すっぴんマスター2017‐読書 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

毎年書いていてあとやっていないのは読書と漫画・・・。漫画はまだ読んでいないのが数冊あるが、読書にかんしてはもう読み終わりそうなものがないし、ましてやブログ更新もできそうにないので、いつもとは逆の順序になるが、もう更新してしまおう。というか気づいたらもう年越しまで時間がない。

 

 

今年は『翻訳と日本の近代』から『読者はどこにいるのか』まで、ぜんぶで27冊の本を読んだ。これは去年、おそらく人生最低の数字とした冊数を2冊上回った程度の数字である。しかし後悔はない。今年も去年に増してヘビー級の本が多かったのだ。もちろん、できたらもっとたくさん読みたいけど、そうするには睡眠時間をもっと削らなければならなくなり、それは無理なので、満足しなければならないのである。

 

長谷部恭男を読んでから憲法の勉強が続いており、去年はホッブズを読んだが、今年はルソーを2本読めたことはよかった。関連するところで『多数決を疑う』が素晴らしかった坂井豊貴もふたつ読んだ。おもえば今年はそういった枝分かれ系の読書ばかりしていた気がする。田山花袋も2冊読んだし、沼野充義の『チェーホフ』を読んで、たいくつな話を新たな翻訳で読み直し、トルストイの自伝2冊にも手をつけた。『高野聖・眉かくしの霊』に衝撃を受けて泉鏡花の短編集も買ったのだけど、前以上に古文の文体で遅々としてすすまず、これは今年中には読みきれなかった。戦後関連では『感性文化論』を読んだが、じつはもう1年くらい読み続けている加藤典洋の『戦後的思考』も間に合わなかったくちである。長い、あるいは難しい、あるいはなくしたなどの理由で、読書を挫折することは僕にはよくあるが、『戦後的思考』はいちおう毎日すこしずつ進んではいる。こういう読み方はあまりしたことがない。ここまで時間をかけると、日がすすむごとに熱意も薄れてしまって、ちょっとずつ距離が開いていってしまうからである。加藤典洋のことはほんとうに尊敬していて、ああいう思考をしてみたいといつも願っているが、なにしろ難しい。もともと難しいはなしを、あの独特の文体でさらに複雑にこねくりまわし、さらに難しい結論を引き出している感じだ。しかしおもしろい。来年の早い段階で読み終わることになるとはおもうが、これにかんしては、ブログを開設してから初のことになるが、書評を書かないでおこうかと考えている。あんなものとても記事にできない。

 

 

さて、今年も個人的なベスト本を抽出しておこう。まず小説では、といっても小説なんか数えるほどしか読んでいないので全部書くと、まず日本のものでは『高野聖・眉かくしの霊』、『蒲団・重右衛門の最後』、『少女病』、それに古井由吉『杳子・妻隠』、海外、というかロシアのものがチェーホフの『六号病棟・退屈な話』、トルストイの『幼年時代』と『少年時代』、ミステリが浦賀和宏の『Mの女』という具合で、たったの8冊である。しかし今年ははずれがなかった。どれもすばらしい小説体験となった。そういえば方丈記なんかも読んだな。

その他のもので印象深いのは、『道徳を基礎づける』、『人間不平等起源論』、『幽霊学入門』、『チェーホフ』、『日本史のなぞ』といったところである。甲乙つけがたいが、いちおう、今年からトップページに最近のベスト本のリンクを貼るようにしたので、なんとか考えなければならない。もしこれらのなかに差を見つけるとしたら、小説では『幼年時代』、その他では『道徳を基礎づける』ということになる。というのは、どちらも僕がこれまでノータッチだったようなジャンルの本だからである。トルストイはずっと敬遠してきた作家だが、おもったよりずっとおもしろいといううれしい驚きがあったし、『道徳を基礎づける』の孟子とルソーのバトルなんか僕がふつうに生きていたらぜったい考えつかない発想なのである。意外性という点では『蒲団』もそうだ。これまで僕は田山花袋を、なにかこう、ちょっとまちがった解釈をしてやりすぎてしまったひと、スキャンダラスではあったが文学性、芸術性には乏しいひと、みたいに想像していた。しかしそんなことはぜんぜんなかった。蒲団はふつうに傑作である。「重右衛門の最後」なんかも、文学性云々をいう以前に、まるで現代の作家が明治の田舎を想像して書いたサスペンスのようなおもしろさだった。というわけで、今年は『蒲団・重右衛門の最後』を含む3冊をベスト本ということにしよう。したからなんだというはなしだが。

 

 

来年はその『戦後的思考』や泉鏡花以外にも、どこかにいってしまって途中でとまっているルソーの『社会契約論』も読まねばならない。ルソーをひととおり終えたらロックも読みたいしフーコーの臨床医学の本も読みたい。ヘビー級の読書はこれからも続いていくのであった。