『大富豪父の教え 第13話』。
0話目. 『大富豪 父の教え』
1話目. 『荒川祐二の物語』
2話目. 『大丈夫。必ず出来るから』
3話目. 『父から受け継いだ財産』
4話目. 『人生の得意技を見つける』
5話目. 『母の言葉が起こした奇跡』
6話目. 『頑張る前に、頑張り方を知る』
7話目. 『人生に無駄はない』
8話目. 『群れない強さを持つ』
9話目. 『新宿駅東口のゴミ拾い』
10話目. 『お金のブロックの外し方』
11話目. 『嫁画伯との結婚』
12話目. 『4000万円の借金が出来ました』
ラーメン屋やれよ」
あ「はいっ!?!?!?」
ブツッ…。
こうして24歳にして、
借金4000万円を抱えることになった、
僕の新たなる挑戦が始まったのです」
ス「まぁでも、ちょうどええがな。
それぐらい逃げ道を無くした方が、
人間本気にもなるやろ」
あ「まぁ確かにそうと言えば、
そうなんですけど…」
ス「で、
その後どうなったん?」
あ「そこからが今日の物語です。
それでは24歳の頃、
2010年に時計の針を戻しましょう」
安定とは程遠い仕事をしていたため、
相手方の親御さんにも、
経済的な心配をされてしまった、
荒川祐二。
そのためには、
稼がなければならない。
さらには、
愛した女性に苦労をさせず、
『女性』であり続けさせるために、
男としての『器』も、
身に付けなければいけない。
そうして、
2010年6月。
借金4000万円という所から、
僕の『ラーメン屋経営者』としての、
人生が始まった。
ハッキリ言って、
僕にラーメン屋の知識や、
ノウハウはない。
さらに言うならば、
この店舗は元々、
全国的に展開している大手ラーメンチェーンが、
閉店した後を買い取って、
改装した店舗であり、
スタッフもほとんどがそこから、
引き継いだ方ばかりだった。
24歳の僕より、
遥かに上。
もしこれを見てくれている、
あなたが、
スタッフの立場だったら、
いくら『経営者』と言えど、
そんな知識もノウハウもない、
若造の言うことなど、
聞くだろうか?
答えは、
『NO』である。
商売をしたことがある方なら、
分かるかもしれないが、
いくら社長の息子と言えど、
『生まれ』だけでやっていけるほど、
経営、ビジネスというものは、
甘くない。
結果、
お店をオープンしてからずっと、
店舗にもめ事が絶えることはなかった。
僕のことを決して経営者として認めず、
アルバイトやパートさんたちも、
違う方向を向いて、
バラバラの状態だった。
一体、どうすればいいのか…。
絶対に失敗だけは出来ない。
ここで僕がこけたら、
残るものは、
『4000万円』という、
借金だけである。
何とか打開策をと思って、
僕が相談したのは、
やはり『父』だった。
父に言われた言葉はこうだった。
父「お前な、
何のために仕事してんねん?」
あ「何のため、とは…?」
父「だからお前は今、
『何のためにラーメン屋をしてるのか?』って話や」
あ「………」
その質問に、
咄嗟に答えられない僕に、
父は言う。
父「それが答えられへんというところが、
お前が今抱える問題の全てや。
ええか?従業員というのは、
よく経営者のことを見てんねん。
この人は一体どんな人なんやろう?
どこを目指してるんやろう?
自分達をどこに、
連れて行ってくれるんやろう?ってな」
あ「………」
父「これだけ仕事が溢れている時代や。
選ばんかったら別に、
どこでも働ける。
でもその中で、
敢えてお前の店で働く理由は何や?
そこに何の『やりがい』がある?
その先に何がある?
