扁桃腺(へんとうせん)って、どこのこと?
こんにちは。橋本です。
風邪などをはじめとした、細菌とかウイルスなんかの感染症。
まだまだ大人にくらべて抵抗力の弱い子どもは、こうした感染症にかかることがよくあります。
で、感染症などの病気の中には、かかると、
といった症状をみせるものがあります。
でも、よくよく考えると、「扁桃腺」というものが、体のどの部分を指すのか、けっこうあやふやだったりします。
そう。人間の体の中でも、扁桃腺は、場所を誤解されやすい部位のひとつなんですね。
「扁桃腺」という言葉の響きから、偏頭痛(へんずつう)と勘違いして、「こめかみ」のことと思っていたり。
はたまた、甲状腺(こうじょうせん)やリンパ腺(りんぱせん)と勘違いして、首まわりの部分のことと思っていたり。
「いやいや、扁桃腺は、口の中だろ!」ということまでは分かっていても、「ここだ!」という場所が分からなかったり。
病院の先生に教えてもらうまで、扁桃腺の場所を勘違いしてました、なんてケースもよく聞く話です。
さて。
では、「扁桃腺」とは、具体的にどの部分を指すのでしょうか?
診察でチェックする扁桃腺
風邪かなんかで病院に行くと、先生が懐中電灯と金属のヘラみたいなヤツを両手に持ちながらこんなこと言いますよね。
「はい、あ~んして!」
あれで何を見ているかというと、舌、上あご、ほっぺ、のどちんこ……などなど、いろいろ見ているわけですが。
その中でも、「扁桃腺」を見るのも、お医者さんの大事なチェックポイントなんですね。
なぜなら、感染症にかかると、この「扁桃腺」がはれることが多いからです。
扁桃腺の場所
口を大きくアーンと開けると見える、のどちんこ。
そののどちんこの両脇に位置するふくらみが、いわゆる「扁桃腺」とよばれるものです。
診察で先生が、患者さんの舌を押さえるあの金属のヘラ。
あれは、舌圧子(ぜつあつし)というんですが、あのヘラで舌を押さえつけるのは、この「のどちんこの両脇」の部分を見やすくするためなんですね。
「扁桃腺」という名前の由来
「扁桃」という言葉には、語源があります。
じつは、扁桃(へんとう)というのは、元々は、「アーモンド」の日本語の呼び名です。
今の日本で、アーモンドのことを「扁桃」という人はなかなかいないとは思うので、昔風の呼び方ですが。
アーモンドの形に似ているところから、この体の部位に「扁桃腺」と名づけたわけですね。
「扁桃腺」ではなく「扁桃」?
従来は扁桃腺と呼ばれていたこの部分。
でも、正確にいうと、「腺」ではないんですよね。
というのも、「腺」というのは、おもに分泌物をためたり、出したりする組織を指すのが実際のところ。
たとえば、涙を出す「涙腺(るいせん)」、汗を出す「汗腺(かんせん)」、皮脂を出す「皮脂腺(ひしせん)」など。
このような例からもわかるように、「腺」と名の付くものは、そこで分泌物を作ったり、ためたり、出したりします。
それを考えると、扁桃腺には、分泌物を出したりするような役割はないので、「『腺』とよぶのはおかしいのではないか?」ということになったんですね。
これまで日常的に「扁桃腺」てよばれてきたのですが、より正確さが求められる医学の世界から見ると、その「扁桃腺」という名前に実態がともなってないんじゃないか、と。
そのため現在では、医学的には、「この部分を『扁桃』とよびましょう」というように改められています。
とはいっても、専門家でもない人に、今まで日常的に呼び慣れてきた名前を急に変えろ、といっても無理がありますよね。
なので、やはりこの部分は、一般的には、今でも「扁桃腺」とよんでいるわけです。
とくに分泌物を出すわけではないこの「扁桃」。
じゃあ、この扁桃にはどんな役割があるのかというと、免疫器官としての役割があるといわれています。
侵入してきた細菌やウイルスを攻撃し、排除するリンパ組織の集合体としての「扁桃」。
その扁桃が、口の中、のどの中をぐるりと取り巻いています。
扁桃は3つ(プラス1つ)ある
扁桃は、口の中には3つあります。
一番わかりやすいのは、のどちんこの両脇に見える「口蓋扁桃(こうがいへんとう)」。
よく診察室で口をアーンして先生が見ているのは、この「口蓋扁桃」です。
それに一般的に「扁桃腺」といえば、この口蓋扁桃を指すのが通常です。
蓋(がい)というのは、聞き慣れない言葉ですが、「フタ」を意味しています。
口蓋は、口の天井部分で、よく海苔(ノリ)を食べるとひっつくところですね。
ここを「フタ」に見立てて、「口蓋」とよんでいるわけです。
その口蓋の脇にある扁桃なので、ここにある扁桃を「口蓋扁桃」とよんでいます。
そして2つ目は、「舌扁桃(ぜつへんとう)」
舌扁桃は、のどちんこを越えたさらに奥。舌の根元部分にあります。
最後に3つ目は、「咽頭扁桃(いんとうへんとう)」。
位置的には、鼻から入ってそのままドンと奥に突き当たったところ。
アーンと口を開けても見えないんですが、のどの奥の部分にあるのが咽頭扁桃です。
