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【体験記】白内障だったんです。#3
2015年5月11日の夕刻。
僕に下された病名は「緑内障」だった。
「いまのところ、その可能性があるので、視野検査をしておこうと思います」
どこか申し訳なさそうに老医師は言う。
「緑内障……」
言葉としては知っている、だが、詳細を知るわけではない、血縁者や知人にもいなかった。
その時点で知っていたのは、「失明原因の1位」とされている、根治のない進行性の眼病だということだけだった。
「今後、日をわけて三回、視野検査をやるから。平均をとるためです」
その日の夜。
僕は目の負担など考えもせず、ネットで「緑内障」について書かれた記事を片っ端から読んでゆく。
専門医のページから個人のブログまで、目につくものをひたすら咀嚼し、今後、どうしていくべきか、どうすればいいのか、思案を巡らせた。
結局、どこにも完治法は掲載されていなかった。
「治療法によって進行を食い止める」、「治療によって現在の視野を維持する」、「点眼薬による治療と定期的な通院検査が必要」、その三点だけは漏れなく記載があった。
いつか失明するのかもしれない。
その夜は一睡もできず、ただただ不安と恐怖にもがくだけだった。
翌日。
申し訳ないと思いながら仕事に行く気にはなれず、とりあえず「体調が悪い」と連絡して欠勤した、最初の視野検査に行こうと思ったのだ。
検査結果。
「右は正常、左にやや見づらいところがある。あきらかにクロではなくてグレー、境界線かな。ごくごく初期の緑内障だと思います」
老医師はそう言った。大丈夫、そうも言った。
「発覚が早くて良かった、(視野を)維持できるように気をつけて生活するしかない」
そう思おうとした。きちんと治療すればなんとかなるだろう、と。
…………いまになれば、だけれど。
医師を疑うわけではないけれど、セカンドオピニオンはとても大切なことです。
病気の種類にもよるけれど、生活の質に関わる病気や生涯、付き合っていく必要のある病気であるなら、別の医師の診察も受けたほうがいい。
医師によって治療方針、説明、ずいぶんと差があるものです…………
医師は神ではなく一人の人間だ、先入観や固定観念を持つことだってある、ごく単純に見逃す、見落とすことだってある。
実際、僕は緑内障の諸症状を自覚することはなく、自覚症状としては白内障のほうだった、けれど、診断結果を鵜呑みにして、その後、一年のも間、緑内障の治療、通院を続けてきたのだ。
しかし、僕の病気は白内障だったので、わずか半年後には左目の視力がずいぶんと落ちてきていた、信号が三つにわかれ、ぼやけて見えた。
メガネやコンタクトでも視力は矯正できず、小さな文字はピントが合わず、右目だけで生活していた。
僕自身、年齢的に白内障のことは考えなかった、緑内障が進行しつつあるのだとひたすら焦り、不安を募らせる日々だった。
それはまるで出口のない迷宮のようだった。
【続く】
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