第143審/承認の欲求②
新章2話目、登場人物たちの複雑な名前が次々と明らかになるぞ。
まず、前回から出ている女の子ふたり、仕事辞めたいと言っていた黒っぽい服の子は姫愛羅(てぃあら)で、リボンの、路上で客をとり、ホストに掛けもあった子が、だいぶ名前は出ないのだが、どうやら心愛(ここあ)だ。たぶんそう。違ったら教えてください。
定着していると言ってもよいほど代表的なキラキラネームであり、本名と思われる。調べたら「姫愛羅」はちがう読みも多数あるようだが、ひとまず名前の読みとしては「あり得る」程度のものにはなっていると思われる。
で、その黒っぽいほう、仕事を辞めたいと言っていた姫愛羅はじっさい辞めたらしい。服屋の販売員をやっていた。いまふたりでスマホで見ているのは、ひつじちゃんというひとのプロデュースしたコンカフェの写真だ。てぃあらは従業員募集に申し込んだ。服屋で働いていたくらいだし見た目は申し分なさそうだが、1000人受けて30人ということで、落ちてしまった。
前回、お金を稼がなきゃというはなしはあった。とりあえずパパ活だが、パパ活は本業があったほうが人気あるのだという。そんなの、適当に前にやってた仕事ということにすればいいような…。やったことある仕事なら嘘もバレにくいだろう。そういうはなしではないのかな。
てぃあらはホスト通いなどについては不明だが、占いで詐欺にあっている。1000万預けて毎月5万ずつしか返ってこない。よくわからないが、1000万出せるちからがありながら、なんというか、不安定で不確定な毎日である。
次はてぃあらのパパ活のはなし。村田という、ふたりでよく話題にする60過ぎの男だ。見た目カタギの役職者感のある人物だが、なかなかのものである。かばんのなかみは大金に宗教くさい本、うがい薬。かばんのなかはあたまのなかということだ。村田は女のことしか考えていない。うがい薬は避妊だか性病だかに効くみたいな都市伝説がかつて、そしておそらくいまもあり、それを信じてるっぽい。大金は、いつでも未成年を買えるように持ち歩いている。だからすぐ目をつけられ、美人局にあう。すると、なぜかてぃあらに連絡がくる。金を借りるとかでなく、行為もなく、ただ「怖い」と連絡がくるのだ。村田はいま携帯をロッカーに預けて逃げ隠れしているが、ヤクザが出てくるはなしでもない、キモいだけだとてぃあらが慰める、それで5万くれる、みたいな流れだ。異様な世界だが、てぃあらがそのように村田の状況を相対化しているのは興味深い。てぃあらはそういうことが難なくできるくらいあたまが働くし、経験もあるわけだ。
最後に、ふたりは笠置雫の目撃情報について話し合う。雫が殺した修斗のことも知っていたらしい。雫と面識はなく、行き場がなさそうな彼女を立ちんぼしてるのかなと想像する。ひとを殺しているわけである、怖いといいつつ、かなり近いところにいる雫を、我が身と合わせて心配するような感覚っぽい。
ひとりになったてぃあらは八幡聡明(やわたとしあき)という弁護士にあう。SNSでなにやら高そうな料理の写真に名言みたいのを添えて投稿する、いままでなかったタイプの弁護士だ。
てぃあらは八幡に、どこか高い店でのパーティーに連れて行ってもらったらしい。八幡はてぃあらを人間として下に見る感じをまったく隠さない。SNSの投稿をみても、そのように畜群を想定することで自身の位置高めようとする傾向が感じられる。この部屋はてぃあらの家らしいが、八幡が与えているもので、無料で飼ってるんだからきれいにしてよと、露悪的な感じすらなく、当たり前のことをいうようにモラハラをくりかえす。そうすることで自身の「別格」を確認しているのである。
そこへ誰かから連絡がくる。知人に同期の九条を紹介してほしいという内容だ。八幡も九条は嫌いらしい。すごいな九条先生は。このタイプにも嫌われてるのかよ。
一ノ瀬貴族というREIGNグループのホストだ。太客から売り掛けが回収できなくて店長に殴られ、大切な顔を腫らせてしまっている。この太客というのが、流れからしてリボンの女の子、心愛である。
