第4章54偈
花の香りは
風に逆らっては進んで行かない。
栴檀もタガラの花もジャスミンも
みなそうである。
しかし徳のある人々の香りは、
風に逆らっても進んで行く。
徳のある人は
すべての方向に薫る。
中村元博士訳
解説
花の香りは風に逆らっては進んで行かない。これは当然のことで説明の必要もな
いことです。栴檀(香木・白檀)も、タガラ(最高の香木・伽羅)も、ジャスミン
(香木・茉莉花)の香りもみな風に逆らっては進んで行きません。しかし徳のある
人々の香りは、風に逆らっても進んで行きます。「徳のある人」とは、一般的に
は、信望のある人とか行いが立派な人のことを言います。しかし、ダンマパダの時
代を考慮しますと、「徳のある人」とは、在家では、托鉢僧への供養を欠かさず行
ない、不殺生戒等の五戒を守って生活している信者を、また出家の弟子(比丘、比
丘尼)では、比丘(男性の修行者)は250戒、比丘尼 (女性の修行者)は350
戒の戒律(厳密には、戒は善いことを行なおうという自発的な精神を言い、律は修
行生活をする為に必要な規律を言います。しかし、一般的には、区別せずに戒とか
戒律と言っております。)を守って修行している弟子を指していると思います。
「徳のある人々の香り」は、風に逆らっても進んで行き、すべての方向に薫るの
です。「徳のある人々香り」とは、「戒律の実践者の香り」です。「香り」とは何
か、全くの私的な解釈ですが、人を励まし善行を促がすようなエネルギーを意味し
ているのではないかと思います。
中勘助氏は、この54偈を読んで、「華香」という詩を書いております。「古き
み経の教へにいはく 華香は風に逆らへてゆかず 栴檀、タガラ、マリカの香もま
た風に逆らへてゆかず 持戒の人のみひとり四方に香をはなつ あわれこの言の葉
たとへば金糸をもてわが胸の白絹に縫ひとりせるごとく 年をふれども色あする
ことなし げにや持戒のひとのみひとり四方に香をはなつ 栴檀、タガラ、マリカ
の香も風に逆らへてゆかざるに 持戒の人のみひとり四方に香をはなつ」
(岩波「中勘助全集」第14巻)
kenyu.o
香木ビャクダン(白檀) 学名・santalum album
<wikipediaの写真を借用>