きれいにしすぎるとアレルギーになるの?
はーい。ボクの名前はチャッピー。
ボクのことを嫌ってる人がいるんだ。
いや、別に人には好き嫌いがあるのは当然。嫌われようが、どうしようが気にしない。
ふつうならね。
ただ、ボクを敬遠する理由が気に入らないときもあるんだ。
ある時。
ボクを、きらきらした目で、じーっと見つめるお姉さんがいたんだ。
きれいなお姉さんだったんだけど、なんだかおなかがふっくらしていた。
たぶん、おなかにちっちゃな赤ちゃんがいたんだね。
やさしくボクを見つめるお姉さん。
「ねー、パパさん。わたし、このワンちゃんに、ひとめぼれしちゃったー」
向こうから、男の人がやってきた。おそらく、旦那さん。
「うん、かわいいワンちゃんだね。ポメラニアン?」
「前からワンちゃん飼いたかったの。これって運命の出会いかも。この子をうちで飼ってみようかな?」
よしっ。ボクは、心の中でガッツポーズをした。
思わずくるくる回っちゃった。けど・・・。
「えー、ダメだよ。かわいいのはわかる。だけど、犬なんか飼うと、生まれてくる赤ちゃんがアレルギーになっちゃうだろー」
「そっかー。赤ちゃんのためなら、しかたないか。そうだね」
「残念だけど、また今度考えよう」
あー、ショック。
「何がショックか」って?
ボクが、赤ちゃんをアレルギーにしてしまう原因にされてるってこと。
たしかに、ペットに対してアレルギーをもってしまった人に近寄らないほうがいい。
それはボクも、よくわかっているんだ。
でも、「ペットがいるからアレルギーになってしまう」というのは間違いだと思うよ。
それどころか、アレルギーの予防にかかわっているかもしれないんだ。
なぜか?
1989年。イギリスのストラーンという学者が、“衛生仮説”っていう論文を出したんだ。
アレルギー体質の人は、発展途上国で明らかに少なく、経済発展が進んだ国で多い、ってことが知られていた。
衛生環境が整ってない国でアレルギーが少なく、衛生管理がゆきとどいた国でアレルギーの病気が多い。
つまり、「アレルギー体質の人が増えたのは、きれいになりすぎたのが原因」というわけ。
この話、あなたも耳にしているかもしれませんね。なんとなくそんな話、聞いたことあるなー、ぐらいには。
ただ、この衛生仮説。
1989年の時点では、裏付けるデータにとぼしい、あくまでも1つの「仮説」にすぎなかったんだ。
それが、この20年あまりでどうだろう。
衛生仮説に疑問を投げかける人も多くいる中で。
衛生仮説の説明とつじつまのあう、調査データ結果。40件をこえる研究報告が発表されている。
こどもの体で何がおこっているのか?
仮説はこんなふう。
人間体内には、バイ菌や病原体と戦うしくみが、生まれつき備わっている。
これを「免疫」というんだ。
一方、「免疫」が必要以上に働いてしまうと、体にとって無害なものに対しても反応してしまう。
それが、「アレルギー」。
正常なときは、この「免疫」と「アレルギー」のバランスがとれているんだ。ちょうど、つりあった天秤(てんびん)のように。
ママのおなかにいる赤ちゃんは、まだバイ菌などにさらされていないので、産まれた瞬間は、「アレルギー」のバランスが少し強い状態。
それからどんどんとバイ菌、病原体にさらされて、体調を悪くしながらも、「免疫」が強くなっていくんだ。
きたないものにも、ほどほどにさらされながら、「免疫」と「アレルギー」のバランスが、お互いにとれていくんだ。
でも、あまりにもきれいにしすぎると、どうだろう?
「免疫」が活動する必要がなく、働きをサボってしまうことになるんだ。
そうすると、徐々に「アレルギー」が力を強めてしまうのではないか、というわけ。
これが、衛生仮説の重要な部分。
「アレルギー体質の人が増えたのは、きれいになりすぎたのが原因ではないのか」という考えなんだ。
だから、妊婦さんがアレルギーの予防のために犬や猫を遠ざける。
そこまでしてしまうのは、やりすぎだと思うんだ。
赤ちゃんからペットを遠ざけるのもそう。
日頃みていて、赤ちゃんが「ペットにアレルギーをもっている」と確信した時点。
そこで初めて、ペットを遠ざけるように工夫をしたらいいと思うんだ。
そうでなければ、ペットと普通に生活する分には、「免疫」を刺激して、「アレルギー」の活動力を弱めてくれるかもしれないんだね。
「免疫」と「アレルギー」はバランス関係にある。
一方が盛んに活動するようになれば、もう一方は活動がにぶる。
なんだか難しい話になってしまったけど。
あまりにもきれいにしすぎると、アレルギーになるリスクを上げるかもしれない、っていう話。わかってくれたかな?
だから、ボクを嫌わないでね。
「顔がブサイクだから嫌い!」って嫌うんなら、しかたないけど(苦笑)。
ボクらは、人間と生活することが幸せなんだ。
いつでも、待ってるよ。じゃあ、またね。