お祭り期間に書き上げることができず・・・orz筆が遅くなったな、私。
ちょっと前にアップした企画参加モノの『ACT妄想-ouvrir(ウーヴリール)side/K-
』の対になる蓮さんサイドです。ちょーっとキョコさんサイドに比べるとまとまりに欠ける感が否めませんが、そこも私クオリティ…。直せば直すほどずれていってしまったのは秘密ですw
※今回の作品は本誌ACT.203までのネタバレ要素を含みます。ご注意ください。
単行本派、ネタばれがお嫌な方はバックプリーズ!
ネタバレOKの方のみ、スクロールでお進みください。
注釈:二人の会話は脳内で英語再生でお願いします…m(_ _ )m
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ACT203妄想 -ouvrir(ウーヴリール)- side/R
煙草の煙で薄もやがかかった天井を見上げる。
カインとしてこの部屋で一人で過ごすのは何日目か。
撮影はカインとして、順調だ。
現場でコミュニケーションが不足だとか時間を守らないとか…敦賀蓮としては考えられない状況を発生させているがそれはあくまでカインなのだから問題はない。
作品の求める要求された意志を持たない殺人鬼の役柄は、これ以上ない程こなせている。
フラッシュバックのように我を失い、演技上の凶行とカインの底にいる久遠の境界が混ざりあいコントロールを失うことはあの夜からなくなった。
…ではこの虚無感はいったい何なのか。
敦賀蓮のスケジュールが入らなければずっとカイン・ヒールでいるこの仕事。
この部屋で過ごすプライベートな時間さえもカインとして過ごす日常。
あの子がいなくても、この部屋で一人であっても
暗黙のルールを遵守する相手がいなくても、俺はカインのままだった。
今の俺にオンとオフは存在しない。しいて言うなら常にカインとしてオンのままだ。
でもそれは、今まで敦賀蓮として生きてきた時間と何ら変わりがないはず。
(…なのに)
いうなれば敦賀蓮として常時オンであったはずの俺の日常。敦賀蓮ではない『俺』はオフが存在しない生活では出る幕はないはずなのに。
あの子に関わってから封じ込めていたはずの自分が自然と表に出ることが多くなり、存在しなかったはずのオフの時間が生まれる。
自分ですら知らなかった一面を引っ張り出すのはいつだって最上キョーコで、俺は戸惑いながらも新たな自分を迎え入れてきていた。
そうやって発見した新たな一面や過去の暗く重い闇までもが『自分』を形作る欠片なのだと…
当たり前のことに気が付かずに過ごした日々は、あの夜の口づけで粉砕されて溶け合って…『役者の自分』として受け入れることができた。
今の俺はカイン・ヒールだが同時に敦賀蓮であり久遠である。
俺は『俺』を手に入れた。
普段なら吸わない煙草を当然のように燻らし、ミネラルウォーター代わりに酒を煽る。
食欲は普段以上に沸かない。
確かにあの子が…セツがいなければ、まともな食事などとらないだろうこの男。
社長に対して一人でもカインヒールとして食事だってとりますと言った過去の自分がおかしくさえ思える。
(…そうか)
何気なく目をやれば、主不在のベッドが目に入った。
きれいに整えられているが、糊のきいたシーツではない。ところどころ寄った皺と糊が取れて柔らかくなった布地。
室内清掃が入れば、セツの痕跡が消えてしまう。
しばらく離れることになった最愛の妹。
セツカの気配を消してしまうことなどできやしない。セツと別れたその日から、この箱庭に俺たち以外の人間が踏み入ることは許せなかった。
(セツがいるのがカインの日常だから、いないことの違和感があるのか…)
『俺』にとっても大切なあの子は、『カイン』にとっての唯一のセツカ。
深くカイン・ヒールと溶け合った自我は現実とは曖昧だが、大切なものは変わらない。
吸殻が山になった灰皿に、増える一方の酒の瓶や缶。
カインの気配だけが濃くなるこの部屋に少しでもセツカを感じていたい。
(お前がいなければ落ち着いて眠れやしない…)
会いたいとか
恋しいとか
この感覚はそんなレベルじゃない
これはカインの感情だけれども、同時に俺の感情でもあるのだ。
燻る気持ちを押さえつける様にタバコを灰皿に押し付け残った火種を揉み消すと、外側の紙の焼ける匂いとともに一筋ゆらりと煙が立ち上って空気に溶けた。
煙草の火は消えても、俺の心を蝕む火種は消えはしない。
ソファーに凭れてテーブルの上に乱雑に足を投げ出し、セツカのいない現実に目を閉じた。
あの子の香りを感じた気がした
満足な睡眠をとれずにいる体は疲労からか浅い眠りを繰り返し、夢か現かあいまいな感覚の中で感じた香りに慕情が募る。
(……重症だな)
カインとしては正しいのかもしれない。
ぼんやりした意識の中で、普段の俺以上に強い感覚に苦笑するしかない。
これがカインとしてならまだいい。
…でもこれが半分以上『俺』の感覚だったとしたら?
