真夏の海のA・B・C…D -10- | 妄想最終処分場

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ぼの様のリクエスト作品になります。蓮さんがかなり性格違います。スマートで紳士な蓮さんがお好きな方はご注意ください。


これまでの話

真夏の海のA・B・C…D                 



真夏の海のA・B・C…D -10-




「最上さん、どうして…」


ここにいるはずのないキョーコに蓮は驚きの色を隠せなかった。

キョーコに対してはいつも一方通行。

自分がキョーコに向かうのが常で、キョーコの方から蓮に会いに来るなんて今まで一度もなかった。普段であるならもろ手を挙げて喜ぶところであるが、蓮の気持ちは複雑だ。

もちろんどんな理由であれキョーコの方から自分に会いに来るという行動自体は喜ばしい。

しかしながら、先ほどキョーコから提供された『お礼』によって無様な状態となった自分の姿を、当の本人に晒すのは抵抗があった。


善意や好意…少なくとも感謝という肯定的な感情から発生するお礼を受け取った者が、そのお礼によってダメージを負った姿を目撃してしまったら…。

常識的な感覚を持ち合わせているキョーコは申し訳ない気持ちを覚えるだろう。


しかしその実、蓮の内側に喜びも湧き起こる。

人としての常識・礼儀だとキョーコは言っており、自己満足や義務感からの行動だったとしても蓮にとっては大きな進歩だ。


「あの…」


蓮の問いかけに、キョーコはなんと切り出してよいのか迷うように口ごもる。その表情は決して明るい笑顔ではないため、蓮は自分の状態を正確に見抜かれてる危機感に襲われた。


「もしかして、さっきの社さんとの話…聞いてた?」

「え?さっきの…?」

「えっと…」


食べすぎで寝込んだ云々を聞かれてなかったのはいいが、キョーコに聞き返され蓮は返事に詰まった。


「お店を出るときに敦賀さんの様子がいつもと違ったのでちょっと気になって」


蓮が逡巡しているとキョーコの方が口を開いた。

「もしかして私のお礼が迷惑だったのかな、と」


おずおずと話し始めた内容に、キョーコが別方向で解釈しようとしているのに蓮は慌てた。


「そんな迷惑なんてどうして…」

「その…カレーがお嫌いだったとか?好みも聞かずに出しちゃいましたし、お出ししたのが苦手な食べ物だったらお礼どころか迷惑だったかなと思って」

「そんなことない!とても美味しかったし、俺は嬉しかった」

「じゃあ…」


自分の感じた違和感の正体は一体何だったんだろうか?疑問が解消されないキョーコの表情は曇ったままだ。

キョーコから更なる追及が出る前に、蓮は話の矛先を変えようと先手を打った。笑顔を浮かべキョーコを覗き込んだ。


「『いつもと違う』なんて、そんなに俺のことを見てくれてたんだ。嬉しいよ」

「なっ……!」


いつもの調子の蓮にキョーコがむっとした表情をのぞかせる。


「しかも気にして会いに来てくれるなんて、ちょっとは期待してもいい?」


蓮はにっこり笑いかけてキョーコの手にさりげなく自分の手を伸ばす。

口説き体制に入れば反発するように返ってくるキョーコの反応は簡単に予測できる。なかなか色よい返事はもらえないが、キョーコとの軽妙なじゃれ合いを心地よく感じている面もある。


でも口にしたのは蓮の本音だった。

思っている以上にキョーコが自分のことを見ている事実に胸が弾む。


「……大声出して社さん呼びますよ?」


煙に巻こうとした蓮に眉をしかめ、キョーコはじりっと一歩蓮から身を引いた。


「ひどいな、まだ何もしてないのに」

「何かされてからじゃ遅すぎます!」


ごめんと苦笑し蓮は伸ばした手を引っ込めた。いろいろ悟られたくないことはあるのだが、思いがけず手に入れたキョーコとの時間も惜しい。


そんな蓮の様子に、キョーコはきゅっと唇を噛んだ。


「………なんだかんだ言って、敦賀さん常にそうやって…。私をからかって楽しむのもいい加減にしてください」


どうするべきか考えあぐねていた蓮は、冷やかなキョーコの声にはっとした。

まじまじとキョーコを見ればその表情は静かな怒りを湛えていた。そんな表情さえ、蓮は怖いほど綺麗だ頭の片隅で呟く。


「私が……」


キョーコの唇が震えた。


「…私がバカみたいじゃないですか!助けてもらったお礼をちゃんとできずにいたのも敦賀さんのそんな態度のせいだし、遅すぎるお礼に常識なかったなって反省だってしてたし、ようやくお礼を言えたと思ったらなんか敦賀さんに迷惑だったみたいだし、心配になって身に来たのにこんな風にはぐらかすし!あなたの言葉なんて、なに一つとっても信用ならない!!」


