※9/21追記
お祭り期間終了しましたので、カテゴリーを本誌DE妄想に変更しました。
企画参加モノです。
勢い余って畏れ多くも・・・参加(するかも)表明してしまいました。
名を連ねているマスター様を見てはドン引きし、筆が遅いあまりに先に公開された企画参加作品を見て「私書かなくてもいいじゃね?」的な後悔もしつつ、参加表明してしまった手前根性振り絞ってアップします。
石を投げつけられて大怪我する予感大ですけどね!!
★企画名…「ただいま(おかえり)企画」
企画主催…ROSE IN THE SKY えみり様
※企画自体に本誌(Act.202くらいまで)のネタバレを含みますのでご注意ください。
単行本派、ネタバレNGな方はバックプリーズ!!
企画詳細については下記バナーより、えみり様本館のご案内をご覧になって下さい。
http://roseinthesky.web.fc2.com/
※今回の作品は本誌ACT.203までのネタバレ要素を含みます。ご注意ください。
ネタバレOKの方のみ、スクロールでお進みください。
注釈:二人の会話は脳内で英語再生でお願いします…m(_ _ )m
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
――― 一流の役者を目指す以上…目を逸らすな
どんな感情であっても無駄になるものは何一つない
記憶をたどれば、かつて師と仰ぐ人にも同じようなことを言われた事を思い出した
見て見ぬふりをして
鍵をかけて
押し込めても
育っていた恋心
無駄なモノだと…必要ないモノだと、ずっと思っていた
でも私は幕を開ける決心をした
たとえどんなに醜くても
たとえどんなに愚かでも
私の心の内の中だけで想い、決して告げることのないこの心を育んでみようと
―――… それは新しい私を作っていくために必要な事
ACT203妄想 -ouvrir(ウーヴリール)side/K-
きつめのアイメイクに縁どられた目元に、躍るピンクの毛先。
瞼をそっと持ち上げれば鏡の向こうから私を見ているセツカが目に映る。
ゆっくりと詰めていた息を吐きだせば、それは気だるげな吐息に変わり久方ぶりのセツカが顔を出す。
セツカを演じる私を揺さぶり続け、セツカでいられなくしたのはこの恋心だ。
妖しさを伴う兄妹を演じる中でセツカとカインであれば当たり前なのに、私はカインの中に敦賀さんを重ねてしまっていた。
カインがセツカに触れるたびに、私の押し込めた恋心は膨らんで小箱の鍵を内側から破壊した。
鍵を吹き飛ばして壊すのは敦賀さんじゃない、私自身だったのだ。
そんな事にすら気づかずに、私はあの人のせいだと敦賀さんに全てを押し付けていた。
この恋心から目を背けていた私は、セツカを完璧に演じることはできなかった。
セツカがカインに向ける気持ちは恋に似ている。
家族の情を逸脱した強い執着と独占欲。
互いを互いに縛りあう強い気持ちは歪んだ愛情なんだろう。
『歪み』の原因は兄妹である事実で、二人は狂おしいくらいに求め合っているのに血の繋がりによる背徳感が見る者に『妖しさ』を匂わせる。
セツカであればカインの首筋のキスマークを問い詰められたとしても『だってアタシ達こういう関係だから』とにべもなく告げることができる。カインとセツカは兄妹だろうがなんだろうが、そんなものは気になんてしないはず。
そう解っているのに戸惑っていたあの時の私は、『セツカ』じゃなかった。
……敦賀さんは『カイン』でいるのに、私はセツカでなく『私』だったのだ。
この恋を認めれば…私が恋を知れば、カインに愛情を向けるセツカを完璧に演じることができる。
―――― そう、『セツカとして生きること』ができる。
逸る気持ちを押し込めてルーズな足の運びを意識しても、結局は足早だったと思う。
セツカの出で立ちでホテルの廊下を進み部屋のドアの前に立った。
ドアを開ければそこは私と敦賀さんの舞台で、カインとセツカの生きる場所。
前にこのドアの前に立った時は緊張感があった。
セツカじゃない私がカインじゃない敦賀さんに疚しさを抱えていたから。
でも、今は違う。
私は敦賀さんに恋する自分を認めた。
最上キョーコでは決して表に出さないと決めたそれを、この舞台でセツカであれば自由に解放することができる。
兄しか見えない、兄しか愛せないセツカとして。
早く逢いたい。
その心はセツカとして当たり前の感情。
溢れる恋心を自由に表現できるセツカを演じる舞台に
…………心が躍った。
ピ…
小さな電子音が開錠を知らせる。
開いたドアの隙間から重く籠った空気がたなびいてきた。
タバコとアルコール臭に混ざったその中に紛れる彼の匂いに胸が締め付けられる。
その空気さえほんの少しでも逃したくない。
私の体一つ分の隙間からするりと室内に入り込んだ。
ドアの前に立つと閉じてくるドアが背に当たり重みを感じる。
ゆっくりと音を立てず閉まったドアが、カチリと僅かな音をさせて密室の完成を知らせてきた。
(こんなにも、育っていたんだ…)
ローテンションを装うセツカの内の心は更に早く早くと急かしてくる。
瞬きをしてゆっくり息を吐き、急かす心と連動して早まった鼓動を諌める。
一呼吸おいて室内に目を向ければタバコで煙った室内の奥に、以前見た光景と同じようにくテーブル投げ出された長い足が見えて…。
その先に会いたかった姿が目に飛び込んできた。
ソファーに凭れ頭を反らせた窮屈な姿勢で、瞼は閉ざされたまま。
ドクンと跳ねあがった心臓をの音が、静かな部屋に響いてしまったような錯覚に陥る。
ソファーにもたれたカインは僅かな物音にも反応しないので眠っているかもしれない。極力音をたてないように近づいた。
(少しやつれた……?)
