「補完・代替医療の現状と課題」を読む(その22)
「補完・代替医療の現状と課題」の解説22回目である。
今回は、エステティック産業が
ボディケア、リンパドレナージュ、アロマテラピー、足つぼ、リラクセーション
などを取り込んでいった時代背景はどのようなものであったか、
筆者の論文でも取り上げた
昭和40年代以降の健康ブームの再興について触れていくことにする。
昭和49年、社会的ブームとなった紅茶キノコを
覚えておいでであろうか。
日本万国博覧会が昭和45年に開催されたので、
その前後と考えていただければ良いだろう。
紅茶キノコに代表される「健康ブーム」の火付け役となったのが
健康雑誌「壮快(昭和49年創刊)」であるが、
筆者はこの健康産業の再興のきっかけとなったエピソードとして
紅茶キノコを例に取り取り上げた。
それは、以下のような理由からである。
○ ステレオタイプな見出し、キャッチコピーを用いて
簡単な手法で健康を享受できるかのような宣伝を行う。
正統的医療システムが国民皆保険制度と共に
サービスされている我が国で、
更に医療へ挑戦するかの如き「健康ブーム」が
巷を席巻する事になったのである。
紅茶キノコは懐疑的な医師達の追跡調査で「健康的効果はない」と
結論され、それまで芸能人をはじめとする数々の著名人の「体験談」
を後ろ盾にした一大ブームは終焉を迎えた。
しかし、いわゆるワイドショウが情報を提供する時代
になっていた我が国では次から次へと
あらたな「体験談」を中心とした健康法が取りざたされ、
それは現在の「バナナダイエット」などに代表される
一過性の報道による食材ブームにつながるようになっていった。
そのような数々のブームの中で新しいカテゴリーが登場する。
これが昭和60年頃に紹介された「ハーブ医学」のブーム的広がりである。
「ハーブ医学」はそれまでの健康ブームとは規模が異なる
一つのカテゴリーであり、
「○○で何キロやせた」とか「○○で腰痛を撃退」というような
ステレオタイプな見出しとは異なる仕組みを持っていた。
ブームとして取り上げられたハーブ医学がカバーする領域が
「正当医学」と同じか、更に凌駕するほどの領域をカバーしている
(リラックスやアンチエイジングなど)とされ、
主に女性週刊誌、テレビなどで「これで健康を」という
タイトルの元、頻繁に取り上げられるようになっていった。
さて、
慶應大の鈴木晃仁先生が書かれた論文
(治療の社会史的考察-滝野川健康調査(1938)を中心に.
『分別される生命―20世紀社会の医療戦略』.
法政大学出版局.2008.)の中には昭和初期の
医業類似行為と医療との関係について
重要な指摘が見られる。引用しよう。
以下、『分別される生命―20世紀社会の医療戦略』より転載
______
医師たちが、行政と司法が療術行為に対して取った容認的な
態度に憤るとともに、これらの行為を非科学的な詐欺行為として
糾弾したことは予想できる。
しかし、医師たちの療術行為に対する批判を注意して読むと、
そこには重要な側面が隠されていることが明らかになる。
医師たちが療術行為をただのインチキだといって
済ませられなかった理由は、行政と司法の「無理解」だけではなく、
療術行為の支持層であり顧客層の問題であった。
療術行為は、中産階級に支持されていることは
早くから指摘されていた。
柿本は「ブル [ジョワジー]階級と知識階級」と表現している。
これは医師たちにとって顧客の中心であり、
少なくともかつては文化の発展と医療の進歩を信じている
イデオロギー的な盟友でもあり、医師たちが無知蒙昧であると
蔑む階層ではなった。 (柿本 1933)
療術行為の顧客を論じた医師たちの論考の中には、
盟友に裏切られたショックが
にじみ出ている。
_____
以上、『分別される生命―20世紀社会の医療戦略』より転載
鈴木先生によれば、
医師達のショックと医業類似行為の取締への
モチベーションは、
当時の医業類似行為が、医師の行う医療の顧客であるはずの
ブルジョワジーからの支持を得たことが理由となっている、
と仰せだ。
筆者もその通りだと思う。
そして、昭和初期と同じ構図が、本論で今回取り上げた
「ハーブ医学」にもかかってくる。
何しろ、ハーブ医学なのであるから元々あった医学の大系の
一つであり、そしてそれは文字で言えばハーブであるが、
それは我が国でも用いられていた、
あるいは現在でも用いられている「生薬」を指す。
我が国では局方に収載されている
肉桂(Cinnamomum zeylanicum:シナモン)、
薄荷(Mentha piperita L.:ペパーミント)、
