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子肌育Blog アトピーに負けない生活。

子どものアトピー性皮膚炎治療、スキンケアなどについての正しい知識を、わかりやすくまとめています。

扁桃腺(へんとうせん)って、どこのこと?


こんにちは。橋本です。


風邪などをはじめとした、細菌とかウイルスなんかの感染症。


まだまだ大人にくらべて抵抗力の弱い子どもは、こうした感染症にかかることがよくあります。


で、感染症などの病気の中には、かかると、


扁桃腺(へんとうせん)が腫れる(はれる)


といった症状をみせるものがあります。


でも、よくよく考えると、「扁桃腺」というものが、体のどの部分を指すのか、けっこうあやふやだったりします。


そう。人間の体の中でも、扁桃腺は、場所を誤解されやすい部位のひとつなんですね。


「扁桃腺」という言葉の響きから、偏頭痛(へんずつう)と勘違いして、「こめかみ」のことと思っていたり。


はたまた、甲状腺(こうじょうせん)やリンパ腺(りんぱせん)と勘違いして、首まわりの部分のことと思っていたり。


「いやいや、扁桃腺は、口の中だろ!」ということまでは分かっていても、「ここだ!」という場所が分からなかったり。


病院の先生に教えてもらうまで、扁桃腺の場所を勘違いしてました、なんてケースもよく聞く話です。


さて。


では、「扁桃腺」とは、具体的にどの部分を指すのでしょうか?


扁桃腺:はれた


 


診察でチェックする扁桃腺


風邪かなんかで病院に行くと、先生が懐中電灯と金属のヘラみたいなヤツを両手に持ちながらこんなこと言いますよね。


「はい、あ~んして!」


あれで何を見ているかというと、舌、上あご、ほっぺ、のどちんこ……などなど、いろいろ見ているわけですが。


その中でも、「扁桃腺」を見るのも、お医者さんの大事なチェックポイントなんですね。


なぜなら、感染症にかかると、この「扁桃腺」がはれることが多いからです。


扁桃腺:チェック


 


扁桃腺の場所


口を大きくアーンと開けると見える、のどちんこ。


そののどちんこの両脇に位置するふくらみが、いわゆる「扁桃腺」とよばれるものです。


口を開く:扁桃腺


診察で先生が、患者さんの舌を押さえるあの金属のヘラ。


あれは、舌圧子(ぜつあつし)というんですが、あのヘラで舌を押さえつけるのは、この「のどちんこの両脇」の部分を見やすくするためなんですね。


 


「扁桃腺」という名前の由来


「扁桃」という言葉には、語源があります。


じつは、扁桃(へんとう)というのは、元々は、「アーモンド」の日本語の呼び名です。


今の日本で、アーモンドのことを「扁桃」という人はなかなかいないとは思うので、昔風の呼び方ですが。


アーモンドの形に似ているところから、この体の部位に「扁桃腺」と名づけたわけですね。


 


「扁桃腺」ではなく「扁桃」?


従来は扁桃腺と呼ばれていたこの部分。


でも、正確にいうと、「腺」ではないんですよね。


というのも、「腺」というのは、おもに分泌物をためたり、出したりする組織を指すのが実際のところ。


たとえば、涙を出す「涙腺(るいせん)」、汗を出す「汗腺(かんせん)」、皮脂を出す「皮脂腺(ひしせん)」など。


このような例からもわかるように、「腺」と名の付くものは、そこで分泌物を作ったり、ためたり、出したりします。


それを考えると、扁桃腺には、分泌物を出したりするような役割はないので、「『腺』とよぶのはおかしいのではないか?」ということになったんですね。


これまで日常的に「扁桃腺」てよばれてきたのですが、より正確さが求められる医学の世界から見ると、その「扁桃腺」という名前に実態がともなってないんじゃないか、と。


そのため現在では、医学的には、「この部分を『扁桃』とよびましょう」というように改められています。


とはいっても、専門家でもない人に、今まで日常的に呼び慣れてきた名前を急に変えろ、といっても無理がありますよね。


なので、やはりこの部分は、一般的には、今でも「扁桃腺」とよんでいるわけです。


とくに分泌物を出すわけではないこの「扁桃」。


じゃあ、この扁桃にはどんな役割があるのかというと、免疫器官としての役割があるといわれています。


侵入してきた細菌やウイルスを攻撃し、排除するリンパ組織の集合体としての「扁桃」。


その扁桃が、口の中、のどの中をぐるりと取り巻いています。


 


