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【体験記】白内障だったんです。#2
2015年5月。
一年と少し前に話は遡る。
以前から目の不調はあった。なにがどう不調なのかと言えば、左目がしっくりこないとしか言いようがない。
見えていないわけではない、コンタクトをすれば見える。だが、違和感がある。見え方が以前と違う気がした。目の前に薄い膜が張ったように感じるのだ。
「コンタクトが古くなったせいかもしれない」と思い、近くのコンタクト専門店に行って検査を受けた。
「視力は出てますね」
検査員は笑顔で言った。
このとき、まだ右目には自覚症状はなかった。異変を感じたのは左目だけだった。
片目ずつ前方のランドルト環を睨む。左目はなんとなくぼんやり霞んでいるような気がしたが、コンタクトで矯正された視力は1.2を計測していた。
「うーん……」
しかし、しっくりこない。ひょっとしたら老眼かな……そうも思う。スマホ老眼なるものをネットで知ったばかりだった。
「老眼とか出てません?」
僕は尋ねる。
「年齢的にはまだ……一応、検査だけしておきます?」
開いたノートを渡され、そこに印字された「何か」の方向を尋ねられる。「何か」とはランドルト環、視力検査で誰もが見たことのある「C」のことである、ノートにはそれが小さく印字されているらしいのだが(米粒から胡麻一粒くらいの大きさまでが順に)、僕の左目はそれの方向を読み取れなかった。
通常の視力検査とは同様、上から下へ環が小さくなってゆくのだが、僕はいちばん上をかろうじて拾える程度だった。
「え……? あれ?」
女性に笑顔はもうなかった。不思議そうで、そして不安そうにも見えた。その反応に胸がざわつく。
「老眼ですか?」
「いえ……さすがにこんなに見えないことはないと思うんです……」
「じゃあ……?」
「老眼というより、見る力がとても弱いような……あの、緊急性はないと思いますが、なるべく早く、しっかりした設備のある眼科医さんで検査を受けられたほうがいいと思います」
ここはコンタクトの専門であり、検査も簡易的なものだ、眼病に対応できるわけではない。
そのようなことを言われ、僕は翌日、近くの開業医を訪ねることにした。
忘れることはない。
2015年5月11日の夕刻。
とある街の眼科医院。僕が子供のころから開業しているのではないだろうか。リニューアルされたらしく設備そのものは古くはない(だが、医師を含めスタッフは全体的に高齢化している)。
70歳前後と思われる医師は一通りの検査を済ませた僕を呼び、ひと息ついてから告げた。
僕に下された病名は「緑内障」であった。
【続く】
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