役が抜けた後、敦賀蓮と最上キョーコの距離に戻った時にこの感覚のまままら俺はどうやって生きていけばいいのだろう。
月単位で会えないことなんてザラだろう。今までだってそうだった。
あの子への想いを自覚してから会いたいと思うことや会えない時間に募る想いも感じたが、ここまでの飢えや焦燥感はなかった。
目を開いたら彼女がいない現実に打ちのめされそうで瞼を持ち上げることができない。
(夢でもいい、都合の良い幻でもいいから……)
久しぶりに感じたこの香りを味わっていたい。
そんな俺の願望は浅はかで即物的で。
僅かに傾いたソファーを感じ、胸を締め付けられる。
近づいた香りとともに体温まで…と思った次の瞬間、首筋に柔らかな感触とともに熱を感じた。
そこはかつてあの子の…セツカの口付けを受けた場所。
鋭い痛みと甘い痺れの両方を受けてしばらく存在を主張していたセツカの所有印は、彼女のいない日々とともに薄れていった。
ジンジンと響く噛み付かれた強烈な痛みの中で、セツカを装っていてもキスマークの付けからすら知らない彼女に安堵した。
『独占欲を刻み込むみたいに』
俺に施してほしい願望をカインの口を借りてあの子に告げた。
役の上であっても、あの子が肌に跡を残す『初めての男』になれることに喜びを覚えて。
印を刻むということは刻み付けた相手に独占欲を持つこと。
独占欲を刻み込む行為を通して、…愛を否定するあの子がこの行為を行う背景にどんな感情が潜むのかことさら意識することを期待して。
『他人に知らしめるには、いいのかも…』
そう言ってわざわざ首筋の歯型に重ねてくれた証。
一生消えないヤツをと強請ったソレは俺の中で消えることなく存在しているが、『単純に視覚的な事』は目にすれば彼女の所有物である自分を実感させてくれた。
でもそれは薄れて消えていく印に言いようのない喪失感ももたらした。
俺の願望通りに、何度も執拗に首筋に降りてくる柔らかな感触。
その度に吸い上げられてチクリと響く痛みが妙にリアルで、自分の欲の深さにため息をつきたくなった。
醒めない夢であってほしくても、その先を見たい。
抱きしめて、セツカの…彼女の顔を見たい。
でも目が覚めた瞬間、幻だったと現実に返るよりこのまま甘い夢に漂っていた方が幸せか・・・。
急速に埋められて癒えていく焦燥感に、心が揺れ動く。
目を閉じたまま葛藤を繰り返していれば、妙にリアルな感触が引っかかる。
何度目かの接触が離れていく間際、肌の上を熱く濡れた感触が掠めた事にはっとした。
(……現実?)