扁桃は3つ(プラス1つ)ある


扁桃は、口の中には3つあります。


一番わかりやすいのは、のどちんこの両脇に見える「口蓋扁桃(こうがいへんとう)」。


よく診察室で口をアーンして先生が見ているのは、この「口蓋扁桃」です。


それに一般的に「扁桃腺」といえば、この口蓋扁桃を指すのが通常です。


(がい)というのは、聞き慣れない言葉ですが、「フタ」を意味しています。


口蓋は、口の天井部分で、よく海苔(ノリ)を食べるとひっつくところですね。


口蓋


ここを「フタ」に見立てて、「口蓋」とよんでいるわけです。


その口蓋の脇にある扁桃なので、ここにある扁桃を「口蓋扁桃」とよんでいます。


扁桃:断面図


そして2つ目は、「舌扁桃(ぜつへんとう)」


舌扁桃は、のどちんこを越えたさらに奥。舌の根元部分にあります。


最後に3つ目は、「咽頭扁桃(いんとうへんとう)」。


位置的には、鼻から入ってそのままドンと奥に突き当たったところ。


アーンと口を開けても見えないんですが、のどの奥の部分にあるのが咽頭扁桃です。


咽頭(いんとう)という言葉はなかなか聞き慣れないですが、この鼻から奥に突き当たるところ、そこから食道につながるところまでを「咽頭」とよんでいます。


この咽頭扁桃は、別名で「アデノイド」ともよばれています。


そして、もう1つ。


耳の中にも、1つ扁桃があります。


耳の穴、耳管(じかん)とよばれる管(くだ)のいちばん奥、その脇にあるのが「耳管扁桃(じかんへんとう)」です。


場所的には、耳の穴がのどにつながるところです。


こうして口の中に3つ、プラス耳に1つある扁桃がぐるりと、体の外と中の境界「のど」を取り囲んでいるのも、外敵から身を守るため。


細菌やウイルスの侵入を防ぐ「免疫(めんえき)システム」を働かせるために、このような部分に「扁桃」が配置されています。


このようにのどの周りをぐるりと輪っかのように扁桃が配置されているのを、発見したドイツの解剖学者の名前から「ワルダイエルの咽頭輪(いんとう・りん)」とよんでいます。


 


扁桃は、戦場の最前線


つまり、扁桃は、外界からやってくる細菌、ウイルスなどの病原体に対する防御の最初の砦(とりで)になっていると考えられています。


口を通して外から進入してくる病原菌や細菌を捕獲し死滅させている、人間の体にとって大切な働きをしている部位なのです。


扁桃の中でもいちばん大きな口蓋扁桃には、よく見ると表面にクルミのようなデコボコがあります。


このデコボコがあることで、表面積が広くなり、外界からの刺激や病原体を受け入れやすい構造になっているわけです。


この構造のおかげで、効率よく細菌やウイルスなどを捕まえ、撃退することができるのです。


しかし、このうまく考えられた構造も、場合によってはデメリットになることもあります。


こうした複雑に入り組んだ構造が逆に、細菌感染をおこしやすくさせ、子どもによっては頻繁に扁桃をパンパンにはらして苦しんでしまう、ともいえるからです。


 


成長にしたがって大きくなる扁桃


そんな重要な扁桃も、生まれた時には、「薄っすらある」ぐらいにしか確認できません。


それぐらい最初は小さなものなんですね。


それが成長するにしたがって、徐々に大きくなっていきます。


口蓋扁桃は2~3歳頃から肥大が始まり、7~8歳で最大。9~10歳ころには、自然に小さくなります。


咽頭扁桃(アデノイド)は、口蓋扁桃より1~2年早めに大きくなり始め、6~7歳ころに肥大のピークがあります。


こうして、始め小さかった扁桃が、成長につれて大きくなるのも、やはり免疫が関係していると考えられています。


扁桃が、外から様々な刺激に触れることで、免疫が大きく働き、その結果、肥大すると考えられるわけです。


ただ、肥大の程度、経過は個人差が大きく、時に大人になっても肥大が続くこともあります。


 


子どもより小さい、大人の扁桃


しかし、傾向としては、扁桃は、10歳頃になると、次第に小さくなっていくようです。


ですから、子どもの扁桃は大人より大きいのが、普通なんですね。


というのも、抵抗力の弱い赤ちゃんや子どもの時期には、「防御の砦(とりで)」として大きな役割を果たす扁桃。


しかし、人間は成長することで、扁桃以外の免疫機能も充実してきます。


そうすると扁桃の必要性も少なくなってくるので、扁桃は次第にしぼんでいくのだと考えられています。


なので、10歳以降では、あまり「防御の砦」としての重要性も弱まってくる、とも取れるわけですね。


それぐらいに成長する頃には、全身的な免疫の機能も十分に発達してきて、扁桃だけに頼らなくてもいい状態になってくるのです。


なので、日常生活に支障がない限りは、扁桃が「大きいから」とか「小さいから」とかだけで、異常だとは言い切れないわけです。


扁桃腺:肥大


ただし、扁桃肥大(へんとう・ひだい)があまりにも進み過ぎると、生活に支障が出ます。


たとえば、口蓋扁桃肥大だと、大きなものを飲み込みづらくなったり、咽頭扁桃肥大(アデノイド肥大)だと鼻で呼吸するのが苦しくなったり。


そういった場合は、元通り楽に生活できるように、手術で扁桃を切除する方法もあります。


 


単なる扁桃炎か?感染症か?