離れていた間、敦賀さんはほとんどの時間をカイン・ヒールとして過ごしている。
本人以上に食や健康なんてものに興味の欠片もない兄さんはきっと不摂生な生活をしていたのだろう。山になった灰皿や部屋に転がる酒の空き缶や空き瓶を見れば一目瞭然だ。
そんなところまでカインでなくていいのにと思うけれど、私との暗黙のルールを引いたこの部屋の中で例え一人であっても敦賀さんはカインだったのだろう。
(ホント、アタシがいないとダメなんだから…)
セツカとしてそばにいれば、この妹と芝居以外のことは無頓着な兄の全てを任され介入できる。
そのことにセツカの中で独占欲がひたひたと満たされていくのを感じた。本来の自分なら叱り飛ばしているはずの事にも仄暗い愉悦を感じてしまう。
足音を立てずに手の届く距離まで近づけば、天井を仰ぐカインの首筋が目に入る。
そこはかつ請われて独占欲の証をつけた場所で、蘇るのはあの日の彼の言葉。
『俺がお前のものだという印だからな』
一生消えないやつをとねだられてつけた印は、もう消えてしまって目を凝らせばリング状の歯型がわずかに分かる程度。
(……消えちゃった)
内側から湧き上がるのはセツカの声。
(またつけなくちゃ、アタシのモノだっていう印…)
セツカと一体になった私の心は、もう何も躊躇わなかった。
ソファーの肘掛けに軽く腰掛けて、瞳を閉ざしたままのカインの首筋に唇を寄せた。
唇に当たるなめらかな肌の感触と濃密な香りに胸が締め付けられる。
その肌を吸い上げて、内側から血の色を誘う。
もう消えてしまったキスマーク。
コレを付ける前のこの人は不安定だった。
B・J…カイン以外の闇が見え隠れし、私の知らない『誰か』の影がちらついていた。
何がきっかけかは分からない
だけど…
『もう二度と…お前を失望させるような真似はしない』
そう約束してくれた。
『俺はもう、大丈夫だから――…』
その時の表情に、この人が何かを乗り越えたのを確信した。
私が過去の自分やこの想いを受け入れられなかったように、敦賀さんが戦っていたのはきっと自らの闇だったのだと思う。
社長が言った『ソイツ』は敦賀さん自身で、負けなければ勝たなくてもいいと言っていたのは『受け入れる』ということ。
それはこの仕事、カイン・ヒールを、BJを演じるために。
1回ごとに唇を離して肌の上に咲いた花の色を確かめる。
繰り返すたびに濃くなるその色は急速に育つ私の心を反映しているかのようだ。
思えば敦賀さんはいつもカインとしてセツカに愛情を示していたのに、それに怯む私を見透かしていたのかもしれない。
カインの濃厚な愛情にひるんだ私を見る兄の瞳の奥に、敦賀さんの色がチラリと見え隠れしていた。
妖しさを伴う二人の関係に手加減していたのは敦賀さんの方で、私はその手のひらで踊らされていたのだろう。
(…ムカつく)
セツカの思考の中で私が呟く。
この感覚は覚えがある。
役者として少しは成長できたと思っていたけれど、敦賀さんとの間には演技のえの字も知らなかった鈴の音に惑わされた時の自分と変わらない距離があるのだろうか。
でも、今は負けない。
ぐんぐんと枝葉を伸ばすこの想いはセツカとして生きる時だけ思い切り解放できるのだから。
(今のアタシなら、兄さんの中の人がたじろぐ位に愛してあげるのに…)
思い出すのは切ない表情で『大切な人を作れない』と言った敦賀さんの表情。
復活した敦賀さんは嘉月の演技で、押し殺しても溢れだす複雑な恋心を演じ切っていた。
敦賀さんも今の私と同じように認められない自分の恋を受け入れたのか……大きく進化した。
それを誰よりもそばで目の当たりにしていたのは私だ。
今度は私が、同じように乗り越えるのだ。
繰り返し味わった肌は、私の唇の触れた場所に濃い花を咲かせていた。
いっそ毒々しい色のそれは私の醜い心を映しているのだけれど、今はもうそれだって受け入れてる。
私の想いは綺麗でもなんでもない、醜くて、汚くて……でも、大切な私の一部。
その花を視界に収めててうっとりと、気が付けば微笑んでいた。
まだ目覚めないアタシの兄さん。
独占欲の証を指先でなぞり、もう一度唇を寄せる。
今度はもう少しだけ、唇を開いた。
「………また噛みつく気か?」
柔らかな肌が犬歯を押し返す弾力を楽しんでいたら吐息が耳朶を掠めた。
咎めるような声だったけど、そのまま軽く甘噛みする。
「兄さんが寝たふりなんかしてるからでしょ?」
噛み跡が残らない程度にして、名残惜しい肌の感触に別れを告げて唇を離した。