話し相手は深泥池哲也(みぞろがいけてつや)、「ゴールデンGUY」というスカウトグループの幹部だ。八幡に連絡していたのは深泥池である。
深泥池は貴族の状況を理解しており、ここあのことも知ってるっぽい。合計500万近いここあの借金を肩代わりすると深泥池はいう。かわりに人生を預かる。見た目がよくて依存する、そんな彼女たちは、彼らにはかっこうの売り物なのだった。
つづく
名前がぜんぜん覚えられない。どうしよう…
八幡は深泥池とつながりがあるわけだが、以前弁護したことがあるのか、それとも八幡も九条や山城のようにためらいなく悪人を弁護する人間なのか、そのあたりはわからない。九条について毒づく内容ははやくバッジを飛ばせというもので、九条的なスタンスについてはどちらかというと否定的なように見えるが、こんなタイプだから、金になるならなんでもという山城的ぶぶんもありそう。まだ弁護士としてのスタンスはわからないが、少なくとも九条を能力的に下に見てそうだなという感じはする。
八幡は九条と同期だそうなので、30代半ばか後半くらいかなという感じがするが、そのSNSは一時的に大金を手にした若い成金みたいに露骨である。弁護士であるから学はあり、年もそれなりにいっていてこれをするのは、効果の面で成功体験があるからだろう。もしくは精神面でそれをしないではいられないなにかがあるということだ。
彼がSNSで何をしているかというと、じぶんが選ばれた人間であるということの表現である。すべて食事の写真みたいだが、食べているものとそれを出している店を、高い腕時計のようにじぶんのイメージに着せて、それがいかに特殊な状況であるか示すのである。
ただ、これらはあくまで外部にあるものだ。前回振り返ったように、これは笠置雫の「消費の産物」にも見られたもので、「家」のない世界で何者かであろうとする近代人が意図せず行う、モノを通じた自己のプライシングである。
現代人なら誰しもしていること、言挙げすることでもほんらいはないのかもしれない。しかし、ほとんど無邪気ともいえるてぃあらへのあのような物言いを「ふつう」とするのは抵抗がある。
彼はそこに名言的なひとことまで添える。たんに、たとえば「高そうな腕時計」は、そこに含まれる意味をにおわせるにとどまる。要するに伝わらないひとには伝わらない。そういう状況を許さないから身も蓋もないあのような言葉が添えられるのだ。高そうな食事、高そうな店というモノだけでは伝わらないかもしれないという状況を彼は許さない。ある人物に、腕時計が高いこと、つまり金持ちだということが伝わらないのは、その人物がそこに価値を見出さないからである。八幡はそれを認めない。そこに格差や選民があるということを、すべてのものに認めさせたい。わざわざ言葉が添えられるのはそのためだ。
しかしそれは逆に、彼がそうしたちがう価値観のものの出現を恐れているということでもある。雫らにおける「氾濫するモノ」は、彼女らが「家」をもたないがゆえのことだった。ここで「家」とは、「『存在」をなにか別のものに言い換えなくてもよい場所」である。彼もまた、彼のままでいられる、真にリラックスできる場所をもたないものなのかもしれないが、貧困などの状況を考えれば、構造としては相似でも、雫と同じ状況だとはいえないようにおもえる。となると彼はなにをしているのか?自尊心の保持である。八幡は、自信喪失を恐れているのだ。彼の場合の「家」は、彼のなかにある。もちろん、八幡も人間だし、それがゆえモノで武装するわけだが、雫ほどに他人を求めるというタイプでもない。この武装は彼じしんに向けられたものなのだ。写真の言葉は、価値観を異にする人間の胸ぐらをつかんでわからせるためのものだ。そしてそうした行為を通じ、八幡はじぶんが選ばれしものだということを自己催眠的に確認しているのである。
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