真夏の海のA・B・C…D -16- | 妄想最終処分場

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ぼの様のリクエスト作品になります。蓮さんがかなり性格違います。スマートで紳士な蓮さんがお好きな方はご注意ください。


これまでの話

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真夏の海のA・B・C…D -16-



(大体、あの顔であんなこと言いってくるの、反則よね…)


連日、仕事で休憩時間が確保できなくなった時意外は常に同じ時間に店に現れ、耳にする周囲の人間が砂糖という名の砂を吐くほどにキョーコを口説いて仕事に戻る蓮。

繰り返される日常に慣れるしかないキョーコは、何時しか返事は保留のまま蓮が会いに来ることの抵抗も迷惑も日々薄れていっていた。


(そこいらのお嬢さんなら、あの顔であんな事言われればイチコロよね。良かった、変な耐性ができてて)


思えばそこそこ目は肥えていたのかもしれない。

昔王子様と信じていた幼馴染も、蓮とはタイプが違うが美形と周囲からもてはやされる容姿をしていた。キョーコを意のままに操るために、その綺麗な顔で微笑んで些細な褒め言葉を吐いていたのだ。

それを愚かしい過去として認識し、美形の甘言ほど裏に何かがあると無意識にも用心する。

幼馴染と違い万人受けするタイプの明らかに格上の美形に分類される蓮であっても…いやそう言う容姿の人間だからこそさらにキョーコは端から信用できるはずがないと思い込んでいたのかもしれない。

蓮は飽きもせずキョーコに独占欲まがいな愛の言葉や赤面ものの賛辞を贈り続けている。キョーコはキョーコで照れ隠しのように叱りつけたりしていたのだが、ほどなくある程度スルーするというスキルを身につけていっている。

蓮の気持ちを疑うことはなくなったが、はたして受け入れたいのか否かはまだキョーコの中に回答はない。


「最上さん、今日も可愛いね」

「はいはい」

「本当の事なんだけど…」

「毎日聞かされてれば慣れもします。どうもありがとうございます」


来店一番、いつものセリフにキョーコは呆れ顔であしらう。その様子に蓮は肩をすくめてカウンターの席に座るのだ。


「ねぇ、最上さん。いつになったら俺にキスしてくれる?」

「……質問の意味が分かりません」


もうキョーコが蓮の注文を取ることはなくなった。アイスコーヒーをサーブすれば、蓮は当然のようにそれを受け取ってそこから人気のまばらな時間の店内でキョーコとの時間を楽しむ。


「敦賀さんは女の子を口説く時に常にそうやってキスを迫るんですか」

「女の子を口説くって…君だけだよ?この唇で触れたいのは」

「…………キス魔」

「君に限って言うならそうかもね?」


告白をしてからの蓮は、何故だかキョーコの唇を狙う発言が多い。

以前そのことを追求したら、もちろんそれ以上だってしたいに決まってるけど最初はキスからだろう?なんて真顔で返されキョーコは返事に窮したのだ。そして、まだ冗談のようにあしらえている時の方がマシだとキョーコは気づくことになる。

あの時の告白のように真っ直ぐキョーコを射抜いて語りかけてくる蓮からはどうにも逃げられず、嫌でも蓮が男性で自分に求愛してきていることを目の当たりにしてしまうから。その目で見られると心臓がどきどきと早鐘を打ちどうにもならない居心地の悪さが押し寄せてくるのだ。


「告白の返事、要らないって言ったのは敦賀さんの方じゃないですか」


困ったように眉を下げて、キョーコが呟く。


「今は…ね」

「じゃあ、いつならいいんです?」

「君が俺を好きになってくれたら」


蓮の言い分に、キョーコはため息をついた。その理屈じゃキョーコが蓮を好きにならない限りこの状態はずっと続くということではないか。


「……私に断る権利はないんですか」

「少なくとも、俺の事嫌ってはないだろう?」

「………」


確かに蓮のことは当初の遊び人という思い込みもありちょっかいを出される度に迷惑していたが、色々と蓮を知る中で『嫌い』ではないのは分かっている。

その通りなのだが、答えるのが癪でキョーコは沈黙する。


「嫌いじゃないなら試に付き合ってみるっていうのも選択肢だと思うけど、最上さんはそういうことできないしね」

「当たり前じゃ無いですか!そんなの相手に失礼です」

「…俺は失礼には感じないけど?」


敦賀さんのことを言ってるんじゃありません!とむくれるキョーコに蓮はそんなに真面目じゃなくてもいいのに…とため息交じりに微笑んだ。


「そんな風に真面目なところも、好きだからね」

「……っ!」


さらりと落とされた蓮の不意打ちに、キョーコはかーっと顔が熱くなるのを感じた。そんな表情を蓮に見られればさらに恥ずかしくなるような甘言を聞かされると予感したキョーコはさっと厨房に逃げ込んだ。


恥ずかしがって逃げてしまったキョーコの背中をクスクスと笑って見ていた蓮はアイスコーヒーのグラスに口をつける。

出会ったその瞬間に一目惚れだったが、その直感は正しかった。

アプローチを重ねる中で増えてゆくキョーコの知らない一面は、どれをとっても蓮の愛おしさを増幅しキョーコしかいないという本能的な直感が正しいことを強化していってくれた。

自分の中にある想いと同じものをキョーコが持ってくれたらどんなに幸せか…そんな思考に浸っていれば、トンと何かが置かれた音に蓮は現実に引き戻された。


「……そんなに気を使わなくてもいいんだよ?」

「私がお節介しなければ、敦賀さんは霞でも食べてるんでしょうね」


蓮の前に置かれたのは小ぶりなおにぎりと控えめな量の小鉢に入ったお惣菜だった。

大盛りカレー事件以降、キョーコは律義にも助けてもらったお礼として蓮に軽食を提供していた。社からの情報もあり、蓮のぞんざいな食生活と驚くべき小食に、だるまに出入りするならその時だけでも少しは体にいいものをとはじめたのだ。

蓮に至っては当初キャパオーバーの大盛カレーを食べただけあって、キョーコから提供されるそれらを食べないなんて言う選択肢は持たない。蓮の食事量もすぐに把握したキョーコは、蓮にちょうどいい量で少しでもバランスのよいものをとその日のメニューの中から選んでいた。


「メニュー外でもお店の品物だろう?用意してくれたものはちゃんと代金を支払うよ」

「金銭面を気にするなら、敦賀さんがお店に来ないっていう選択肢もありますよ?」


ちゃんと手を合わせて、いただきますと言ってから出された食事に手を付ける蓮に食事に関心が無くても礼儀はちゃんとしてるんだなぁと思いつつキョーコは軽口で返す。


「……ありがたく頂きます」


そんな選択は出来やしない蓮は、参ったなと笑って頭を下げる。そんな蓮の様子にさっきの不意打ちの溜飲が下がったキョーコはにこやかに笑っていた。


「私もあのカレーだけじゃお礼として物足りないって思ってましたし。敦賀さんが食べる量なんて大した量じゃないですし、それに…」


(……あ……)


キョーコは何の気なしに自分が口にしようとした次の言葉に気づいてしまい、目を見開いて静止した。


「………」

「それに?」


不自然に止まったキョーコに、蓮が訝しげな顔をして覗き込んでくる。

蓮に先を促されたキョーコはほんの少しためらった後、その言葉を口にした。




「………ずっとじゃないですから。このお店で会うのは」