口や鼻から細菌やウイルスが入ってきた時、扁桃はそれらと戦い、撃退する働きをしています。


しかし、そういった病原体との戦いが激しいと、戦場となった扁桃は傷つくことになります。


これをよく「扁桃腺がはれた!」というわけですね。


扁桃が傷つき、炎症がおこることで、赤く大きくはれるので、このような状態を病院では「扁桃炎(へんとうえん)」とよんでいます。


単なる風邪による扁桃炎ならいいのですが、それぞれ感染した細菌やウイルスによって治療法や対応方法も違ってきます。


なので、感染症と思われた場合には、しっかり診察や検査をしてもらって、どんな病気なのか、きちんと診断してもらうことが大事です。


また、アトピーは、感染症でも悪化することがあるので、アトピーを悪化させないためにも感染症の適切な診断、治療は大事になってきます。


ということで、位置を勘違いしやすい扁桃。


一度、子どもにアーンしてもらって、「位置」や「大きさ」をチェックしてみてくださいね。


 


 


 


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震災から2年をむかえて


こんにちは。橋本です。


東北地方で巨大地震、大津波が1万8千人以上の方の命を奪ってから、今日で丸2年が経ちます。


地震がおきた午後2時46分。


今年も犠牲者の方々の冥福を祈りたいと思います。


避難生活を送られる方々も、いまだに31万人以上を超え、被災地からの人口流出も進んでいると聞きます。


国がいまだに、「年間1ミリシーベルトまで除染する」という非現実的な目標も掲げているのにも、疑問を感じてなりません。


被災された方々の手足をこれ以上縛りつけることのないよう、心の通った現実的な制度、インフラが一刻も早く整えられ、現地の復興が後押しされるように願っています。


過剰な自己防衛が被災者を傷つけることのないよう、心を新たに。


3・11の記憶を忘れません。


一刻も早い東北の復興が叶えられますように。


震災:2年


 


 


 


「経口免疫寛容」という現象…なぜ食べ続けることでアレルギー反応が減っていくのか?


こんにちは。橋本です。


今日は、少しだけ複雑なお話です。


しかも、専門家の間でも、かなり意見のわかれる話。


アレルギーの治療は、アレルギーをおこすもの……いわゆる「アレルゲン」を避けるのが、最大の治療であると教えられてきました。


食物アレルギーでは、そもそもアレルゲンを食べなければ、アレルギーをおこさないですから、そりゃあ当たり前ですよね。


しかし、じつは、こうした「食物アレルゲンを徹底的に除去する治療」に反するような現象も確認されています。


それが、「経口免疫寛容(けいこう・めんえき・かんよう)」という現象。


避けるよりも、むしろ、食べ続けることで、悩まされていたアレルギー反応がだんだんとおさえられてくる、という現象です。


でも、なんでアレルギーを引き起こすものを、あえて食べ続けることで、アレルギー反応が減ってしまうんでしょうか?


経口免疫寛容とは


 


もくじ

⇒ 1. 異物を排除してくれるのが「免疫」であるはずだけど

⇒ 2. 自己と非自己とみわける能力

⇒ 3. 「ものを食べる」ということ

⇒ 4. 寛容とは?…厳しくはねつけず、ゆるーく受け止めること

⇒ 5. 経口免疫寛容(経口トレランス)

⇒ 6. 「おばあちゃんの知恵」的な例

⇒ 7. 経口免疫寛容:研究はどう進んできたのか?

⇒ 8. コホート研究からわかること

⇒ 9. 「必要以上の食物除去」への警告


 


異物を排除してくれるのが「免疫」であるはずだけど


食べ続けることでアレルギー反応が減っていく反応……。


それを経口免疫寛容(けいこう・めんえき・かんよう)とよぶわけですが、これを文字通りに意味を翻訳していくと、


経口(けいこう) ⇒ 口からの

免疫(めんえき) ⇒ 免疫反応を

寛容(かんよう) ⇒ ゆるく受け止める


こんなニュアンスの意味になります。


もともと、一度、「外敵」と判断したものには、「厳しく対応していくぞ」というのが「免疫」というシステムです。


その厳しいはずの免疫反応を、寛容していく、ゆるく受け止めていくように変化していくのが、「経口免疫寛容」の意味するところなんですね。


細菌、ウイルスといった外敵から身を守るために、もともと人間には「免疫」というシステムが備わっています。


免疫は体に入ってくる異物を攻撃するシステム。


この免疫という、複雑でよくできたシステムがあるからこそ、病原体が外から侵入してきても、撃退し、病気にならずにすむわけです。


このような病原体に対して免疫システムが働くことを、「免疫」とよんでいます。


一方で、同じ免疫システムでも、ダニ、花粉、食べ物などのような、通常の人には無害な物質……「アレルゲン」に対して攻撃するのをアレルギーとよんでいます。


免疫:病原体


 