それを経営者であるお前が、
示されへんということは、
従業員はお前には、
ついていかれへんということや」
あ「敢えてこの店で働く理由…。
やりがい…」
その後の父の言葉、
その時の表情は、
今でも鮮明に覚えている。
父「経営者や上に立つ者の役割は、
従業員やスタッフに、
『未来』を見せることや。
それが出来ずに、
自分のことしか考えていない経営者やったら、
下の子らがかわいそうや」
あ「………」
その時の僕は、
確かにそうだった。
『借金4000万円』。
これしか僕は見えていなかった。
この借金を返すことしか、
考えておらず、
『その先』を、
全く見据えていなかった。
確かにそうであろう。
そんな経営者のために、
誰もついていきたくはない。
『何で別に恩義があるわけでもない、
お前の借金返済のために、
俺らが働かなきゃいけないんだ』。
そう思われるのが、
関の山だろう。
借金の完済というのは、
あくまで目標に進んでいく中での、
『過程』のことであり、
それは決して、
『目標』ではない。
そう考えたその時に、
今も働いてくれている、
スタッフの顔が浮かんできた。
申し訳なくて、
涙が溢れてきた。
涙を流す僕に、
父が優しい言葉で言う。
父「本来はな、
スタッフや従業員という存在は、
遅刻もせずに、無断欠勤もせずにな、
働いてくれるだけで、
有り難いんや。
経営者と言えども、
俺もお前も、
みんな人間。
みんな未熟や。
そんな未熟な自分なんかに、
ついてきてくれる。
そう考えたら、
それだけで有り難いと思えて、
感謝の気持ちが湧いてけーへんか?」
あ「…はいっ…。
本当に…その通り…です…」
父「一人一人の顔を思い浮かべて、
その人生の背景に、
思いを馳せる。
それぞれに家族がいて、
それぞれに幸せになりたい、
という思いがあって、
それぞれに、
これからの未来がある。
そんな一人一人を、
お前が預かっているという、
気持ちをしっかり忘れず、
しっかり導いてやってくれ。
それが上に立つ者の、
使命やからな」
…この時僕はもう溢れる涙を、
止めることが出来なかった。
この時以来僕は、
従業員やスタッフさんたちに、
未来を語り続けるようにした。
『何のために、この店があるのか?』、
『俺たちはどこを目指すのか?』、
『みんなにどうなってほしいのか?』
その中で僕が出した結論は、
『何よりも従業員の人生を、幸せにすること』。
『ここで働けて良かったという職場を作ること』。
この2つだった。
全く未熟な若造である自分なんかに、
ついてきてくれる従業員のために、
そんな未来を作っていくことが、
経営者である僕自身の役割だと、
思えるようになった。
その先に皆も幸せになれる未来があるから』。
目標を掲げると、
僕自身の使う言葉も、
その重みも波長も変わり、
そうして組織は、
少しずつ変わっていった。
経営を始めて、
今で8年。
おかげさまで昨年、
4000万円の借金を完済することも出来、
店舗数は2店舗になり、
何をしているのかよくわかりませんよね』と、
よく言われることがある。
これまでの物語が、
僕が今もこの人生で、
作家やゴミ拾い、
そして書の創作活動や、
ラーメン屋の経営など、
1つのことだけに拘らず、
様々なことを行っている、
その歴史と理由である。
『5年先、10年先が見えない、
激動の時代やからこそ、
家族や従業員を守るために、
最低でも3つの武器は持っておけ』。
かつて父に、
そう言われたことがあったが、
知ってか知らずか僕は、
その教えも、
実践していることになる。
今日まで必死な中で、
人生を生きてきた。
父という大きな存在に、
時に試練を与えられ、
それでも、
大きな愛に包まれて、
僕は今日までの人生を、
生きてきた。
父がいなくなった今も、
そしてこれからもずっと、
様々な場面で、
僕の人生には、
『大富豪 父の教え』が、
脈々と流れ続ける。
今も、
そしてこれからもずっと。
ずっと…。
父が生前僕に遺してくれた、
大切な教えを皆さんに共有して、
一旦の終了となります。
最後まで付き合ってくれて、
本当にありがとう。
―――――――――――――