一気に吐き出すように連なった怒りの言い分。

蓮は先ほどのわずかに温まった胸の内に一気に冷水を浴びせかけられたようだった。


「……………ごめん」

「謝るってことは私の言ってること認めるんですね!もう、知りません!二度と…!!」


発せられそうになった完全拒否の言葉に、蓮は慌ててキョーコの手を掴んだ。


「待って!!」


掴まれた手首の熱と切羽詰った蓮の表情に、怒りにまかせて畳みかけようとしたキョーコは動きを止めた。

目に入ったのはいつもニコニコと笑って甘い言葉しか吐かない蓮のいつにない縋るような表情。傷つけられたのは自分の方のはずなのに、キョーコは自分が蓮を傷つけたかのような罪悪感に見舞われる。


「ごめん。謝るから…」

「……どうせ口先だけでしょ…」

「そう思われても仕方ないかもしれないけど、言い訳だけでもさせて」


いつにない蓮の様子に、キョーコはダメと思っても小さく頷いてしまった。







「一体どうやったらその体を維持できるんですか……」


キョーコの信用を得るために、蓮は男のプライドを捨てた。


「体が資本のお仕事なんですよ!?しかも人命を守る職業の人が、自分の健康をおろそかにするなんて!」


予想通りキョーコは蓮の食生活に呆れ、ぶつぶつと何事かを呟いている。


「いやでも、お礼は嬉しかったし、美味しかったんだよ?ただ量が…」

「適量を超えているならそう言ってください!変な見栄張って無理して食べてられた食べ物がかわいそうです!」


おかしいわ、この体を維持するのにどう考えたって計算が合わない!一体どういう構造をしてるのかしら・・・と、キョーコは蓮の頭から足先まで視線を走らせてはブツブツと呟いている。


「だって、残すなんてできやしない。俺のために最上さんが作ったものなんだから」

「…っ、敦賀さんのためじゃありません!お客さんのために作ってるんです!…って、え?」


妙なところで自分の都合のいい解釈している蓮に釘を刺しつつ、キョーコははたと気が付いた。


「敦賀さん、だるまやのカレー食べたことありました?どうしてあれが私が作ったって…?」


キョーコが担当しているのは限定カレーであって通常メニューのカレーは女将の仕事だ。 限定カレーはキョーコが仕込める量も少ないのでいつも午前の早い時間に完売となる。

昼の遅い時間に来店する蓮が目にしたことはないはずだし、通常メニューのカレーと比較して気づくにしてもキョーコは蓮がコーヒー以外を注文しているところを見たことはない。


「社さんに聞いたんだ。最上さんが作る限定メニューがあるって。出されたのが社さんに聞いてた特徴のカレーだったから…」


キョーコ特製限定カレーはカレーに合わせてサフランライスを使っている。以前念願かなって食べることができたと社がその美味しさについて自慢していたのを覚えていたのだ。

蓮はキョーコに出会ってから、キョーコに関することは細かなことでも聞き漏らさずに記憶していた。それはもうストーカー並みに。

蓮の脳内に記憶されているキョーコのデータは膨大なモノになってはいるが、そんなことをキョーコは知る由もない。


「食べてみたかったのは本当だよ?量の問題もあったし俺の行く時間にはいつも売り切れだし…」

「本当ですか?」

「最上さんが作ったものだから。だから残すなんてできなかった。こんな体たらくになっちゃったけど、とても美味しかった。ありがとう」


甘やかな笑顔で美味しいと言われ、自分の作ったものだから残せなかったという言葉が嬉しくないわけがない。

こっちが赤面してしまうような蓮の表情に、キョーコは熱の上がりそうな頬を誤魔化すように俯いた。

どうも謝られてからの蓮はいつもの軽い調子とは少し違うような気がして、キョーコは戸惑いを感じ始めていた。


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ぬあ~!!順調に伸びてます。予定のところまでたどり着かない!!

蓮さん、ちょっとはキョコさんのマジ怒りに触れればいいと思うよ…