咽頭(いんとう)という言葉はなかなか聞き慣れないですが、この鼻から奥に突き当たるところ、そこから食道につながるところまでを「咽頭」とよんでいます。
この咽頭扁桃は、別名で「アデノイド」ともよばれています。
そして、もう1つ。
耳の中にも、1つ扁桃があります。
耳の穴、耳管(じかん)とよばれる管(くだ)のいちばん奥、その脇にあるのが「耳管扁桃(じかんへんとう)」です。
場所的には、耳の穴がのどにつながるところです。
こうして口の中に3つ、プラス耳に1つある扁桃がぐるりと、体の外と中の境界「のど」を取り囲んでいるのも、外敵から身を守るため。
細菌やウイルスの侵入を防ぐ「免疫(めんえき)システム」を働かせるために、このような部分に「扁桃」が配置されています。
このようにのどの周りをぐるりと輪っかのように扁桃が配置されているのを、発見したドイツの解剖学者の名前から「ワルダイエルの咽頭輪(いんとう・りん)」とよんでいます。
扁桃は、戦場の最前線
つまり、扁桃は、外界からやってくる細菌、ウイルスなどの病原体に対する防御の最初の砦(とりで)になっていると考えられています。
口を通して外から進入してくる病原菌や細菌を捕獲し死滅させている、人間の体にとって大切な働きをしている部位なのです。
扁桃の中でもいちばん大きな口蓋扁桃には、よく見ると表面にクルミのようなデコボコがあります。
このデコボコがあることで、表面積が広くなり、外界からの刺激や病原体を受け入れやすい構造になっているわけです。
この構造のおかげで、効率よく細菌やウイルスなどを捕まえ、撃退することができるのです。
しかし、このうまく考えられた構造も、場合によってはデメリットになることもあります。
こうした複雑に入り組んだ構造が逆に、細菌感染をおこしやすくさせ、子どもによっては頻繁に扁桃をパンパンにはらして苦しんでしまう、ともいえるからです。
成長にしたがって大きくなる扁桃
そんな重要な扁桃も、生まれた時には、「薄っすらある」ぐらいにしか確認できません。
それぐらい最初は小さなものなんですね。
それが成長するにしたがって、徐々に大きくなっていきます。
口蓋扁桃は2~3歳頃から肥大が始まり、7~8歳で最大。9~10歳ころには、自然に小さくなります。
咽頭扁桃(アデノイド)は、口蓋扁桃より1~2年早めに大きくなり始め、6~7歳ころに肥大のピークがあります。
こうして、始め小さかった扁桃が、成長につれて大きくなるのも、やはり免疫が関係していると考えられています。
扁桃が、外から様々な刺激に触れることで、免疫が大きく働き、その結果、肥大すると考えられるわけです。
ただ、肥大の程度、経過は個人差が大きく、時に大人になっても肥大が続くこともあります。
子どもより小さい、大人の扁桃
しかし、傾向としては、扁桃は、10歳頃になると、次第に小さくなっていくようです。
ですから、子どもの扁桃は大人より大きいのが、普通なんですね。
というのも、抵抗力の弱い赤ちゃんや子どもの時期には、「防御の砦(とりで)」として大きな役割を果たす扁桃。
しかし、人間は成長することで、扁桃以外の免疫機能も充実してきます。
そうすると扁桃の必要性も少なくなってくるので、扁桃は次第にしぼんでいくのだと考えられています。
なので、10歳以降では、あまり「防御の砦」としての重要性も弱まってくる、とも取れるわけですね。
それぐらいに成長する頃には、全身的な免疫の機能も十分に発達してきて、扁桃だけに頼らなくてもいい状態になってくるのです。
なので、日常生活に支障がない限りは、扁桃が「大きいから」とか「小さいから」とかだけで、異常だとは言い切れないわけです。
ただし、扁桃肥大(へんとう・ひだい)があまりにも進み過ぎると、生活に支障が出ます。
たとえば、口蓋扁桃肥大だと、大きなものを飲み込みづらくなったり、咽頭扁桃肥大(アデノイド肥大)だと鼻で呼吸するのが苦しくなったり。
そういった場合は、元通り楽に生活できるように、手術で扁桃を切除する方法もあります。
単なる扁桃炎か?感染症か?
口や鼻から細菌やウイルスが入ってきた時、扁桃はそれらと戦い、撃退する働きをしています。
しかし、そういった病原体との戦いが激しいと、戦場となった扁桃は傷つくことになります。
これをよく「扁桃腺がはれた!」というわけですね。
扁桃が傷つき、炎症がおこることで、赤く大きくはれるので、このような状態を病院では「扁桃炎(へんとうえん)」とよんでいます。
単なる風邪による扁桃炎ならいいのですが、それぞれ感染した細菌やウイルスによって治療法や対応方法も違ってきます。
なので、感染症と思われた場合には、しっかり診察や検査をしてもらって、どんな病気なのか、きちんと診断してもらうことが大事です。
また、アトピーは、感染症でも悪化することがあるので、アトピーを悪化させないためにも感染症の適切な診断、治療は大事になってきます。
ということで、位置を勘違いしやすい扁桃。
一度、子どもにアーンしてもらって、「位置」や「大きさ」をチェックしてみてくださいね。