第8章103偈
戦場において
百万人に勝つとしても、
唯だ一つの
自己に克つ者こそ、
実に
最上の勝利者である。
中村元博士訳
解説
この偈は、易しい、分かりやすい言葉で翻訳されておりますが、しかし奥が深く、表層的に簡単に解説できないような気がします。このことは、全ての法句に言えることだと思います。表層的に解説しようと思えば簡単ですが、これでは往々にして分かったようで分からないような解説に終わってしまうことになります。
「最上の勝利者」とは、大勢の人達と競い合って勝ち抜いた勝利者という意味ではありません。「唯一つの自己に克つ者」こそが最上の勝利者なのです。
「自己に克つ」とはどういうことでしょうか。それは、「自己の内にある煩悩に克つ」ということです。煩悩とは、法句99偈で説明しましたように、貪瞋痴の三を言います。これを三毒とも言いますが、この根本は癡です。貪は貪りであり、愛着であり、瞋は怒りであり恨みです。癡は、全ての物は変化する、無常(変化しない独立した存在は無い)であるという真理を知らず、まるで変化しない自分があるかのように錯覚して、その自分に執着(一つのことに心をとらわれる)し、愛着や怒りや怨みの心を起こすことですが、この偈では、この煩悩を克服した人を「自己に克つ者=最上の勝利者」と記しております。もう少し簡単に言いますと、本能に流されて何を仕出かすか分らない自分を制御できる者こそ勝利者である、ということです。
煩悩を克服できれば、世の様々な現象は幻のように実体のないものだと分かるでしょう。そのことが分かれば自分が心身ともに解放され、ものごとの捉われから離れることができます。そうすると、人の言動に一喜一憂したり、ものごとにいちいち左右されない生活こそが、自分の生活だと思うようになります。即ち、地に足のついた自分の人生を歩むことができるようになります。これこそ最上の勝利者でしょう。
ブッダは、この煩悩を克服する方法を説かれました。「法句経(ダンマパダ」もそうです。「スッタニパータ」もそうです。日常生活において、この法句を一つ一つ実践し、自己を調え、自己を制御し、煩悩を克服するために前向きに共に努力して行こうではありませんか。
kenyu.o
サールナート 初転法輪寺壁画「降魔成道」野生司香雪画
2018.11.15撮影
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