第69話/7500
久々の刃牙掲載は、シリーズ35周年記念号である。
板垣先生、おめでとうございます。
関連作品がほとんど集まって描き下ろしだ。すごい量だよな。『バキどもえ』とか『拳刃』とか、終わったり連載してなかったりなやつもまだある。最近は長寿漫画にスピンオフがたくさんあるのって珍しくないけど、この量は…。
本編は飛行機内、機長らが客室からハイジャックの知らせを受けているところだ。なんか最初からギャグっぽいノリだが、ほんとうのやつのときもこのリアクションなのだろうか。
人数はひとり、しかも素手だという。
武術をたしなんでいる、という、バキ世界では危険なプロフィールの機長が客室に向かう。見たところからだが大きいというようなことはないが…。仮にもハイジャックされたわけなのである、ブロック・レスナーくらいは想定してよいとおもうが、レスナーがいても問題ないということか、すごい自信だ。
が、いたのは小さな少年である。刃牙だ。
機長が「歳はいくつなんだ…??」と考えたことになぜか刃牙は18歳とちょっとだと答える。肉体の武器化に成功したらハイジャックもわけない、はず。だからそれを証明してみたと。
刃牙や機長は、「ハイジャックした」「証明してみた」と、あくまで過去形だ。もうこの飛行機は刃牙によって占拠されていると。ハイジャックとは一種の脅迫であり、ある意味では宣言すればそれで成立、ということかもしれない。脅迫行為であるから、乗客を攻撃するとか、宣言の内容じたいが実行される必要はない。つまり宣言の時点で犯罪としては成立する。だから基本的にハイジャックは過去形でしか語れないのだろう。
しかし相手がその脅迫に脅威を感じなければ意味はない。機長は、ちょっとおかしい若者を教育するくらいの感覚で空手っぽい構えをとる。
機長は空手をやるような、しかも自信もある実力者なのに、親子喧嘩の中継を見なかったようだ。冷静に考えると刃牙がふつうに飛行機乗れてるのも問題だけど。顔写真出回ってそうなのにな。
ともかく刃牙は地上最強の18歳。機長の空手で止められるはずがない。伝統派っぽいスピーディーな機長の追い突きを刃牙はキャッチ、からだを回転させて抱き止める。乗務員からはダンスしてるようにすら見える。
刃牙は機長の香りをほめ、耳に息を吹きかける。逆側から脳みそが出てこなくてよかったな。刃牙のハイジャックはこうして終了するのだった。
つづく
副題の「7500」は、飛行機の高度のことだろう。たぶん。
刃牙はブラックペンタゴンのときも似たようなことしてた。オリバの住処に向かうために実行した大統領誘拐じたいが「やってみた」だし、入所してからも、オリバみたいな自由な出入りができるかどうか試していた。主人公だしさ、しかたないけど、やってみるなよ。ユーチューバーかよ。たぶんこの件も光成か範馬への忖度パワーで不問だろう。かかわるひとたちがふつうにかわいそう…。
ハイジャックについては以前ゲバルも言っていたが、しかし大統領誘拐や脱獄とはずいぶん趣きが異なっている。なんというか、実現の難しさというものが、たんに「生身で強い」というだけでかなりクリアできてしまうからだ。要するに、銃器を持って搭乗ができないから難しいのであって、そうした制限がされない以上、刃牙みたいな人間にはもともと難しくないのである。大統領誘拐や脱獄はそうではない。脱獄は、収監された状態から始まるのでこの意味で制限があるが、それで終わりではない。逆に銃火器が襲いかかってくるのだ。
ここで刃牙がしてきたことの困難を「壁」だとする。警備された大統領を誘拐することは、高い壁になるだろう。これを乗り越えることが「証明」になる。脱獄は、壁が高い上に、制限がかかるため、地面が掘り返され、低い位置からのスタートになる。壁の高さやかたさが強化される方向性だ。ではハイジャックはというと、壁じたいはそう高くはない。航空警察みたいなものが潜入しているのも映画ではみるが、じっさいにはどうなのだろう。だがそれも、大統領の警備や刑務所に比べたらいかにも小規模だ。警備を大規模にするリスクなどもあるだろう。そうしなくてよい、低い壁で済むのは、壁の手前に掘られた穴がとても深いからである。
だが刃牙や素手を凶器にした人間にはこの穴が意味をなさないというはなしだ。
こう考えると、「ハイジャック」は、その脅迫的性質もあり、腕試しというより扱いの確認のような性格であることがわかる。この困難を突破できるか、というチャレンジではなく、じぶんはそれができる身分になれているか、というたぐいの確認なのである。ただ、武器がなければ誰でも乗れるわけだから、これは刃牙が「ふつうのひと」であると認識されていること以外意味はない。つまり、くりかえすように、ハイジャックを志すことじたいは誰でもできるのである。ハイジャックは過去形で語られる。それはこれが脅迫だからだ。誰でも「殴るぞ」と脅すことじたいはいつでもできるのだ。ただ、だからなに?といわれたら意味がない。脅迫罪はもとより成立してしまっているだろうが(調べてないです)、いまは法律のはなしをしているのではない。だからここで確認される「身分」とは、脅迫の内容を身ひとつで信じてもらえるか、ということにほかならない。実力の確認ではない、それ、つまり武器となる拳を持っているということを、それを行使せず理解してもらえるか、ということなのである。
これは、前回が無謀にも拳銃2丁で勇次郎に挑んだ狩場のはなしだったことをおもうと、いかにも対比的である。あれは、明らかに狩場の目算違いだったわけだが、今回刃牙は、じぶんが正しく目算されるかどうかを試したわけである。みずから「地上最強の18歳」と名乗る点にも、「生物」ではなく「18歳」と絞っているところに勇次郎へのリスペクトが感じられるが、同時に目配せでもあるわけである。じっさいは、刃牙は少年だとなめられ、結局それなりのことをしないと信用はされなかったわけだが、手首切断までやった勇次郎と比べれば穏やかなものだ。相手の目算を正すという点で、両者にはこのようなちがいが出ているわけである。
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