疫学(えきがく)とは?・・・集団から病気を探ってみる
こんにちは。橋本です。
病気の特徴を知るのには、その病気にかかった経験がある人に「どんなふうだったか」を直接聞くのが、手っ取り早いですよね。
はじめは、こう。で、こうなって。こうしたら、こうなって。これぐらい経ったら、治った。
いわゆる、「症例」とか「体験談」というものですね。
しかし、体験談は参考になる部分は多いものの、当てにならない部分もあります。
なぜかというと、病気の種類によっては、症状や経過の個人差が大きいことがあるからです。
1つの体験談をうのみにしてしまうと、「いってたことと、違うじゃないか」ということも、当然あるわけですね。
そこで、この問題を乗り越えて、病気の原因、特徴にせまっていく手法があります。
それが「疫学(えきがく)」というものです。
今現在のアトピー治療の前進にも、疫学は大きくかかわっています。

疫学とは
疫学とは、病気や健康の因果関係、「何が原因で、そうなるのか?」をあきらかにする学問のこと。
「なんでそうなるのか」という仮説を立てて、データを取って検証してく手法です。
疫学の特徴は、集団に対してデータを取っていく点。
1つの症例から結論を導き出す手法とは、大きく違います。
つまり、疫学は、
→ 仮説を立て、
→ 集団のデータを取って検証することで、
→ 様々な因果関係をあきらかにする
この繰り返しで、健康にかかわること、病気に関する未知の部分をあきらかにするのに、とても有効な手段です。
疫学の「疫」は、「伝染病」を意味する「疫病(えきびょう)」の「疫」に由来しています。
疫学で取り扱うのは、伝染病だけではありませんが、もともとは伝染病を研究するために使われていた学問なんですね。
では、ここで実際の例。
世界で最初といわれている、疫学を使った調査を紹介します。
コレラの大流行
疫学のはじまりは、イギリスの麻酔科医、ジョン・スノーによるコレラ研究だといわれています。
コレラは伝染病のひとつで、感染力がとても強く、大量の下痢と嘔吐によって、現在でも死者が出る病気です。
昔は「黒死病」ともよばれ、効果的な治療法がなく、致死率が75%もあったという記録も残っています。
コレラがはじめてイギリスで確認された当時(1831年)、コレラにかかる原因は不明で、空気感染で広まると思われていました。
悪臭に満ちたガスが原因だと。
しかし、ジョン・スノーは、当時のこの一般的な考え方に、首をかしげました。
コレラが流行している現場を見ていると、すべての人に均等に病気が広がっていない。
あきらかに、とびとびに、人を選んで、病気が広がっている。
その現状を見て、当時の空気感染説に疑問を持ち、「汚染された水を飲むとコレラになる」という仮説を、まず立てたんですね。
検証手法に革命がおきたのは、ここからです。

あの井戸を封鎖しろ!
1848年、コレラ患者が多量発生した地区。ロンドンのソーホー地区。
スノーは、地図に患者の家を塗りつぶしていくことで、ある井戸の周辺に患者が集中していることを発見しました。
そこで、その井戸の手押しポンプのレバーを取り外すよう、スノーは水道会社に指示。
井戸を使えなくすることで、その後のコレラの発生が見事、ぴたりとやみました。
つまり、飲料水がコレラの感染源であることを、はじめて突き止めたんですね。
それまでの、「コレラはガスで広がる」という常識をくつがえしたのです。
これは1883年にドイツの学者、コッホがコレラの病原体、「コレラ菌」を発見する30年も前の話です。
病気をメカニズムからではなく、観察によって原因を推定し、詳細にデータを集めて分析する。
このジョン・スノーによる研究は、現代でも行われている手法、「疫学」の基礎になりました。

「疫学の父」ジョン・スノーのストーリー
コレラの大流行を検証する中でうまれた、疫学。
その疫学が現代社会、都市、科学にあたえた影響を描いたもので、「感染地図」という本があります。
この著者、スティーブ・ジョンソンが、疫学を説明する動画がとてもわかりやすいので、最後に紹介しておきますね。
インターネットでこの動画を無料で提供してくれているのは、TEDという有志が集まったグループ。
日本語字幕も有志をつどっておこない、運営資金は、スポンサー企業(TOYOTAなど)によって支えられています。
亡くなる直前まで、認められることのなかったジョン・スノー。
スノーのような先人たちの地道で、時として報われない努力の積み重ねによって、今日の社会は成立しているんだなあ、としみじみ思ったりします。
「健康に対する考えかた」を刺激してくれるストーリー、面白いトークショーです。
参考動画(10分):
スティーブ・ジョンソンが語る「感染地図」(TED 日本語字幕)






