ぼの様のリクエスト作品になります。蓮さんがかなり性格違います。スマートで紳士な蓮さんがお好きな方はご注意ください。
これまでの話
真夏の海のA・B・C…D -9-
幸いトラブルもなく平和な本日のビーチ。
巡回から戻った社は、詰所のテントの中を覗き込んではウロウロする小さな背中を見つる。
その後ろ姿に、社は見覚えがあった。
「あれ、どうしたの?キョーコちゃん」
「あっ、社さん」
テントの前にいたのは同僚の一方的なアプローチを受けている女性。
海の家だるまやの味を愛する顧客の一人である社は、蓮がキョーコを救助する以前からキョーコとは顔なじみだった。客と店員の間柄だがお互いの名前を知り気軽に会話を交わす程度には。
明るくて働き者のキョーコに好感は持っているがもちろん男女のソレではない。妹を見守る兄の様な気分…それが社にとっては一番適切な言葉だろう。
知った顔の社を見つけ、キョーコはほっとした表情を見せた。
「こんなとこに来るなんて、蓮に見つかったら大変だよ?」
いつもアイツがごめんね、と社はキョーコに苦笑する。
蓮の猛烈なアプローチは周知の事実だ。キョーコに一目惚れした同僚は、純情そうで天然乙女なイメージのキョーコに対して攻略方法の選択を完全に誤っている、と社は常々そう思っていた。
キョーコが顔を真っ赤にして怒る仕草すら可愛いと、休憩が終わると惚気てくる蓮にそれは迷惑している反応だよなぁと思うが、言ってみたところで何の解決策にもならないので放置している。
蓮のルックスであれば、あんな風に熱烈アプローチなんか受けたら悪い気はせず受け入れてしまう女性がほとんどだろうに、怒って否定してくるなんてきっと望みはないんだろう。
そもそも出会いがキョーコにとっては最悪だったはずだと社は思っていた。
なにせ社は蓮に続いて救助現場に駆けつけ、事の一部始終を目撃していたのだから。
もちろん同僚として長年付き合いのある蓮のことは信用しているし、年下の蓮を弟のように感じ親しみも持っている。
かといって、社自身も初めて知ったキョーコに執着する蓮の感覚や行動に、積極的に応援してやる気にはなれないでいた。同じく妹の様な親しみを持っているキョーコが嫌がっているのならばなおさらだ。
勤務時間内とはいえ、前科のある蓮が自分のテリトリーにのこのこ現れたキョーコをただでおく訳が無い。社はキョーコがここに来た要件を素早く聞きだし、この場から一刻も早く遠ざけることがベストだろうと結論をはじき出した。
「もしかして俺に用?テントの奥に蓮がいるからちょっと離れたところで用件聞こうか?」
「いえ。あの…私、敦賀さんに用があって…」
わざわざ気をつかってかけた言葉に対し予想外のキョーコのセリフに社は目を見開いた。
「え!?蓮に?」
迷惑がりこそすれ、キョーコの方から蓮に会いに来るなんてどういうことか。
…もしかして忘れ物届けに来た?
…にしては、キョーコちゃんお店のエプロンしてないし。
…って、お店のエプロンしてないからお店の用事じゃない?
…って事はキョーコちゃんが『個人的に』蓮に用があるって事?
…もしかして堪忍袋の緒が切れて殴り込み!?
…でもキョーコちゃんから会いに来たってだけでアイツ舞いあがっちゃうよなぁ?
…あれ?そもそもキョーコちゃんから怒りのオーラは感じないけど、じゃあ一体……
「社さん?」
混乱から首をひねって動きを止めた社に、キョーコも小首を傾げて不思議そうに社を見ていた。
その小動物的な仕草に、社は別の意味で眩暈がした。
キョーコのこういった天然な仕草は可愛いと思う。しかし自分に対して狼だと分かりきっている男に、しかも普段その攻めっぷりに引き気味なくせにこんな時に会いに来るなんて!
「キョーコちゃん、無防備すぎるよ…」
「えっ?」
「蓮に襲われても、これじゃ蓮ばかりを責められないな」
「あの……敦賀さん、テントの奥にいるんですか?」
「キョーコちゃん!お兄さんは可愛い妹がむざむざと狼に食べられるなんて黙ってみてられません!お願いだからもうちょっと女の子の自覚をもって!」
同僚の社からも『狼』と揶揄される蓮に、キョーコはやっぱり女の子をからかって楽しむ悪い男なんだとチラリと思いつつ、どうも違う方向に転がりそうな話に慌てて本題にもどった。
「あの…私、敦賀さんに用があってきたんですけど…」
「…え?」
動きの止まった社は、数秒後にようやくキョーコに向き直った。
「どうして?」
社にはお店に関する用事以外ににキョーコが蓮に会いに来る要素を見つけられない。そんな社に、キョーコは自分が事に来た用件を何の疑問を持たずに話したのだった。
「蓮、起きれるか?」
「………ん、…はい…」
蓮は救護室のベッド上で社の呼びかけで目を覚ました。どうやら、横になって眠り込んでいたようだ。まだ胃部のムカつきは残っているものの、戻った直後よりはマシになっていた。
「すみません。休ませてもらって…」
救護室に入ってきた社を見て蓮はベッドから体を起こした。時計を目をやり休憩から戻ってきて1時間半ほど経過していることを確認し、申し訳なさそうに謝罪を口にした。
「いんや~、今日はいたって平和!お前が一人寝込んでてたって大したことないさ」
てっきり体調管理について小言が来るかと思っていた蓮は、どこか楽しむように笑いをかみ殺した社の声音に引っ掛かりを感じた。
「いや~、蓮君の体調不良がただの食べ過ぎだったなんてねぇ」
「………」
揶揄する色合いが多分に含まれた社のセリフに蓮はぎくりと強張った。視線の合った社の表情はおもちゃを見つけた子供のそれと同じだ。
「だるまやでキョーコちゃんからカレーをご馳走になったんだって?」
「………」
「そーだよなぁ~、好きな子からどうぞ!何て言われた出されたもの残すなんてできないよなぁ」
「社さん…どこでそれを…」
う~ふ~ふ~と、含み笑いの止まらない社に蓮は正直この場を逃げ出したくなった。
「ん?本人に聞いたから」
「え!?」
社の休憩時間は蓮より前。今仕事中の社がこの短時間にキョーコと接触している事実に蓮はまだ働かない頭で状況を推測する。
「ま、後はちゃんと自分で事情を説明するんだな」
「…?」
社が何を言わんとしているのか蓮にはすぐには理解できなかった。
「分かっちゃいるとは思うけど、最初みたいに襲うなよ?一応席は外してやるけど、救護室の前の詰所にはいるからな!」
ニヤリと笑った社は、救護室の出入り口を親指を立てて指し示した。その動作で社の体で見えなかった救護室の入り口に遠慮がちに顔をのぞかせたキョーコを見つけ、蓮は目を見開いた。
「キョーコちゃん、蓮に変な事されそうになったらすぐに大声出すんだよ?」
「社さん、俺をなんだと思って…」
「うるさい。前科持ちが文句言うな」
いつだって会いたいキョーコだけれど、今この状態では素直に会えたことを喜べない。
口元にニマニマと笑みを浮かべたままの社が出て行ったあと、蓮は入口にたたずむキョーコを前にどうしてよいか分からずに視線を彷徨わせた。
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おかしい・・・。キョコさんに見つかる蓮さんを書く予定が、うっかりヤッシーを書いてて楽しくなってしまった・・・。
この回なくても大丈夫なんだけどなぁ。蛇足のお話でスイマセン・・・。