真夏の海のA・B・C…D -8- | 妄想最終処分場

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ぼの様のリクエスト作品になります。蓮さんがかなり性格違います。スマートで紳士な蓮さんがお好きな方はご注意ください。


これまでの話

真夏の海のA・B・C…D             



真夏の海のA・B・C…D -8-



「お前さ、どうしたの?」


社は怪訝な顔を隠せなかった。

昼休憩は日課となっただるまや詣をし、意中の彼女との時間を一方的に堪能してきたはずの同僚。

なかなかアタックは実を結ばずにいるようだがそれでも同じ空間で同じ時間を過ごしてきただけで休憩から戻るといつも上機嫌のはずの男が、今日は少し顔色が悪い。

ここを出掛ける時は浮足立っていて、蓮の後ろ姿に思わずスキップしている様な心象風景すら見えてしまったというのに。


「俺の知らない1時間の間に何があったんだ?」

「…………」


社の質問に蓮は口元を押え無言。本当にどうしたんだと社は首を傾げる。


「気分悪いのか?まさか熱中症じゃないよな?お前あまり飲み食いしないから…」


熱を上げるのはキョーコだけで十分だ。

ほれ飲め、と社が差し出したスポーツ飲料のペットボトルに蓮はチラリと視線だけを動かした。


「……勘弁して下さい。今は水すら入る隙間はありません…」

「………は?」


情けなくも絞り出されたのはそんなセリフで。

ビーチを見渡せるテント型のライフセーバーの詰所の椅子に、蓮はぐったりと座り込み微動だにしない。


「隙間って……何か食べてきたのか?」


お前が?自主的に?と社の追及が飛ぶ。


人間の基本的な欲求である食欲が、この男の場合壊滅的に壊れているのはライフセーバー仲間の中では周知の事実だった。

こんな体格なのに恐ろしく燃費のいい体。いや、燃費がいい所ではない、何を材料に生命活動をしているか分からない。

小食以前に食事に何も感じていないようでこの仕事上水分はそれなりに摂取するものの、食事は一緒に誘わなければ食事自体を忘れているし、食べてもダイエット中の女子かと思うほど極少量だし、口を酸っぱくして何か食べろと命令されることも日常で、たまに自発的に何か摂取していると思えば何とかinゼリーとか栄養補助食品が主で、栄養のバランスという言葉すら知らないんじゃないかと思うほど。


そんな蓮が休憩時間に自主的に食事を取るなんて、社には信じられなかった。

休憩時間に蓮がキョーコに会いにだるまやに行っても、商売の邪魔にならないよう注文はするのだが、大抵コーヒーやお茶など飲み物だけなのも知っている。


「……食べましたけど、なにか?」

「どういうことだ?」


社は追及の手を緩めなかったが、蓮は椅子にもたれた姿勢を保てずるずると沈み込む。


「……スイマセン、横になっててもいいですか……」

「え…!?」


本気で具合の悪そうな蓮の様子に、社は慌てて奥の救護用ベッドに蓮を押し込めた。







キョーコはだるまやの厨房の洗い場で食器を洗いながら思案していた。


「……お礼がお店の商品なんて、ちょっとせこかったかしら?」


ぽつりとキョーコの口からこぼれた言葉。

手の中の皿は先ほどの大盛りのカレーライスがのっていたものだ。その皿についた泡を洗い流しながら、その中身を胃袋におさめた人の様子をキョーコは思い返す。


ちゃんとお礼を言ってなかった不義理な自分に遅ればせながら気が付いたキョーコ。区切りをつけなくちゃと思ったけれど、今までの態度にどういっていいか分からなくて、消えモノの食べ物であれば迷惑にならないだろうと思い食事をお礼とすることを思いついたのだ。

ライフセーバーという肉体労働に加えて、ただでさえ体格のいい蓮の体。ビーチでの仕事上、すぐにでも救助に飛び込めるようハーフパンツ丈の水着にロゴの入ったパーカーやTシャツ姿の蓮の筋肉美は遠目でも明らかで、毎日何かしらトレーニングでもしない限りあの肉体は保てないだろう。

