【体験記】白内障だったんです。#8 | ワールズエンド・ツアー

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田中ビリー、完全自作自演。

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【体験記】白内障だったんです。#8


 術後の目に触れられないよう、大きな眼帯を貼り付けられて自宅へと帰る。痛みや違和感はない。

「あとひとつ」という心境だった。明日朝には右目の手術が待つ。


 手術はほとんどの場合が日帰りだそうだ。高齢の方、遠方の方、余病の状態が良くない方……そのような条件がある場合のみ、一週間~十日の入院もありうるが、七割から八割は日帰りだそうだ。


 翌日。5月30日。午前9時30分より右目の手術。
 昨日同様、一時間半前の8時00分に来院。

 眼帯が外され、新たな水晶体、多焦点人工レンズの挿入された左目が解き放たれる。

 見える。近くはまだ不鮮明だ、見え過ぎて手元がぼんやりする(生年月日や名前を印字したリストバンドの文字にピントがまだ合わない)、遠くは異常によく見える。そして世界が発光しているかのように眩い。
 青みがかった白の膜が張ったような視界だ。不快ではない。
壁が、廊下が窓の外が光を反射している。

 オペ前の右目と片方ずつ確認してみる。
 見えていたはずの右目さえ黄色く濁っている。淡い黄色のセロファン紙を透しているような色味だった。

 左目はひたすら眩しい。しかし、前日と違って足元がとてもクリアだ。手術室までの徒歩が容易くなるだろう。

「どうですか? メガネやコンタクトがいらなくなったんですよ」
「……不思議な……不思議な見え方ですね」
 経験はないけれど、色味が恐ろしく鮮明になった老眼のようなものなのだろうか、広げた手元の指や爪さえぼやけるのに、壁の時計は数字までよく見えるのだ。

「多焦点は慣れるのに時間かかりますからねー」
「……よくわかんないけど、こーゆーものなんでしょうねー」
……とてもいい加減な応対をする僕。


 事前に担当医から言われていた。

「近眼の人が多焦点レンズを挿れると違和感はあるものなんです。近眼の人はそもそもピントを近くに合わせすぎるから変に感じるんですね。でも、脳も目も慣れてくるから、見えるポイント、見やすいポイントを自然に探すようになるんですよ」と。

 同時に右目のオペを控え、前日と同じように散瞳の点眼を受けながら待つ。15分前には抗生薬の点滴も始まる。

 既に経験済みのせいか、血圧がとても低い。低いというよりは通常に戻っただけだが、上が90、下が60だと計測される。
前日は120と70だったので、やはり緊張していただろうことがわかる。

「血圧、低いですねぇ……。まあ、高そうには見えませんけど」
「テンションから低そうですよね」
 ナースたちにくすくす笑われる。
「二日目なんで緊張してないからです、きっと」
 普段から低めのテンションで生きているのだ。


 単焦点と付け比べられるわけではない。
 どちらが良いかなんてわからない。でも、僕は多焦点を選んだのだ、両目とも遠近両用レンズが入るのだ。
 いまさら考えるのも悩むこともできない。

 いまより悪くなることなんてない

 僕は昨日と同じ経路にて手術室に向かった。





【続く……(もうちょびっと)】 














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