真夏の海のA・B・C…D -11- | 妄想最終処分場

妄想最終処分場

好きなジャンルの二次創作ブログです。
現在はス/キ/ビメインです。
ちょいちょい過去活動ジャンルも投入予定。

*出版者様、作者様とは一切関係ございません。
*禁:無断転載、二次加工、二次利用

ぼの様のリクエスト作品になります。蓮さんがかなり性格違います。スマートで紳士な蓮さんがお好きな方はご注意ください。


これまでの話

真夏の海のA・B・C…D                   10


真夏の海のA・B・C…D -11-




いつもなんてことない日常会話のように甘い言葉を囁く。


隠しもしない好意はあからさま過ぎて信用できない。


本物よりもぎらぎらと目立つ、まるでイミテーションのよう。





「…よくないですよ、そういうの」

「え?」


こんな時に…不意打ちのように真剣な表情で、そして自然で柔らかな笑顔を垣間見せる蓮。

キョーコは自分の言わんとしていることを全く汲み取れていない蓮にため息を漏らした。


「敦賀さんのルックスでそんな風に女の子に接するの、誤解を与えます」

「誤解?なんの?」


キョーコの突然の言い分に蓮は首をかしげ、見えなくなったキョーコの表情を覗き込む。


「…っ!ち、近いですっ!」

「ぶっ…」


突然至近距離に近づいた蓮の美貌に、キョーコは思わず両手で蓮の顔面を押しのけた。


「いつもの調子で甘すぎる言葉を吐いたり、それでいてそんな風に笑うなんて本当に遊び人ですね。そんなに女の子を翻弄するのが楽しいですか?」

「…………それって」

「私をからかうのもいい加減にしてください」


少し赤みが差したキョーコの頬に、蓮の口元が緩む。いつもの怒って真っ赤になる表情とは違った色合いに、期待する心が騒ぎ出そうとしていた。


しかし、毎度のことながら繰り返されるキョーコの『からかう』という言葉。


「誤解…じゃ、ないんだけど?」


まいったなと、蓮は頭を掻いた。


「ましてやからかってもいない」

「………」


空振りフルスイングばかりのキョーコのバットに、ボールが当たる衝撃を伝えるチャンスを予感して自然と喜びがにじみ出てしまう。


「…でもそう思って、最上さんは『翻弄』されてくれたの?」

「だから、そういうのが…っ!」


蓮の言い様に、キョーコはかっとなって隠すために伏せた顔を上げてキッと蓮を睨みつける。


「…うん」


睨みあげたキョーコの視線と見下ろす蓮の視線が絡む。

蓮は心底困ったようで、でもどこか嬉しそうな…複雑な表情をしていた。


「俺は出会ってからずっと、君に好きだとアピールしてきたつもりなんだけど?」


蓮はキョーコへの恋心を隠すことなどした覚えはない。

これだけ『好きだ』と言葉と態度で示してきたつもりだったのに、キョーコはそれらを『からかい』と受け止めているのだ。


「だからっ、そういうところが信用できないって言ってるんです」


そういうところと言われても蓮には全くわからない。


「最上さんは、俺が君に想いを寄せていることを分かってないの?」

「あんなに軽々しく、毎日セクハラまがいな発言を連発されても信用できません!そもそもより取り見取りな敦賀さんが何で私なのか理解できないし!甘い言葉になびかなかった私にムキになってるとしか…」


好きな相手に好きだと伝えて、言葉を言葉通りに受け取ってもらえない場合はどうすればいいんだろうか?

蓮は思案しながらキョーコに語りかけた。


「人を好きになるのに、納得できる理由がなければダメなの?」

「敦賀さんは大体から言って、最初っから……」

「最初にキスしちゃったから、信用してくれないの?」

「………!!」


言葉を濁したのにストレートに返してきた蓮に、キョーコは額にきゅっと皺を寄せて蓮から視線を外す。小首を傾げて僅かに悲しげな…まるで哀願する子犬のような表情に、キョーコは心の中で卑怯だわとつぶやいた。


一方蓮は、そうは言われてもキョーコを初めて見たときの感覚を忘れられない。

後から行き過ぎた行動だったかとちらりとは思ったが、後悔など全くしなかった。自分の全身が、本能が彼女しかいないと自分に訴えかけ、その衝動に抗う術などなかったのだから。


「……質問ばかりでごめんね」


そう思っていたら、ふと、まるで揚げ足取りのようにキョーコの訴えに疑問で返していた自分に蓮は気が付いた。改めて、ちゃんと伝えなくては…。


「一目惚れなんだ。理由なんて俺にもわからない。でも、自分の中の何かが君じゃなきゃ嫌だって訴えてる」

「そんな一目惚れなんて…信じられません」

「一目惚れって言葉が存在していること自体、そういうことが現実にあるってことじゃない?」


蓮の言い分にキョーコは押し黙った。


「俺って人間が、本能的に最上さんを求めてるんだ。どうか信じて」


懇願するように蓮はキョーコの手を取り、外された視線をつなぎ直す。そこには戸惑うように揺れるキョーコの瞳があった。


「君を見た瞬間から、君に触れたくてたまらなかった」

「だからって、あんな…」

「正直なところ、あとで自分でも驚いた。躊躇うとかそんな考えなんて浮かびもしなかったんだ」


蓮の手が、遠慮がちにキョーコの頬を包む。

キョーコが嫌がるそぶりを見せないことをいいことに、カサついた親指が唇を撫でた。


「君をもっと知りたくて、近づきたくて。少しずつ知れば知るほど、もっと惹かれていってる」


蓮の切れ長の瞳が映った自分の姿が、細められた瞳の中でわずかに歪んだのをキョーコは見ていた。




「好きなんだ」