自己と非自己とみわける能力


免疫システムが正常に働くのに超重要なのは、「自己」と「非自己」を正確に見分けることです。


「自分の体」を「自己(じこ)」、「自分の体でないもの」を「非自己(ひじこ)」とよんでいます。


「自己」は、具体的にいうと、自分の体を形づくっているあらゆる細胞。


「非自己」は、具体的にいえば、細菌、ウイルス、がん細胞といったもの。


免疫システムとは、「自己」と「非自己」を見分けて、「非自己」だけを攻撃して排除することで体を守るシステム。


病原体が体に侵入したら、「非自己が入ってきたぞー」と、抜かりなく気づき、免疫システムが撃退してくれるわけですね。


しかし、「非自己」は、ウイルスや細菌などの病原体ばかりではありません。


じつは、健康な人の体でも毎日のように「がん細胞」が発生しているといわれていますが、この「がん細胞」も「非自己」です。


免疫システムは、「がん細胞」だけを攻撃し、「自己」は傷つけない。


だからこそ、毎日のように「がん細胞」が発生しても、その都度(つど)、がんは消滅し、体も傷つかないわけです。


自己:非自己


このようにみていくと、免疫システムは、「自分自身を傷つけることなく異物を排除する」という、とても精巧で精密なシステムですよね。


ところが、「非自己が体に侵入してくれば、何でも攻撃するぞ!」とあまりにも頑固になると、じつは大きな不都合も生じてきます。


 


「ものを食べる」ということ


なぜ不都合かというと、食べるという行為は、非自己を食べて、吸収し、それを自己に変えていくという作業だから。


経口免疫寛容:食べる


口から入る食べ物は、異物として排除してしまうと栄養を摂れないので、生きていけません。


食べ物にまで、攻撃をしかけてしまうのは、人間にとっては不都合。


いくらなんでも、免疫システムの「働き過ぎ」なわけなんですね。


でも、人間にとって「外部から入ってくる食べ物」は、すべて自分の体とは異なる、まぎれもない「非自己」です。


だったら、なんとか、口から取り入れるものだけは、異物として排除しないでほしい。


そこであらわれるのが、まさに「経口免疫寛容」という現象なのです。


 


寛容とは?…厳しくはねつけず、ゆるーく受け止めること


免疫寛容とは、特定の抗原(こうげん:「免疫反応をおこすもの」のこと)に対して、免疫反応がおさえられる状態のこと。


攻撃対象になるはずのものがたくさん継続して入ってくると、免疫システムが「あれ? これって攻撃しなくてもいいんじゃね?」という勘違いをすることがある。


そう考えられているのが、免疫寛容という現象です。


「寛容」という言葉の意味は、心が広く、他の人を受け入れること。とがめないこと。


小さなミスでグチグチ言わずに、そっと温かく見守ってくれる人のことを「寛容な人だなあ」なんて言ったりしますよね。


だから、「いつもは厳しいはずの免疫が、だんだん反応しなくなる」というのが、免疫寛容というわけです。


寛容とは


この「寛容」という言葉は、もともと英語のトレランス(tolerance)を翻訳するために作られた言葉なので、免疫寛容のことを「トレランス」とよぶこともあります。


 


経口免疫寛容(経口トレランス)


というわけで、食べ物にまで、異物として免疫システムが攻撃をしかけてしまうと困る。


そうは言っても、食べ物が「非自己」であるのは、まぎれもない事実。


そこで、口からのルート(経口:けいこう)で物を取り入れた時は、免疫システムが反応し過ぎないようになっていくケースがあります。


これが「経口免疫寛容」です。


一方で、皮膚表面からのルート(経皮:けいひ)では、免疫寛容がおこることが確認されていません。


「口から」以外のルートでは厳しいはずの免疫反応が、食べ続けることによって、その免疫の反応が減少してくることを「経口免疫寛容」というわけですね。


昔は、なるべく食べないほうが食物アレルギーになりにくと考えられていた。


食べさえしなければいい、と。


しかし、「ある程度、早い時期に口からいろんな物を食べ続けたほうが、食物アレルギーになりにくいのではないか」という議論が最近では盛んになっています。


実際に、日本でも、欧米の小児科学会でも、「離乳時期を遅らせてアレルギーを予防することには科学的根拠はない」と声明を出してます。


 


「おばあちゃんの知恵」的な例


過去の歴史をみると、「経口免疫寛容」を引き起こすための手段が、経験的にあみだされていることもわかります。


たとえば、日本の漆職人(うるし・しょくにん)の例です。


漆塗り


(うるし)は、素手で触るとかぶれやすいことが知られています。


このかぶれは、免疫反応……すなわち、アレルギーによっておこる症状です。


ところが、このかぶれを治すような薬はなく、症状が自然に治まってくるのを待ち、再度おこらないようにするには、漆に近づかないようにするしかありません。


でも、漆職人が漆を避けていては、仕事になりませんよね。


そこで、漆職人の子どもは、「あえて漆を少量ずつなめることで、アレルギーがおこりにくくなるようにしていた」という記録も文献に残っています 1)


こうした「職業的におこるかぶれ」を、経口免疫寛容で対応していたという言い伝えは、世界各地で確認されています。


もちろん、昔の人たちは、「経口免疫寛容」という医学的なメカニズムを知って、アレルゲンを口にしていたわけではないんですけどね。


 


経口免疫寛容:研究はどう進んできたのか?


