第4章52偈

 

  うるわしく、あでやかにく花で、

 しかも香りのあるものがあるように、

 く説かれたことばも、

 それを実行する人には、

 みのりがる。

                     中村元博士訳

 

 

 

 

  解説

 

  山野の花は、ビニールハウス栽培の花よりも、色も香りもすぐれています。このこ

 とは、花好きの人なら誰でも知っていることです。沢庵和尚たくあんおしょうの歌に「雨露に 打た

 るればこそ 紅葉もみじ葉の 錦を飾る 秋はありけれ」という歌があります。色も香り

 も優れているのは、自然の試練に耐え抜いて花を咲かせ実を結んだからでありまし

 ょう。

  高田敏子さんは「美しいものについて」という詩で「花は咲く 誰が見ていなく

 ても 花のいのちを美しく咲くために」と、また、八木重吉さんは「花はなぜ美し

 いのか ひとすじの気持ちで、咲いているからだ」とうたっています。花は花である

 ことのために、ただそれだけのために、ひとすじの気持ちで咲くのです。

 善く説かれた言葉(法句・教え)は、山野の花と同じように色も香りも優れていま

 す。善く説かれた言葉を、理解し、実行する人には、花がやがて実を結ぶように、

 善い結果が得られることでありましょう。

  美しい花を見て感動する人は当然、善く説かれた言葉(法句・教え)を聞いても

 また感動することでありましょう。しかし、一時は感動し実践するかもしれません

 が、その感動も時間とともに薄れて行き、実践することもんでしまいます。日蓮

 聖人は、「魚の子は多けれども魚となるは少なく菴羅樹あんらじゅの花は多く咲けども果にな

 るは少なし、人も又かくの如し、菩提心ぼだいしん(ブッダと同じ悟りを得ることを目指す心)

 をおこす人は多けれども退せずしてまことの道に入るもの少なし、すべて凡夫の菩提心は多

 く悪縁あくえん煩悩ぼんのう)にたぼらかされ(まどわされ)、事にふれて移りやすき物也。よろいを著

 (着)たる兵者つわものは多けれども戦に恐れをなさざるは少なきが如し。」(松野殿御返

 事)とご教示されております。日蓮聖人のご教示の通り、真理の言葉を聞いて、そ

 れを実行することは難しいことなのです。しかし、実行しなければ実りがないので

 す。以て銘記すべきでありましょう。                                                          kenyu.o

 

 

 

 

 

  モクセンナ(木旃那) ルンビニ(ネパール)にて

                                                 2018.11.21撮影