鳥巣清典の時事コラム1564「なぜ、利子率の低下が『資本主義の死期』と関係するほどの重大事件か」 | 絶対に受けたい授業「国家財政破綻」

鳥巣清典の時事コラム1564「なぜ、利子率の低下が『資本主義の死期』と関係するほどの重大事件か」

 水野和夫氏は、著書『資本主義の終焉と歴史の危機』で「資本主義の死期が近づいているのではないか」と述べます。


 私はイデオロギッシュ的体質の人間ではありません。単純に今、私たちはどのような時代に生きているのかーーあわよくば未来の選択にはどういうものがあるのかーーを知りたいのです。

なぜ、利子率の低下が「資本主義の死期」と関係?


 なぜ、死期が近づいていると水野氏は考えるのか。その大きな理由が「利子率」。
 水野氏は、こう述べています。
日本を筆頭にアメリカやユーロ圏でも政策金利はおおむねゼロ、10年国債利回りも超低金利となり、いよいよ資本の自己増殖が不可能になってきている

なぜなら、”金利は資本利潤率と同じ”だと言えるから


 なぜ、利子率の低下がそれほどまでに重大事件なのかを氏は以下のように解説。
<金利はすなわち、資本利潤率とほぼ同じだと言えるからです。資本を投下し、利潤を得て資本を自己増殖させることが資本主義の基本的な性質なのですから、利潤率が極端に低いということは、すでに資本主義が資本主義として機能していないという兆候です。>


16世紀末~17世紀初頭のイタリアも利子率が極端に低下


 水野氏は、こう続けます

<ジェノヴァをはじめとする16世紀末から17世紀初頭のイタリアでもそうでした。>
 そして、ブローデルの『地中海』が紹介される。16世紀の地中海を舞台に
「地理と経済が政治史をつくる」との自説を証明しようとした、あの本です。

「ブローデル」の画像検索結果

ブローデルは『地中海』で「利子率革命」と指摘した


 <ブローデルは著書『地中海』でこの時期について、カルロ・M・チッポラの著書を引きながら、「銀と金は投資の手段を見出すのが困難である。『資本がこれほど安く提供されたのは、ローマ帝国の衰退以来ヨーロッパの歴史において初めてであるが、これは実は並み並みならぬ革命である』と指摘しています。つまり、投資がすでに行き渡ってしまい、「革命」と言えるほどに利子率が低下したのです。
 これが「利子率革命」です。>


利潤率2%以下の長期化では設備投資は「過剰」設備

 水野氏は、さらに詳しく語っています。
<利子率=利潤率が2%を下回れば、資本側が得るものはほぼゼロです。そうした超低金利が10年を超えて続くと、既存の経済・社会システムはもはや維持できません。これこそが「利子率革命」が「革命」たるゆえんです。(中略)10年国債の利子率が2%を下回るということは、資本家が資本投資をして工場やオフィスビルをつくっても、資本家や投資家が満足できるリターンが得られなくなったことを意味するのです。(中略)このような資本利潤率の著しく低い状態の長期化は、企業が経済活動をしていくうえで設備投資を拡大していくことができなくなったということです。利潤率の低下は、裏を返せば、設備投資をしても、十分な利潤を生み出さない設備、つまり「過剰」な設備になってしまうことを意味しています。>
 安倍政権が経済界に「設備投資」を勧めても渋る理由がここにもあるようです。


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 前回も取り上げましたが、水野氏の「資本主義についての解説」を再録しておきます。

資産や金融でバブルを起こすしか成長できなくなった


 <資本主義は「中心」と「周辺」から構成され、「周辺」つまり、いわゆるフロンティアを広げることによって「中心」が利潤率を高め、資本の自己増殖を推進していくシステムです。「アフリカのグローバルりぜーション」が叫ばれている現在、地理的な市場拡大は最終局面に入っていると言ってよいでしょう。もう地理的なフロンティアは残っていません。

 バブル崩壊は結局、バブル期に伸びた成長分を打ち消す信用収縮をもたらします。その信用収縮を回復させるために、再び「成長」を目指して金融緩和や財政出動といった政策を動員する。つまり、過剰な金融緩和と財政出動をおこない、そのマネーがまた投機マネーとなってバブルを引き起こす。先進国の国内市場や海外市場はもはや飽和状態に達しているため、資産や金融でバブルを起こすことでしか成長できなくなったということです。こうして、バブルの生成と崩壊が繰り返されていくのです。>(水野和夫著『資本主義の終焉と歴史の危機』)

「水野和夫」の画像検索結果

【鳥巣注】

 5年余り前に「国家財政破綻」の取材をはじめた頃、やがて「10年国債利回り」が非常にポイントである事が分かってきました。日本政府のように莫大な借金を抱えていると、金利が上がると、借金額も雪だるま式に膨れ上がる。ここがまさに攻防戦であり、元財務相の与謝野馨(当時)議員は金利を抑えるために「じゃぶじゃぶにしてきた」と語ったものです。あれから5年ーー現在では、日本もアメリカもヨーロッパも金融緩和(いわゆる”じゃぶじゃぶ”にする政策)により超低金利の時代を迎えています。
 水野氏は、利潤率の低下は1974年に始まったとしています。1973年、79年のオイルショック、75年のベトナム戦争の終結。これらの出来事は、「もっと先へ(空間を拡大し続ける)」と「エネルギーコストの不変性」という近代資本主義の大前提のふたつが成立しなくなったことを意味しているとします。
 先の1974年にはイギリスと日本の10年国債利回りがピークとなり、1981年にはアメリカの10年国債利回りがピークをつけた以降、先進国の利子率は趨勢的に下落。
 結果
アジア通貨危機(1997年)やリーマン・ショック(2008年)を経て今日ーー”10年周期”ではありませんが、「バブルが弾けるのではないか。その時には、リーマンショック以上のリスクがある」「資本主義の終焉が近づいている」など専門家の予言も穏やかではありません。

 バブル⇒バブル崩壊⇒信用収縮⇒金融緩和・財政出動⇒余剰マネーが投機マネーを生む⇒バブルを引き起こす⇒バブル崩壊(以下、繰り返し)

 改めて、載せておきます。

「バブルは3年に1度生成し、弾ける」(サマーズ元財務長官)

「サマーズ元財務長官」の画像検索結果

「そして今また、欧米でも日本でも同じようなバブルの生成と破裂が繰り返されようとしています」(水野和夫氏)

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PS①
 
経営不振に陥っている「シャープ」は4日、7000億円を超える規模の資金を投じて買収を提案した台湾の大手電子機器メーカー「ホンハイ精密工業」と優先して交渉する方針を決めました。>

PS②
 
経営再建中の東芝は4日、2016年3月期の連結業績見通しを下方修正し、純損益の赤字が従来予想の5500億円から7100億円に拡大すると発表した。過去最大の赤字となる。>