経口免疫寛容があることを最初に報告した論文は、意外に古く、1908年もの昔にさかのぼります。


「卵を食べることで中毒症状をおこす患者を、少しずつ卵を食べさせてることで治した」とした報告 2) が、それですね。


また、1911年には、マウスにアレルゲンを注射してアナフィラキシー(アレルギーによるショック症状)をおこす実験でも、経口免疫寛容が確認されています。


注射に使ったアレルゲンと共通するたんぱく質をもつトウモロコシをエサとして与えていたマウスにはアナフィラキシーがおきなかった、という実験結果です 3)


マウス:トウモロコシ


その後も、経口免疫寛容についての研究は続けられ、「免疫」というシステムを考える1つのテーマになっていきました。


ですが、80年代、90年代になり、食物アレルギーの子どもが誤ってアレルゲンを食べてしまうことでアナフィラキシーおこし命を落とすというという、いたましい事故が、たびたびニュースになってしまいました。


そうしたショッキングな事故が影響したこともあり、「経口免疫寛容」という考え方が食物アレルギーに関する大きな研究課題になることはありませんでした。


しかしながら、実際に治療を実施した臨床研究を続けていくうちに、重症の食物アレルギーを治す唯一の手段ではないかという声も、一方で上がったんですね。


そういうわけで、「経口免疫寛容」の考え方は、現在でも「経口免疫療法(けいこう・めんえき・りょうほう)」という治療法に利用され、より安全で効果のある治療法にしようと、手探りで研究され続けています。


さらに、「経口免疫寛容という現象は、実際にありそうだよね」という話が、コホート研究からもわかってきました。


 


コホート研究からわかること


1990年代、欧米では、ピーナッツアレルギー患者の増加、重症化が問題になり、「赤ちゃんにピーナッツを食べさせないように」という指導がされるようになっていました。


そこで2008年、実際に、そういったピーナッツの除去を指導されているイギリスと、赤ちゃんにごく普通にピーナッツを食べさせていたイスラエルを比較し、8,600人という大規模調査をしたわけですね。


そうすると、予想をあっさり裏切り、学童期で比較するとイギリスではイスラエルの10倍ものピーナッツアレルギーの子どもがいるという結果が出たのです 4)


ほかにも、994人の子どもたちを追跡調査したところ、離乳食開始の遅れは、5歳時の食物アレルギーやダニアレルギーの感作を増やす、という2010年のフィンランドの報告もあります 5)


これらも、「経口免疫寛容が一般的におきているんじゃないか?」という可能性をしめしているわけですね。


 


「必要以上の食物除去」への警告


こうした「経口免疫寛容」の可能性が伝えてくれる大事なこと。


それは、「必要以上の食物除去がアレルギーを増やしてしまうのではないか?」ということです。


たとえばのケースでいうと……。


妊娠中も、授乳中も、卵、乳製品、小麦を必要以上に用心して除去し、離乳食であれもこれも食べさせない。


そして、病院の診察では、第一に血液検査を希望する。


すると、一生懸命除去して、食べさせてこともないのにもかかわらず、卵、乳製品、小麦の数値がズラズラと出てくる。


そうして、ほんとうに食物アレルギーかどうかのダブルチェックをせずに、血液検査の結果のみで食物除去をしてしまう……。


そうすると、せっかくの「経口免疫寛容」が働いてくれない可能性があるんですね。


「お母さんが怖がって、食べていいものでも、食べさせていないか?」


そういった冷静な判断が、食物アレルギーを増やさないためにも、必要になるわけです。


もちろん、適切な診断で食物アレルギーであることが、きちんとわかれば、その食べ物を除去するのは治療の基本。


適切な食物除去を開始する年齢が早いほど、耐性(たいせい:「アレルゲンを食べれるようになる」こと)がつきやすい、という報告もあるほどです 6)


だからといって、不正確なアレルギー情報におびえると、不必要な食物除去で、逆にアレルギーを増やしてしまうかもしれないのです。


たとえ、あきらかな食物アレルギーがあったとしても、適切な診断による「必要最小限の食物除去」にとどめることが大切です。


食べ続けることでアレルギー反応がおさえられていくという、経口免疫寛容。


このことを考えると、「今後食物アレルギーをおこしそうなものを食べないようにしておく」ことよりも「症状が出ていないのなら、幅広くいろんなものを食べておく」ほうが食物アレルギーの予防に役立つかもしれない、というわけです。


 


 


 


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参考文献:

1) 松田 権六: うるしの話 (岩波文庫). 岩波書店: 1964.

2) Schofield AT: A case of egg poisoning. Lancet 171: 716, 1908.

3) Wells HG, Osborne TB: The biological reactions of the vegetable proteins: anaphylaxis. J Infect Dis. 8(1): 66, 1911.

4) Du Toit G, Katz Y, Sasieni P, et al: Early consumption of peanuts in infancy is associated with a low prevalence of peanut allergy. J Allergy Clin Immunol 122(5): 984-991, 2008.