未だに目を開けて確認することを恐れる俺をあざ笑うかのように、再び降ってきた熱は肌に沈み込む硬い感触を伴って……
「………また噛みつく気か?」
ついに、言葉が口をついて出た。
現実を確かめようとすれば幻はかき消えてしまうだろう。僅かに震えた自分の声に情けなさを感じる。
でも……
笑うような吐息とともに、首筋の肌を甘噛みされた。
消えない感触にやっとこれが現実だと認識できて、慌てて重い瞼をこじ開けた。
「兄さんが寝たふりなんかしてるからでしょ?」
目に鮮やかなピンクの毛先が飛び込むと同時に、鼓膜を震わせたのはずっと聞きたかった音。
心臓を手で鷲掴みされたような錯覚を覚え、それでも現実だろうかと思う俺に更にセツカの声が降りかかった。
「わかってるのよ?アタシがいない間兄さんがまともに眠れやしないことなんて。…ふふっ…可哀想な兄さん」
喜びに震える心。さっきまでの焦燥感は霧散していた。
今すぐ抱きしめて、触れあってどんなに焦がれていたか伝えたい衝動に駆られる。
でもそこにいるセツカにカインらしくなく振る舞うことなんてできなかった。
ここは暗黙のルールが支配する、カインとセツカの舞台。
早く俺を映した瞳を確認したいのに、首筋に頭がうずめられいてもどかしい。
さっきまで熱が触れていた首筋を、少し冷たい指先に擽られる。
男を弄ぶようなその動きに背を這いあがる甘い疼きを抑え込んで、カインの表情でゆっくりと向き直るセツカを見ていた。
首筋の印に目線を落としたセツカは、俺の雄を揺さぶるほどの妖艶な微笑を口元に湛えていた。
一瞬そんな微笑を向けられる印に嫉妬するが、まともに俺の目を見てそんな表情をされたら自制することなんてできないだろうと妙な安堵を覚える。
「だからって噛みつくことはないだろう?」
「アタシの印が消えかけてるんだもん」
声をかければ、ようやくその瞳が俺を映した。
どこか不貞腐れたような表情は兄に甘える妹のそれで、先ほどの妖艶な微笑はなりを潜めている。
ホッとしたのも本心だったが、どことなく残念で。
そしてどこまでも完璧なセツカの表情に、ほんの少し素の彼女も味わいたくて。
(これくらい、いいよな…?)
誰となしに言い訳をして、ソファーの手すりに体重を預けた腰に手を伸ばして抱き寄せた。ほんの少し、不埒な本心をのぞかせた手つきで細い腰を指先で撫でる。
少しだけ照れたような、セツカの態度でも最上キョーコを思わせる表情を見たかったがための些細な悪戯。
なのに、彼女はどこまでもセツカで当然のように甘えた仕草ですり寄ってきた。
予想外の反応に、いつもの敦賀蓮の反応が顔を出した。
「…薄くなれば今日みたいにまたつければいい」
一瞬で取り繕ったつもりだった。
しかし芝居への感度をことあるごとに引き上げていくこの子がどこまでそれに気づいているのかは読み取れなかった。
俺の目の前の彼女はあくまでもセツカのままだったのだから。
「噛み跡はキライ?」
「…そうじゃない」
カインとしておかしくないセリフで間を繋げば、帰ってくるのはどこかとぼけた返答なのだか、この子の雰囲気と色香に惑わされそうになる。いや、惑わされたいのが本心なのかもしれない。
「イタイのはキライ…?」
なおも重ねられた質問に、意地の悪い思考が働き出す。
あの夜、この子に誓いたいと願った証は拒否されてしまったのだから。
「俺にもさせてくれるなら構わないが」
「兄さんがアタシに噛みつくの?」
「…そうじゃない」
俺の独占欲を刻み付けて、この子を取り巻くすべてのモノに知らしめてやりたい。
俺のモノだと。
身勝手な欲求だけれでも、それが許される今の状況を少しは堪能してもいいんじゃないかと満たされた焦燥感が煽ってくる。
いつにもまして隙のない完璧なセツカでいる最上さんに、心のどこかで期待した。
「お前にはない…」
指先を開いた胸元に滑らせた。白く柔らかい肌が指先に吸い付く様で、止められない。
「お前が俺のモノだという印がない」
「つけたいの?」
「………」
暗に要求したことをストレートに聞き返えされてほんの少し、俺の中に残った敦賀蓮の仮面が抵抗した。でもそんな抵抗は一瞬で、俺のとった行動は欲望に忠実だったと思う。
罰の悪さの沈黙は瞬時に消え去り、視線だけでセツカに許しを乞う。
カインとして溺愛する妹に甘える仕草を取ることは、この役で見つけた新たな楽しみだった。
敦賀蓮ならあの子に向けた事のないのない態度に、一瞬素の彼女が垣間見える。
セツカの向こうにあの子がいることに安堵して、そしてセツカなら溺愛する兄のおねだりは文句を言いつ甘やかしてくれるのだ。
きっと少し困ったような、一瞬朱の差す頬を見て俺は安堵できるのだろう。
しかし、返ってきた反応は予想外のモノだった。
「いいわよ?素敵ね、おそろいなんて」
照れも何もなく、まっすぐにかえってきたセツカのセリフ。即座に返ってきた答えにあの子の気配の欠片もなかった。妖艶にクスリと兄に笑いかける妹は、俺にとっては抗いがたい誘惑でしかないのだが。
「……いいのか?」
承諾の返事をもらうための行動だったのにあっさりと微笑とともに返ってきた返答に、つい素で確認の言葉が出た。
その時望んだくせに、それでも心のどこかできっとセツカじゃない最上さんが拒否すると思っていた自分に気が付いた。
そんな俺の内心を見透かすように、セツカの双眸がすっと細められる。
瞳に宿った光にドキリと鼓動が跳ねた。
「……修行」
「……?」
相反する欲求と期待に揺れ動いていれば、急に脈絡のない言葉が呟かれて意識を引き戻された。
何を意味するのか分からず、セツカを見る目に疑問の色を乗せる。
「修行、積んできたから」
その台詞に、あの日の夜の会話がフラッシュバックした。
『ムカつく……っ』
あの時、俺の口付けを拒んだセツカは俺の腕から抜け出して何と言った?
