このあいだ、用事があって電車に乗りました。
ふだんは、どこに行くにも
車に乗ってゆきます。
ドアを閉めて、好きな音楽をかければ
そこはわたしだけの世界。
道に迷っても、自分の力で何とかする。
Uターンは結構得意。
迷うのはいつものこと。
電車は、疲れるからきらい。
たくさん、ひとがいるからきらい。
ひとの話が聞こえすぎて、きらい。
駅が大きすぎて
ひとの流れが速すぎて
見えるものが多すぎて
だいきらい。
高校生のころ、電車通学をしていました。
あるとき、帰りが遅くなりました。
暗くなった夜のなかで
電車の窓の外をぼんやりと見ていました。
団地の窓に、明かりが灯っていました。
明かりの数だけ家庭があって
それぞれの暮らしを過ごしているのだと思うと
無数の蟻の群れを見たときのような
嫌悪感を不意に、強烈に覚えて
そんな感覚を抱いた自分に
罪悪感を持ちました。
15歳のころの話です。
車の助手席から景色を見るのは好き。
バスの窓から景色を眺めるのはもっと好き。
電車の窓から見る景色はどこか切なくて
やりきれない気持ちが
いつもぬぐいきれない。
ごてごてしたネオン。
おもちゃみたいに同じ色
同じ形の新しい家の群れ。
雑居ビルの裏側。工場の跡地。
すべてに物語があるかと思うと
蟻の群れのような感覚がよみがえってきて
わたしには処理しきれなくなる。
シャッターを下ろして
わたしひとりの世界に逃げ帰る。
わたしの周りの景色も
少しずつ変わってゆきます。
変化は避けられないこと。
わたしの髪が風でさらり、と揺れるように
わたしの気持ちを揺らして
新しいことが起こり、通り過ぎていきます。
帰りに駅から出て
ショーウィンドゥに映る自分の姿を
ちらりと眺めます。
ちゃんと背筋が伸びていました。
わたしはすこし笑って、歩きはじめました。