5) Nwaru BI, Erkkola M, Ahonen S, et al: Age at the introduction of solid foods during the first year and allergic sensitization at age 5 years. Pediatrics 125(1): 50-59, 2010.

6) 池松 かおり, 田知 本寛, 杉崎 千鶴子, ほか: 乳児期発症食物アレルギーに関する検討(第2報) : 卵・牛乳・小麦・大豆アレルギーの3歳までの経年的変化. アレルギー 55(5): 533-541, 2006.


結露のおこしやすさは「どの暖房器具を使うか?」でも変わる


こんにちは。橋本です。


冬におこりがちな結露(けつろ)。


結露が大量になると壁を濡らしてしまい、その湿気が原因で、壁に黒カビがはえてしまった、なんて話もよく聞きます。


アトピーやアレルギーの疾患があると、こういった黒カビが空中に舞うことで症状がひどくなってしまうケースもあります。


そんなやっかいな結露。なるべくなら、なくしたいものですよね。


そこで知っておきたいのは、暖房器具の種類によっては、「結露しやすいタイプ」のものがあること。


結露をおこしやすい暖房器具とは、どんなタイプか?


それは、たとえば、ストーブやファンヒーターといった、「開放型」とよばれる暖房器具です。


結露:暖房の種類


 


暖房から水分が出る


暖房には、「水分を出しやすいもの」と「出さないもの」があります。


「暖房が水分を出す」というと、いまいちピンとこない人もいるかと思います。


暖房から出る水分は、やかんから吹き出す湯気のように目に見えるものではないので、たしかに「水分が出ている」という実感がつかみにくいのは事実です。


ただ、「暖房が水分を出す」といっても、どんな暖房でも水分を出しますよ、というわけではありません。


 


灯油やガスを燃料にした暖房


水分が出るタイプの暖房というのは、灯油やガスを燃料にした暖房です。


石油ストーブ

石油ファンヒーター

ガスストーブ

ガスファンヒーター


こうした暖房器具は、燃料を燃やしている部分が、部屋の内部で開放されているので、「開放型暖房器」とか「開放式暖房器」とよばれています。


ファンヒーター:蒸気


ただし、灯油やガスを燃料にしていても、外の空気を使って燃焼し、排気も外に出すタイプは、一般的に「FF式(えふえふ・しき)」とよばれていてます。


「開放型」に対して、FF式の暖房器は「非開放型」のタイプにあたり、室内には水分を出しません。


また、電気ストーブ、パネルヒーター、エアコンといったような電気を使って暖めるタイプの暖房器具は、暖房時に燃焼を必要としないため、これも室内に水分を出しません。


 


どうして水分が出るの?


灯油やガスなどの燃料は、炭素(C)と水素(H)を含んでいます。


これらを燃やすと、空気中の酸素(O)と結びつきます。


すると、炭素は二酸化炭素(CO2)へ、水素は(H2O)に変化するんですね。


化学式でみると次のような感じになります。


灯油(C12H24など):

C12H24 + 12O2 → 12C02 + 12H2O


都市ガス(CH4など):

CH4 + 2O2 → CO2 + 2H2O


LPガスプロパンガス(C3H8など):

C3H8 + 5O2 → 3CO2 + 4H2O


「燃える」という化学反応の結果、二酸化炭素水分に変化していることがわかるかと思います。


 


どれぐらいの水分が出るの?


「燃える時に出る水分なんて、ごくわずかなもんでしょ」と思ってしまうんですが。


じつは、灯油を燃やすと、それとほぼ同じ量の水分が出ます。


……っていうと、結構な水分量ですよね。


理論的には、1リットルの灯油を燃やすと、1.13リットルの水が発生することになります。


1リットルの灯油を燃やすのと同じ熱をLPガスで生み出そうとすると、1.16リットルの水分。


都市ガスでは、1.68リットルの水分が出ることになります。


1リットルの灯油1.13リットルの水分

同じ熱のLPガス1.16リットルの水分

同じ熱の都市ガス1.68リットルの水分


 


実際に、暖房器具を比較してみる


「でも、こうした水分量の違いって理論上そうなるだけで、実際はどうかわからないじゃない」


そう思うかもしれません。


そこで参考になるのが、実際の湿度変化を調べたデータです 1)


2時間換気しないで暖房器具を使用した時の湿度変化:

暖房器具:湿度変化


 


石油ストーブや石油ファンヒーターに比べ、エアコンは湿度が低くおさえられているのがわかるかと思います。


さらに、FF式のガスファンヒーターは、もっと湿度が低くなっています。


それもそのはず、エアコンも、FF式も、室内に水分を出さないので。


こうやってみると、実際にも、燃焼時に出る水分の差が出ているのが、よくわかりますよね。


 