「セツ?」
「今のアタシなら、兄さんの相手…できるから」
『今のアタシじゃ兄さんの相手にならないみたいだから、修行を積んでくる』
あれは見当違いなセツカの嫉妬から出た言葉。その先は…
「……っ!」
以前の言葉通りのことを、この別離の間に経験してきたというのか?
これが演技だとか、セツカのセリフだとか…
そんな事は一切考える余裕なく、ただただこの子が他の男に触れたことを意味する言葉に血が上った。
許せない、この子に触れた男が。
許せない、他の男に触れさせたこの子が。
気が付けば、軽い体躯を翻弄しベッドに縫い付け伸し掛かっていた。
何処に向けようもない怒りを隠すことなんてできずに、抗議するように眼下セツカを見下ろした。
いつぞやと同じ体勢にあの時の自分の気持ちが蘇る。
赦せなかった
この子が
俺以外に………!
ひどく一方的な独占欲を持っているのは俺の方で
その独占欲を刻むことを許されたにもかかわらずまたしても感情の波にのまれている
でもこれは、久遠という闇というより俺自身の感情だった。
頭のどこかでそれを意識できている自分に…ほんの少しの安堵もあって。
「…………」
早く否定してほしかった。
あの夜のように、生々しい俺の感情にセツカの中のあの子が顔を出すだろう。
最上さんの影を見出せばこの焦りや怒りも静まる気がした。
怒りを隠しもしないで無言で問い詰めたけれど、組み敷いた相手はずっとセツカのままだった。
ベッドに縫い止められたことに少しは驚いた表情を見せたものの、俺の顔をじっと見て…そして濃いめのルージュを引いた口角がゆっくりと吊り上った。
「………冗談よ」
クスクスと笑う妹に、からかわれたと一瞬で熱が引いた。
あのときだって、本気で焦って引き留めた俺に、呆れ顔で冗談よと言ったのはセツカだったじゃないか。
思わず自嘲の溜息が漏れる。
「……大人をからかうんじゃない」
ようやく絞り出した言葉とともに、現状に目が行った。
ずっとセツカを崩さずにいるこの子は、常に俺を誘うような妖艶な甘い香りを放ち続けている。
押し倒した状態で、じっと俺だけを映すセツカの瞳にこれ以上近づいたらカインと同化した俺は何をするか分かったものじゃない。
今の彼女なら、今迄のように妖しい関係を仄めかす発言にセツカとして従順に応えそうな気がした。
押さえつけた身体を解放し、距離を取ろうと身を起こそうとしたはずなのになぜだかセツカの瞳が近づいた。
するりと首筋に白い手が絡みつき、引き寄せられる。
「印……つけないの?」
どこまでもセツカなこの子に眩暈がしそうだった。
カインなら許しなんて乞わずに、当然のように所有印を刻むのだろう。
それから逃げた俺は、この子の前で知らずカインでいる事すら出来なかったのだろうか。
「ただいま…兄さん」
引き寄せられて、近づいて。
セツカの表情が見えなくなって、耳元で落とされた吐息は甘かった。
会いたかったと真っ直ぐに伝わるセツカの感情に、自然とカインのスイッチが入る。
(俺も会いたかった…)
「おかえり…セツ」
迎え入れる言葉を交わし、柔らかな肌に唇を寄せた。
当然のように受け入れるこの子に、今までも、これからもきっと俺は翻弄され続けるのだろうと思いながらも。
(今だけは………)
この子に一番近づいた男として、満たされる心に酔うことを赦してほしい。