだと。そのままでは受け止めきれない現実を物語にして記憶する作業が必要だと小川洋子は語っています。記憶を編んでいく。ひとつひとつの出来事のすきまを自分なりに埋めていく。自分の文脈を見つける。記憶を織って物語にする。自分なりの物語をつくる。事実だけでは生きていくのは苦しい。物語がないとわたしは生きてはいけません。わた しは今、自分の手で自分の物語を織り上げているという実感があります。それはとても幸福なことだと思います。わたしが紡いだ物語ではリュウさんとのことは大きなしみなのかいつまで経っても色褪せない鮮やかな紅色で縫い取られた刺繍なのか。わたしはわたしの織物を遠くから見ることはできません。リュウさんにはリュウさんの物語があるのでしょう。わたしはその一部に小さな刺繍を添えたのか。わたしの恋人の物語ではわたしはどんな色の糸で織り上げられているのでしょう。柔らかな色だといいな、とわたしは思います。