アレルギーやアトピーを考えると……


とまあ、ここまでみると、暖房することで水分も出るなら、「加湿で肌がうるおっていいんじゃない?」とも思います。


しかし、加湿されることは、必ずしも肌にとってプラスとは限りません。


たしかに、冬の乾燥した空気は、肌を乾燥させやすくしてしまいます。


でも、だからといって、過度に部屋の加湿をすると、今度は窓、サッシ、さらには壁などを結露させてしまいます。


これはいただけません。


というのも、こうして結露が繰り返しおこり、ひんぱんに壁や床を濡らしてしまうと、カビが生えてしまう可能性があるからです。


ひどい場合では、壁のコーナー部分なんかにも、直接、結露があらわれ、カビだらけになってしまうこともあります。


結露で濡れた壁でよく見かけるのは、真っ黒な黒カビです。


このようなカビは、胞子(ほうし:「カビの種」のこと)を飛ばし、部屋中を飛び回ります。


アトピーやアレルギーの疾患があると、この黒カビが症状をひどくしてしまうことも考えられるんですよね。


こうなると、せっかく薬を使って治療をしていても、すぐに症状がぶり返してしまうのも、当たり前といえば、当たり前。


悪化して薬を塗って、悪化しては薬を塗って、と。


ステロイドなどの外用薬の使用量も、必然的に多くなってしまいます。


しかも、黒カビは一度はえると、根元まで落とすのはなかなか苦労するもので、できればなんとか、はえないようにしたいものですよね。


というわけで、アレルギーやアトピーのことを考えると、結露などをおこすような「過度の加湿」は、なるべくなら避けたいんですね。


朝:結露サッシ:結露


 


「開放型の暖房」を使わないのも、結露対策、アレルゲン対策のひとつ


とはいうものの、結露の原因は、様々あり、これさえやればOKという対策はありません。


数ある結露防止の方法……たとえば、「壁断熱」にしても、「二重サッシ」にしても、「ペアガラス」にしても、「すきまテープ」にしても、「カーテン」にしても、「換気」にしても。


どんな防止対策にしても、です。


というのも、住んでいる地域、家の構造などによって、それぞれの家で、何が結露の原因になっているか、大きく違ってくるからなんですね。


しかし、数ある結露対策の中でも、暖房器具を変えるだけで、結露が大幅に減るケースもあるのです。


「結露をなるべくおこさないように」と考えると、やはり、こうした水分を出すような「開放型の暖房器具」を使わないほうが無難です。


また、ファンヒーターのような暖房器具は、床付近のハウスダストを舞い上げてしまうので、アレルギーの心配がある子には向いていません。


加湿器を使う場合でも、湿度計などを目安にしながら、適切な湿度をキープしてあげることが大切です。


生活に最適な湿度は、40~60%。


それ以上に湿度を上げ過ぎると、結露をおこしやすくなり、カビダニといったアトピーの悪化因子が増えやすい環境になってしまいます。


湿度:高い湿度:適度


そういう意味では、石油ストーブ、ファンヒーターといった「開放型の暖房器具」を使わないのも、アレルゲン対策のひとつといえるわけです。


 


 


 


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参考文献:

1) 国民生活センター: 暖房-エアコンディショニングとしての再点検 空気の汚れが気になる 石油ファンヒーターなどの開放式暖房器具. たしかな目 : 国民生活センターの暮らしと商品テストの情報誌 53: 8-13, 1989.


感作(かんさ)ってなに?…アレルギーのスタート準備段階だからこそ


こんにちは。橋本です。


アレルギーについての話を聞いていると、よく「ダニに感作する」とか「スギ花粉に感作する」とかいう言葉を耳にします。


アレルギーを持った患者さんの相手をする病院、またはアレルギーを研究するような世界では、このように「感作(かんさ)」という単語をごく当たり前に使うんですね。


つまり、「感作」というのは、医学的な専門用語です。


まあ、感作という言葉の意味を知らなくても、


ダニに感作しているダニアレルギーを持ってしまっている


というようなニュアンスは感じ取ることができ、それもあながち間違いではありません。


だから、「『感作』なんて小難しい言葉、いらねえだろ」と言われれば、それまでなんですが。


でもじつは、「感作」という現象は、アレルギーを象徴する、独特な現象。


「感作」がおこらなければ、アレルギーは始まらないのです。


アレルギー:感作とは


 


初めてアレルゲンが侵入すると……


アレルギー症状が出ている多くの人は、はじめてアレルゲンを食べたり、触れたり、吸った時、すぐにアレルギーをおこすわけではありません。


最初に、体内にアレルゲンが入っても、アレルギー反応をおこすことはないんですね。


アレルギーを発症する、ひとつ前の準備の段階。


それが「感作(かんさ)」とよばれる状態です。


感作:解説図


アレルギーをおこすもと……アレルゲンと言ったり、抗原(こうげん)と言ったりしますが。


この抗原が最初に体内に侵入すると、免疫細胞(めんえき・さいぼう)がそれを発見し、「ヘンなものが来た!」と認識します。


すると、免疫細胞は、この異物を「追い払うべきものかどうか」を判断し、「追い払うべし!」と判断すると、それぞれの抗原に合わせたIgE抗体(あいじー・いー・こうたい)を作ります。