「わかってるのよ?アタシがいない間兄さんがまともに眠れやしないことなんて。…ふふっ…可哀想な兄さん」
さっき付けたばかりの新しい花を指先で擽って微笑みかければ、閉ざされていたはず瞳が私を捉えていた。
どこか不機嫌そうに、でも甘える色を織り交ぜるカインの表情に胸の奥が甘く疼く。
「だからって噛みつくことはないだろう?」
「アタシの印が消えかけてるんだもん」
面白くないと口をとがらせれれば、手すりに浅く腰掛けたウエストに手を回された。
いつもなら平静を装いつつ内では動揺していた接触も、今は当然のように受け入れられる。
ごく自然に引き寄せられるのに合わせて自らカインにすり寄ると、ほんの少しだけカインの瞳が制止した。
「…薄くなれば今日みたいにまたつければいい」
「噛み跡はキライ?」
「…そうじゃない」
止まったのはほんの一瞬で、気のせいだったのかもしれない。
どことなくかみ合わないセリフで、焦らすように久方ぶりの兄との会話を楽しむ。
「イタイのはキライ…?」
「俺にもさせてくれるなら構わないが」
「兄さんがアタシに噛みつくの?」
「…そうじゃない」
私を抱き寄せたカインの指先が、つっと露出している鎖骨下の柔らかな皮膚をなぞった。
「お前にはない…」
長くて綺麗な指先が指し示したその場所はかつて誓いの証を刻まれそうになった場所で、その時は拒否した自分を思い出した。
過去女性に施してきたであろう行為を彷彿とさせたあのセリフに慣れた手つき。
敦賀さんの過去の経験に嫉妬して同じように扱われるのに腹を立てたはずなのに、その時はとにかく触れられたら小箱の中身が暴れ出しそうで怖かった。
「お前が俺のモノだという印がない」
「つけたいの?」
「………」
一度拒否されたからだろうか?
セツカなら喜んでOKするはずのところなのに、伺うように私を見上げてくるカインは大型犬の癖に飼い主の許しを請う子犬のようでもある。
「いいわよ?素敵ね、おそろいなんて」
以前と同じように、この人はどこかでセツカの中の最上キョーコが拒否すると思っていたのだろうか?
滑らかな頬に手を添えて、クスリと笑うとさっきと同じようにほんの一瞬カインの表情が止まった。
「……いいのか?」
わざわざ確認してくるなんて兄さんらしくない。
前はいいかと聞いたくせに、回答なんて必要とせずにつけようとしたくせに。
「……修行」
「……?」
「修行、積んできたから」
「セツ?」
意地悪な思考が頭の中を占拠した。
あの日の夜の、自分のセリフを逆手にとってカインを焦らそうとセツカがささやかな仕返しを画策する。
「今のアタシなら、兄さんの相手…できるから」
(この想いを認めた今の私なら、カインを演じるあなたと本物のセツカで向き合える)
自らの闇を克服した敦賀さんと、同じ立場で演じることができると思うのはおこがましい事だろうか?
「……っ!」
腰に回されていた腕がギュッと巻き付き、その力強さに体が浮いて気が付けばソファーの隣のベッドに縫い止められていた。
目の前には、怒気を孕んだ美貌があった。
以前にあったようなシチュエーション。
でも、もう恐怖なんて感じない。
「…………」
「………冗談よ」
ニンマリとそう口にすれば、目の前で冷たい焔が燃えていた瞳がすっと冷えていく。
距離が近いせいで、安堵したかのようにふっと吐き出された吐息が私の頬を掠めた。
「……大人をからかうんじゃない」
縫い止められた肩から大きな手が外れ、覆いかぶさっていた重みが軽くなる。
ねえ敦賀さん。
あなたは私のセツカが最上キョーコなら考えられないようなセリフのを口にすることに、少しは動揺してくれている?
安堵の溜息は、印をつけていいって言ったのを冗談と否定したからだと思ってる?
「印……つけないの?」
体を起こそうとしたカインに手を伸ばし、首に腕を絡めた。
「ただいま…兄さん」
カインを演じる敦賀さんは、度を越した愛情を示すセツカを演じる私に動揺したりしてくれるのだろうか?
かつて私があなたに翻弄されたみたいに。
抱きしめて、引き寄せて逢いたかった気持ちを込めて耳元で囁いた。
「おかえり…セツ」
降ってきた言葉は掠れて艶めいて。
ゆっくりと腕を解かれて胸元に落とされた唇に、私の心が甘く痺れる。
チクリと感じたわずかな痛みを残して私の肌に咲いた花を見て笑みがこぼれた。
限られた時間の中で、あなたに恋するセツカを精一杯演じるから…
(―――― 覚悟して下さいね、敦賀さん)
幕は今、上がったばかり