教科書で習った空海の代表著書ですよ。
それがこんなに簡単で、面白くて、
気軽に読めちゃうものだとは!! \(^o^)/
若干24才の空海が修行時代に書いた
処女作であり、自伝であり、
儒教、道教、仏教の三教を比較して
その中でも特に優れた「大乗仏教」を志す
ことを高らかに宣言する!
これを日本初の戯曲形式で、
例え話たっぷり、芝居っ気たっぷり、
な~んと驚きの楽しさでお気入りの一冊に♪
さんごうしいき
儒、道、仏の三教の帰着点(指帰)を示す
これには元本があって、延暦16年12月1日の
「聾瞽指帰」 (ろうこしいき)
若き日の肩肘張った攻撃的な言い回しを
少しマイルドに訂正し、著作日を変えぬまま
50代になってから三教指帰として発表した。
元々儒学を学ぶ大学に通っていた空海が
退学して山岳修行したい、と両親を説得する
為の書、、とも言われてるから、
血気に逸る若者の情熱が溢れすぎたのかな。
内容には驚くほど、てか嫌味なほど、
しつこいほど、中国の故事を引用する。
どんだけ詳しいんだか、、てかこんなに
知ってますアピールの、クセがスゴい!
ラストは儒教・道教二人が仮名乞児(空海)の
御指導に感動し、心を入れ替えるんだけど
「自分の皮膚を剥いで紙となし、
骨を取り出して筆を作り、
血液をもって墨に代え、
頭の骨を晒して硯に用いて
全身全霊で教えを心に刻みます。」
と、ひれ伏す。。。 この大仰な中国風比喩も
元ネタは高名な「大智度論」で、次から次へ
出てくる、出しすぎ、中国故事の大渋滞!
唐使船の漂着難民が、空海の書状ひとつで
一転、VIP待遇に変わったのも頷ける。
教養とウイットに溢れた軽やかな言葉で
相手を最上級に持ち上げつつ、自身は華麗に
へりくだり要求はしっかり通す・・・という
空海の文章芸は、この頃から鉄板だ~
しかし!この程度の漢学素養は
ほんの小手先の技術にすぎぬ、、とばかり
仮名乞児(空海)はインド的万有観や、
現代科学ぽい宇宙観まで披露する。
高くそびえる妙高もこの世の終わりには
刧火に焼かれ、灰となり滅びるだろう、
大海原も7つの太陽に照らされ燃え尽きる、
大地も洪水の中に砕け裂ける、
弓なりの大空も焼け崩れる。
宇宙が成立し破滅する、という永劫の時間で
考えれば、天女や仙人の数千久の寿命も
雷光の閃きより短かい、一瞬にすぎない。。
処世術の儒学もダメ、不老不死の道教もダメ
ってワケね。
さらに、欲望たっぶり若き日の空海さんは
煩悩を滅して成仏する釈迦も気にくわない。
あくまで法身(ほっしん)という宇宙の真理、
思想上の存在で遍照とも光明遍照ともいう。
(一個の塵に全宇宙が存在する、という
華厳経の画期的な世界把握は密教に近く
これを一歩進め、だからどうすれば良いか
という問いに応えているのが大日経だ、
と空海は考える)
空海がインド密教に出会うキッカケが
この本にもある「虚空蔵菩薩求聞持法経」で、
インドに伝わる記憶術の秘法だ。
ある修法で、ある真言を百万遍唱えれば
万巻の経典をたちまち暗誦できるようになる。
つまり、自然の理法を知り、それを動かす
方法さえ会得すれば、知慧の源泉である
自然から限りなく利益を受けることができる。
平凡な生活者が望む現世の肯定!
現世の福徳を享受する!大乗仏教!だー
別院として虚空蔵堂がある。
虚空蔵菩薩は、「宇宙のように広大で
果てしない福徳と知恵を蔵する」仏さま。
三教指帰を書いた後、31才で入唐するまで
7年間が空白、と言われているけど、
この間、空海は最新密教の「大日経」を
久米寺で発見している。
新しすぎて誰の目にも止まらず置いてあった
そうで、これぞ宇宙の真理!求めていた物を
見つけた空海は喜んだ!そして、
大日経では足りない部分、「口伝と密法」を
直接、恵果から授かる!!という、
極めて明快な目的を持って唐に渡り、
予定通り二年で実現した、ということなる。
↑ ●空海の風景 @司馬遼太郎 より
実はこの本を読む前、見栄をはって?
中公クラシックス本を買ってみたけど、
スゴく短い本文に対し、語法の解説の方が
断然多くて読みきれん。。訳も少々お堅いし。
この「ビギナーズ日本の思想」は
とっても薄い本だけど、それでも半分は
解説と、全フリ仮名付きの原文訓み下しに
なっている。スバラシー。
訳者の加藤精一さんは祖父から三代に亘って
三教指帰を訳しており、父純隆さんが後半生
を費やした労作に、思いきった意訳を施し
一読して意味がわかるようにしたそうだ。
私はとても面白く読めたし、何より
意味がよく解って、古事記以来の感動だった。
愛読書は空海、なんてね♪ 嬉しいぞ。