冬緑草(Gaultheria procumbens:ウインターグリーン)、
丁子(Eugenia caryophyllata:クローブ)
などを含んだ処方を症候に応じてブレンドした
ハーブティを服用する方法論である。
これまで医業類似行為として禁止されていた
「電気、手技、温熱、光線、精神療法」などとは
明らかに異なるイデオロギーということになる。
そしてそれは
「西洋からもたらされた「生薬」をハーブとして
症候ごとに適用する医療的免許の不要な健康法」
という意味で明らかにそれまでの医業類似行為とは趣を異にするのだ。
この「ハーブ医学」が鈴木先生の仰せの顧客層をどんどん取り込んで肥大化してくる・・・・。
今日はここまで。
※当ブログのコンテンツを無断引用、転載することを禁じます。
引用先として当ブログのURLを記載すること、ご一報いただくことを
引用、転載の条件としています。
尚、筆者の論文
「統合医療で取りざたされる徒手療法のあはき法との整合性
~癒し、リラックスの名の下に無免許施術が広がるわけ~」は
本年9月頃発刊の「日東医学会誌」に掲載されます。
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「補完・代替医療の現状と課題」を読む(その4)はこちら。
「補完・代替医療の現状と課題」を読む(その5)はこちら。
「補完・代替医療の現状と課題」を読む(その6)はこちら。
「補完・代替医療の現状と課題」を読む(その7)はこちら。
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「補完・代替医療の現状と課題」を読む(その9)はこちら。
「補完・代替医療の現状と課題」を読む(その10)はこちら。
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「補完・代替医療の現状と課題」を読む(その12)はこちら。
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「補完・代替医療の現状と課題」を読む(その17)はこちら。
「補完・代替医療の現状と課題」を読む(その18)はこちら。
「補完・代替医療の現状と課題」を読む(その19)はこちら。
「補完・代替医療の現状と課題」を読む(その20)はこちら。
「補完・代替医療の現状と課題」を読む(その21)はこちら。
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昭和49年、社会的ブームとなった紅茶キノコを
覚えておいでであろうか。
日本万国博覧会が昭和45年に開催されたので、
その前後と考えていただければ良いだろう。
紅茶キノコに代表される「健康ブーム」の火付け役となったのが
健康雑誌「壮快(昭和49年創刊)」であるが、
筆者はこの健康産業の再興のきっかけとなったエピソードとして
紅茶キノコを例に取り取り上げた。
それは、以下のような理由からである。
○ ステレオタイプな見出し、キャッチコピーを用いて
簡単な手法で健康を享受できるかのような宣伝を行う。
正統的医療システムが国民皆保険制度と共に
サービスされている我が国で、
更に医療へ挑戦するかの如き「健康ブーム」が
巷を席巻する事になったのである。
紅茶キノコは懐疑的な医師達の追跡調査で「健康的効果はない」と
結論され、それまで芸能人をはじめとする数々の著名人の「体験談」
を後ろ盾にした一大ブームは終焉を迎えた。
しかし、いわゆるワイドショウが情報を提供する時代
になっていた我が国では次から次へと
あらたな「体験談」を中心とした健康法が取りざたされ、
それは現在の「バナナダイエット」などに代表される
一過性の報道による食材ブームにつながるようになっていった。
そのような数々のブームの中で新しいカテゴリーが登場する。
これが昭和60年頃に紹介された「ハーブ医学」のブーム的広がりである。
「ハーブ医学」はそれまでの健康ブームとは規模が異なる
一つのカテゴリーであり、
「○○で何キロやせた」とか「○○で腰痛を撃退」というような
ステレオタイプな見出しとは異なる仕組みを持っていた。
ブームとして取り上げられたハーブ医学がカバーする領域が
「正当医学」と同じか、更に凌駕するほどの領域をカバーしている
(リラックスやアンチエイジングなど)とされ、
主に女性週刊誌、テレビなどで「これで健康を」という
タイトルの元、頻繁に取り上げられるようになっていった。
さて、
慶應大の鈴木晃仁先生が書かれた論文
(治療の社会史的考察-滝野川健康調査(1938)を中心に.
