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【体験記】白内障だったんです。#5
2015年4月9日、土曜日。
緑内障と診断されてから約一年。
通院中の眼科医から「左目(だけ)は白内障、手術するんなら紹介状を書くから」と言われた翌々日のこと。
地域随一の総合病院、とくに別棟を構えるほど眼科に特化した某病院。
いくつかの検査を済ませた僕は診察室に通されていた。
「白内障ですね、若いのに」
風邪ですね、くらいの口調で担当医は言った。とくに珍しそうでもなく、驚いた様子もなく。
「じゃ、いつ手術します? サクッと今日にでもやっちゃいます?」
「……今日?」
「夕方五時半までに術前検査は済むし、やれなくはないですよ」
数々の画像や数値を印刷された用紙、モニター上の映し出されているのは僕の目の接写画像である。
緑内障……?
どうかなぁ……そりゃ、これだけ視力が悪いわけだから、(視野検査で)見えづらいところはあるでしょう。と言うより、単純にこれだけ白内障が進んでたら霞んで視野検査の結果も良くはないはずですよ。
「白内障だけですよ、田中さんの場合。良かったですね、手術すればすぐに治りますもの」
別にですね、これくらいなら眼圧も放置でいいですよ。前の眼科さんで処方された薬はもう捨ててください。これは言わないほうがいいのかもしれませんけど……。
「町医者さんだと、月イチの通院で検査して薬を処方するでしょう? あれ、儲かるんです。メガネやコンタクトは年に一回程度ですから」
「白内障もおじいちゃんおばあちゃんの病気って限らないですよ。田中さんみたいな強度近視の人はなりやすいし、実際、30過ぎたら程度の差はあれ水晶体は濁ってくるもんです」
「若年性も加齢性も症状や治療法は同じです。診断書を書くときに患者さんが50歳を過ぎてたら『発症原因は加齢によるもの』にしてます。だから田中さんは『不明』って書きますよ(笑)。違いってそれくらいです」
話し好きなのか、患者をリラックスさせてくれようとの配慮か。
実際、話し上手でユーモアに満ち、そして、不思議と信頼感がある。
「ブルーベリーが眼にいいなんて都市伝説ですよ、医学的根拠なんてなにもない。海藻が髪に良いなんて言うのと同じですよ、ワカメ食べててもハゲる人はハゲますから」
「サプリなんて要らないですよ、あんなの何が入ってるかわからない。ここだけの話ですけどね…………」
N医師の話してくれた「ここだけ話」は公開前提のこのブログでは書けません。
ただ、サプリの類はやめようと思いました。
「連休中に可能なら、先生に手術をお願いしたいと思います」
そう告げた。小一時間ほどだろうか、ユーモアを交えながら、理路整然とした対応に技術と自信が伝わってきたのだ。
「田中さん。もし、先進医療の効く保険なら、多焦点眼内レンズを勧めます」
白内障の手術とは、白目と黒目の境に2.3ミリの切れ目を入れ、古くなって濁った水晶体を抜き出し、人工の眼内レンズを挿れることだそうだ。
「アンパンからアンを抜いて新しいアンを入れてあげるような感じ」らしい。
多焦点レンズと単焦点レンズがあり、多焦点は遠近にピントが合い、単焦点は遠か近のどちらかにピントが合う。
人工眼内レンズが古くなった水晶体の代わりを果たすわけだが、人工レンズは水晶体のように収縮してピントを合わせてはくれない。
単焦点ならほとんどの場合、近視寄りの眼内レンズを入れて遠くはメガネで見る。
仕事がドライバーさんなど、ライフスタイルや業種によって遠くが見えるほうが便利な場合もあり、そのときは遠視よりのレンズを挿れ、手元は老眼鏡で見ることになる。
従来はその単焦点レンズが主流だったが、若年化する白内障に合わせて開発されたのが遠近にピントが合う多焦点レンズだそうだ、この七、八年で急速に普及したという。
「田中さんもそうですし……若い人は仕事にスポーツに、メガネの必要を最小限に抑えられるメリットは大きいです」
「デメリットは?」
「やはりお値段になります。手術のお代は多焦点でも単焦点でも同じなんですが、レンズの値段が……」
単焦点なら片目3万円ほど。
多焦点は片目で30万を超えるのだ。両眼に使うと手術費も込みで70万になる。
「それで、先進医療特約の保険があるのなら、という話なんですね」
小学生からメガネをかけ、高校からはコンタクトレンズ。裸眼で生活した記憶のない僕にとっては、夢の裸眼生活ではある。
資本主義社会なのだ。改めてそれを感じる。受けられる医療と受けられない医療は工面できる費用次第だ。
「白内障の手術って、目が良くなると勘違いされる方が多いんです。確かにレンズは新しくなるので視界はクリアになりますが、視力矯正ではないんです。
でも。
多焦点なら、最低でも裸眼で免許の更新ができるようになります」
さて。
先進医療特約なんぞ、気の利いた保険に加入していただろうか。
【続く】
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