蓮の同僚のライフセーバーも何人か休憩時間にだるまやで食事をとることがあり、その気持ち良いくらいの食べっぷりに肉体労働の男性の食欲はすごいんだなぁとキョーコは感心していたのだ。

そうなれば自然と蓮も沢山食べるんだろうなと思い至り、だるまやの大盛りメニューより更に盛ったカレーにとんかつまでつけて、メニューにない『スペシャル大盛りカツカレー』を振る舞ったのだ。


しかもカレーは午前中に完売してしまう限定カレー。

この限定カレーは実はキョーコの担当なのだ。昨年のバイト中にまかないでキョーコが作った時に女将さんに絶賛され、キョーコの負担にならない量でということで始まった限定メニューだったのだ。今年場所をLMEホテルのビーチに移ったことで整備の行き届いた厨房と仕入れルート、そして凝り性のキョーコの性格から去年よりグレードアップしだるまやのメニューに仲間入りした。

そんなキョーコ特製限定カレーは午前中売り切れの人気商品となっていた。お店のメニューではあるがイチからすべてキョーコに任されている限定メニュー。おこがましいという考えからキョーコはわざわざ口にはしなかったが、お礼の品をこれにしたのはそういった理由。

いつも午後にくる蓮がそのカレーが限定カレーか否か気づいたかは分からないけれど・・・。


お礼の品と指し示したカレーを見つめて、蓮はしばし無言だった。

その様子にキョーコが僅かに首を傾げはじめると、蓮ははっとしたようにキョーコに目をやり先ほど見せた柔らかい表情で『ありがとう』と言って手を付け始めた。

がっついて食べる訳でもなく、行儀よくスプーンを口に運ぶ蓮。

『ごちそうさま、美味しかった』と店内で仕事をこなすキョーコに声をかけてきた時はすでに蓮の休憩時間が終わろうとしている時間だった。

量が多いとはいえ男性にしては食べるのはゆっくりだなとは思ったが、綺麗に平らげられた皿と美味しかったとかけられた言葉にキョーコは自然と笑顔になっていた。


しかし、だ。

いつもの様子といくつか異なった点があったことにキョーコは気が付いた。

今までなら名残惜しいとか、キョーコが断ると分かっていながら仕事が終わったら送らせて?など更なる口説き文句が飛んでくるのだが、今日はそれだけであっさりと引き下がった蓮を思い出し、キョーコは更に疑問を深める。


「もしかして、カレー嫌いだったとか…?」


そういえば店を出ていく後ろ姿が、心なしかいつもと違ったような…?

いつも後ろ髪引かれる様子できゅーんと鳴いて耳の垂れたワンコよろしくキョーコを見つめ、渋々と言った感じで引き下がっていくのだが、今日はなんとなく違うような気がした。


あれだけ自分をからかいとはいえ口説いてきている蓮なのだ。万が一嫌いなものを出されたとしても突っ返すなんてことはしないだろう。


「…やだ、お礼のつもりだったのにかえって迷惑だったらお礼も何もないじゃない…!」


洗い場に控えていた食器をすべて水切り籠の上に伏せたキョーコは、そっと店内を見まわした。

昼食時はとうに過ぎて、でも夕方の繁忙時間にはまだかからないこの時間。店内に客はおらず、女将がテーブルをテーブルを拭いて店内を整えていた。


「女将さん、ちょっと出てきてもいいですか?」


まだ営業時間だが客のいない間は自由に休んでいいと言われている。

いつ次の客が来るかは分からないが、この分ならもうしばらくは客足は途絶えるだろうとビーチの様子を眺めてキョーコは思っていた。


「ああ、キョーコちゃん今日は上がってもう上がって良いよ」

「え…でも…」

「今日はお昼忙しかったからね。思いの外品物が出ちゃってもうちょっとで早じまいにしようかってあの人と相談しててね」


仕入れを見誤ったこっちのミスなんだけど、たまの事だからゆっくり休んだり遊んだりしておいでと女将はキョーコに手を振った。



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ううう、想定した1話を書くのに2~3話使ってますね。

まずい傾向だ・・・・これはまた伸びるな・・・。(1話分が短いので仕方ないのですが)