『分別される生命―20世紀社会の医療戦略』.
法政大学出版局.2008.)の中には昭和初期の
医業類似行為と医療との関係について
重要な指摘が見られる。引用しよう。
以下、『分別される生命―20世紀社会の医療戦略』より転載
______
医師たちが、行政と司法が療術行為に対して取った容認的な
態度に憤るとともに、これらの行為を非科学的な詐欺行為として
糾弾したことは予想できる。
しかし、医師たちの療術行為に対する批判を注意して読むと、
そこには重要な側面が隠されていることが明らかになる。
医師たちが療術行為をただのインチキだといって
済ませられなかった理由は、行政と司法の「無理解」だけではなく、
療術行為の支持層であり顧客層の問題であった。
療術行為は、中産階級に支持されていることは
早くから指摘されていた。
柿本は「ブル [ジョワジー]階級と知識階級」と表現している。
これは医師たちにとって顧客の中心であり、
少なくともかつては文化の発展と医療の進歩を信じている
イデオロギー的な盟友でもあり、医師たちが無知蒙昧であると
蔑む階層ではなった。 (柿本 1933)
療術行為の顧客を論じた医師たちの論考の中には、
盟友に裏切られたショックが
にじみ出ている。
_____
以上、『分別される生命―20世紀社会の医療戦略』より転載
鈴木先生によれば、
医師達のショックと医業類似行為の取締への
モチベーションは、
当時の医業類似行為が、医師の行う医療の顧客であるはずの
ブルジョワジーからの支持を得たことが理由となっている、
と仰せだ。
筆者もその通りだと思う。
そして、昭和初期と同じ構図が、本論で今回取り上げた
「ハーブ医学」にもかかってくる。
何しろ、ハーブ医学なのであるから元々あった医学の大系の
一つであり、そしてそれは文字で言えばハーブであるが、
それは我が国でも用いられていた、
あるいは現在でも用いられている「生薬」を指す。
我が国では局方に収載されている
肉桂(Cinnamomum zeylanicum:シナモン)、
薄荷(Mentha piperita L.:ペパーミント)、
冬緑草(Gaultheria procumbens:ウインターグリーン)、
丁子(Eugenia caryophyllata:クローブ)
などを含んだ処方を症候に応じてブレンドした
ハーブティを服用する方法論である。
これまで医業類似行為として禁止されていた
「電気、手技、温熱、光線、精神療法」などとは
明らかに異なるイデオロギーということになる。
そしてそれは
「西洋からもたらされた「生薬」をハーブとして
症候ごとに適用する医療的免許の不要な健康法」
という意味で明らかにそれまでの医業類似行為とは趣を異にするのだ。
この「ハーブ医学」が鈴木先生の仰せの顧客層をどんどん取り込んで肥大化してくる・・・・。
今日はここまで。
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尚、筆者の論文
「統合医療で取りざたされる徒手療法のあはき法との整合性
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