そして、体内で作られたIgE抗体は、血液に含まれる細胞成分、マスト細胞(肥満細胞)とよばれる細胞にくっつきます。


マスト細胞の表面には、IgE抗体がはまり込むための受け皿みたいなものがあるので、そこに抗体がはまり込んでいくわけです。


 


「わらび餅」のように、まぶされる


アレルギーをおこしやすい人のマスト細胞には、通常の人よりも、このIgE抗体がいっぱいくっついていることがあります。


マスト細胞の表面が、IgE抗体でまぶされた感じ。


わかりすい表現でいうと、「わらび餅にきな粉がまぶされている」……そんなイメージです。


ただ、厳密にいうと、血液中に流れるIgE抗体はごく微量なものなので、あくまでも「こんなイメージだよ」、という程度でおさえてくださいね。


わらび餅:きな粉


このような「マスト細胞がIgE抗体でまぶされた状態」を医学的に、「感作」とよんでいます。


アレルゲンに感作されていなければ、マスト細胞の表面は、IgE抗体でまぶされていないですよー、というわけですね。


この感作という状態を経て、初めて、アレルギー症状が出ることになるのです。


 


感作はアレルギーの「スタンバイOK状態」


花粉症、鼻炎、蕁麻疹(じんましん)、食物アレルギー、あるいは、喘息(ぜんそく)、アトピーといったものまで。


アレルギー症状が引き金になっているような症状は、この「感作」という段階を通らないことには、発症しません。


感作が成立すれば、アレルギー反応がいつでもおこる「スタンバイOK」状態になっているということです。


 


そして、アレルギー反応がおこる


では、感作された後、再びアレルゲンが体内に侵入してくるとどうなるか?


マスト細胞の表面にくっついたIgE抗体にアレルゲンがキャッチされると、マスト細胞が刺激され、細胞内からヒスタミンなどの化学伝達物質がまき散らされます。


このまき散らされた化学伝達物質によって、炎症がおこり、クシャミが出たり、「かゆいー」となったり、湿疹ができたりするわけです。


アレルギー反応:発症


 


感作しても、「いつ発症するか?」はわからない


ただし……。


感作したとしても、アレルギーの発症が「いつからおこるのか」は、知ることができません。


じつは、これが難点なんですね。


「すでにスギ花粉のIgE抗体がマスト細胞にくっついていても、花粉症を発症しない」


そういったケースも、意外と多いのです。


 


血液検査でアレルゲンを特定できない理由


たとえば、アレルゲンに対するIgE抗体を調べる血液検査


この検査で、特異的IgE(とくいてき・あいじー・いー・けんさ)とか、ラストクラスとかいわれる数値がわかるわけですけれども……。


これで、「卵アレルギー」という結果が出ても、実際には、卵を食べても、まったくアレルギーが出ませんよ、という子どもも多いんですね。


こうしたことがおこってしまう理由も、「感作しても発症するとは限らない」という事実があるからなのです。


血液中のIgE抗体の存在は、「アレルギー反応をおこしている状態」を意味しているのではありません。


アレルギー反応をおこす準備ができている……つまり、「感作されている」ということを意味しているわけです。

 


アレルギーって、なんて不公平なんだ!


あくまでも、「感作」と「発症」は別もの。


「感作」しても、いつ発症するかはわかりません。


すぐに発症しはじめるかもしれないし、あるいは反対に、「感作したのにずっと発症しないまま」というケースもありうるのです。


スギ花粉に感作しているのにもかかわらず、「死ぬまで一生、花粉症とは無縁だった」なんてラッキーな例も、実際にはありうることなんですね。


花粉症になってしまった人から見れば、「なんて不公平なんだ!」と叫びたくなります。


でも、アレルギーとは、こういう不公平さがある病気。


どんなきっかけで発症するのかは、残念ながら、まだはっきりとはわかっていないのです。


 


だったら、「感作されてる状態」をなくせばいいんじゃねえの?


では、こうしたメカニズムを聞くと、単純に、「だったら、一度感作した状態をリセットする、なくす方法はないの?」って思いますよね。


「感作」は、アレルギーの準備段階ともいえる状態なので、そもそも、その感作された状態がなければ、アレルギーはおこらないよね、という発想です。


しかし、これもまた残念ながら、一度アレルゲンに感作してしまった状態を、元に戻す方法は、まだ標準治療としては確立していなくて、まだ問題点があるというのが現状です。


とはいうものの、「感作された状態をリセットする方法」というのは、なんとかできないものかなー、と昔から試行錯誤して研究が続けられています。


こういった方法は、人間が生きていくうちにできあがってくる「免疫(めんえき)」というシステムを何とかコントロールしよう、という方法なので、「免疫療法」とよばれたりもします。


とくに最近では、


花粉症での……

減感作療法(げんかんさ・りょうほう)


食物アレルギーでの……

経口免疫療法(けいこう・めんえき・りょうほう)


といった治療法が、一部の病院で、安全性を確認しながら研究的におこなわれています。


 


 


 


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